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第6章 由美子と不審者と高校生、絶体絶命!

第6章 由美子と不審者と高校生、絶体絶命!をアップしました。

ハンバーガー店で女子生徒がなくなるなど、不審者というよりは通り魔が・・・。許せない。

不審者も自分の欲望のため?油断は危険と同意語。回避することも重要なのですが、由美子はそれをしなかった。

第6章 由美子と不審者と高校生、絶体絶命!



由美子は迂闊うかつだった。学校からの帰り道、家まであと少しではあるが、一瞬だけ暗がりで遮蔽物だらけの道がある。学校安全マップ作りでは必ず危ない場所としてピックアップされる場所だ。街灯の空白区間であり、小さな公園となっているが、回りがまばらに樹木で囲まれているし、道には車を停めておけるだけの幅もある。人家も遠く、昼間でも暗い。通学路として時間帯によっては小学生から高校生までそれなりに通るが、時間帯から外れると本当に誰もいない。ヤバい道なのだ。

由美子は学校近くの図書館で本を探したついでについ長々と読んでしまった。気が付くともう18時になろうとしていた。かれこれ、2時間も本を読んでいたことになる。夢中になると別の世界にトリップしてしまう由美子唯一の悪い癖だ。日が長い時期なのでさすが外は真っ暗では無いが、気の早い車はライトを付けている。


足早にその区間を通り過ぎようとした時だった。いつものように早足で歩く由美子の前にいきなり木陰から黒い影が飛び出した。と、同時にその黒い影は由美子の右手首をぐいとつかんだ。力が強い。由美子は振り向いた。黒いパーカーに全身を包み、白いマスクとサングラスを掛けていた。マジッ!?。頭では分かっているつもりでも、それが実際に現実となった瞬間を認識すると、体のモードが意図せず変わる。由美子は一瞬力が全部抜けてへなへなと座り込んでしまう感覚に襲われた。まわりの景色も陽炎のようにゆがんでいる。もう片方の手が伸びてくる。それはスローモーションだった。生存本能というのか、一気に思考回路がフル回転しはじめ、記憶の中から一直線に護身術の授業を選び出した。手のひらを思い切り広げ、相手がつかんでいる手の親指側に一気に手首をひねって引っ張った。外れた!!!そのまま逃げようとするが、反対の手でランドセルを捕まれた。由美子は両肩ベルトを広げて姿勢を低く前のめりになってランドセルを脱ぐ。そのまま走る。防犯ブザーのひもを引く暇はなかった。とにかく距離を稼ぐ。声を出したいが、声は出なかった。後で振り返ると、生存するために頭の奥に格納したはずの恐怖で声が出せなかったのだ。

恐怖で体中が硬直しているらしく、走る足がもつれた。前にのめってしまったが、足が前に出ずに転んでしまった。両手を前につく。手のひらがすりむける。すぐに仰向けになって相手を確かめる。相手が自分の前に立ち止まった。仰向けの四つん這いとなり、尻餅をついた格好の由美子。黒い影の視線が由美子のスカートの中に移動した。由美子はあわてて膝を閉じた。もう、絶体絶命だ。由美子は目をつぶった。絶体絶命!もう、絶体絶命しかない!電車の見て見ぬふりの人さえもいない!!


「おい、なにやってんだ。」

遠く向こうから響く別の声に由美子はもう一度目を開いた。黒い影は声の方を見ていた。声の方には二人の男子高校生が立っていた。

「おい、何やってんだって聞いている。」

もうひとりの男子高校生はスマホを構え、様子を録画して始めている。録画しながら、由美子に声を掛けた。

「おい、小学生。大丈夫か。起きてこっちこられるか?」

由美子は首を縦にふるとすぐに立ち上がって高校生に走り寄った。

「・・・手首つかまれた・・・。逃げたけど・・・。」

やっと出た声だった。

「よし。俺たちに任せて。」

高校生は相手に近づく。黒い影は年齢は30~40歳くらいの男?


「動くんじゃない!」

逃げようとピクッと動いた男に高校生がドスのきいた声で制止する。

高校生は由美子を背中に隠し、ゆっくり男に近づく。

「おい、貴之。警察に連絡だ。」

「了解。でも、広幸、気を付けろ。こういうやつら武器隠し持っているかもしれないから。」

「まあ、その方がボコボコにしても正当防衛で通る。」

男が逃げようと走り出すが、広幸と呼ばれた高校生が素早く足払いを食らわせた。男はもんどりうって2度3度転がった。観念すると思ったが、それほど甘くは無かった。黒い影の男はキレたらしく、広幸に向かってきた!手にはポケットナイフが光っている。だが、二歩三歩動いた次の瞬間、男はその場で静止した。そしてスローモーションのようにゆっくり崩れ落ちた。早くてよく分からなかったが広幸の前上段蹴りが男のアゴに入ったのだ。引きが早いのでまるで動きがなかったかのように広幸が構えている。

「おい、広幸!」

「正当防衛だろ。」

「全くよぅ・・・。小学生、この兄ちゃん、この間の空手の大会で3位だった。反則負けでね。この上段蹴りが相手選手のアゴに入ってしまってなけりゃ優勝できたかも知れないのに。」

「結果論、結果論。」

「・・・。」

ポカンとする由美子。でも、体の硬直が一瞬で溶けるようなカッコよさだった。

「全くよぅ、この前の反則負けはこの日のためかぁ。・・・おい、小学生、俺たち、この近くの高校の空手部の3年生なんだ。小学生、運がよかったな。」

由美子はまだ声が出ず、ウンと頷いた。

「警察が来たらいろいろ聞かれるから、もう少しここで我慢な。」

「おい広幸、そいつ縛っておけよ。空手着の帯があるだろう。」

「汚れる・・・。」

「お前、そんなタマかよ。ついで救急車も呼んでおく。」

「こいつのマスクとグラサンとるから、写真撮っとけ。」

「何で?」

「記念撮影だよ。」

広幸は男を縛り上げ、写真を撮ると由美子の様子に気付いた。

「おい小学生、手と膝から”ちー”出てるぞ。」

貴之という高校生がティッシュを取り出し丁寧に拭いてくれた。

「おい、小学生、痛くないか?」

「ちょっと。」

やっと少し落ち着いたのか、声が出た。やがて遠くで聞こえ始めたサイレンの音が急速に近づいてきた。3台分だ。

1台目のパトカーから二人の警察官が降りてきて高校生と話し、黒ずくめの男に駆け寄って様子を確かめる。救急車も到着して応急処置に当たる。男も由美子もだ。さらに到着したパトカーには婦人警官が乗っており、由美子を確保していた警官と交代した。ものすごく優しい方で、今まで張り詰めていたものが弾け飛んだ。由美子は普段人前では涙を流さない子なのだが、(物語にはまって泣くのは別)なぜか安心の涙があふれ出た。住所や電話番号、学校や担任などを聞かれた。そして、どういうわけか趣味とか友達とか聞かれ、学校生活で楽しいと思ったことなども聞かれた。

「さて、高校生のお兄さんたちに助けられるまでに何があったか話せる?無理しなくてもいいよ。」

「今日は図書館で本を読んでいて、それでちょっと遅くなって一人で帰りました。今日は道に誰もいなくて、ちょっと心配だったけどこの道に通りかかりました。そしたら・・・」

女性警察官が優しく丁寧に聞き取っていく。高校生の方もひとりずつ警察官が聞き取りをしている。伸びている男はストレッチャーに縛り付けられ、警察がひとり付き添って救急車で運ばれていった。そのころには制服を着た別の警察官が何人も来て写真をとるやら、地面を這いつくばって何かを探すやらしていた。見るといつの間にか道は黄色と黒のテープが渡され、立ち入り禁止となっている。

まず、現場に到着したのは両親だった。父も母も顔色が真っ青だったのは忘れない。母が抱きしめてくれたが、父も抱きしめてくれた。いつもはこういうのは敬遠しているのだが、今は別だ。女性警察官から話を聞いた母親がそのまま女性警察官に抱きついた。ありがとうと何度も言っているように見えた。父は男性警察から話を聞くなり男子高校生のところへとんで行き、こちらもありがとうと連発しているのが分かった。男子高校生はさっきまでとは違って照れまくっている。男と対峙したときの同じ高校生とは思えないほどだ。

そんな時、村上と教頭が到着した。警察官と少しやりとりをした後、二人で私たち親子の元に駆け寄ってきた。

「由美子さん、無事でよかった。」

「教頭先生。すみません。」

「あやまることじゃないよ。由美子さんは全然悪くない。」

「でも、みんなに迷惑をかけて・・・。

「あなたがかけた迷惑じゃないし、迷惑をかけられたのは由美子さん、あなたの方だ。」

村上も声を掛けてきた。

「おう、由美子。包帯だらけだけど、大丈夫か?」

「あ、先生。大丈夫です。すりむいただけです。・・・先生、ありがとうございます。」

「?」

「前やった護身術の授業、とっさに思い出して逃げたんです。」

「・・・?まあいいや。助けてくれたのはあの高校生?」

村上は遠くの学生服の二人を目で示した。

「そうです。すごくカッコよかったです。空手部なんですって。ナイフを持って向かってきた男の人をキック一発で・・・。高校生のお兄さんたちがいなければ私・・・。」

「それ以上は考えなくていい。まあ、お前はきっと天性のものを持っているんだ。ラッキーガールだよ。」

「『うん』とは首を振れないけど、今回は本当に高校生に助けていただいてラッキーでした。」

「そうだ。もう一点。この件は『なかったこと』にする。誰にも秘密だ。もちろん、通子にもだ。・・・いろいろ思い出して切なくなることもあるだろう。その時に黙っているは厳しいのは分かっている。そのときにこっそりと俺に吐き出せ。いいな。」

由美子は頷いた。

村上は両親のところにも話に行った。

「お父さん、お母さん。今回のことは大事に至らず不幸中の幸いでした。ただ、これからのことの方が私は心配です。得てして野次馬はこういう案件に敏感です。しかも悪い意味で。彼女を守るためにもこの件は秘密にします。高校生も本来は表彰もんですが、彼らにも忘れてもらいます。この件で私が彼女を全面的に守り、支えます。」

そう言うと村上は遠くの高校生の二人にもお礼と話をしに行った。遠目ながら村上と高校生がお互いに驚いているように見えた。まあ、それ以上にそれどころではなかったけど。




翌日、由美子は学校に普通通り登校した。

休んだ方がいいと周りから言われたが、母も行った方がいいと言ってくれたし、安心して学校に行った。

「ねえ、由美子、『派っ手』にやらかしちゃったみたいいね。」

通子は包帯だらけになった由美子がいったい何をやらかしちゃったのかびっくりしていた。

「まあ、ちょっとね。工場の資材置き場で、通子じゃないけど『派っ手』にころんじゃった。まあ、手のひらと膝を派手にすりむいた程度で済んだから、心配しないで。」

「気を付けてね。なんせ、あんたんちは工場の建設中なんだから、危険物の塊だかんね。」

「はいはい。」



その日の帰り、PTAメールの他、文書で不審者に関するお便りが配布された。

「昨日、午後6時頃、校区内のXXにある公園付近で不審者が逮捕されました。下校などの際はできるだけ一人になることを避け、防犯ブザーを忘れず携帯しましょう。また、不審者を見かけた場合には、すぐに警察に知らせましょう。」

由美子はそのプリントを両親に見せながら、今までしたことのないおねだりをした。

「ねえ、お父さん、お母さん。私、空手を習いたい。」

ハンバーガー店の話ですが、やるせない気持ちです。私でもそうなのですから、ご両親に至っては想像を絶します。

さて、今回はラッキーでしたが、高校生がいなければ。また、居たとしても前の章のように無関心で見て見ぬふりの人だったら。ぞっとします。正義を描きたいですね、作者としては。

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