第42章 食べ下手感想文の相談(その1)
前章からかなり間が空いてしまいました。
結局、読書感想文を書く段になっても課題図書選定にゴーサインを出せず、村上に相談に行く。どうもイレギュラーな課題図書を考えているらしい。しかも書き方もイレギュラーときたら。真剣に聞いていた村上に通子がなにやらやっちゃった。もう。ヒントはハ○セ○です。
第42章 食べ下手感想文の相談(その1)
『食べるって「つなぐ」こと』て題にしたいと言い、由美子が構想を相談しにきた。いつもの通り、締切がすぐそこなんだけど。
「『私は食べるのが下手』って。これ、中学校の課題図書だぞ。」
「自由課題を選択したいと思います。」
「他にも高学年の課題図書があるのに、どういうことでこの本に決めたんだ?」
「コンクールはもちろん意識しなければならないことだとは思います。でも、一番の課題なんです。私たちにとって。」
「?、『たち』?・・・通子も同じ課題で書くのか?」
「正確には『一緒に』書くつもりです。」
「もしかして、前に言ってた二人の対談形式?」
「ま、そんなところです。課題図書なんだから自分たちで課題だと思うことにしようって。賞をとって村上先生も指導者として認めてもらいたかったし、高学年の課題図書の中にもいい本があったんですけど、結局これにしようって。自分たちに正直でいようって通子と決めたんです。そして、先生には悪いですが、忖度もなし。」
「ほう。」
「確かに小学生最後に賞をとって花道を飾りたいって思いもありました。でも、この『食べ下手』・・・私たちは『私は食べるのが下手』っていう本をそう呼んじゃっているんですけど・・・これが私たちにとってとても重要な課題だったんです。」
「ほう?」
「確かに『障がい』や『自然保護』、『友情と成長』、『夢』、『反戦』・・・いろいろ考えましたが、『食』って実に当たり前で考えてもみなかったことなのに、なんかめちゃくちゃ重要なんだって思っちゃったんです。」
「ほう。」
「『食』って『要』なんです。生命維持活動には絶対必要なんですけど、それで終わっちゃいけないんだって。私なんか、そうとしか思っていなかったんですけど、改めて『食』って見つめてみると次から次へとベールが剥がれてきてこんなにもたくさんの役割や機能があるんだって見えてきたんです。それは通子に聞いても同じでした。だから一番ちからを入れて読んだ本になったんです。」
「ほぅ。」
「『食』って人生を根本から変える力を持っているんです!」
「ほうぉ。」
いきなり、バシッ!村上の頭に背後からハリセンが振り下ろされていた。
「いたぁっ!なんだ!なんだ!(何が起こったんだ?)」
「アタシ。通子です。ハリセン攻撃です!」
「いきなり、なんだ!」
身体をひねりながら後ろの通子をみる。確かにハリセンを構えている。
「いつも『ほう、ほう』しか言わないし、その表現ばっかりだったら、バシッとやってやろうと思ってハリセン用意してキタノです。そしたら、早くも・・・。」
「いや、俺は先生だぞ!それを!もう、当県が学校における暴力行為トップクラスってのは分かるような気がする。それ、やめてくれ通子。」
「音はバツグンにいいけど、痛いわけないよね。」
「いや、それほど痛いわけじゃないけど、痛くないわけじゃないぞ!」
「ま、由美子、続きいこう。」
(もう通子ったら、せっかくいい雰囲気だったのに。)
「でね、先生。」
(由美子はこのくだらん中断が全然関係ない、こういうところ、由美子、こわい)
「私、どんな忙しくても朝食や夕食って家族でいただいていたし、なんかそれが普通だって思ってきたんですけど、その背景には母や父、祖母や祖父の苦労や工夫があったんだなって。それで私はこんな『普通』に、いえ『普通』って言い方はよくないですね。う~ん、特に困ることもなく当たり前に生きてくることが出来たんだなって。まあ、咲子さんや葵さんみたいな問題に直面しないで『脳天気』に暮らしてくることが出来たんだって。」み「ま、由美子は天然の脳天気が崩されることがなかったってことね。ま、そうい意味じゃ通子様は葵のママに近いママにきっちり習い事を仕込まれてはきたけど、無理はさせられなかったし、アタシも無理はせんかった。食も同じ。好き嫌いは厳しく言われたけど、なんかそれだけというか・・・。家族での食事は楽しかったし、別にどうということはなく当たり前の時間といえば当たり前の時間だった・・・と思う。ね、せんーせ。」
「ほう、なるほど。」
(バシッ!)
「おい、通子!『なるほど』って言ったじゃないか!」
「村上ちゃん、でもその前に『ほう』って言ったじゃない。」
(もう!)
「でも、考えてみたんです。あの食事の時間ってもしかしたら、当たり前なんだけど、とてもとても大切な時間じゃなかったかって。」
(あの、オレ、通子にバンバンはたかれているんですけど・・・)
「家族を結ぶとても大切な時間なんだって。『食』って人と人とを結びつけるんですよ!」
「ほう」
と同時に、村上は通子の両手首を押さえた。通子がわずかに動くその瞬間にハリセンを持った右手首を自分の左手で押さえ、左手の動きをもう一方の手で押さえたのだ。そのまま絡み合った万歳のような格好で壁際に押しつけてしまった。さすがに通子も動けない。押さえられているか動けないんじゃなくて、金縛りにあったように動けないのだ。さすがにドキッとしておふざけモードは吹き飛んでしまったが、村上本人もぶっ飛んでしまった。両手を封じながら身体毎押さえつけた格好になったからだ。通子の顔はどんどん真っ赤になっていく。しかしそれ以上に村上の顔は青くなって、バネではじけるように通子から離れた。通子はそのまま固まっている。
(近い、近い、近すぎる!ヤバい。心臓がバクバクし出して止まらない!なんか、しおらしい乙女のような通子ちゃんに一瞬で変化してしまった。動けない。)
(小学生相手に何やってんだ。相手はふざけていただけだぞ。もう完全にやり過ぎだだよ。くそ通子、シャンプーだかコロンだか知らんが、香りが・・・ヤバい。)
「ねえ、村上先生、聞いてる?通子もいい加減ふざけるのやめたら?」
「アタシ全然ふざけてない・・・まじめ。でもヤバい。心臓が破裂しそう。」
「だいたい、通子。そのハリセンって何?どこで覚えたの?そんなの。そんなの村上先生が怒るの当たり前だと思うよ。それに人の、しかも先生の頭をはたくなんて・・・。」
「ごめんなさい。」
「うん、よろしい、二人とも。さて、村上先生、聞いていただけますか?」
(む:気を取り直す・・・でも、通子になんて声をかけようか)
「いや、俺も悪かった。通子、ごめんな。真面目にやってるときに茶化されると人って・・・。」
「村上ちゃん、ちょっと嬉しかった。先生ってやっぱりイイ先生だよ。」
ゆ「えーい、二人ともやめぃ!日本じゃ『ハレム』は許されないんだからね。そこまで!」
(いや、通子はそうかもしれんが、俺は違うんだけど・・・。複雑だな。慕われるのは悪い気はしない。でも、かなわぬ思いで俺を見ていてくれることに罪悪感を感じてしまう・・・)
「で、さっきの続きね。」
村上は通子の手を引っ張り、自分の隣の椅子に座らせると自分も腰掛けた。(※「座る」は地べたに、「腰掛ける」は椅子の場合に使う言葉なんだけど、許して!)
「で、さっきの続きね。あの食事の時間ってもしかしたら、当たり前なんだけど、とてもとても大切な時間じゃないかってこと。」
「ん。で?」
「『体は名を表す、食はつながりを表す』って言うじゃないですか?」
「前者は反対だし、後者は聞いたことないけど?『名は体を表す』だろ。由美子にしてはめずらしいな。」
「先生、由美子は最近、ボケることに命をかけてるんです。」
「いや、そんなことないよ。今のは完全にミスった。私だって小6よ。で、話を元に戻すと、咲子さんの場合、家族の中での食は無視されていたじゃないですか。コンビニで買ってきた食事。過食嘔吐を繰り返す。満足を得たくても得られない。いくら食べてもそれは同じ。でも、食べればなんとかなる?いや、むしろ忘れるために食べ続ける・・・。でも食べ続けることなんか出来ないから吐く。吐けば空っぽな自分が空しくなるし、吐いた食べ物にも罪悪感を持つ。その繰り返しが悪循環となってどんどんブラックホールにはまり込んでいく。ちなみにブラックホールという表現は抜け出せないもののイメージです。でも、お母さんがお父さんの虚栄と戦って咲子さんを守り、インスタント麺を食べるじゃないですか。でもこの『食』はまさに咲子さんと咲子さんのお母さんのつながりなんだって。だから、後者の『食はつながりを表す』だと思うんですよ。」
「なるほどね。」
「葵さんの場合もそう。いくら栄養満点でも食べることが出来なければ栄養にならないですよね。そもそも人それぞれなんですから、少食の方もいれば大食漢の方もいらっしゃる。そして人と一緒に食べるのが苦手、『ちゃんとお皿を持ってとか』『残さず食べようとか』『バランスを考えてとか』つながりを考えずに『食』があってもちょっとそれは空しいのかなって。ましてや自分のプライドが先立ってしまうと、そうでないものは『恥ずかしい』ということになってしまう。」
「なるほどね。」
「でも恥ずかしいような食事が誰よりも何よりも素晴らしいというのがコッペくん家でしょ。」
「人生でおそらく一番楽しい時間が食事の時間なんだよ。当たり前過ぎて意識しない場合が多いんだけど、小さい幸せが人生を華やかにするんだよね。」
「お、通子が人生談義とは、素敵だね。立ち居振る舞い、言動は姿、格好を見なければ完全にファッションと真逆のガングロギャルだからな。やっとそのフリフリお姫様ファッションにあう話になった。」
「それって、絶対イジってるでしょ。村上ちゃんのイジワル。」
「『食』って家族の絆なんですね。コッペ君ちってそう。」
「そうだね。人類が誕生した頃、人類はとても弱い存在だった。十分な食べ物を得るのは至難の業だった。人間も群れを作って生活していたことが分かっているが、ライオンなどほとんどの動物は強いものから弱いものへと食事の順番が決まっている。弱いものより強いものが生き残る確率は高いからね。ところが人類はどうも平等に食べ物を分けていたらしい。これはどう考えても全滅の可能性がある分け方だ。なのにあえてこの方法を選んだ人類は強いもの・弱いものという一基準ではなく、多様性の生き残りを選択したのだろう。意図的かどうかは分からないけどね。多様性はいろいろな方法を生み、やがて『蓄え』という食料と生存の転換をはかり、十分な食べ物を得た。もちろん、理論上の話だけど。実際には強い・弱いから富める者・貧しい者へってことになったけどね。」
「その多様性という意味じゃ、ムスリムのラマワティちゃんが登場するように外国の『食』も理解し、大切にしていかなければならないってことですよね。」
「そうだね。人間の文化・文明の中で料理は本当に多様性に富んでいるよね。」
「衣食住、みんなそうだと思います。その土地土地の環境にあわせ多様に変化してきたのでしょう。」
「でもさ、聞いて。村上ちゃんも。『食』の問題って、『食の問題』っていうよりは、『食の問題』じゃないんじゃない?」
「む?通子は何が言いたいんだ?」
「『食の問題』ってこの本で出てくるのは『拒食症(過食嘔吐も含め)』、『会食恐怖症』、『ハラール等多様性』『子どもの貧困』なんかでしょ。確かに『食』には関わるけど、それを生むのは別の問題じゃないかな。」
「例えば?」
「『理解』・・・かな。」
「ほう?『理解』」
「ん。咲子も葵も、片方は放任、他方は過干渉だと思うんだけど、親の体面とか面子とかが先に立って、咲子とか葵とかの本当の気持ちを理解してないと思う。ラマワティちゃんのハラールだってそう。これは周りの人たちの理解よね、それが足りない。そして、コッペんところは真逆。貧困かもしれないけど、みんなが理解し合い、助け合っている。『食』の幸せって、そこにあるんじゃないかって・・・。」
「通子って、いつもすごいと思う。情報をつなぎ合わせてまとめるって才能ってすごいよ。確かに『同じ亀の飯を食う』って、食を囲んでいるたちの理解を深めることなんだよね。」
「いや、ウミガメは美味しいって聞くけど、さすがに『亀ご飯』はないよな。それを言うなら『同じ釜の飯を食う』だろう。一緒に食事をするってことだよな。それで連帯感が深まるって話だ。ボケか由美子?」
「ちょっと最近、はまってるかも。」
「もう、通子様がめったにない真面目に話しているんだから。由美子、茶かすな!」
「ごめん。通子。で、続けて。」
「でね、きっと陰陽師は知ってるんだよ。だから、なんとかして、『食』を通していろいろな問題を解決していきたいって。」
「橘川先生か。まあ、本の中に『台風』という『転回』があったけど、『食』のありがたさとか幸せに気付いたんだから。おにぎりって簡単な料理だけど、作る人の愛情がグンと伝わる料理だよね。おにぎりを料理だって言わない人もいるかも知れないけど。」
「いや由美子、シンプルだからこそ、作る人の気持ちがダイレクトに伝わるんじゃない?」
「確かに。一番シンプルな塩おにぎりって、災害とかみんな大変な時が多いわけでしょ。それでもみんなでおにぎりを食べることによって、沈んだきもちが反転したり、がんばろうっていうふうになるものね。食べる側の人も大変だけど、作る側の人も大変な中で作るんだものね。『食』によって、実は私たちって単にカロリー?とか栄養とかだけで生きているわけじゃないのかも。」
「『人はパンのみにて生くるものにあらず=Man shall not live by bread alone』てか。あの陰陽師って栄養にはストイックなくせして、この思想が根底にはあるよね。」
「陰陽師か。橘川先生につけたあだ名だね。でも、陰陽師って今で言うと官僚なんだよ。」
「かんりょう?」
「ニュースでも出てくるだろう。各省庁に勤める政府のお役人。今でいうところの国家公務員かな。」
「へぇ~、妖しい人物じゃなくて偉い人なんだ。」
「そんなところだ。昔は中国発という考えもあったけど、どうも日本で生まれたようなんだ。飛鳥時代に律令制度が生まれて位置づけられた役職で天体観測をして暦を作ったり、占いをしたんだ。」
「占い・・・?・・ですか?」
「飛鳥時代、学習したよね。」
「聖徳太子・・・厩戸皇子の時代で、冠位十二階や十七条の憲法が定められたんですね。」
「通子はどう?」
「仏教が伝わり、法隆寺なんか建立された・・。たしか。」
「国として形が出来てきて、厩戸皇子亡き後、やがて蘇我氏のなどの豪族が滅ぼされ、天皇中心の国家が成立していくんだよね。中臣鎌足と中大兄皇子は後に・・・?」
「中大兄皇子は天智天皇となり、中臣鎌足は藤原の姓をもらって平安時代に栄える藤原氏の始まりになるんですよね。大化の改新ですね。」
「さすが由美子。」
「いや、でもそれって『暗殺』でしょ。自分が権力を得るために相手を殺すなんて。武力で相手をまかしちゃうって、それがまかり通ってきた歴史なんだ。おーこわ。」
「世界中がそういう時代だったからね。教科書では史実として評価され語られているけど、現場を見れば修羅場が続く血なまぐさい時代だったろう。国家とか大きなまとまりがつくられてきた時代は力が横行した時代だから。権力者が入れ替わり、それによって政治の仕組みが更新されていく。そういう過程を経て今がある。まあその時代の反省から権利とか自由っていう概念が生まれてきたとも言えるしね。今の時代だった未来からのぞいてみればきっと『なんだこれは!』って事柄がたくさんあると思うよ。」
「地球温暖化の問題なんかきっとそうなんでしょうね。」
「いや、それホントにヤバいって。あたしたちが村上ちゃんくらいの年になるころには気温も災害もとんでもないことになっていそうじゃん。」
「ああ、ホントにフリフリのフランス人形みたいな格好でその言葉遣いには頭が混乱してくる!でも、本当に未来がそうなってそうで怖い。」
「遣隋使や遣唐使で大陸の文化がどんどん入ってくる。政治の制度も進歩し、律令国家として日本も歩み始めるんですよね。・・・でも、なんかすっごく脱線してませんか?」
「村上ちゃんと話してるといつものことだから。」
「『占い』あたりからでしょうか?でも、なんで『占い』?」
「由美子はともかく、通子は大事なことを決めるとき、どうする。例えば、お小遣いアップがかかった4択の形式でテストで分からない問題が出てきたときとか?」
「『由美子はともかく』ってどういう意味か突っ込みたいところだけど、教科書とかネットでググる。でも、テストでやったらカンニングだよね。う~ん、鉛筆を転がして決める。」
「あっ!私、それやったことある!」
「は?由美子が?・・・それ、やったことがあるって喜ぶことじゃない!」
「でも、丸い鉛筆だったから転がっていって結局分からなかったけど。」
(なんかそういうとこだけ、この子って抜けてんだよな~)
「そういうときって、なんかかけ声かけるだろ。」
「『神様の言うとうり、すっぽろぽんのすっぽろぽん!』」
「そんなやつだったけ?・・・まあ、『神様の言うとうり』ってことは『神だのみ』なんだよ。吉凶とか、神様の意向をうかがったのさ。何も情報がない時代だ。それで言い伝えとか、もっともらしい理屈をこねて神様の意向を聞こうとした。そこで、当時の暦を扱う陰陽師に白羽の矢が立ったわけさ。なにせ、作物などのまき時を正確に当てたりする、当時としては神様並の能力を発揮したわけだから。」
「ふ~ん。『神様のいうとおり』は、お婆ちゃんがやってた。」
「『陰陽師』も『人はパンのみにて生くるものにあらず』から脱線したんですよ。本来は『食』ですから。ちょっと整理してみませんか。」
<次章につづく>
前に二人が村上にもらした通り、中学生の課題図書を自由課題として選び、書き方は二人の対談形式にするという。そのためにもう一度整理を始めたのだが。
続きは次章で。
ちなみにハリセンって死語?今時の小学生、ハリセンなんかつくって遊ばないよな。蛇腹に折った紙の端を束ねるだけなんだけど、いい音が鳴るようにするには紙質が大事なんだな、これが。
※誰が言ったセリフか、分かるようにしていた記号を削除しました。




