第46章 講評
いよいよ読書感想文コンクール、県予選の結果がきました。村上先生から通知書が渡されると同時に別送で送られてきたひとりの審査員からの手紙も添えられました。
第46章 講評
由美子と通子はそろって教務室の村上に呼び出された。もう忘れかけていた読書感想文コンクールの県予選結果が出る頃だ。原稿を提出したあの時はいつものように締切間近で、とにかくシェイプアップして枚数内に仕上げたっけ。
村上は黙って一枚の文書を渡し、いっしょに手紙を添えた。
「審査結果だ。異例だけど手紙がそえてある。まあ、それは別送で来たものだけど。」
通子が手に取ると二人で顔を寄せて読む。
応募者多数の中、お二人の作品---「あなたの」というのが二重線で消され、「お二人の」に手書きれている---は、厳正なる審査の結果、残念ながら入選となりませんでした。
「やっぱりそうか。」
「やっぱり・・って、通子、最初からあきらめてた?」
「いや、そんなことない。由美子だけで書いていれば、きっと入選するような作品を書いたんじゃないかって。」
「なに言ってんの?ファルコン。私は十分楽しめた。昨年アドバイスを得ながら一人で書いた時も楽しかったけど、今年は二人でワイワイ言いながら書いていたその方がずっと楽しかった。やっぱり、授業のようにみんなで読んでわいわい言いながら書く方が私にあってるって気付いたの。昨年までは自分はひとりで書くタイプだと思っていたんだけど、そうじゃなかった。」
「フォックス、ありがと。」
「お礼とか言うの変よ。私こそ、この大切な思春期のこのひとときを友達と楽しく過ごせたことは宝石みたいだよ。『瑠璃の宝石』の第2話『金色の価値』の中でお金とは違う価値があるんだってのテーマだったじゃない。瑠璃さんが大粒の砂金を見つけたとき、凪さんがそれは少なくとも何百万年、何千万年かけて出来たものですごく高く売れるっていったとき、今までお金に目がくらんでいた瑠璃さんは絶対に売らないって言ったでしょ。あれは何百万年もの偶然が生んだ奇跡的なものだって分かったときに別の価値に気付いたんだよ。確かに入選するっていう目的は達成出来なかったけど、入選するって価値とは別の価値を感じてた。私はそれだけでも入選とは違うとっても大切な宝石を手に入れたんだって。」
村上がストップをかける。
「なんだ?『瑠璃の宝石』って?」
「アニメ。今話題のアニメよ!村上ちゃん、知らないの?」
(ちょっと頬を膨らませて口をとがらせている通子って、もしかして、可愛い・・・)
「ん~、人が感動に浸っているときに、もう!アマゾソ・プライムでまだやってると思うから見たら。」
「通子、なんか冷たい・・・。」
通子は無視して手紙の方を由美子と読み始める。
【手紙のはじまり】
私は審査員の一人です。とても興味深く読ませていただきました。普通ならこんなお手紙を書くことは出来ないのですが、匿名で個人的かつ特別にということでお許しをいただきました。
ぜひお話ししておきたいことがあります。
みなさんはどうやら高学年の課題図書にも全て目を通したんだろうなと感じました。ファルコン、フォックスのくだりは思わず微笑んでしまいました。きっと二人で目を通し、いろいろ話しながら感想を深めていったのだろうということが何となくですが、感じられました。しかも、お二人は大の仲良しそうですね。
さて、今回はお二人に中学生の課題図書を一般の部の作品として取り上げていただきました。私は小学校高学年担当なのでそちらは全て目を通しましたが、中学生の課題図書まで手が回らず、慌てて読んだ次第です。みなさんのおっしゃるとおり、とてもよい作品だと感じました。思春期のみなさんにはとてもよい課題だし、爽やかに読める本でした。小学校6年生のみなさんにも十分読むことのできる本だと思います。その本に挑戦するのも面白いと思いましたが、読書感想文を対談形式で書いてくるなんて、しかも共同制作なんて。びっくりしてしました。普通なら審査の対象外となるところですが、つい読んでしましました。他の審査員の評判も決して悪いものではなかったのですが、もう一度読書感想文という基本に立ち返って欲しいと思い、ペンをとりました。皆さんなら、きっと入選するような感想文を書けると思い、ぜひあきらめないで中学校でも取り組んでもらいたいという願いから、僭越ながら少しアドバイスをさせていただきたいと思ったのです。
さて、先ず、読書はなぜするのか?これはいろいろな局面があると思います。分からないことを調べたり、何かを習得するために参考にしたり、伝記のように先人の生き方に触れたり、また、ただただ面白いからとか、いろいろな読み方があると思います。最近では漫画本やゾロリのようなハイブリッド本とか○○の秘密シリーズのような解説本も多く出ていますね。さらに読み方は広がってきていると思います。また、メディアも紙だけではなく、デジタル化されタブレットで読むとか、声優さんの朗読で聞く本なんかもありますね。読み方も多岐に渡ってきています。
コンクールでは主にノンフィクション作品とフィクション作品を、外国の文学も交えて取り上げることが多いのですが、それはやはり文学を通して生き方を考えるためだと私は考えています。そのためには先ず、書かれていることをしっかり理解し、評価することが大事だろうと思います。そしてここまではだいたいの参加者がクリアーしています。
それから次の段階にいかなければなりません。それは自分自身を前述の評価から振り返ることです。『自分事』としてとらえられない、俯瞰した立場からでは感想とはならないのです。ここを素通りすると空虚な感想文となってしまいます。
そして最後に振り返った自分を少しでも前進させ、考え方を止揚させ、行動に変化をもたらすことが大切だと思います。そこで初めて作者と肩を並べて、作者と同じ目線で物事を見ることが出来ると思うからです。そしたら、またその視点で自分なり、他人の生き方をまた見つめてみる。
残念ながら、お二人の感想文には私の述べた最後の方が甘かったと思いました。おそらく文字数の制限から書き切れていないんだろうとも思いましたが。その部分が記されていたら、入賞も不可能ではない出来だったと思います。
先日、所属している教員の研修団体の会合で担任の村上先生にお会いする機会がありました。偶然その時に村上先生がお二人の担任だということをお聞きし、お二人の人物像をおうかがいすることができました。私の想像通りのお子さんたちだと思いました。
それだからこのお手紙を差し上げたわけではありません。私が未来を託したいと思ったのがたまたま知り合いの教え子さんたちだったというだけです。
どうか、中学校に進学なされても、この読書感想文に関わる営みを続けていただきたいと願います。
審査員を離れた一読書を愛する人物より
【手紙のおわり】
「やばクね。立場上。」
「審査員として私情を挟むことでしょ。でも、そうまでして私たちに気持ちを伝えようとしてくださったことはとても嬉しいと思う。」
「このことはお口にアロンアルファね。村上ちゃんもだよ!・・・で、村上ちゃん、これコピー取って。一部しかないから、二人でそれぞれ宝物にする。」
「保身から杓子定規に振る舞う人が多い中で、ちょっとでも子どもたちのために役立ちたいだなんて、根っからの先生だな、彼女。」
「こら、村上!浮気はだめだかんね!あなたは妻も、この通子もいるんだからね1」
「はいはい。」
「通子、ごめんね。入賞できなかったね。」
「由美子、何言ってんの。私もさっきの価値で、まったく問題なし。これからもいっしょだよ、フォックス!一読書を愛する人物の言うように、中学校へ進学してもやろうね。読書感想文!」
「うん、ありがとう。やろう、ファルコン!」
コンクールの結果、入賞はなしです。なんせ、この物語を書いている人物そのものが入賞を果たせる読書感想文を書けるなんてはずがないですから。悪しからず。
さて、審査員の手紙、読書感想文を書くのならこんな風に書きたいという一スタイルを表現したつもりです。これが全てではありません。読書はやはり「生き方」につながるんじゃないかって。最近、国語の教科書で扱う文学作品が非常に少なくなり、表現ばかりが重要視されているようです。でも、あるコミックの第11巻、112ページに「そういうのをそういうのを創作の世界では『飯を食わずにう○こが出るか』という」というセリフがありました。得たり!です。
もう何章かで完結です。私も完結が寂しいから筆が進まないのかな。(いえ、単に怠惰なだけだと思います)




