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第35章 森に帰らなかったカラス・・・(後編)

「森に帰らなかったカラス」ジーン・ウィリス著 山﨑美紀訳 徳間書店

(ISBN978-4-19-865894-6)

ちょっとだらだらとして始まったのは先入観があったからかもしれません。この作品は自然愛護・・・的な。いや、後半になって嫌戦・・・とも思いましたが、違和感が。由美子と通子はどう解決したのでしょうか。


第35章 森に帰らなかったカラス・・・(後編)




「そう。この作品は『空を飛ぶことへのリスペクト』だと思うの。」

「そりゃまた、大胆な。」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「でも、ほら。Googleで『「森に帰らなかったカラス」原題』って検索すると・・・ついでにこんな項目も後に続いている。」

-------------------

森に帰らなかったカラスのテーマは?

<AI による概要>

『森に帰らなかったカラス』の主なテーマは、**「命の大切さ」「家族の絆」「戦争の傷と平和への願い」**です。ケガをしたカラスのヒナを助けた少年とカラスとの触れ合いを通じて、動物との別れや喪失を通して命の重みを感じ、戦争で心の傷を負った父親の姿から平和の尊さを考えさせられる物語です。(※まま引用)

-------------------

「由美子、これじゃないってこと?」

「もちろん、その文に間違いはないと思う。でも・・・」

「ほう、『でも』か。」

「うん。私もそうじゃなかったら気付かなかったと思う。これ、私の兄がヒコーキオタクで、しかも自衛隊。村上先生も昨年、戦争や軍隊についていろいろ教えていただいた・・・そうでなければこんなことは思わなかった。」

「こんなことって?」

「さっき思いついたので、きちんと言葉に整理できていないけど、この作品の原題をみて確信したの。」

「JACKOが?ニシコクマルガラスのジャックだよね。」

「そう。この作品は『空を飛ぶことへのリスペクト』だと思うの。」

「そりゃまた、大胆な。」


「ん~、でも確かP75に・・・『ジャックがバッファロー・ルームで飛行練習を始める日。ミックは考えていた。

空を飛ぶってどんな感じかな、とミックは想像してみた。飛行機に乗ったことはないけれど、すばらしい自由を味わえるって、父さんがいっていた。』って書いてあるでしょ!

「・・・P75だよね。ああ、ほんとだ。」

「確かにこの作品では戦争を否定していることは間違いない。でも爆撃機やそれで飛んでいた人たちを否定してるんじゃない。リスペクトしているんだよ。この感覚の違いは日本とイギリスでは天と地ほども違うんだと思う。だから、その点を理解せず、日本的な見方でこの作品を見ていては絶対にそこは達することはできない。私たちも最初に『外国との文化の違いも描かれていてこれも興味深いよね』なんて話してたじゃない。」

「なるほど。軍人といっても日本ではチョー悪役だし、イギリスでは英雄のスタンスか。」

「ジャックも最初は飛ぶことが出来ず、ミックたちに支えられながら飛行訓練を続けたんだよね。まるで新人パイロットでしょ。・・・新人パイロットで亡くなった人の詩が出てきたじゃない。そのときは『なんで?』って違和感があったけど、こう考えていくとしっくりこない?」

「そう言われるとなんとなく見えてきた気もしないでもない。」

「二重否定は肯定ねっ。で、確かに飛べるようになったジャックは森へは帰らなかった。野生のニシコクマルガラスの群れからは仲間に入れてもらえなかったのかもしれないけど、ジャックはミックから教えてもらった『飛ぶ』ということが本当に好きだったのかもしれない。他のカラスが意識せずに自然に行っていたことがジャックにはきっと特別だったんだよ。それで駅にいて列車といっしょに飛んでいたんだと思う。飛ぶことはジャックの喜びなんだよ。生きがいなんだよ。兄も言ってた。アクロバット飛行はもちろんだけど、編隊飛行がとても重要なんだって。そう言えばブルーインパルス(※航空自衛隊のアクロバット飛行チーム)も演技のほとんどは編隊飛行だもの。ジャックも列車と編隊飛行する快感を得ていたんだと思う。」

「由美子、語るねぇ。」

「違和感はね、まだある。みんなの人気者のジャックが列車に衝突して事故死してしまった時、テディントン駅の駅長のサンプソンさんが大事にしていた英国国旗でジャックをくくるむの。人気者とはいえ、ただのカラスにそこまでするかなって。名誉の戦死を遂げた兵隊さんのとむらい方・・・(P244)」

「分かる。最近では『トップガン マーベリック』で提督になったアイスマンが亡くなった時に確か国旗でくるまれていたんじゃない?」

「そうだね。兄が借りたブルーレイで見た。棺がくるまれていて、旗が外されるとマーベリックが航空記章を棺に打ち込むんだったよね。墓地上空をF-18の編隊がミッシングフォーメーションで通過する・・・」

「ミッシングフォーメーション?」

「亡くなったパイロットをいたみ、フィンガー・フォーという4機編隊から3番機が上昇して消える儀礼ぎれいなの。兄が映画を観ながら言ってた。」

「映画のあれね。」

「まあ、それはそれとして。私の違和感はP251のサンプソンさんの弔辞ちょうじのところ。『カナダ空軍のパイロットで、イギリスでの訓練中に19歳で亡くなったジョン・ギレスピー・マギー・ジュニアが残した詩だ。英国空軍が公式にパイロットをたたえる詩としてさだめている。亡くなった私の弟の写真の裏にずっとはさんであったんだが、これ以上にしっくりとくる文章は浮かばないよ』飛ぶことに至上の喜びを感じ、亡くなってしまったジャックに送る詩なんだけど、話のエピローグに至る一番の山場でその詩が出てくるんだよね。ジャックは誇るべきパイロットだったんだよ。そして、その死は英雄として見送られる・・・。兄もこの本を読んだらきっとそう言うと思う。戦争で亡くなった勇敢な(たとえ捕虜となったとしても)パイロットたちをジャックに重ねたんだと思う。」

「エピローグって、死んじゃったジャックの生まれ変わりの『ジェット』が新しくひなとして拾われてくるんだよね。」

「パイロットも英雄もそこでおわりじゃない、これからも続くんだって。P277にその詩が全部朗読されている。お父さんの経験も含めて、これは単なる反戦がテーマではない。ジャックを通してミックが成長していくことやお父さんの戦争の傷が癒やされていくことも含めて、主題でもあるんだけどAIの回答のようじゃ、うすっぺらだと思う。兄のようなヒコーキオタクや空を愛する者が読んだら、違ってくると思う。訳者はあまり飛行機や空については詳しくもないし、好きでもないんじゃないかと思う。原題のようにJACKO、つまり飛ぶことをこよなく愛したジャックがまぎれもないテーマなんだと思う。それを通してパイロットみんな(※勇敢に戦った他の軍人さんを含めて)をリスペクトした物語なんだと思う。さっき言ったようにね。」

「じゃあ、国語の時間でよくやる題名の解釈はどうなるの?『森に帰らなかったカラス』って何を意味してるのかな?そのまんま、『ジャック』でよかったんじゃ?」

「そう、通子の言うとおり。なんで『森に帰らなかったカラス』という題名にしたんだろう?『森』は何かの象徴なのかな?『カラス』はジャックのことだから、『帰らなかった』っていうのはジャックの意思だよね。その意思はどこからきたものだんだろう?そう考えると私たちが考えているって事はやっぱりあさはかなのかな?」

「私だったら『小さなパイロットJACKO』とか『飛べなかったJACKO 列車を護衛して飛ぶ』とかにしそう。ミックが出てこない。原題も訳題もだけど。」


「なんかヒコーキオタクで(私は違うけど)、戦争に対する国毎の感覚の違いがあるってことをおぼろげながらに知っていると、この作品にこめられた主題が違って見えるってことかな。」

「わたしゃぁヒコーキも戦争もよー分からんけど、由美子の話を聞いていたら、そっちがしっくりきた。訳すってその本を書くくらいに深く読み込まないと・・・つまりそのジャンルに詳しくないと・・・いけないんだね。翻訳機ほんやくきみたいなわけにはいかん。ん。」

「"T love you."が『とても月がきれいですね』の世界ね。」




翌日、二人が「森に帰らなかったカラス」の読書について村上に報告した。


「ほう、なるほど。訳者なりが物語の背景とか、オタク的な知識とかを作品に対してもち合わせていない・・・もちろん、児童文学の方は十分なご経験がおありなんだろうけど、植物学者が宇宙に関する本を訳したみたいな・・・そういう違和感を感じたってことなんだな。まあ、いっかいのガキどもが専門家を批評するなんて。・・・まあ、それもありなんだけどな。ただ、失礼なことは失礼だと思うし、それによって相手はダメだと思ったり、自分たちはすごいんだなんて思ったりするのはあっちゃならない。お前たちが言ってたリスペクト・・・忘れないで欲しい。本一冊訳すって並大抵のことじゃないんだから。お前たちはそこら辺をまったく分かっちゃいないから・・・。(でも、こいつら、いつもながらユニークな視点で物事を見ることが出来るんだな。正解うんぬんじゃなく・・・)」


私はプロの物書きじゃないです、ましてや翻訳なんてとてもとてもです。でも、読者の皆さんもおわかりの通り、私はどうもヒコーキオタクに近いらしい。しかも、軍事オタク的な面もあるのかな?戦勝国と敗戦国という単純な分け方はよくない。でも、日本って世界でも独特の軍事文化というか、なにかがあるんですよね。それをちょっとまくり上げて世界的な視野で眺めることで(それは身についたもので、今回特別というわけじゃない)ジャックをはじめとする登場人物の評価につながりました。

村上先生の言うとおり、訳者や書籍化の担当者をどうのこうの言うつもりはもうとうありません。由美子や通子だったら・・・があくまで前提です。むしろ、一冊の本を訳し、世に出すまでのご苦労は計り知れず。敬意を払うばかりです。


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