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クローバーをお前に  作者: 和知つばき
ムソウヤシキ
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9 【助っ人は瞬間湯沸かし器の二人②】

 朝霧に比べて比較的説明が上手な愛葉が事の経緯を話し、俺達は彼女達の推論も知ることとなった。


「ええー!魔術!?ここ術中なんですかー!!」


 目をこれでもかと開いた和泉隊長は、子供のように驚いている。その顔をよく見れば、ちょっと口角が上がっていた。


「大発見ですよ!もう滅んでいたと思っていた非物質的魔術師が、この世に存在するなんて!いや〜僕、実は学生時代に魔術師関連の書物を読み漁りましてね、酷く傾倒していたものです。だってかっこよくないですか?千年前には暗示を使う魔術師の他にも、炎の魔術師もいたんですよ〜!外来化物が侵攻してきた当時!魔術師は今で言う戦車やミサイルみたいなものだったんです!あの魔術師達がいたからこそ、今の外来化物の数に落ち着いていると言われるほど!……なのに!なのに!僕達憧れの“魔術師”に殺されちゃうなんて〜!」


 長々と喋ったかと思えば、いきなりほろほろと涙を流し始めた。なんてうるさい隊長なんだ。

 それを聞いていた片瀬も同じようだ、少し引いている。


「へぇ〜……魔術師オタクってやつ?わぁ、すごいね」


 いつもの人当たりの良さは、和泉隊長の熱に引っ込んだみたいだ。一歩俺に近づくと、和泉隊長から距離を取った。


「あれ?それおかしくないですか〜?」


 そんな中、愛葉が和泉隊長に指摘する。あのピンク髪を人差し指でくるくるいじりながら。


 おかしい?


「私も士官学校の図書館で魔術師についての書物は読み漁りましたけれど、そこまで詳細には書いてなかったですよ!特に非物質的魔術師がいたとか……黒坂家の所蔵物は、勝手に(いち)メイドが見られるものでもないのに、なんで和泉隊長はそこまで知っているんです!」


 なるほど、魔術師の謎を作る秘匿性は魔術師の近くに存在するメイドでさえ、知ることに制限があるようだ。

 すると途端に怪しくなる和泉隊長の発言。この屋敷が非物質的魔術であることへの納得は、愛葉達の推論と合っているがそれ以外はなんとも言えない。

 言葉の多い隊長に、俺たちは疑念が出る。


「いや!嘘じゃないですよ!だって僕、国立図書館で読みましたからね!禁書ってやつを……あっ!」


「は……禁書?」


 半開きの口から惚けた声が出てしまった。しかし聞き捨てならない言葉だ。

 “禁書”。それは国に影響を及ぼす恐れのある書物達が行き着く先。ただの文字だ本だと侮っていると、その禁書に影響された者達が、書物に記載される犯罪行為を模したり、国家転覆を図るクーデターを起こす一因を見過ごす羽目になる。


 人間がかつて国内の非食人化物を殺戮、差別してきたものも煽動する書物があったのだ。人の恐怖を煽り、危険生物だと非食人化物を非難した。結果起こったのは、化物全体の減少。

 パワーバランスが均衡を保っていた人間と化物は、化物人口の減少により一気に傾いた。それと同じく化物への差別が激化……有名な話だ。俺たちが生まれるよりもずっと前に起こった真実は、化物差別の煽動として禁書に登録された。


 人間の心が弱いから、禁書に影響されてしまうのではない。娯楽感覚や自分の属性への自尊心、優遇への無自覚さが生んだのだ。

 誰でも影響を受ける危険性を孕んでいるから禁書になる。


 と、言うのにこの隊長は……!


「どう言うことかわかっていますか……それ犯罪ですよ!よりにもよって警務部が!」


 荒波の如く、声が大きくなる。目の前にいる隊長は、俺の怒声に身が液体のように縮んでいく。「ごめんなさーい」と本当に反省しているのか謎な言葉が出ているが、同じ警務部として到底許せない。


 貴族の多い警務部では、軽犯罪が見逃される傾向にある。いくら貴族が市民を守る義務感を作り出そうとも、貴族というものの根っこは変わらない。

 奴らは搾取する側なんだ。だからこそこれ以上、警務部の風紀を乱されたくないというのに……この隊長は!


「おいおい、どうするつもりだ。まさか証言だけで告発するつもりか?」


 いつも軟派なくせに、こういう時には口を出すのか?

 片瀬は縮む和泉隊長の前に立ち「やめろ」と言いたげな顔を俺に向ける。


「それが規則だ」


「見ないふりって選択肢もあるだろ?」


「何?貴様も風紀を乱すのか」


「……これが赤井さんだったら同じ事しないよな」


「ッ!なぜ赤井を引き合いに出す!今は関係ないだろ!!」


 なんなんだ、こいつ!飄々と無関係な者を!!


「関係なくもないだろ」


「何が言いたい?」


「あれだけ戦えない子、普通落第だろ?俺知ってるんだよ、進級するための評価基準ってやつ」


「……」


「進級するためには、個人訓練で可を一度でもいいから貰うこと……可は模擬戦闘で一勝しなければならない。他座学がどれだけ優秀であっても一勝しなければ不可だ。ジン、お前守ったんだろう?赤井さんのことを、評価基準を捻じ曲げてでも」


「っ」


 見透かされた、暴かれた。


「ジンの親は警務部総監、白峯セイイチ。その名前を出せば士官学校の先生も従う。一勝もしなかった赤井チカを可にしたのは──お前だ」


 赤井は……落第するべき人間だった。

 片瀬が言ったことは真実だ。職員室で話す先生方は、赤井の進級への危惧を漏らしていた。

 この防衛庁で人材不足は長年の敵、だからだ!違う!赤井を不正進級させたのは、人材不足のためだ。そうだ、これはただの不正じゃない!長い目で見た結果なんだ!

 違う!違う!


 俺は規則を、破ったんじゃ……。


 ガキン!!


 目が泳ぐ俺の横で、金属の割れる音がした。


「お前ら話長すぎ……早く出んぞ」


「朝霧……」


 彼女の手には壊れた檻の扉。どうやったのかは分からないが、「俺は助かった」と心の中でみっともなく安堵した。

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