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件の廃港に着いた私たちは、コンテナの中を探し回っていた。
「無いな……」
「やはり人狼に踊らされたのでしょうか」
私達がどれだけ探してもコンテナの中には何も無い……。潮に当てられて錆がついた廃車や木材、粗大ゴミが置かれども、大量のコンテナには目当ての強化剤が見つからない。
そもそも強化剤とはどれほどの大きさなんだろうか。見たこともないものを探すのは骨が折れる。
「でも〜人狼によれば夕方にあるって……それって波打ち際に届くとかそう言うこと?」
「なるほど、確かに時間が関わってくるのであれば、その見方はあるかも!……キョウジ隊長」
「そうだな、もう少し海に近づこう」
モモの発案の通りに私達は海に近づく。
夕方は近い、気温の下がったここは肌寒くなっていた。
オレンジ色の光に照らされた波は、ゆらゆら揺れると万華鏡のように形を変えていく。
「海ってこんなに綺麗なんだな……」
まるで初めて見たかのようにリンネがそう言った。吸い込まれそうなほど煌めく波が、そうさせたのだろう。
任務中だと言うのに私も眺めていた。
「本当綺麗だね」
海はゴミ一つない清らかな水面で、反対にコンテナにはゴミばかりで、その非対称性に心奪われる。
これが芸術てやつなのかも……
「ちょっと〜海眺めるのもいいけれど、ちゃんと探してね!」
「そうだぞ。ツキコなんて黙々と探しているんだからな」
二人に叱られてツキコを見ると、波打ち際を探索している。薔薇の蔦を地面から生やして岩を退けようとするが、塩の入った海水では上手く制御できないようですぐに萎れる。
真っ赤で綺麗な薔薇が茶色く変色していた。
「ごめんなさい、ここでは魔術が上手く使えないみたい……」
しょんぼりした顔も、憂いを帯びていて美しい。この夕焼けの海に張るほどに。
「これか?……よいっしょ!」
そんなツキコに変わってリンネが岩を持ち上げる。虫がいるだけで強化剤はない。
私も、と岩間に挟まっていないか見に行くがやはり見つからない。段々日が翳ってきた。暗くなったら探すどころじゃないのに……。
「日が落ちたら俺たちも……ん?待て」
夕日に照らされたコンテナの、一角から何か聞こえてくる。キョウジ隊長は抜き足差し足で近づき、それが見える場所まで私たちを誘導した。
その手には反射防止が施されたスコープを持っている。
私達も目で合図し、胸ポケットからスコープを取り出して近づく。私たちの背丈ほどのコンテナや、二メートルありそうなコンテナ、それぞれあるが、小さいコンテナまで行くと、身を隠せるように顔だけ出す。
遠い……けれど確かに何かいる。というか、あれは車?
豆粒ほど遠い向こう側に、黒い車が止まっている。ライトが灯っている。エンジンの音も聞こえることから、あれは廃車ではなさそうだ。
私達は無言のままスコープを覗く。すると黒い車の後ろからグレーの影が見えてきた。
「あれ人狼だな……」
キョウジ隊長が呟くのを見て私も目を凝らす。よく見るとグレーの影だと思ったものは毛皮だった。
のそりのそりと車に近づいていく。
え!あれ危ないんじゃ!
私が動こうと膝を上げようとしたその時、車の中でから二人の男女が降りてきた。
全く怖気付かずに。
何をやって!……あれ、なんで人狼が人間を襲わないんだろう。
そのまま人狼達を見ていると、グレーの人狼は二人の男女に手を出さずにいる。それどころか口元が動いている。
私は何がおかしいと思い、また身を隠す。
……人間と人狼が話している?どういうことなの?
奇怪な三者の動向を見守ろうと、私はスコープで彼らを観察する。
一人は男性、黒髪に黒いスーツ。顔ははっきり見えないけれど、銀色のトランクケースを手に持っている。
もう一人は女性。茜色の髪が背中まである。隣の男と同じように黒いスーツに身を包んでいる。
二人は騒ぐわけでもなく、人狼と会話をしているようだ。だがこんなことあり得るのか……?
「……アイツ、まさか」
人狼も観察しておこうと注視していた時、隣のリンネが呟いた。何のことだろうと、スコープから目を外して彼女を見るとその瞳は動揺で揺れている。
まるで先程まで見ていた波間の輝きのように、ゆらゆらと。




