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第3章 体育の時間に護身術?

体育の時間って好きな子と嫌いな子がけっこうはっきり分かれますね。でも多くは好きなんじゃないでしょうか。体操着は昔、ちょっと体育館を滑るとすぐに穴が開いたけど、今の体操着ってとってもかっこいいですよね。丈夫だし、チクチクしないし、汗でべちょっとならないし・・・。

第3章 体育の時間に護身術?


学年はじめの頃の体育の時間。春に運動会がある地方では、体育の最初は「集団行動」がカリキュラムの先頭に上がっていた。この時代は児童のご機嫌取りでやらない先生も多いらしい。でも村上はきっちりこなす。


「村上ちゃんって、『集団行動』きっちりやるよね。まるで軍隊じゃん!」

「えっ、通子って軍隊経験あるの?」

「また由美子の天然ボケ?」

「いえ。人口ボケ・・・。」

「『天然』に対して『人工』に掛けて、人の口から出たボケだから『人口』か。まあ由美子らしい。」

「だって、軍隊を知ってるみたいな口ぶりなんだもん。」

「いやあれは言葉の綾、あやだよ。でも、つまんない。『集団行動』って。」

「私は、ドッジボールで外野に回ってひたすらボールがくるのを待つよりは、ずっとこっちがいい。『回れ右!』ってばっちり決まるとスカッとするし、体形変換とかはチーム分けするときとか、早いよね。それに極めれば日体大!あこがれる!!」

「さすが、ポジティブ。おみそれいたしました。」


嫌なことでもとりあえず頑張ってみる。食わず嫌いはさせない。けれども、ダメなものはダメ・・もあり。村上ちゃんのモットーだから。とりあえず、みんなはブーブー言わないでやる。それでも不満があったらちゃんと聞いてくれるのでみんなは頑張る。そうするとなんとかモノになるから満足感も出てくる。結果上手になる。上手になると早く行動できるようになるからやれることも増える。増えた時間は結構融通してくれるから、好きなスポーツを楽しむ時間も増える。

「いや~、みんなさすがだよ。6年生の集団行動スキルはバッチリだ。文科省から集団行動の学習では『軍事教練的要素』を帯びないように規定されているが、だらだらやるのが『軍事教練的要素』を帯びないようにすることだと勘違いしている者が多い。要は『やらせ』にならないようにってことだ。でもみんなは積極に取り組んでくれていたから、予定よりだいぶ早く出来た。で、今日は浮いた時間で『護身術』をやろうか。」

男子の目の色が変わる。あいつら暴力的で困る。

「まず、両腕の法則からだな。そのままの体形でOK。」

「法則?」

「両腕をまっすぐ広げる。これはだいたい君たちの身長と同じ長さだ。まず、最低でもこの距離は必ず相手から確保する。」

「護身術じゃないんですか?」

男子からは素直な疑問が飛ぶ。

「いちばん大切なのは『危険な状況』に陥らないようにすることだ。しかし、不意打ちもある。護身術は有事の際に、最終的にとる手段だ。何度も言う。そういう状況に陥らないのが一番大切なんだ。」

「で、先生。どういうことするの?空手技?柔道技?」

男子の一人、丸山文雄君が尋ねた。

「よし、丸山さん。こっちへきて不審者役やって。」

「え~、先生が不審者でしょ、どう見ても。」

子どもたちがどっと笑う。

「それもいいんだが、不審者、つまり相手がどういう行動をとるか、そちら側に立って考えると、どういう行動が我々に降りかかってくるのかイメージしやすい。つまり、相手ならどうするかを考えて欲しいということだ。それは先生が考えるより、自分で考えた方がいいだろう。」

「なるほど。」

「目の前に獲物が居る。さあ、どうやってつかまえる。」

「抱きついて押し倒す。・・・いや、無理だ。その前に逃げられる。ん。」

いつものことだが、すけべーとかのヤジが飛ばない。

「手をつかんでつかまえる!」

「現実的だ。いいぞ、その調子。」

「でも先生、イメージ沸かない。先生、デカすぎるよ。ふつう、そんなでかいおっさん、襲わないだろう。」

ここで、みんなのクスッとした笑いが出る。

「確かに。丸山さんの言うとおりだ。それでは被害者役に、誰かなってくれないか。」

みんな顔を見渡す。

「俺、通子がいい。」

みんなの視線が一斉に通子に集まる。

「いや、私が可愛くて襲いたくなるのは分かるけど、遠慮しておくわ。」

「じゃ、由美子でいいや。」

「なにその『でいいや』って。由美子、ぶっ飛ばしてやんな!」

「うお、通子、こわ~。」

「私でいいなら、私やってみる。」

「じゃ、教室からランドセルや帽子、体操着袋など持ってきてよ。」

「おい、丸山・・・それやりすぎじゃない?」

「いや、リアリティーの追求だよ。言っとくけど、俺、ヘンタイじゃないからな。」

3分ほど、支度をしにいった由美子を待つ間、怪我防止にマットを引き、ついでにその上で準備が出来るまで間、V字腹筋とヒコーキ(腹ばいになって手足を浮かす・・・けっこうキツい)をやっている。由美子がやってくる。

「じゃあ始めるけど、当然怪我をするようなことは禁止だからね。」

「先生、もち、分かってます。」

「さて、不審者はどこで待つ?」

「その壁の陰に隠れてます。」

「よし、由美子さんが下校途中で通りかかる・・・。」

「さすがに由美子に抱きつくのはヤバいわ。」

丸山はすかさず、由美子の手首をつかんだ。由美子は振りほどこうとするが、なかなか外れない。そのうち足を掛けられ倒されてしまった。

丸山が覆い被さろうとする瞬間、その首根っこを押さえて村上の解説が始まる。

「手首を捕まれたら。その時はできるだけ早く手のひらを思い切り開き、相手がつかんでいる手の親指側へ思い切りひねる。手を開くのは手首を少しでも太くするためだ。そして、親指側にひねるのは4本より、1本の弱い親指を狙うからだ。外れたら一目散で逃げる。やってみよう。」

さきほど由美子をうまく仕留めた丸山は半信半疑だったが、もう一度由美子の手首をつかんだ。するとその瞬間、くるりと反転して由美子の手は丸山の手をスルリと抜け、自由になった。丸山もなぜ外れたか、理解に苦しんでいるようだった。

ピーーーーーー!防犯ブザーが鳴り響く。由美子がブザーのひもを引っ張り、スイッチを入れたのだ。

反射的に逃げようとする丸山。

「よ~し!終了。ブザーは効果的だろ。」

「いやホント。自然に逃げるように足が動いた。」

ブザーにひもを戻す。

「次は羽交い締めにされた時だ。」

「羽交い締めって?」

「後ろから両手を回して押さえる。子どもや女性など成人男性と体格差があると逃げるのはまず無理だ。」

「無理って、意味ないじゃないですか。」

「丸山さん、だから最終手段で、成功率も低い。でもやらないよりはやった方がいい。」

由美子は早くやり方を知りたいようだ。

「どうやるんですか?」

「ひとつは踵で相手の足の甲を思い切り踏みつける。これはワン。女性が履いているハイヒールなんかは最高なんだけど、ズックでも何でもありだ。そして二つ目は自分の後頭部で相手のアゴに頭突きを食らわす。これはツー。このときは瞬間的に息を吸う。相手がひるんで押さえる手がおろそかになった瞬間に腕を振りほどき、逃げる。これがスリーだ。」

「先生、そんなの無理だ。」

「ん、まあ無理だが、確率を少しだけでも上げるために練習するんだ。本気で頭突きしたり、踵で踏むな。手順だけ頭と体にたたき込む。さっきの手首外しも含めてペアで交代しながら、そのタイミングを最低でも30回は繰り返しなさい。振りほどいて逃げるまでワンツースリーで、かかっても2秒以内でできるように。」

なんやかんや、6年生のこの仲間は真面目だ。一生懸命練習している。

「村上ちゃんって、本当に脱線だね。これって絶対体育の教科書には載ってないよね。」

練習しながら、通子が由美子に話しかける。

「まあ、何があるか分からないからね。私はありがたいと思ってる。そう言えばまだ低学年だったころ、『CAP』とかいうのやったよね。」

通子の手が止まる。

「あ~、思い出した。そう言えば両手の法則ってあったよね。それから『タッチアンドゴー』!」

「うんうん。地面にタッチして逃げるやつね。羽交い締めにされそうになった時の。」

「あれ、小さいから出来るけど、今なら完全に捕まっちゃうね。」

「おい、お前ら真面目にやれよ!」

ペアの男子から怒られた。


その日の帰り道。由美子と通子はいつものように途中まで一緒に帰る。

「ねえ、由美子。不審者に襲われたらどうする。」

「今日やったみたいに逃げる方法を考えるかな。」

「私はきっと相手の股間を蹴っ飛ばす!」

「でも大きい相手に対してリーチが短いんじゃない?」

「何、由美子は私の足が短いって言いたいの?」

「もちろん違うわよ。どう考えても大人の男の人だったら大きいから、股間を蹴るには相手の懐に飛び込むしかない。危険だと思うの。」

「でも効果てきめんだと思う。小さい頃、三輪車に乗っていたら、よそ見していたパパの股間に突っ込んじゃったの。その時のパパ、苦痛に顔をゆがめて悶絶してたから。しかもしばらく動けなかった。」

「でも、それはおとうさんが不意を突かれたからでしょ。キックしても、とっさに膝を閉じられるとガードされるから。」

「詳しいね。」

「兄が友達とふざけあっていたときに見たことがある。」

「けっこう『がっとな』遊びしているのね。」

「まあ、男の子って結構ハードね。」

通子はキックのマネをして膝ブロックを確かめている。何回かやってみているうちに結構足が高くあがってスカートがはだけた。

「キャッ!」

スカートを両手で押さえようとした拍子に片足が宙に浮き、もろに背面で飛び上がった。。

「ヤバッ!」

由美子がひっくり返る通子を支えようとしたが、耐えきれず二人とも後ろに倒れ込んでしまった。

「あーびっくりした!」

「もう通子ったら!何やってんのよ。もう!」

「でも、由美子がキャッチしてくれたらからラッキー!」

二人とも尻餅をついたままお互いに顔を見合わせ、吹き出してしまった。先ず由美子が立ち上がり、通子の手を引っ張って立たせた。

「スカートってこういう時たいへんね。私は好きなんだけどなあ。特に今日のフリフリは。」

「まあ、通子って女の子らしいから、スカートが似合うもんね。私、パンツが結構多いからうらやましい。」

「そう言えば結構パンツというかGパン履いていることが多いよね。」

「兄のおさがりだから。パンツはそれほどジェンダーじゃ無いから。シャツ系統はボタンが右左逆なことが多いからあまりお下がりに出来ないけど。」

「あまりって?男物着るのも最近は抵抗ないよ。私もたまに着る。ちょっとワイルドを演出したい時とかね。」

「それ、袖を切り落としたGジャンとか?」

「また~由美子ったら、古いギャグかますぅ・・・。」

「キャップ斜めにかぶって決めたいとき。ちょっと男の子っぽくしたい時もあるじゃん。」


「・・・。でも、女っぽくとか男っぽくとかって何なんだろう?男と女の違いって?」

「また由美子が始まった。保健体育の時間で習ったでしょ。」

「うん。体つきが二次性徴が始まると変わるものね。まあ、赤ちゃんのときからはっきり違っているけど。」

通子がにやにやと由美子にすり寄る。

「ねえ、赤ちゃんのときからはっきり違っているものってな~に?」

「え。」

由美子が急に赤くなるのを楽しむ通子。

「・・あの、ついているかいないか・・・。」

「何が?」

「お、おち・・・。」

「な~に。お兄ちゃんがいたくせに見たことあるでしょ。」

「通子の意地悪!」

「まあ、アレのことね。」

「なに、通子だってはっきり言わないじゃん!卑怯よ。」

「まあ、二人のか弱い小学生女子の会話だから・・・。」

「もう!」

「ところで、男女の違いって?」

「そうそう。あのね、服装とか遊びとか、なりたいものとか、男の子と女の子で結構違うと思うの。」

「確かにそれはあるよね。」

「それって、生まれつきのものなのか、それとも育てられ方からくるものなのかって。小さいときから言われなかった?『女の子らしくしなさい』って。」

「もちろんある。さすがに『男の子らしくしなさい』とは言われなかった。確かに。」

「男の人と女の人にはそれぞれ決定的な違いがあると思うの。」

「おち・・・」

「いや、外見というよりは役割かな。」

「ほう、役割?」

「うん。女の人は赤ちゃんを産むよね。でも男の人は産まない。いや産めない。」

「そりやそうだ。男の人に『子宮』はないからね。」

「それでもし、大昔、赤ちゃんを育てるってところで考えたの。男の人はもちろん赤ちゃんを産めないし、赤ちゃんがいたとしてもおっぱいを与えることは出来ない。いまでこそ、ミルクがあるけどね。結局男の人が出来ることは女の人にも出来ることがほとんどだけど、男の人には出来ないことが女の人には出来るの。」

「うん。それは分かる。で?」

「つまり、どうしても女の人は赤ちゃんを産み、育てるために特化していったように思えるの。それは体つきもそうだし、ものの考え方や行動様式なんかも含めて『進化』していったんじゃないかって。そう、その『役割』を果たすためにね。」

「う~ん。てことは、今言われている男女平等は、その赤ちゃんを産み育てることを切り離した部分では、基本的に男の人も女の人も関係ないってことだけど、その子を産み育てる部分は切り離せなくて、女性は女性としての特別な進化をとげているから、やっぱりそれはそれで尊重すべきで、由美子がいつも言う『マクロ的な見方』をすれば、それは女性の個性であって、いろいろな個性が求められる中では男性に交じって女性が活躍することが大切ってことか。そして、そのことを活かすために産休や育休や男の人の子育てを推奨している・・・てこと?で、結局『らしく』は必要なのか、必要ないのか?」

「通子もそんな複雑な言い回しするのね。ちなみに『マクロ的な見方』という言い方は村上先生の受け売りね。」

「言い回しの複雑さは由美子の影響でしょ。」

「ごめん。それともう一つ。『らしく』っていうのは『一つのスタイル』に過ぎないのじゃ無いかって。」

「?」

「さっき通子がGジャンの話をしたじゃない。アメリカではGジャン着て皮の帽子をかぶり、くさりジャラジャラで、入れ墨しまくり、そして大型のハンドルのビヨーンとなったオートバイに乗って群れている人たちがいるじゃない。」

「あ、ホモとかゲイとか?」

「通子、それ偏見!差別的な発言!関係なく女性もいるでしょ。」

「確かに。私が悪い。前言撤回。」

「あの人たちはあの人達の世界観をきっとファッションやスタイルで表現しているんだと思う。一つの個性の表現というか、あれも個なんだと思う。」

「む、むずかしい・・・。」

「うん、なんて言うか、なおさら分からなくなってきた・・・。」

「私も頭ん中ぐちゃぐちゃ・・・。」

「性差って個性って言われるけど、女性の身体なのに心、つまり脳は男性っている人もいるじゃない。小さい頃、母に連れられてその人の講演に行ったことがあるんだけど、ひげも生やしていたし、言動も、もうそのまんま男の人だった。ただ、中学生のころの写真はセーラー服を着てスカートが似合う普通の女の子だった。でもとっても嫌だったんだって。今はホルモン剤を投与して身体を心に合わせているらしいけど。何が言いたいかって言うとやっぱり男の人の考え方と女の人の考え方があって、それぞれ違うんじゃ無いかって。それで、『らしく』って言われもそれに合う人も会わない人もいるんだろうと思うの。だから一概に『らしく』を強調するのはよくないんじゃないかって。」

「それ、そんなごちゃごちゃ考えなくても普通のことだよ。」

「確かにそうね。あっ、じゃ。」

分かれ道に来たふたりはまた明日と、それぞれの方面に分かれていった。由美子も通子もそれぞれ男や女って何なんだろうととりとめもなく考えながら・・・。


護身術に関しては昔の遠い記憶なので正確かどうかは分かりません。ただ、日頃からシミュレーションしていてもバチは当たらないかな。

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