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第36章 マナティーがいた夏 (前編

全国読書感想文コンクール課題図書高学年の部「マナティーがいた夏」ほるぷ読み物シリーズ セカイの窓  エヴァン・グリフィス 多賀谷正子訳 ほるぷ出版 ISBN978-4-593-10430-7


王道の書でした。いい作品らしい作品でした。ある曲がヘビロテしてやまない通子。少々冷めながらもジョークをぶっこく由美子。ピーターととみー、ファルコンとフォックス。


第36章 マナティーがいた夏 (前編)




由美子と通子、一冊の本を読み終え、静かに閉じた。麦茶のくもったグラスから水滴があとを引きながら滑り落ちてゆく。


「うぅぅ、エガッタァ・・・。」

「どうしたの通子。鼻水すごい。」

感情崩壊かんじょうほうかいしてダム決壊けっかいしないようにしてたら、もっとひどいとこが決壊したぁ。」

「まあ、上も決壊状態だと思うけど、はい、ハンカチ。」

「アンガトゥ・・・ゥ。由美子、私たち中学へ行ってもいっしょだからね。引っ越しもしないでね。」

「まあ、学区は同じだから、同じ中学校だし。それに今、父の工場が隣に完成するからわざわざ引っ越しはしない・・・。むしろ、中等教育学校へ通子っていきそうだから。」


ダム崩壊・・・・。しばらくは濁流にのまれているしかない。


「通子、落ち着いた?」

「う゛ん、なンドか。だって、わざわざ私たちが別れるようなことを言うんだもん、フォックス。」

「私はトミーか?これは完全に入り込んでるね。『マナティーがいた夏』よかったね、ファルコン。」

(※主人公はポール。親友はトミー。それぞれ無線のコールサインでファルコンとフォックスで呼び合うことが多い)

「うぅぅ、エガッタァ・・・。」

「トミーとピーターの友情とそれぞれの成長の物語。」

「あたしの頭ん中、『スタンド・バイ・ミー』がヘビロテしてる!青春!」

「?ガソリンスタンドが私を買う?ふわ?」

「もう、すぐボケる。『私のそばに立つ』ってことよ。つまり『寄り添っててね』・・・気持ちとしては『ずっと一緒だよ。』ってことかな。トミーとピーター、通子と由美子だよ!」

「ほう。さすが通子。英語得意ね。」

「あたし、トミー好き!弱っちぃけどメッチャ頭がよくて、物知りでオタク。お母さんはNASAの科学者!あぁ~憧れるぅ~。何でも確率を持ち出すのはちょっとだけど、可愛いぃぃ!」

「マナティーも可愛いね。最初セイウチやアザラシみたいだとおもっていたけど、ぶた?カバ?目がかわいい。絶滅が心配された種って何かで読んだことがある。このお話に出てくるようにボートのスクリューなんかで傷つけられるだけじゃなく、環境の変化でエサの水中レタスみたいのが減ってるってのもあったと思う。」

「人魚もいなくなっちゃうじゃん。」

「それ、ジュゴンじゃない?」

「へ?マナティーってジュゴンじゃないの?」

「違うんだよ。詳しいことは忘れたけど、確かに両方似てるけど、マナティーは主に川にすむけど、ジュゴンは海洋性だよ。つまり海にいるの。確か、姿もちょっと違ってたような。ネットで調べるね。」

(パチ。キュィ~ン、カリカリ。カチカチ。カチャカチャ。再びカチャカチャ。カチカチ)

「あ、ホントだぁ。顔もちょっと違うけど、尾びれが違う。ジュゴンはイルカみたいだけど、マナティーはビーバーテイル(しゃもじ型)なんだ。スイミングのスピード競技のデモでこんなデカい足ヒレつけて泳いでいるのを見たことがある!・・・性格は極めて大人しく、人懐っこい。『優しい巨人』と呼ばれることもある。・・・どちらも絶滅危惧種なんだ。この作品の大きなテーマだね。」

「そう。環境保護はこの作品の主題だし、二人が作っていた『生き物発見ノート』に関しても生物多様性の重要さを暗に示していると思う。(後にトミーが生物は少なく見積もっても870万種類くらいいると言っているし。)また、ハリケーンなんてもそうだよね。絶滅する種は増え続けている。またハリケーンなんかの災害も年々ひどくなっているし。」「日本でもそうだよ。何、この暑さ!猛暑日が何週間も連続だなんて!そして、乾燥して田んぼが干上がる地域もあれば、雨が降ったら降ったで、たった1日で1ヶ月分の雨が降るなんて。あっという間に町中が川や湖状態!災害が起きている。」

「ふくろうの一種の死んでしまう原因が交通事故だなんてニュースもあった。シマフクロウなんか絶滅危惧種だし。」

「空飛ぶ動物が?」

「雨の日なんか大好物のカエルが道路に飛び出してくるんだけど、それをねらったフクロウが自動車にはねられる。もっともカエルも近頃見なくなったよね。」

「(カエルが苦手な)わたしゃ、助かるけど。そう言われてみればそうだ。感想文を書くんだったら、環境問題をテーマにすればいくらでも書けるし、書かなきゃいけない!私も『活動家』の一人として・・・」

「あれ?通子、いつから活動家に?5年生のときのちょっと斜に構えていた通子とは真逆だよね。」

「女の子はね、いつかはさなぎから蝶になるの。」

「さなぎの前はイモムシだけどね。」

「あのねぇ由美子!」

「(笑)おこった顔の通子もかわいい!」

「負けた。・・・あと、テーマとしてはどんなものがあるかな。」

「『勇気』なんてのもあるよね。ポールのお母さん、いじわるなレイリーさんに立ち向かったし、トミーも落ちたらバクテリアで死んじゃうとか言ってた川に入ってマナティーとたわむれるし。マナティー保護団体のキャシディーもそう。勇気は出そうと思ってだせるものじゃない。だれかを助けようとしたり、何かを守ろうして自分が変わる。また、とっても素敵なものに対した時にもそうかな。そんな時に出てくるみたいに表現されていた。」

「勇気か。レイリーさんもそうかな。傲慢ごうまんで意地悪。自分中心で可愛そうな人。でも、ピーターの関わり方で変わっていきそうだね。この関わり方についてもとても大事。ピーターは最初敵対していたけど、『最初に会う人のように』接するって言ってた。それがレイリーさんを変えたような気がする。人に対する先入観って人間関係をうまく保てない。人間関係をうまく保とうとしてその人のイメージをつくるはずなんだけどなあ。」

「家族関係も。私の両親ってケンカしているところ、見たことない。全くケンカしないなんて事はあり得ないと思うけど、私と兄の前では絶対見せなかったと思う。まあ、基本的にとても仲がいいから。」

「うちも基本的には仲がいい。まあ、やるときは徹底的にやるみたいだけど。地震でもないのに結構な数の割れたお皿、二人で片付けているのを見たことがある。(笑)でも、ピーターの家もレイリーさんところも離婚してるじゃない。主題として大きく外れると思うけど、けっこう見られる問題だし、日本でも増えたんじゃない。」

「日本でも離婚は増えているよね。離婚とは別にシングルマザーと言われる人たちも。」

「春に村上ちゃんと『不倫』の話で生物学的には決してめずらしいことではないって話になったじゃん。で、結婚って永遠の愛を誓うのはもうその人の生き方の問題だ、みたいになったけど、離婚も女性の人権を尊重してきたアメリカとかじゃもう市民権を得ているってことね。」

「まあ、主題とはちょっと外れるかな。・・・話は変わるけど、この本ってシリーズなの。『ほるぷ読み物シリーズ セカイの窓』てあるでしょ。この作品の舞台はアメリカのフロリダ州。世界がのぞける。日本とは違うけど、それもよかった。でセカイって片仮名で書いてあるでしょ。単純に国が集まった世界じゃなくて、恐竜のセカイとか、心理学のセカイとか、ショベルカーのセカイとか多彩なジャンルのセカイを見せてくれる。」

「え?そんな本あるの?」

「ない。ネットでは『ラスト・チェリー・ブロッサム わたしのヒロシマ』、『かわいい子ランキング』、『星をつかんでポケットへ』」、『ランドリーの迷子たち』なんてのが紹介されている。」

「またあ。ショベルカーはないのね。」

「いろいろなセカイがあるって意味。」

「にしても『スタンド・バイ・ミー』がまだヘビロテしてる。このお話も『冒険』なんだよね。映画のスタンド・バイ・ミーも名作だったけど、この作品も映像化したらきっとじわっとくる。」

「ごめん。通子みたいに映画観てないから、その作品は分からない。でも、音楽はどこかの量販店で流れていたと思う。いい曲よね。"When the night,has come……Just as long as you stand stand by me So darling darling Stand by me,oh stand by me" 広幸さんだったらきっとみんな分かりそう。そして日本語で解説してくれそう」

「ああ、フィアンセね、ごちそうさま。ああ、映画『スタンドバイミードラえもん』も思い出しちゃった!今度は『ひまわりの約束』がヘビロテだ!」頭ん中、曲がこだましてる!で、映画『スタンドバイミードラえもん』結構流行ったけど観なかった?ああ、観なかったのね。この課題図書『マナ夏』も短い夏の日、青春の1ページなんだよなぁ。トミーはドラえもんかな?ってことは由美子もドラえもん?」

「いえ、広幸さんは別にフィアンセじゃない。ちょっと魅力的で興味ある変態的でオタクな正義感あふれる空手の先輩ってとこかな。まあ、それはいいとして。」

「良くない。しかし、よく並べたね。(怒)この作品は絶対スタンドバイミー!なんだって!」

「でね、私はおじいちゃんとピーターが気になったの。」

「お構いなしか!せっかくいい気分に浸っているのに。まあ、アルツ・ハイマーね。認知症の原因の一種!。」

「それももちろんある。そしてヤングケアラー問題もだよ。さらに認知症に対する偏見。」

「冷静沈着、神社仏閣。由美子らしいと言えば由美子らしい。はいはい、で?」

「まず認知症ね。」

「ん。青春ね。(話題はゆずらん!)スタンド・バイ・ミーのセカイよ!冒険と秘密。そして友情!ひと夏の青春といったら。これよ!由美子はなんかありそう?もうあった?」

「友情と言えば通子とこうしている。昨年はなかったから。他は特にないかな。冒険と秘密・・・あっそうだ。広幸さんとチューしたことかな。」

「(ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!:口に含んだ麦茶を思いっきり吐き出す)」

「うそ。それにしても派手に噴水したね。ギネス記録かな。」

通子はまだぴくぴくしながらコップを握りしめている。腕で口を拭いてから。

「ねえ由美子。あなたそういう冗談言うのマジやめて。あなたの言うこと絶対冗談に聞こえないから・・・。あーびっくりした。マジ肺の中麦茶で満たして溺死できしするとこだった。」

「だって、さっき通子が広幸さんのことフィアンセってからかうんだもの。お・か・え・し!」

「あー、なんかこの話題、いっきに冷めたわ。別の話題にしよ。」


全国読書感想文コンクール課題図書高学年の部「マナティーがいた夏」ほるぷ読み物シリーズ セカイの窓  エヴァン・グリフィス 多賀谷正子訳 ほるぷ出版 ISBN978-4-593-10430-7


もしかしたら、mugi_LEOもこんな二人を描きたかったのかなって思わせる作品でした。

正直言うと期待はしていなかった作品です。でも、訳者の多賀谷さん、解説によるとノンフィクションとか実用書の翻訳が多いのだとか。恐れ入谷の鬼子母神!逆にノンフィクション的な雰囲気が合っていたのかな。


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