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クローバーをお前に  作者: 和知つばき
リベンジは熱いうちに打て
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2

 なんて感心して見ていると、今度は蚊帳の外で見ていた私に話しかける人物がいた。その声は射られた矢のように真っ直ぐな人物のものであった。


「赤井」


「ジン君……!」


 振り向けば学生バディで二年間を共にした、白峯(しらみね)ジンがそこにいた。謹厳実直で、士官学校では生徒会長もこなす優等生。戦えない私のバディだと言うのに、一切弱音も苦言も溢さない。その彼の漢気に女子生徒のみならず、男子生徒までも憧れたものだ。


「まさか第一北区を担当するとはな。会議室に赤井の姿を見て驚いたぞ」


 彼の顔は本当に心配しているようで、相変わらず心配性は変わらないなぁと私は安心した。


「それはこっちの台詞だよ。ジン君も同じ第一だったなんて……」


 腰に帯刀しているのを見て、学生の頃を思い出す。


 そうだ、ジン君の武器と言えばこの美しい刀。一度持たせてもらった機会があるけれど、重くて振るどころかバランスを取ることで精一杯。それでいてあのツキコやユリとのトップ争いをするものだから、やはり彼は優秀なのである。


「チカ。誰だ、コイツ」


 私とジン君が挨拶を済ませていると、リンネから少し敵意の感じる声がした。見れば私の一歩前に出ている。


「あ、紹介が遅れちゃったね。こちらは士官学校時代に学生バディを組んでいた白峯ジン君。ジン君、こちらは今のバディの朝霧リンネ」


「ふーん。……あたしよりよわ」


「ゲフンゲフン!リンネったら……まずはよろしくから始めないと!」


 この子はまた危ない発言をしようとしたな!出会って即喧嘩を売る羽目になるとは……。危なっかしい彼女のバディとして私が二人の仲を取り持たないと!


「朝霧……。では管区監の血縁か?あまり、似てないんだな」


 あれ?ジン君はリンネの発言をスルーしたと思ったら、何を……?管区監って、確か支局長のことだよね。朝霧、てリンネとキョウジ隊長の名字……もしかして、支局長も?


「俺も貴様も同じ穴の狢か」


「……あたしは違う」


 冷えた空気が二人の間を満たす。敵意を持っているのはリンネだけではないのかも知れない。どう見ても互いへの紹介は失敗していた。


 どういうことなんだろう、明らかに私だけ話についていけていない。二人は何の会話をしているの?なぜ二人してそんなに怖い顔をしているの。二人の間にいるはずなのに何か疎外感を感じる。


「え〜君、めっちゃ可愛くない?名前何?」


 そんな冷えていた空気の中を、恐れ知らずな声が破壊してきた。まるで街中のナンパのような鬱陶しさではあったが、空気を変えたい私には有り難かった。


 茶髪を首周りまで伸ばしてチャラついたような印象を受ける彼は、優しそうなタレ目をこちらに向ける。


「俺、片瀬(かたせ)ハクヤ。よろしく〜、かわい子ちゃん」


 何だろう、歯の浮くセリフが均整の取れた顔に似合うからちょっとイラつく。だが今はこの空気を変えてくれた恩人に感謝する。


「私は赤井チカです。よろしくお願いします」


「えー、敬語やめようよ。同い年でしょ?」


 ね、と言いながらウィンクをしてくる。あれ……何だか誰かに似ている気がしなくもないな……。


「ジンが君のこと見た瞬間、一直線に向かったと思えば……そうか、君が“赤井”だったんだね。よく聞いてるよ、コイツから」


 ジン君の肩に腕を回すと、何だが意味深な微笑みを向けてくる。どうやら彼はジン君と同じ警務部所属らしい。


 何だろう、この人。やっぱり空気の操り方が誰かに……?


「やめろ、それに俺はあまり口に出していなかっただろ」


「ハハ、気が付いてなかったのか。赤井は無事なんだろうか、て何度も呟いていたよ。ここに来るまでも」


 そうか、私はまだジン君に気にかけてもらえていたんだ。

 まあ、まさか全く戦えないのに特務部に行くなんて正気じゃない、と受け取られていたのかも知れない。確かに何度も一緒に警務部に行かないか、と誘われた覚えがある。


「今はあたしがバディだ。……この間も、チカから命の恩人だって言われた!お前に心配されるまでもねぇ!」


「フン、命の恩人。つまり危険に晒したという事だろう。俺は貴様とは違って、一度もそんな状況になった事はない」


「あーあ、折角流れ変えられたと思ったのになぁ」

 

 やはり彼は空気を読んであんなことを言ったんだろう。

 だがどうしよう。私が台風の目になっている事は分かるけれど、何も口を出せない……!学生バディとしての恩があるジン君、命の恩があるリンネ。どっちかの味方になったらその恩を仇で返すような気がする。ただ二人には仲良くなってもらいたかった、それだけなんだけれどな。


「ま、まぁまぁ。二人とも落ち着いて、ね!」


「つーか今の相棒はあたしなんだよ!引っ込んでろ!」


「貴様のような粗暴な奴が相棒?赤井が気の毒だ」


「てめえ、この野郎!」


 だめだ、落ち着く気配すらない!

 段々と険悪になる二人の前に立って場を収めようとするも、二人はもう私のことなど目に入らず睨み合っている。


 お願いだからキョウジ隊長早く来て!何故かさっきから姿が見えないけれど、このままじゃ喧嘩になるし非力な私は止められない!


 ……などと祈るものである。祈っていた私の目の前にキョウジ隊長が見えた。その姿は後光が差しているようで思わず目尻に涙が出る。


「お前たち、何を騒いでいる」


 呆れ半分のため息を溢すと、リンネの肩を掴んでジン君から引き離す。


「おっさん!あいつムカつくから喧嘩させろ!」


「やめなさいリンネ。怪我するだろ!」


 まるで駄々をこねる子を叱る母のように、ダメったらダメ!とリンネに言う。リンネもキョウジ隊長の指示には聞くようで、ジン君を人睨みするとプイ、と顔を背けた。


 どう見ても怒りが収まっていない、と私にも分かる。

 

 そんな彼女に近づく者が一人、歩いて来た。鴉のように艶やかな黒髪を一つに束ねる男性……制服から特務部の隊長であることが分かる。ジャケットの肩章にラインが三本ついているのだ。私のような士官学校卒の平隊員は二本、推薦制度で入隊したリンネは一本、と言うように肩章を見ればある程度の地位を理解できる。 


「全く、キョウジ君の娘さんは活きが良いですね。」


 アルカイックスマイルと言うのだろうか、目が笑っているようには見えなかった。狐目が線のように細められ、じっとりと見つめられる。


「一色(いっしき)。揶揄いに来たのか?」


「まさか、ちょっと挨拶に」


 一色、と呼ばれた隊長はリンネの前に来ると一言呟く。私はリンネとの間にキョウジ隊長がいるため、距離が遠くて何と言ったのか分からなかったが、リンネの顔は落ち着きを取り戻した顔になっている。


「……分かった」


「ええ、では」


 何かを伝えた一色隊長は、そのままリンネの横にいるモモ達の方へと向かって行く。


 彼は何を伝えたんだろう、あんなにも荒れていたリンネを一言で制した。……注意?いや、それならキョウジ隊長がしていた。じゃあリンネには冷静になる理由がある?それは、私の知らない何か。

 そうだとして、何で一色隊長が知っているのか…、キョウジ隊長は流石に隣にいたから聞こえていたはずで、何も口を挟まないって言う事は彼ら三人は知っているものなのか……?


 いや違う、大事な所が抜け落ちている。

 “私が”リンネのこと、何も知らないんだ……。


 荒っぽい、正直な物言い、自信家…。こんな抽象的なことしか知らない。朝霧っていう名字も、ジン君の方が知っているみたいだ。まだ出会って数日かも知れないけれど、バディなのに私だけが知らないみたいで……何だか寂しい。


「おい、チカ。どうした。やっぱアイツに何か嫌なことされたんだろ」


 顔を上げれば、心配して私の腕を引いたリンネがまたもジン君を睨みつけている。


 私を掴むこの手も、その髪も、その瞳も……私は彼女に対して疑問があるのにまだ聞けていない。そんな立場になっていない。


 ただ、彼女の出生に何かがあるようなのは私も分かっているのだ。

 あの日、リンネの瞳を見た時リアルだと思った。リンネの髪を拭いていた時、頭皮から生える青髪を見た。私を担いだあの腕、とてもじゃないが見た目の筋肉量が担ぐには足りないと思った。

 

 私の疑問、それは


 リンネは『化物(ばけもの)』。

白峯ジン

学生バディでチカと二年間を共にした。真面目で思い遣りがある。弱きものを助ける、を地で行く人。黒髪。警務部所属。


片瀬ハクヤ

空気が読めるのでわざとふざけたことを言う。ただし、女の子は大好きなのでナンパはする。涙黒子が左目側にある。警務部所属。


一色アキラ

ユリ達の隊長。丁寧な口調、糸目で胡散臭い顔をしている。36歳。

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