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バタン!!
吸い込まれた私達は、投げ出されるように地面に落ちる。一メートルくらいの高さだろうか、落下音が鈍く感じた。
「うっ!」
衝撃吸収チョッキを使用する間もなく、身体に衝撃が伝わる。振動は酔いの残る頭を容赦なく揺さぶった。
うぅ、まだ酔ってるのに……て、何!?
重い頭を上げると、私は着用する衣服が変化したことに気がついた。
酔いも覚めるような真っ白な割烹着が先ず目に入る。それから着物、足袋……。なぜか特務部のパンツスタイルの制服から変身していたのだ。
「いってぇ……っ」
私の下敷きになっているリンネが頭を摩りながら、頭上を見て言葉を詰まらせる。彼女も変な物を見たかのように。
「あ、あたしら家ん中いる……?さっきまで外いたよな?」
「え?」
リンネの声につられて私も頭上に視線を移すと、やけに高い天井が見える。その天井に刺さった、紅の巨大な円柱はこの廊下にずっと続くように一定間隔で生えていた。
その場をぐるりと回ると、ここがどこかの家、もしくは施設にいることが分かる。
横を向けば複雑な組子障子、先ほどの円柱で四隅を囲むように部屋を仕切っている。一部屋の広さはおおよそ八メートルだろうか、教室と同程度だ。
円柱と円柱の間にはまた別の道が続く。あちらもおそらく廊下だろう、だが私はこんなに広い部屋も廊下も初めて見た。そもそも廊下も変なのだ。両手を目一杯広げても触れないほどの広さ、続く道は長くて奥が見えない。
いきなり渦に巻き込まれたら、服装も場所も変わってる……これが化物の仕業?こんなことできる化物っていたかな。
うーん、と化物図鑑の内容を思い出そうとするも、隣からキャッキャした声が聞こえる。
「何これ〜!!私達着替えちゃってるよ!見覚えある格好だし〜!というかこれってさ……あれ?チカちゃんもリンネちゃんも、ツキコちゃんも同じ服装ってことは………ハッ!!」
モモが嬉しそうな顔でキョウジ隊長へ顔を向ける。ニコニコと音がつくみたいだ。
「な〜んだ〜ただの着物か。ちぇっ」
「何だとは何だ」
キョウジ隊長は墨色の着物に身を包んでいた。黒い角帯が全体を引き締め、シックな装いで似合っている。しかし私たち四人とは違い、割烹着は着用していない。
「しまったな……俺がしっかり掴んでいながら吸い込まれるとは」
「力になれず、申し訳ございません」
ツキコが茨の残骸に労わるよう手を当てる。あれはリンネの腰に巻きつけていた命綱だ。
「ううん、ツキコちゃんは良くやったよ〜!すぐ茨を巻きつけたし!ちゃんと耐えてたし!そもそも私に筋肉があれば……というかリンネちゃんが飛び込んだから、全員入っちゃったんだよ〜?グイグイ〜って、分かってる?」
「う、うるせーな、分かってるよ」
口を尖らせるリンネを見て申し訳なく思う。私が諦めた時に飛び込んでくれたのは彼女。今は安全なこの場所だけれど、渦に入る前は化物がうじゃうじゃいると思っていた。その時の恐怖が顔に出ていたんだ、だからリンネは一緒に……
「ありがとう、リンネ」
「ん」
変わらず口は尖らせたまま、彼女は照れるように目を逸らした。
「しかし全員で入ってむしろ良かったかもな。支局長は定期連絡が無いと分かれば、行方不明区域である梅花町は危険地帯として立ち入り禁止にするはずだ。これ以上の被害は出ないだろう。その間俺達は、全員揃って出口やあいつらの捜索をできる。……大丈夫だ、そのうち出られる」
警務部の行方不明三隊……そう、ここにいるはずだ。渦に吸い込まれてしまったなら、探して安否確認をしないと!
それにキョウジ隊長が出られる、と言ったんだ。きっと大丈夫!
ジンくん達を見つけて一緒に帰る!
「じゃあ〜どうします?この廊下、前も後ろも奥が見えないくらい続いているんですけれど〜どっちから行きましょうね」
モモが言うように廊下は前も後ろも奥まで続いている。時折部屋と部屋の間に曲がり角が存在するだけで……なんだか不気味。
キョウジ隊長は「取り敢えず……こっちか」と前に進むみたい。親鳥に続く雛鳥の如く、私達も一歩前に進もうと踏み出しそうとした。
そう、踏み出そうとしたのだ、その声が聞こえるまでは。
「──あなた方、ここで何をしているのです」
急に誰かが呼び止めた。
しかしおかしい。人の気配がなかった廊下に、突然現れるよう呼び止めてきたから。私は横隔膜にグッと力が入る。
さっき前後の確認はした……なのに背後から声がする!何だこの違和感、不快感は!
「早く仕事場に行きなさい」
私達五人は、誰一人感知できなかったその存在に言葉が出ない。適温の空間であると言うのに、鳥肌が首まで現れる。
「新人は草むしりです」
「く、くさむしり……」
やっと声が出たと思ったら、何?草むしり?新人?何言っているんだ。
「あのっ……ここは、どこなんですか?」
「……」
「えっと、私たち渦の中に入っちゃってここに来たんですけど!」
「……」
……無視されてる。私の声が聞こえているはずなのに、全く口を動かす気配がない。この場所も、私たちと同じくエプロンに着物を着ているこの人のことも理解不能だ。
そもそもこの服って……女中?着物にエプロンを着けて草むしりをしろって?
私達今、何に巻き込まれたんだろう……。
「着いてきなさい」
私の言葉は無視したまま、女中のような人物はスタスタと歩く。小股なのに随分早い。
「おっさん……」
「みんな、離れるなよ」
その言葉の通り、私達は一まとまりになってその女性に着いて行った。何が起こっているのか全く理解できないまま。




