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クローバーをお前に  作者: 和知つばき
リベンジは熱いうちに打て
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12

「今日の朝ごはんは卵焼きと焼きたらこ、セロリときゅうりの酢のもの、新玉ねぎと水菜のお味噌汁だよ〜。チャチャっと作っちゃお!」


 朝から和かに笑うモモ。昨日の模擬戦で反則をしたと思えない笑顔だ。


「おはよう、じゃあ私は卵溶くね」


 私は昨日帰った後も、モモに反則した理由について聞けなかった。なんだか聞いちゃいけない予感がして……大抵こういう予感は当たる。それにこれはモモとツキコ、二人の問題だ。仲良くなってきたが、二人の過去を全て知る訳ではない。……特にモモは場を和やかにする反面、本心が分かりづらいのだから引っ掻き回すような真似をしたくない。


「……いいにおいする」


 朝ごはんをテーブルに置いていると、匂いに釣られてリンネが起きてきた。この子はいつも皆んなよりも遅く起きる。そのくせネクタイはグチャ、と崩れているのだからギリギリまで寝ているんだろう。寝ぼけ(まなこ)を擦り食卓の定位置に座る。


 出来立ての卵焼きは湯気が立っていて我ながら美味しそうである。ぐるり、と模様がついた海苔入りの卵焼き。焼き目がついたたらこ。セロリの香りが立った酢のもの。旬の野菜と白味噌の味噌汁。そしてほかほかの白米。


 皆んな席に着いて「いただきます」と揃って言うのが私たちの決まり事。


「これうめぇ、これもうめぇ……これはにげぇ」


 リンネがセロリをヒョイ、とキョウジ隊長のお椀に投げ入れる。器用なものだ、あれはやり慣れた動きである。


「やめなさい、お行儀が悪いだろ」


「へいへい」


 そう言いながらもセロリはお椀に収まっていく。


「今日の任務が終わったら、お休みとか貰えるんですかね〜?」


「第二や第三に通常任務変わってもらっているからな、休みは無いだろうな……」


「え〜!大役なのに!」


 「私たち〜新人なのに結構頑張ってると思うんですけど〜?」とモモが愚痴を溢すと「……じゃあ仕事終わりに何か食べに行くか?」とキョウジ隊長は何か思案した後に言葉を返した。


 そんな、私たちキョウジ隊共同資金を空にしてしまったのに……

 私の困惑する顔を見たキョウジ隊長は、一つ頷く。


「俺の奢りだ」


「いいんですか!」


「あ、では私“クゼホテル”のランチビュッフェが」


「それは高い、駄目」


 いつもの同じ日常。ゆったりとした朝。今日が大仕事当日とは思えないほど、穏やかな空気。


 平静だ。自分でもびっくりするくらい緊張していない。昨日の一色隊長との取引は、あんなに冷や汗が流れていたというのに。

 今はただこのひと時を楽しんでいる。

 このまま何事もなく終われば良い、このまま人狼に出会(でくわ)さずに任務が終われば良い……


 だが、そんな甘えた考えはやはり叶わなかった。




「朝霧隊収容所前で人狼と交戦。対象は三体、応援願います」


 額に汗を垂らしたキョウジ隊長が、連絡機で応援要請をする。私たちは収容所前の民家の屋根にいた。しかも人狼に囲まれている。

 キョウジ隊長の前には二体の人狼。私はキョウジ隊長の背に守られながらその後ろはツキコ、モモ、リンネが反対側にいる人狼と対峙している。挟み撃ちだ。


「まだ護送車が来てねぇのが救いだな!」


 足場が悪い瓦の屋根上でリンネが戦っている。ツキコが人狼の足へ蔦を絡ませて動きを制限させようとするが、力が増幅された人狼にすぐ壊される。


 やはり強化剤を使ってきた。目が赤く染まり、筋肉は肥大化、以前は言葉を話していたが今は「グルル」と低く唸っている。


 まるで知性がない。戦いの最中なのにリンネに噛みつこうとしている。初任務で戦った人狼は攻撃をするのみ、ここまで本能に寄った行動はしていなかった。こんな薬を使うとは、もしや人狼は飢え始めているのか?なりふり構わない選択のように思える。


 危険だ……こんな状態の人狼が、昼間に現れたらどれだけの被害が出るんだ。またお父さんみたいに死んでしまう、戦う術のない市民が……いや、今は集中!考えるんだ、私ができることを!


 私は捕獲器具を取り出して両手で掴む。ここにいる人狼は三体。対して私の持つ捕獲器具は二つ……一つ足りないのだ。だが、どうにかするしかない。


 捕獲器具はチタン合金に自律プログラムを掛け合わせ作られた、警務部、特務部のみが使用可能の装備品。壬生重工が作製したため変形が特徴となっており、全ての化け物に対応する。

 敵を制圧したら後頭部から口枷となる部分を填める。すると自己組織化した金属が目、四肢を覆うように展開、拘束していくのだ。拘束完了後はミイラの如く器具で覆われる。

 つまり口枷を填めれば自動で拘束、無力化するのだ。

 昔はもっと重かったらしいが、軽量化に成功後の現在、利用率と捕獲率は上がっている。使用し易いこの装備品は、防衛庁自慢の逸品である。


「タイミングは俺が言う。チカはそれまで俺の後ろにいろ」 


「はい!」


 ギュ、と捕獲器具を掴み直して返事をする。

 背後では三人が戦っている、それでも二体を相手するキョウジ隊長の方が優先だ。


 バンッバンッ


 キョウジ隊長は、人狼の爪へ的確に銃撃する。一弾ずつが足の両親指に当たると人狼の動きが鈍った。銃弾の当たった親指が潰れたのだ。潰れた親指は力が入らずにズリ、ズリと摺り足になっている。


 その内にもう一体へと向かい、ナックルグローブの打撃を続ける。


 ゴッゴッゴッ!


 屋根の上だと言うのに、全く不便を感じさせない動きで人狼の顔目掛けて殴っていく!


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