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第29章 わたしは食べるのが下手(8) ~エピローグ・不完全でよくね?~

「わたしは食べるのが下手」(天川栄人著 小峰書店)いよいよ終わってしますます。

とってもよい時間を過ごすことが出来ました。感謝です。


今回のもうひとつのキーワードは「給食のうずらの卵」です。

第29章 わたしは食べるのが下手(8) ~エピローグ・不完全でよくね?~




翌日の昼休み、図書室の由美子と通子。いよいよ最後だ。「わたしは食べるのが下手」(天川栄人著 小峰書店)・・・ちょっと背伸びしたけど、6年生なら十分に読みこなせる本だ。ただし、小学生の世界よりは大人の生き方に近いと思う。

「いよいよ終わりだよね。いつも思うけど、読みたいような読みたくないような、最後に残った一個の餃子を眺める気分みたい。最後まで頬張ってしまうとそれまでの幸せな気持ちが消えてしまうような気分。もうこの味はおしまいなんだって。」

「由美子、あんたの例えっていつも???だよね。まあ、そこが新鮮でいいんだけど。ん。予想がつかないというか、悪気無く裏切られるというか。」

「?通子、何食べてんの?」

「うずらの卵。もったいなくて。」

「え?給食の時からずっと!?中華丼の?」

「まあ、小学生なら普通。」

「口の中でくさっちゃうよ。」

「でも、あんたの餃子みたいなもんよ。いつまでも味わっていたいの。」

(ゆ:大リーガーのひまわりの種以上に舌の扱いが上手なんだ。うずらの卵がずっと口の中で原型を保ってるなんて・・・)



「で、葵も咲子もよかったね。葵は自分の気持ちが伝えられてことをおうちの方に認めてもらえたし、咲子は薄情な父親からママが守ってくれたし。まあ、咲子んとこは離婚になって生活は大変になるんだろうけど、今まで得られなかったものが得られたもんね。糞オヤジのBMWベーエムベーなんか糞食らえだ。きっと発進するときに犬のウンコ踏んでるよ!」

「口の中に卵入れたままでよく○○コなんて言えるね?」

「お金持ちがなんだ!」

「でもうちもポルシェだよ。」

「知ってる。『農道のポルシェ』ね。つまり、軽トラ。」

「正解!昔のサンバー。」

「うちの田舎のジイちゃんはNSXだよ。」

「昔のホンダ・アクティね。」

(み:う~ん、村上ちゃんゆずりの脱線だぁ)

「でもさぁ、咲子ママ頑張ったよね。少なくとも悪い人じゃない。初めてにしろ、ちゃんと咲子を守ったもん。娘に手を挙げるなんて、ホントDVおやじ!」

「でも、そうやってお父さんが家を出て行った後に二人で作って食べたインスタントラーメン、『美味しいね』って言ってる。『美味しいものを美味しく食べる』美味しい食べ物って必ずしもそうじゃなくいいんだけど、美味しく食べるのって必ずそうじゃなければ、美味しくはならない。美味しい食べ物ってのは十分条件じゃない。場合によっては必要条件ですらないのかも。」

「???」

「・・・それにしても、咲子さんのお母さん、とっさにしては重大な決心をしたね。いや、もしかしたら、ずっとそう思ってきていて、咲子さんがぶたれたことをきっかけにストンと決心がついたのかも。いや、母親としての本能的な決断だったのかもしれない。」

「きっと両方だよ。『あたし、ママのことバカな人だなって思ってたけど。この人はこの人なりに戦ってんだな。当たり前だけど。』これ、前者の考えの根拠。咲子がぶたれた時に『咲子ちゃんに何するの!ママがとっさに前に立ち(かばった!)叫んだ。ママ、怒ってる。(毅然として)今までたいていのことは私が悪いんだって我慢してきましたけど、咲子ちゃんに手を上げることだけは許しません。』が後者。どう?」

「そうだよね。ふつう、複雑な感情が入り交じるよね。国語のテストに出てくるような単純なもんじゃない(注:そういうテスト問題はありません)」

「で、239ページの最後5行が作者の叫びの代弁だよね。雷同くん(「阿波連さんははかれない」)に言わせれば、『不完全でよくね?』てな感じかな?」

「(まだ、卵入ってる)ん。ここ、私もそうだと思う。天川さん、一言一言で行を変えることが多くてページ数もぐっと増えるんだけど、その演出でこの5行も違和感がない。」「なるほど、確かにひんぱんに改行されている。詩のような書き方なんだけど、-散文的っていうの?-、読みやすい。だらだらと、しかもだぁーとやたら長い文章で埋め尽くされる誰かの作品とは違うわ。」

「うん。読みやすいってとても大事なことなんだよね。最後はふたりの病気は治らないんだけど、その入り口んとこくらいまではきたよね。コッペくんのところの赤ちゃんも無事生まれたし、給食改革プロジェクトは文化祭での発表となるし、葵さんの冷めてたお友だちも理解してくれたし、4人でティーパーティ。」

「ティーパーティの時、ダメ押しね。248ページ!」

「要望書が最後。その前に『ごちそうさま』の一言。締めの言葉としてもっとも適切ね!天川さん素敵!あ~あ、読み終わっちゃったぁ。」


二人して座ったまま大きく両手をあげて伸びをした先にやっぱり、見慣れた顔があった。

「あ、村上先生!いつからいらっしゃったんですか?」

「結構前から。」

「村上ちゃん、それストーカーっぽいよ。いくら我々がいい女だからって、後ろからこっそり忍び寄って二人の間でじっと様子をうかがっているなんて。」

「いや、けっこう、ドカドカ入ってきたけど、お前たちものすごく集中してたから。で、この作品で読書感想文コンクールに応募するわけじゃないよな。ものすごく気に入ってたみたいだけど。これ、中学生の課題図書だし。」

「自由課題なら。それと、対話形式で共同で書くってのはどうかな?って思ったんです。夏休み後の科学研究発表会って共同研究が認められているでしょ。一人でもんもんと悩むより、みんなでワイワイやった方が読みも深くなるし、なんと言っても楽しい!」

「しっかし、それ、読書感想文コンクールの要項には反するんだけど。いつもながらむちゃ言うし。」

「だってその効果や楽しさを昨年教えてくれたのは、先生です。張本人ですよ。」


村上は後頭部に手をやりながら、あれこれ考える。まあ、確かに今のコンクールは遺物のように昔のままだし、授業も一人だけで閉じているなんてことはない。みんなで主題を深めていくのは当然のことだから。だからといってこの子たちは・・・。今までのルールとかってあんまり関係ない。それがいいところではあるんだが。でも、既存のルールを見直すにはそれなりの手順が必要だってことはまさにこの「わたしは食べるのが下手」に書かれている通りなんだけど(笑)


「先生?どうしました?」

「いや。コンクールだったら、別の課題図書がいいかなと?小学生だし。」

「村上ちゃん、まあ、確かに他の課題図書も読んでないから。でも、中学生向けの課題図書って読み応えあった。美味しいって料理のうまい・うまくないんじゃないんだね。」

(む:そうだよ。『砂のご飯』って表現している子もいるんだ。家にはね、美味しいものを一瞬で砂に変える魔女がいるんだって言ってる。美味しいって思えるって事はとても幸せなことなんだ。)

「まあ、もうすぐ夏休みになる。それにしても毎日こう猛暑日が続くと泡の出る麦の発酵物が美味しくてたまらん。ちょっと下に肉が・・・。おわっ!」

通子の反応は早かった。村上の下腹部の肉をぐっとつかんだ。

「おっ!けっこう大きくつかめた!」

「おいっ!ばかやめろ!!痛い!」

「あー教え子に向かってばかっていったぁ!責任とってよ。」

「お前が俺のお腹の贅肉ぜいにくをつかむからじゃないか!セクハラだぞ。」

「教え子にばか呼ばわりする教師と教師の贅肉をつかむセクハラ教え子!」

「何言ってんだ!放せ、痛い。」

「じゃ、ばかって言った責任取って、『いいこいこ』して。」

通子は頭のてっぺんを村上の目の前に差し出す。でも手は離していない。やってもらうまでは離さないつもりらしい。


ところが、いきなり通子がゲホゲホやり出した。由美子がドンっと立ち上がる。

「通子、うずらの卵!」

「・・・?」

「先生、通子、うずらの卵が喉に!」

村上はそのまま通子の背後に回ると背中を平手でバン!バン!と叩く。ダメ?さらに後ろから両手をへその辺りに回し抱きかかえ、思い切り締め上げた。

ゲホッ!床につぶれかけた白くて黄色い小さなものが転がった。


通子は髪を振り乱し、顔を全面赤く膨れ上がらせている。

「あー、ぜー、あー。死ぬかと思った。あー、ぜー、あー、あー。」

村上も通子を抱きかかえたままへなへなと床に座り込んだ。

「あー、ホントに死ぬかと思った。・・・このーっ!!通子!給食のうずらの卵をいつまでも口に入れてるなんて、お前、小学生か!」

「いや、通子は小学生だってば、先生。」

「由美子、江崎先生、呼んできて。それから教頭先生も。」


由美子は急いで保健室と教務室に向かった。その後、通子が「いいこいこ」されたのか、それとも「お尻ペンペン」だったのかは知らない。(まさか人工呼吸はないだろう!)


給食には本当にお世話になりました。どういうわけか、学校の栄養士さん、栄養教諭さんに知り合いが多いんですね。給食甲子園で全国一になった栄養教諭さんともなぜか少々面識があり、鹿のレバーを差し入れしたこともありました。

ちなみにうずらの卵、給食が終わってもいつまでも口の中で転がしてるやつって、今はいないかな?食の安全の関係で今は出ないのかも?

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