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クローバーをお前に  作者: 和知つばき
幕間 傍の暗雲
31/46

1

 件の廃港に着いた私たちは、コンテナの中を探し回っていた。


「無いな……」


「やはり人狼に踊らされたのでしょうか」


 私達がどれだけ探してもコンテナの中には何も無い……。潮に当てられて錆がついた廃車や木材、粗大ゴミが置かれども、大量のコンテナには目当ての強化剤が見つからない。


 そもそも強化剤とはどれほどの大きさなんだろうか。見たこともないものを探すのは骨が折れる。


「でも〜人狼によれば夕方にあるって……それって波打ち際に届くとかそう言うこと?」


「なるほど、確かに時間が関わってくるのであれば、その見方はあるかも!……キョウジ隊長」


「そうだな、もう少し海に近づこう」


 モモの発案の通りに私達は海に近づく。

 夕方は近い、気温の下がったここは肌寒くなっていた。

 オレンジ色の光に照らされた波は、ゆらゆら揺れると万華鏡のように形を変えていく。


「海ってこんなに綺麗なんだな……」


 まるで初めて見たかのようにリンネがそう言った。吸い込まれそうなほど煌めく波が、そうさせたのだろう。

 任務中だと言うのに私も眺めていた。


「本当綺麗だね」


 海はゴミ一つない清らかな水面で、反対にコンテナにはゴミばかりで、その非対称性に心奪われる。

 これが芸術てやつなのかも……


「ちょっと〜海眺めるのもいいけれど、ちゃんと探してね!」


「そうだぞ。ツキコなんて黙々と探しているんだからな」


 二人に叱られてツキコを見ると、波打ち際を探索している。薔薇の蔦を地面から生やして岩を退けようとするが、塩の入った海水では上手く制御できないようですぐに萎れる。

 真っ赤で綺麗な薔薇が茶色く変色していた。


「ごめんなさい、ここでは魔術が上手く使えないみたい……」


 しょんぼりした顔も、憂いを帯びていて美しい。この夕焼けの海に張るほどに。


「これか?……よいっしょ!」


 そんなツキコに変わってリンネが岩を持ち上げる。虫がいるだけで強化剤はない。


 私も、と岩間に挟まっていないか見に行くがやはり見つからない。段々日が翳ってきた。暗くなったら探すどころじゃないのに……。


「日が落ちたら俺たちも……ん?待て」


 夕日に照らされたコンテナの、一角から何か聞こえてくる。キョウジ隊長は抜き足差し足で近づき、それが見える場所まで私たちを誘導した。

 その手には反射防止が施されたスコープを持っている。


 私達も目で合図し、胸ポケットからスコープを取り出して近づく。私たちの背丈ほどのコンテナや、二メートルありそうなコンテナ、それぞれあるが、小さいコンテナまで行くと、身を隠せるように顔だけ出す。


 遠い……けれど確かに何かいる。というか、あれは車?


 豆粒ほど遠い向こう側に、黒い車が止まっている。ライトが灯っている。エンジンの音も聞こえることから、あれは廃車ではなさそうだ。


 私達は無言のままスコープを覗く。すると黒い車の後ろからグレーの影が見えてきた。


「あれ人狼だな……」


 キョウジ隊長が呟くのを見て私も目を凝らす。よく見るとグレーの影だと思ったものは毛皮だった。

 のそりのそりと車に近づいていく。


 え!あれ危ないんじゃ!


 私が動こうと膝を上げようとしたその時、車の中でから二人の男女が降りてきた。

 全く怖気付かずに。


 何をやって!……あれ、なんで人狼が人間を襲わないんだろう。


 そのまま人狼達を見ていると、グレーの人狼は二人の男女に手を出さずにいる。それどころか口元が動いている。

 私は何がおかしいと思い、また身を隠す。


 ……人間と人狼が話している?どういうことなの?


 奇怪な三者の動向を見守ろうと、私はスコープで彼らを観察する。

 一人は男性、黒髪に黒いスーツ。顔ははっきり見えないけれど、銀色のトランクケースを手に持っている。

 もう一人は女性。茜色の髪が背中まである。隣の男と同じように黒いスーツに身を包んでいる。


 二人は騒ぐわけでもなく、人狼と会話をしているようだ。だがこんなことあり得るのか……?


「……アイツ、まさか」


 人狼も観察しておこうと注視していた時、隣のリンネが呟いた。何のことだろうと、スコープから目を外して彼女を見るとその瞳は動揺で揺れている。


 まるで先程まで見ていた波間の輝きのように、ゆらゆらと。


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