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この話は加筆しています
人間を憎んでいるのか、と聞きたいのにその瞳に飲まれると思うと言い出せない。家族が殺されたって……私と一緒なのに、出自も殺され方も何もかも違う。
生まれを偽る程の憎しみを抱えていたなんて、思わなかった。私を心配して覗き込む顔、子供のように引かれた手は本物だって……今の私はそう言い切れるのかな。
優しいリンネ……あの時の柔らかな眼差しも私の勘違いなの?
いや……いや、そうじゃない!
横暴な発言や無神経な発言の裏には思い遣りがあった事、私が知ってるじゃないか!命を助けてくれた、私のお父さんの話も黙って聞いてくれた仲間だって!
私の……バディだ。
「……今分かった。私、リンネと出会う運命だったんだよ……化物、復讐、全部。私達は似ている」
私は何を悩んでいたんだろうね。違うけれど似ているし、朝霧リンネを私は知っている。それで良いじゃないか。
私は彼女の秘密を知って守ると意気込んでいた、でもリンネは私の心積りは知らないし、その彼女は今告白している。
結局私は何も成せてないけれど、良いんだ。これはこの間の大規模任務と同じ。自分の思い描く道は現れない、ならばゆっくり作っていけば良い。
リンネのことを、ゆっくり知っていくのと同じように。
「チカ、お前……なんで引かねぇの。あたしは化物って言っただろ!」
リンネは私のことを見る時、いつも柔和な雰囲気になる。ほら、今もだ。
あの憎しみは虚空を見ていた。でも今は私を見ている。いつもの瞳、太陽のように眩しいこの瞳。
「フフ、だって……知ってたもん。復讐の話は初めて知ったけれど」
私がそう言うとリンネは目を丸くした。
「はぁ?なんで知ってんだよ!」
「いや〜、結構リンネちゃんあれれなことしてたよ?しかも初日から『こんな弱っちい人間一人くらい守れる〜!』とか何とか〜言ってたし?実は私、あれから怪しんでたし〜」
「……言ってねぇだろ。いや言ってねぇ!」
「絶対言ったって!モモちゃんこういうの結構覚えてるもんね〜!」
「嘘だ!そんなヘマしてねぇって!」
「だからしてたんだって!」
二人が喧嘩しているのを見てフフフ、と抑えきれずに笑ってしまう。
やっぱりマイペースだ。あんなに重い話をしてたと言うのに、もう空気が変わった。
「ツキコは良いのか?リンネが化物だと糾弾しないのか?」
何も口を出さないツキコ、にキョウジ隊長が聞いている。でも私には分かる、彼女はリンネを売らない、と。何故ならツキコが醸し出す雰囲気は、先ほどからどことなく嬉しそうだから。
「糾弾はしません。……私、嬉しいんです。隠し事を話してくれる友達も、リンネが化物だってことも。私の種族は魔術師、国内でも希少種です。人間でもなければ、もう化け物の括りにも入らない。当然のように腫れ物扱いで……友達はモモしかいませんでした。でも今は人間の友達も、化け物の友達もいるんです」
「両方の友達を持つなんて、思いもしなかった」と穏やかな顔は、聖母のようにモモとリンネを見ている。ツキコの人間関係が簡素なのは、何もモモがツキコの周りに壁を作るからだけではないのか。
彼女自身の血だ……この世界は血が全て。差別されるのも、それが憧憬になるのも。
そうか。
私はこの世の捉え方や悩みを理解していなかった。狭い世界で見ていた自分が、少し恥ずかしい。でも、だからこそ皆んなが笑顔であり続ける為に、私は考え続けなければならない。そして少しずつ理解していくんだ。
庇護の心、復讐心、喜び……渦巻く感情は何処に行くのか、私達には分からない。それでも今日という日が分岐点になったことは明らかだ。
──私は決めた。リンネの復讐を最後まで見届ける、私も彼女に関わると。
暗雲を流すように穏やかな風が吹く。さざなみは、潮の香りを鼻に纏わせた。鼻から流れる潮の香りでしょっぱいのか、それともさっき流した涙の味か。
もう分からなくていい。




