第34章 森に帰らなかったカラス・・・(前編)
森に帰らなかったカラス」ジーン・ウィリス著 山﨑美紀訳 徳間書店
(ISBN978-4-19-865894-6)やっと借りて読むことが出来ました。由美子と通子も二人で読んでいきますが、外国の文化の違い等にちょっと戸惑います。違和感を感じながら読み進めるのですが、その違和感は・・・。
第34章 森に帰らなかったカラス・・・(前編)
夏休み。相談室のエアコンが効いている。由美子と通子が一冊の本をふたりで抱えて読んでいる。冷たい麦茶のコップはすでに空だ。
「38ページ。ミックとジャック(ニシコクマルガラス)の出会いだ。ヘビを放しに行った時、やぶの中でびしょぬれでふるえていたひな。いわゆる悪ガキである親友のケンに誘われ、カモの密猟をしたつぐないだ。いや、つぐないとかじゃなくてってやっぱりミックは動物が好きなんだ。それが一番の理由。ミックはひなを助けようとする。」
「私も『つぐない』は言い訳の心だと思う。」
「ねえ、由美子。あんたも動物って飼ったことある?」
「残念ながら。飼いたいと思ったことはあるけど、犬や猫はお金がかかるし、インコなんかの小鳥だってあまり面倒をみてやれないだろうから、結局何も飼ってない。」
「家も飼ってそうにみえるでしょ。両親はホントは動物好きみたいで、ママなんかプードルとか抱いてたら似合いそうなんだけど、動物アレルギーだからダメなの。その話を聞いたとき、弟なんかメッチャ落ち込んでた。ちっこいヤツってけっこう動物好き多いよね。今でも男子の中でカブトムシ推しのやついるよね。」
「うふっ。そう、水槽の中をまるで森の中のような環境に仕立てて、生きてるジオラマ、作っているみたい。」
「でもさ、このミックってオタクだよね。何この学名!ブフォブフォって。ふつう学名まで覚えないよね。」
「ヨーロッパヒキガエルね。すごく詳しい。でも、ミックのご両親ってとても理解があるのね。ひなが治るまで家で飼うことを認めるなんて。お父さんもきっと好きなんだ。殺菌作用があるからって一番上等なハチミツを使うなんて。お母さんににらまれてる。でもお母さんも許容している。」
み「でも、ママ厳しいよ。『分かったわよ。きっちり6週間ね。一日たりとも延ばさないから。ミック、子犬みたいな目ですがるように母さんを見るのはやめなさい。母さんは本気で言ってるの。ジャックが元気になったら自然に帰すこと。』って。保健室の江崎先生みたいね。ぴしゃりと言ってる。」
「でもお父さんは乗り気じゃなぁい?。ジャックが糞でハーベイさん(ドーラ:使用人の妻でパブの掃除をしている)を怒らせてしまったので、鳥小屋まで作ってやることになるんだから。」
「この本の主題、テーマって何なんだろう?本の中でも出てきたけど、ジャックを自然に帰すってことでお母さんは約束させるんだけど、人が食べる物を与えたり、また小屋を作ったりして、題名は『森に帰らなかったカラス』でしょ。人間と自然の関わりを描こうとした作品かなって思ったんだけど。でも、ジャックの最初の飛行訓練の時にパブの2階でお父さんの秘密を見つけるじゃない。お父さんは戦争の時爆撃機に乗っていて撃墜されドイツの捕虜になった・・・、グレン・ミラー(有名な音楽家)も慰問中に撃墜されたって。戦争の話もところどころに出てくる・・・。反戦を描いた作品なのかなっていう気もしてきた。」
「由美子だって、教科書の作品じゃなくて長編なんだから様々なテーマが描かれているって言ってたじゃん。関心のあるテーマで考えていいんじゃない?」
「それはそうなんだけど。メインの主題はあるはず。」
「外国との文化の違いも描かれていてこれも興味深いよね。悪ガキも陰湿ではないものの半端ない。密猟なんてアッブない!それにパブってイギリス風の飲み屋さんだよね。それって日本の童話では舞台になりっこないし、その雰囲気も独特だよね。」
「あくまで個人の感想だから、村上先生が少々こだわってるコンクールでもなければ、パブで徹底的に感想を述べてもいいと思う。まあ、入賞を目指してやってるのも事実だから相手の意向もくまないとはいけないと思うけど。」
「ほう。由美子もふくよかになったね。」
「いや、それを言うなら『まるく』でしょ。」
「いや、まるくはなってない。出るところが出てきた。」
「やがて飛べるようになったジャックは家を出て過ごすことが多くなるんだよね。飛行訓練場の『バッファロー・ルーム』は出禁になるし、外に出たジャックは自由奔放だけとミックのところは忘れないんだよね。そうかと思えば駅でたむろするんだけど、ジャックって列車と競争する・・・それが人々の名物になるんだよね。その列車といっしょに飛ぶ様子が、爆撃機を護衛する戦闘機のよう。それが駅に入ってジャックが見えなくなると何かぶつかって死んじゃったんじゃないかって大騒ぎすることもあった。また、あげくの果てはジャックが列車に飛び込み、そのまま旅をしちゃっとき。」
「・・・。」
「それも奇跡的に見つかって、迎えに行ったジャックとミックの父も新聞に載ったり、有名になるんだよね。」
「・・・。」
「ミックがパパの秘密を知りたくて、バッファロー・ルームの箱を空けるんだけど、そこにあったキャタピラー・クラブのバッチをジャックが取っていってしまう。それがきっかけでさらになぞは深まる。キャタピラー・クラブって敵に打ち落とされた飛行機からパラシュートで脱出し生還した者のバッチなんだ。パラシュートの材料は絹糸だったからそれを吐き出す芋虫に敬意を表してバッチが作られたんだ。つまり、ミックのパパも打ち落とされ捕虜になってこと?ミックにとってはパパは撃ち落とされ、敵の捕虜になってしまったなんて英雄だと思っていたパパが突然、英雄と思えなくなったんだろうね。」
「・・・。」
「おい、由実子?・・・」
---P86のことだ。『本当のことを知るまでは、ミックはこんなふうに想像して胸を躍らせていた。飛行軍曹のビル・カーマン(ミックの父)が乗った爆撃機は、撃墜されて海に落ちたが、爆弾が降りそそぐなかをカーマン軍曹は果敢に泳ぎ、乗員全員を助けて、みごとに生還した。
そんな輝かしい武勇伝を想像していたけれど、そのきらめきはいま、古いブリキの兵隊に塗ってあるエナメルのように、ぼろぼろと剥れてしまった。父さんは無敵じゃなかった。英雄でもない。ケン(ミックの悪友)はミックの夢を打ちくだき、ミックはそのせいでケンに怒りを感じていた。』と書かれていた---
「・・・あ、でも軍に対する感覚ってやっぱりイギリスと日本では違う。軍人って英雄なんだと思う。日本だと今だから認知度とか好感度はあがってるけど。東日本大震災での活躍が大きかった。災害派遣でさえも昔はハードル、いや大きな壁。同じ地震でも神戸・淡路大震災ではなかなか災害派遣要請が出なかったし、事故では日航機が御巣鷹山に墜落したときも初動が出来きず歯がゆく思っていた。その後の救出活動も批判ばかりされていたらしいし。前の戦争が残した傷跡は薄くはなったけど、消えてない。また、ある意味消えちゃいけない面もあるけど。」
「日本の前の人たちって『国体の護持』って訳の分かんない理由で戦っていたみたいだけど、それで自国民にまで銃を向けるってのがあったんでしょ。自衛隊って『国民の生命財産』を守るってのが使命でしょ。だからそんなことないでしょって言いたいんだけど。肝心のチビリ、アン-コトロール?(それお漏らしじゃん)
「シビリアンコントールの事ね。つまり政治家が軍隊を動かす。」
「そう、それ!でもさ、今の政治というかどの政党も、こんな小さなガキでもわかるけど、私たちの方を向いてないよね。自分の党が前に出ることばっかり。こんな人たちはきっと私たちに銃を向けるように仕向けるよね。」
「めずらしい。通子が政治を例に出すなんて。」
「ほめてるようでディスってるでしょ。」
なんかどんどんと由美子の頭の中では膨らむ思いがあってちょっと通子の話は上の空・・・になっていったかもしれない。いわゆる自分の世界に入ってしまうってやつ。
兄だったらこの物語をどう読むのかな。自衛隊って自国の守りに特化した軍隊でしょ(最近はちょっと違ってきたけど-->外国にも出かけていって平和を守る仕事も担う---) 戦後80年も銃火を交えたことのない軍隊。先の戦争の亡霊を引きずりながら構成された軍隊。ずっと悪者扱いで、日の目を見ず、ずっと耐え忍んできた軍隊。でも、なんかのインタビューで聞いたことがある。どんなに虐げられようとそれが誇りなんだと。税金ドロボーと罵られてもそれが正しき姿なんだと。活躍しないということを是とする。(まるで空手みたい?!)兄って大丈夫かな?血の気が多いから罵られたときにそれを自己研鑽の糧とできるか不安。特に相手がいい加減なヤツだったら・・・。でもまあ、空さえ飛んでいられれば大丈夫か。でも、航空自衛隊と言ってもパイロットなんてほんの一握りで、レーダ部隊や地対空ミサイル部隊もある。整備をする人たちもいれば、気象予報や管制の仕事もある。もちろん、お金を勘定する仕事もある。兄はそういうところバカだから大丈夫かな。みんな空が好きで誇りをもって支え合ってる人たちだもの。
「ゆみ~、おゆみ~、生きてる~?」
通子が目の前で手を振ってる。またやっちゃった。
「ねえ由美子。さっきミックの父親の秘密のこと、『ミックにとってはパパは撃ち落とされ、敵の捕虜になってしまったなんて英雄だと思っていたパパが突然、英雄と思えなくなったんだろうね』って二人で話してたじゃない。でも、結局最後にパパが経験したこと、P259~P265ね、この話を聞いてミックも変わるんだけど、その話をミックから聞いたケンもP287でこんなこと言ってる。『おれが、あの箱を見つけるまではさ、おまえは自分の父さんを英雄だと思ってたよな?日記を読んでわかっただろう?英雄なんてもんじゃない。とんでもない超人だ。』これ、ケンが親友なわけが分かる。英雄どころかそれをはるかに超える超人だって言ってるんだから。でも、カモの密猟に行ったとき、パパの乗った爆撃機が打ち落とされたって最初にケンがミックに言ったんだけど、ケンはそれなりに捕虜になってミックのパパが生死の境の中を生き抜いた人だっておぼろげながら(誰も言わないけど)噂できっと知ってたんだよね。」
だんだん通子の顔が点になりつつぼやけていく・・・。
---打ち落とされた機体から脱出するって想像がつかない。スカイダイビングとはわけが違う。くるくる回る機体でパラシュートをつけ、あちこちに身体をぶつけながら出口まで向かう。安全バーのないジェットコースターの上でやってることを想像してみれば、ちょっとはイメージつかめるかも。燃えさかる熱で弱くなった骨組みはやがて力に耐えきれず、バラバラとなる。その前に脱出できるかどうか。また、脱出した後が大問題だ。飛び出したその先には巨大な尾翼がある。ぶつかれば身体は真っ二つになってもおかしくない。パラシュートも開いてくれるかどうか。開いたとしても機体と一緒に落ちてくる火の粉がパラシュートを焦がせば地上に真っ逆さまだ。落ちたところが草原ならまだよい。鋭い針葉樹が無数の杭のように待ち構えている。木に引っかかったとしても地上10mともなれば降りることも出来ない。また、湖や川などに落ちればパラシュートが絡まり沈んでしまうこともある。身動き出来ない。
それらの経験を踏まえて射出座席なども開発されたが、万能ではない。キャノピーの問題だってある。脱出の際、それにぶつかって命を落とすシーンは映画「トップガン」で有名だ。最近はキャノピーに火薬のパイプが仕込んであり、射出直前にキャノピーにひびを入れ、座席毎キャノピーをぶち破って出て行く方式も出てきた。ただ、音速に近い中で空中に放り出せれれば空気がコンクリートのようにのしかかってくる。また、ロケットモーターは飛び出しGが調整してあるとはいえ、背骨を数センチおし縮める強烈なGがかかる。死ぬよりはましということか。そもそも機体を捨てて脱出なんて実はそうとうラッキーなシチュエーションだ。地上にいる人や物をさけて最後まで脱出の機会を探すがかなわず、機体とともに殉職という例も少なくない。それこそあっという間のトラブルで、脱出さえ考えられない場合だって多い。いやそもそも物語の爆撃機の機長は部下の乗員を脱出させるため、機体を安定させるのに必死で、脱出どころではない・・・。
ミックは当然知ってないだろうし、今でも知っている人はほとんどいないだろう。『生還』というのは奇跡に近いことなのだ---
「・・・」
「由美子、どうした?」
「・・・・・・・」
「ゆ、どったの?」
「・・・・・・・・・」
「ゆ・み・・・」
「ねえ!!」
「おわっ!びっくりしたぁ!いきなり大声ださないでよ!あー、心臓三秒くらい止まったわ。」
「ねぇ通子、これやっぱり主題が違うような気がする。」
「少なくとも『環境問題』ではなかったね。でも、命とか平和、まぁ戦争は人々を傷つけるからやめましょう的な。う~ん、ミック(とジャック)を見守る家族とそのまわりの大人たちの愛情とかも。それで、有名な飼育員になるんだよね。戦争反対?家族愛?」
「ねえねえ、通子。この作品の原題ってなんだっけ。」
「あら~、ここ相談室だからパソコンがない!ちっと待った。村上ちゃんから学校用のタブレット借りて来よう。今日は先生方みんなで研修だって言ってたけど、要は勉強会だよね。先生になっても勉強、勉強って大変だわ。小林さんに断れば大丈夫だよね。ついで麦茶、おかわりもらってこよ。」
ふたりは教務室に行くと小林さんに訳を話し、タブレットを借りた。相談室にもWi-fiの電波は届いているはずだ。ついでにコップになみなみと麦茶をいただいた。
相談室に戻ると早速検索してみる。
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『森に帰らなかったカラス』の原題は「JACKO」
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「やっぱり・・・。」
「何がやっぱりって?」
「ねぇ通子。この作品をずっと読んできてなんか違和感を感じなかった?」
「まあ、それほどには。外国の作品だからね。違和感があって当然なのかと。こんなものかなって。まあ、ジャックならJACKでOはつかない。ジャッコじゃ違和感あったかも。」
「うふ。そう。たしかにね。この作品は外国の作品でしょ。原書で読むわけじゃないから実はもう一人作者が介在するの。」
「訳者ね。『役者』じゃないわな。」
「そう。認知心理学じゃないけど、見たものをそのまま認識している訳じゃなくってそこに脳が介在し、解釈を加えた上で認識する・・・それと同じよ。」
「ん。ますます話を難しくてわかんなくなったって事が分かった。」
「つまりね。原作と私たちの間に入る訳者の解釈によってその作品はどうにでも変わるって事。言いたいのはこの『JACKO』を訳された方は戦争や飛行機、そしてパイロットにあまり詳しくなかったんじゃないかってこと。そして、きっとこの作者に訳を依頼した方もそこら辺には詳しくなくて、しかもこの原作の『JACKO』に目を通していないかもってことも想像できる。」
「出た~!久しぶりに出た~!作者批判!今回は訳者批判に加えて出版社の担当者批判まで~!」
「批判なんてするつもりはないよ、通子。通子も人を批判して喜ぶタイプだった?」
「ごめん。大造じいさん事件(前作 ~悪魔に魂を売った人々編~参照)以来のヤバサだったから。(また大騒ぎになるぞ、こりゃって思ったから)」
「もう。わたしは私なりに違うと思ったから。正解は一つじゃない世界でしょ。それが好きで読書してるつもり。」
「でも、ほら。Googleで『「森に帰らなかったカラス」原題』って検索すると・・・ついでにこんな項目も後に続いている。」
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森に帰らなかったカラスのテーマは?
<AI による概要>
『森に帰らなかったカラス』の主なテーマは、**「命の大切さ」「家族の絆」「戦争の傷と平和への願い」**です。ケガをしたカラスのヒナを助けた少年とカラスとの触れ合いを通じて、動物との別れや喪失を通して命の重みを感じ、戦争で心の傷を負った父親の姿から平和の尊さを考えさせられる物語です。(※まま引用)
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「由美子、これじゃないってこと?」
「もちろん、その文に間違いはないと思う。でも・・・」
「ほう、『でも』か。」
「うん。私もそうじゃなかったら気付かなかったと思う。これ、私の兄がヒコーキオタクで、しかも自衛隊。村上先生も昨年、戦争や軍隊についていろいろ教えていただいた・・・そうでなければこんなことは思わなかった。」
「こんなことって?」
「さっき思いついたので、きちんと言葉に整理できていないけど、この作品の原題をみて確信したの。」
「JACKOが?ニシコクマルガラスのジャックだよね。」
「そう。この作品は・・・・・・・・・」
~ 後編へ続く ~
最初この本はなんかだらだらとしていて読んでいてもなんとなく退屈な感じがしたのですが、後半になってやっとそうじゃなかったんだって展開になってきます。でも、この違和感の正体は。後編はほぼ出来ています。間髪入れずに公開していきたいと思います。よろしくお願いいたします。
ちなみに生成AIってそれなりに答えてくれますが、基本は”検索”です。こんなもんですよ。少なくともクリエイティブじゃない。これを使って書いた「読書感想文」はそこそこ優秀かもしれないけど、殻は破れないって気がしています。2030年頃のシンギュラリティくらいまではまだ人間は大丈夫そう。




