6
「ええ〜?ここがその“暗示”の魔術?とか……それに似通った術中ならさ〜、もう打つ手なくない?非物質的魔術なんて初見だよ〜?いやいやリンネちゃんも言ってたけれど、めっちゃズルじゃん!」
「そうだよなぁ!ズルだ!ズル!」
オカシイ!オカシイ!とここぞとばかりに、リンネとモモが騒ぎ立てる。だが騒いだ所で解決策が見つからないのが現実である。
私も二人に混ざって騒ぎ立てたいところを我慢すると、頭を抱えながら悩み続けた。
この場所から脱出する方法……いやいや初めての術中なんだ、対処法なんてものがあるのかどうかも分からないよ!
「先ずは魔術が使用されていることを念頭に、調査をすべきだが……どうやったものか」
彼の癖であるため息が、再度深く吐かれる。歩いては立ち止まり、また歩いては立ち止まりを繰り返すキョウジ隊長は、落ち着きがない様子。メガネの奥に見える瞳から、焦燥の文字が見える。
新入隊員四人を連れて異空間に飛ばされたのだ。キョウジ隊長の胃を思うと同情する。
私達が考えあぐねていると、またもやツキコが手を挙げた。真っ白い肌の末端、指先が緊張から赤くなっている。
彼女がここまで積極的なのは初めてだった。
「非物質的魔術は紙を用いる、その原理は私にも分かりませんが……基軸を鮮明にする調査はどうでしょう?」
「基軸?」
騒ぎ立てていたリンネとモモも、歩いては立ち止まっていたキョウジ隊長も、私もツキコを見つめる。
「はい。事の基軸……何故魔術を使用するのかという動機です。魔術は面白半分で使用するには、身体に疲弊が溜まりやすいのです。私だとバリケード一つで、一日に使える魔術量を半分消費してしまいます。対してこの異空間は屋敷を含めた庭先まで、この全てです。だから、何か理由があるはずです!魔術を使わねばならない理由……それが私達特務部や警務部を誘き出すものなのか、それとも私達がただ迷い込んでしまっただけで、本来は別の理由があるのか……それが分かれば脱出する糸口が見つかるかも、と……」
別の理由……そっか、確かにそうだ。非物質的魔術である暗示の魔術、それは紙を利用すると言っていた。しかも他者が利用することが可能だとも。
同じ非物質的魔術であるならば、その他者が「何を思ったのか」がこの異空間に現れているのかもしれない。
ヘンテコな内装、渦巻く空、周りを囲む淀みだって何か理由がある。その理由とやらを壊すのか、解くのか今はわからないけれど、やってみる価値はありそうだ!
「なるほど……ならば早速、建物を調査しよう」
方針が決まった。
キョウジ隊長は落ち着きを取り戻したようだ。彼はメガネを掛け直すと、先ずは建物の外観を観察し始める。
わ、私もやるぞ!装備がない今、私ができることは調査なんだ!ここで役に立たないと!
私ははじめに、玄関正面を観察する。
蠢く淀みは門を飲み込み、その内側で芝生が青々と色づいている。芝生に敷いてある道は門から始まり、玄関に続く。石階段を数段登れば二メートル強の玄関扉に煉瓦造りの建物が……なのだけれど
「あれ?こんなに扉小さかったっけ?」
さっき開けた玄関扉は、二メートル強ではなかったはずだ。もっと大きく、傍目に重そうだと感じてたのだから。なのにその玄関扉を女中さんが片手で開けて……いややっぱり、おかしい。
建物内で見た時の大きさと、外観から見る扉の大きさが合わない。
あの時、扉は少なくとも三メートルはあったと思うんだけれど……。
「チカ、扉だけじゃないぞ。この建物……この“屋敷”自体が広さに合わない」
「え?」
キョウジ隊長は正面だけでなく横からも見ている。私もそれに倣って歩けば、すぐに違和感を覚えた。
明白に、歩数が少なく済むのだ。廊下にいた時私は「両手を広げても手がつかない程に広い廊下」だと思っていたんだ。おまけに教室ほどの部屋は左にも右にもあった。
教室一部屋の横幅が約七〜八m、廊下の幅は約二メートルであると考えると……この屋敷を正面で測ったときに全体の幅は十六〜十八m以上であるはずなのだ。
しかし、屋敷正面の長さは数歩で角に着く……つまり、廊下と部屋込みの長さに足りない!屋敷の外と屋敷の中で大きさが違うんだ!
「!」
やっぱり屋敷を横から見ても大きさが合わない。廊下に立っていた時、奥が見えないほどの長さだと思っていた。しかし横から見る屋敷は、うちの宿舎二棟分ほどの大きさ。当然、屋敷の中で奥が見えるはずなのだ。
「明らかに中との大きさが違いますね。これが、魔術なのでしょうか?」
思えば女中さんに案内された時、いつの間にか玄関に辿り着いていた。あれも、私達結構歩いていたんだなぁ、と気にも留めなかったが違うのかもしれない。
魔術による、幻かな……?
「ああ。推測になるが、内装がチグハグだったのも魔術の影響だろう。元の屋敷は意外と普通かもしれないぞ。屋敷内との大きさは違えども、この外観は貴族の屋敷、加えて梅花町だ。屋敷のデザインは貴族のセンスが問われる。あんな内装で設計するとは思えないからな」
「なるほど〜、確かにそうですね。統一性の無さやデザインの魅せ方……貴族の屋敷としては笑われるレベルですね〜」
「そうですね、貴族はそのような些事ばかりです」
さすが黒坂家最年少メイドとその主人、貴族社会に詳しい。
だがそんな事で笑われてしまうのか、大変だな。
外観は煉瓦造りの屋敷。モダンな雰囲気を醸し出す煉瓦は赤茶色、二階の窓に黒鉄の窓柵がある。紫や黄色の花が、その窓柵から見えた。きっとプランターを置いているのだろう。チラチラ見える花は少し枯れ気味だが、それでも可愛らしい。




