第8章 高校生と公園で
由美子が空手高校生と再開します。
私は武道が好きです。単にスポーツと違い、「道」という言葉付くと精神性というか、日本人のアイデンティティーに深く関わったきた感覚なのです。もちろん、日本で、特に義務教育で行われているスポーツには球技であれ、徒手競技であれ、その感覚があったような気がします。(良い悪いはみなさんの判断ですけど)
第8章 高校生と公園で
季節もだんだん暑くなってきたある日。そのうち一年でかなり日が長くなる季節となる。まごまごしているとプールの掃除があって、水泳の授業も始まりそうだ。例の公園の脇を通って帰る。ここを通るときは防犯ブザーのひもに必ず手を掛けておく。今日はぽつりぽつりとではあるが、人出もある。
「あっ!」
由美子は公園の中の人影に思わず駆け寄った。ブランコに高校生が二人乗っていて、話をしている。この顔は絶対に忘れられない顔だ!
「広幸さん、貴之さん!」
高校生は話をやめて振り向く。
「おう、小学生!」
「そっち行ってもいいですか?」
「おう、来いよ。元気か?」
由美子はブランコの二人に駆け寄り、自分もブランコに座る。
「その節はありがとうございました。」
「いや、お礼は十分以上にあったし、もう気にするな。」
「まったく。あのおじさんも刑務所行くらしいし、しばらくは平和かな。」
「俺の蹴りは暴行罪に問われずに、あのおじさんが小学生の手首をつかんだことが暴行罪になるんだから、警察もやるよな。ちゃんと正義してる。」
「ふ~ん。・・・、お二人で何話していたんですか?」
「あ~それな。」
「広幸、高校卒業したら警察官になるって言ったら、親父さんにめちゃくちゃ怒られたらしい。」
「大学に行かせるつもりだったのが、あ、いや、俺も最初はそのつもりだったけど、早く人様の役に立ちたいと思ってそう言ったら、警察官には大卒の枠もあるし、そもそも一番市民と接する法の執行者が中途半端な気持ちで正義をかざすなんて絶対許さん・・・てな感じ。せめて大学に行って法と正義を頭と体にたたき込んでこいとさ。」
「私はお父さんのおっしゃること、とても正しいような気がします。」
「高卒の警察官は普通だし、一刻も早く悪い奴らをつかまえたいんだけどなぁ。この気持ち分かってくれないんだよな。」
「でも、何かお前、奢ってね?」
「え、何がだ。」
「でも広幸さん、私を助けてくれたとき、悪い人をつかまえるというよりは私を守ってくれたって思えるんですけど。その時の広幸さんと貴之さんはとってもかっこよくってすごい人たちだなって思ったんです。でも、今の広幸は悪い人を徹底的にボコボコにして捕まえそう・・・。なんか・・・暴力を正当化しようとしてません?」
「・・・暴力の正当化。なるほど。奢りか。貴之、そして小学生、何となく分かったような気がする。例えばこういうことだろ。悪いやつも何かそうせざるえなかった者もいるし、例え悪いやつでも立ち直るやつもいる。ジャンバルジャンだな。」
「お前は素直なんだか、頭悪いんだか分からんわ。ジャンバルジャンかよ。」
「・・・。おい、小学生。お前、俺の彼女になれ。」
「ブッ!」
「え?」
「お前、気に入った。お前が高校生になったら、もう一度声を掛ける。」
「おい、おい。小学生を口説くなよ、犯罪だぞ。」
「いや、直感だ。こういうことに年齢は関係ない!それにこの小学生が高校生になるまで待つって言ってる。3年待てばオーケーだろ。」
「わーた。でも、不審者より、広幸、お前が一番危ないやつのような気がしてきた。おい、小学生、こいつ危ないやつだから気を付けろよ。」
「俺はいたって真面目だ。」
由美子はなんか頬がすこし火照るのを感じた。この高校生、直球過ぎる。
「まあ、その時になったら考えてみます。でも、その頃って絶対彼女がいますよね。」
「そうでもあっても、小学生、男に二言はない!」
「お前馬鹿か?それじゃあ、二股だろうが。」
「そうなるかもしれない・・・が、まあいい。なるようになる。」
「おい、小学生、もう帰った方がいい。こいつといると俺みたいに馬鹿がうつされるぞ。小学生、困っているじゃ無いか!」
「何回も馬鹿馬鹿って!俺だって一応学年で20番以内なんだからな!(!?、そこそこでしかないか・・・?貴のやつ、ほぼいつも5本の指に入ってるからな。)」
「おい、小学生!こいつ、相手にしなくていいからな。」
「ええ、でも私、みなさんにお聞きしたいことがあって・・・。」
「俺、彼女いないよ。」
「いや、そういうことじゃなくて。みなさん、空手部ですよね。」
「うん。もう引退に片足突っ込んでるけどね。」
「私、空手をやりたいんです。」
「おう!いいね。不審者をぶっ飛ばしたい!」
「いえ、そうではなくて、強くなってゆとりを持ちたいというか・・・。」
「おい広幸、この小学生、お前より空手の極意を心得ているぞ。」
「確かに。で?」
「どこかで習える場所がないかって。」
「道場ならいろいろあるけど、空手って流派が分かれているし。どんな流派が好み?」
「???」
「それなら、先ず公民館でやっている教室はどう?俺たちの師範がボランティアで教えに行ってるし。俺たちもたまにかり出されるし。」
「えっほんとですか?」
「『極真会』とかフルコンタクト、つまり本気で相手に突きや蹴りを食らわしてノックアウトするボクシングみたいな流派もあるけど、そんなんでなくていいの?」
「え~、それ、遠慮しておきます。」
「おい、引いてるぞ。お前じゃないんだから。全く!」
「俺たちは古来からある『寸止め』の空手で、相手に当たる寸前で止める空手なんだけど、そっちがいいの?極真会の大山増達先生は猛牛や熊をボッコにするくらいだからめっちゃすごいけど。」
「いつの時代の話だょ!」
「『寸止め』がいいです。」
「俺、寸止めだときっと満足できないと思う。特に女子相手だと、きっと、うん。」
「?」
「おいよせ!お前馬鹿か!小学生相手に下ネタかよ。不意打ちで延髄切りするぞ。」
「?」
「それでね、俺たちの流派は『糸東会』っていって、『剛柔流』とか防御することがそのまま攻撃になってしまう流派と比べても大人しい方かな、こいつを抜けて。」
「なんだよ。」
「『糸東会』は相手の攻撃を必要最小限の動きでかわし、最短で攻撃に移るという流派なんだけど、きっとそれがよさそうだね。しかも公民館でやってるから月謝というよりは参加費程度でお金もそうかからないし。よかったら師範に言っとくよ。」
「いいんですか?」
「ああ勿論。ただし、師範ってすごい爺さんだよ。一見よぼよぼ。でも、俺たちじゃ絶対に勝てない。広幸が本気でかかっていっても爺さん、ほとんど動いていないのに一本取ってる。広幸なんて攻撃されたのも分からなかったくらいだ。『型』がめっちゃきれいで速い。動きに全く無駄が無いんだなあ、これが。」
「尊敬なされているんですね。」
「ああ。だから卒業までに絶対倒す!」
「うふっ。でも『型』ってなんですか?」
「おい広幸、ちょっと見せてやれよ。」
「いや、『型』ならお前の方がずっと得意だろ。大会でも良い成績残しているだろ。3位だったけ?」
「まあ、3位じゃなぁ、微妙だよな。で、お前やれ!」
「仕方ない。上着持ってろ。じゃ『バッサイ大!』でいいか。」
「おう。」
広幸が自然体で由美子達の前に少し離れて立つ。一礼をすると足をそろえて胸の前で合わせた手をゆっくり下ろしていく。それに従い身体は正立のままゆっくりと前に倒れていく。倒れそうになった瞬間、右足が前に出て左腕で右腕を支えて架空の相手の突きを除ける。と、くるりと反転して突きを入れ、さらに正面に戻り受けては短い突きをする。身体はしなやかに猫のように変化すると蹴りを手で左右にいなしていく。さらに突きをかわし、相手の足をすくい上げ、持ち上げる。そして受けを繰り返すとさらに長い突きを入れる。さらに突きを受け流し、蹴りをいなしながら前進する。技を繰り出しながら一度止まって気合いを入れる。振り向くと今度は後ろに前進しながら受けと突きを繰り返す。そして両腕で諸手突きを跳ね上げた後だった。四股立ちになり、右手で突きを入れる大事な場面!スパット!と腰を下げた瞬間!!
ビリッ!ビリビリッ!!お尻を押さえながら飛び上がる広幸!
「あぉ~っ!ズボンが破けたっ!」
四股立ちは相撲の四股そのままで180度に股を開く立ち方だ。学生服のズボンが耐えられる訳がない!見事にお尻の部分が30cmも破けた。
腹を抱えてブランコから転げ落ちる貴之。かっこよさに見とれていた由美子は一瞬何があったかと固まったが、我に返ると思わず吹き出してしまった。
「おい、貴之!笑うな!!小学生もだぁ!!」
お尻を押さえながらぴょんぴょん跳ね回る広幸の姿がさっきのかっこよさとはあまりにも対象的だったので、それがまた爆笑を誘った。
公園の外を歩く人が何事かと振り向く。
結局広幸は学生服を腰に巻き、二人で慌てて公園を出た。貴之はまだ笑っている。由美子もおかしかったが、ちょっとかわいそうになった。遠くから二人が、
「お~い小学生!市の広報かなんかで時間と場所を調べて教室に見学に来~い。次にあるのは来週だと思うから、是非来いよ~!師範に話しとく~!」
由美子も強制的に追い返されてしまうことになった。でも、なんかとっても気分がよかった。なんかよい小説を読み終えた時の感覚に似ている。
「さわやか馬鹿」って死語だよなぁ。でもこの二人の成績はいいのか、悪いのか。
実は私も学生服のズボンを派手に裂いてしまったことがあります。どんなシチュエーションだったか忘れてしまいました。(きっと封印したかった思い出?)本人は切ない・・・。




