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チカは何にでも疑問を持つ子です。
「なぁアイス食べねー?」
「良いね〜じゃあ私はバニラ!」
護衛任務から翌日、私たちは北区支局にいた。任務終わりには隊長の報告書が各支局に提出されることになっているが、今回は私たちも招集されたのだ。今支局長室には他部隊が報告しているため、私たちはあのアイスの自動販売機で暇を潰していた。
モモがチャリンチャリンと硬貨を入れると、桃味とバニラ味のボタンを押す。
もう覚えたぞ!ツキコが桃味でモモがバニラ味。
「おいモモ、あたしには買ってくんねーの?」
「えー?自分で買いなよ〜……はい!ツキコちゃん」
モモはツキコにアイスを渡すとベンチに腰掛けた。当然そのベンチにはツキコも座っている。二人仲良くベンチに腰掛けてアイスを食べる姿は、妹達を思い出させた。
あの子達もこんな風に仲良くアイス食べてたなぁ。
「なぁ、おっさん奢れよ」
「昨日のぶどう亭でそんな金ないぞ。……お前達ときたら二日連続で行きやがって」
「……へへへ」
私は少し申し訳なさそうにヘラ、と笑う。何故なら私がぶどう亭に行きたいと言い出したからだ。
初めて食べた日はハンバーグ、昨日食べたのはステーキだ。どっちも美味しかった……キョウジ隊長の財布は幾分か薄くなったけれど。
申し訳ないと感じるも、昨日の牛の香りを思い出す。鼻に残香が漂っているような……幸せな気分だ。
「そ、そんなしょぼくれんなよ……」
「なんだ肩を叩いてくれるのか、お前はたまに優しいな」
彼の大きな肩が沈んでいるのを見かねたリンネは、珍しく摩っている。まるで父と子だ。
そうに見えるのに二人には血が繋がっていない……
一色隊長に味方になると宣言したあの日から、私は二人を見るとソワソワしてしまう。“リンネが化物である”ことを知っているのに、当人にはそのことを黙っているからだ。
それにしても、何故彼女は化物だと言わずに特務部にいるのか。捕獲非対象であれば働けるのだ。隠すなんて、まるで自分は捕獲対象だと言っているみたい。
でも、キョウジ隊長がそんな種族の化物の肩を持つのだろうか。一色隊長も誠実だと言っていたあの人が……。いや、リンネを人間と偽っている時点でどれほどの誠実さなのか、疑問を持つべきだろうけれど。
だがもし、リンネが捕獲対象の化物だったらどうしよう。捕獲対象だと国が認定する条件は「食人行為があるかないか」。
例えば人狼、これは食人行為有りのため捕獲対象。烏天狗、これは日の丸国の在来種族であり食人行為をしない。故に特務部に所属できる。
人間を食べるか否か、それが化物への判断材料なのだ。化物は基本的に人間よりも優れている。力は勿論のこと翼を持っていたり、その化物特有の術を持っていたり様々だ。
因みにツキコのような魔術師も、以前は化物の括りにいた。人間以外はすべて化物であるからだ。しかしツキコのお婆様が黒坂家に嫁いでから、その風潮は薄れていった。時は経ち、今や魔術師は憧れの血統。
そんな化物に対し、私たち人間だけでは太刀打ちできない事もある。だからこそ国が認定し、安全だと認められた化物と一緒に戦うのだ。そして化物は未だ差別の残る日の丸国で安定した生活を送るため、防衛庁に所属する。
人間は力を借り、化物は法に守られる。
だから謎なのだ。リンネが自らの種族を隠す事も、人間だと偽る事も。化物の種族が鍵だろうけれど、彼女は自らの家族についてすら全く話さない。それは言いたくない事があると、言っているようなものだ。
化物、それは外来種も含めた名称。日の丸国在来種は古来から“妖怪”と呼ばれている。だからきっと、リンネの種族も妖怪のどれかなんだ。
そこまで推測はできるのに、こんなものは答えではない。妄想の域を出ない、小娘の戯言だ。
リンネを見れば自販機で同じフレーバーのアイスを二個買っている。私よりも長い指がボタンを押下すると、ソーダ味が取り出し口に落ちてきた。
キョウジ隊長に片方のアイスを投げると、私に目線をやる。
「チカは何食う?」
「えっ!あ……うーんと、チョコ!」
「ん」
彼女は短く返事をすると、硬貨を入れて私が欲しいと言ったチョコ味を買ってくれる。
なんでこの子は私に優しいのかな……。
奢る、なんて言わずに私にアイスを差し出してくれるのはなんでなの?
思えば最初から私には優しかった。無遠慮な言葉を掛けることもあるけれど、それら全てが「チカは弱い」に帰結する。
弱いものを守る、と言えばジン君が思い浮かぶ。彼は守るに重きを置いているけれど、リンネはもっと……何だろう、しっくりくる言葉が浮かばない。でも、“守るよりも守りたい”に近い気がする。願望、のような。
まとまらない考えに耽っているとチョコ味のアイスが指にたらり、と垂れる。
これ以上考えても本人に聞かなきゃ答え合わせなどできない、と言うように私の指は甘く汚れていった。
妖怪
日の丸国在来種の化物の総称。
烏天狗、ろくろ首、山姥、猫又などが居る。特務部には烏天狗が多く所属しており、全員が烏天狗で結成された機動部隊が存在する。
人間と共存し富を築く妖怪もいれば、差別により貧困に喘ぐ妖怪もいる。




