第26章 わたしは食べるのが下手(5)~咲子ってカショオ?わがまま?~
「わたしは食べるのが下手」を自宅で読み進める由美子。
そこには「カショオ」する咲子と、それを知った葵の壮絶なぶつかり合う姿があった。
由美子はどちらかというと葵の視点からだったが・・・。
第26章 わたしは食べるのが下手(5)~咲子ってカショオ?わがまま?~
結局、由美子は「わたしは食べるのが下手」、通子は「とびたて!みんなのドラゴン」を手に取ることにした。もともと「食べ下手」は由美子が借りてきたものだし、通子はピアノを習っていて市の音楽祭でもピアノ伴奏するくらいだから音楽に関係ある本を選んだってことだ。
由美子は自宅に戻ると夕食作り真っ最中の母親のそばに寄り添う。だんだん似合わなくなってきたランドセルを居間に置き、エプロンをつけて台所にむかう。通子んちは台所といいうよりはキッチンという言葉があうんだろうな。きっと咲子さんちはキッチンで、久野浩平くんちは台所、葵さんちはやっぱりキッチンかな?ラマワティさんちは当然キッチンだろう。
母は時間がない中で手のかかる煮物を作っている。根菜がたくさん入るので繊維質は豊富だ。ニンジンなどは乱切りにする。乱切りってでたらめに切るものだと思っていたら同じ大きさにするための切り方なんだそうだ。ニンジンって太いところも細いところもある。ところが右手の包丁を一定の角度で固定し、ニンジンの方をリズム良く1/4回転ずつ回しながら切る。そうすると切り口の端が上を向くのでそこから包丁を入れていく。見事なものだ。みんな似たような大きさになる。お芋も入る。材料が入ったら、圧力鍋の出番だ。燃料の節約も出来るし、何しろ短時間で調理出来る。由美子も定番のこの料理が好きだ。小学生だから野菜の煮物は苦手かというとそんなことはない。味噌汁が市販の味噌なのでこっちが正当のおふくろの味ってところかな。おふくろの味って日本では煮物とか味噌汁とかが多い。私たちの郷土料理と言えば『のっぺ』とか『のっぺい汁』というのがあり、おふくろの味の代表。でも、外国っておふくろの味って料理じゃなくてお菓子らしい。親子で作るから、代々その味(レシピ?)が受け継がれていくのだ。ラマワティさんも一読したときにはお菓子をもってきていたような。
うちの夕食時は例によって会食。お話をしながら食べる。給食の齷齪した時間に比べると咲子さんや葵さんが言うようなエサを食べているような(誤解を招くといけないが、彼女たちはそうかもしれないが、私は給食を一度もエサみたいだと思ったことはない。)もとい、うちの夕食は短い給食の時間とは縁遠い、ゆったりした時間であり、緊張を解きほぐす時間なのだ。まあ、給食はいろいろな料理が出てくるしどれもみな美味しい。好き嫌いもなし。私にとっては学校で過ごす時間のうち、トップクラスに給食は好きな時間だ。短い時間で会話もしちゃいけない(コロナ禍から)けど、私にとってはエサ感は全くないんだけど。
それにしてもうちの会話にはちゃんとしたルールがあって、この時間はいい気分で過ごしたい時間なので非難はやめようということになっている。批判については言い方を考えて言う。夢や希望は頭から否定しない。だいたいその日あったことの報告と感想が多いので穏やかなものだ。むかしは、夕食後一段落したところでお茶と簡単なお菓子を食べながら談笑する『家族団らん』の時間があったのだが、こんなご時世になったので、夕食といっしょに兼ねるようになったようだ。それと同時に、朝起きたとき、仕事に行く前もこのルールが適用される。じゃあ、直して欲しいことっていつ言うのかって?それはいっしょに夕食を作る作業中とか、夫婦間はよく知らないけど今でも時々いっしょにお風呂に入るくらいだから、ん、そのときかもしれない。
そんなことを考えていると、葵さんのところはうちでは一番幸せである食事の時間がけっこうつらい時間になっている。給食もそうだ。咲子さんちはもっとつらいかも。きっと本人はあまり意識していなけど、無意識の中ではボロボロだと思う。お金だけ置いてコンビニ弁当を個食するなんて・・・。辛すぎるよ。いっしょに夕食(たま~に朝食も)を母と作ってみんなで食べることの出来る私って、あんまり考えてもみなかったけど幸せなんだと思う。
思いを巡らせたけれども夕食でとりあえずリセット。夕食の後、宿題はちゃちゃっと済ませて読書ターイム!
かくして葵さん、咲子さん、ラマワティさんの三人が通子曰く陰陽師の橘川先生に要望書を提出することになり、実際に提出する。でも、さんざん突っ込まれたあげく、そのあげくの果てには献立をつくってみろって!初戦、完敗。橘川先生ってなんか村上先生と同じようなところがある。淡々としていて冷静なんだけど、ものすごく熱い!(もっとも村上先生って表面上も熱い時が多いけど)
で、その初戦敗退の足で保健室前を通ると、コッペくんが意外な場所(保健室)から出てくるのに出くわす。コッペくん、三人の要望書を見て『お前ら、給食なくすつもりなの?』『給食なくなったら、何食べればいいんだよ』って。真剣に言ってるのに『出た、給食大好きコッペ!』って咲子さん、馬鹿にしたように言う。このときは切実なコッペくんのことを何も知らない三人。摂食障害とか、会食恐怖症、ハラールもなんかお遊びに思えた。『給食がなくなったら弁当持ってくればいいじゃん』って。(コッペくんに比べたらあななたたちなんてお遊びじゃん!でも、後々江崎先生の話を聞いて、その考えもぶっとんじゃうんだけど)
で、再び作戦会議なんだけど、給食の献立ってこんなに大変なんだって、私、全然知らなかった。食塩やカルシウムなどの量や摂取カロリー、これをバランスよく、材料費も百均で3個買ったらオーバーとなるくらいの中で納めなきゃならない!おまけにアレルギーや衛生面も考慮に入れて完璧なものにする。そしておいしい!さらに世界の献立特集とか、楽しいイベントもある。これらの献立が一ヶ月約20回・・・これは3000ピースのジグソーパズルを毎日決められた時間内に完成させているようなものだ。陰陽師こと橘川先生に限らず、学校の栄養士さんや栄養教諭さんってこんなすごいことをやっていたんだ!スーパーコンピュータだってこんな複雑なことは簡単じゃないだろうと思う。知らないことがありすぎ!!だから読書はやめられない!!!これはどう考えても三人組は勝てないぞ!
そのシロウト献立会議の中でご飯のカロリーをさらっと言い当てて、『ダイエットの基本』とか言ってる咲子さん。みんなが「えっ」となる中、そこ(十分綺麗なのにダイエット?)を突っ込まれ、話を避けてしまう咲子さん。
ここで作者の登場人物の構成の妙が垣間見えるんだ。
ちょっと雰囲気が気まずくなるんだけど、ラマワティさんがいい味出して、雰囲気を柔らかくするんだよね。物語の中身に焦点を当てるのが普通だけど、作者のこういう構成というか、作者のしかけを考えるのも面白いんだ。咲子さんのちょっと強権的なところと葵さんの吹けば飛んでしまうような相容れない、ともすればそこで話が途切れそうになるところでもラマワティさんの柔らかいキャラが、しかも新鮮な空気を吹き込んで次に話を運ぶ・・・こんな「書き方」といったらいいのかよく分からないけど、そんなところに焦点を当てながら読むのも楽しい。大川さん(作者)ってそういう部分でもいい作品にしてると思う。この作品でもラマワティさんが登場するのとしないのとではかなり雰囲気が違ってくるんじゃないかな。
しかも、ここで伏線がさらに敷かれる。ラマワティさんがお弁当のデザートに自国のお菓子「クレポン」を持ってきていて食べようという段になる。とうぜん葵は一個食べるのがやっとだったけど。でも咲子さんは違った。だいたい、咲子が食べるのを見るのは葵さんもラマワティさんも初めだった。夢中でクレポンを頬張り、クラスのみんなにも食べてもらえらるようにとたくさん持ってきたものをほとんど平らげてしまった。そしてはっと我に返る・・・。ラマワティさん曰く、『大丈夫?』
ここで通子なら、「陰陽師登場!」ってことになるんだけど、橘川先生、彼女らのこと「レジスタンス諸君」なんて呼ぶ。通子も橘川先生にもう半分以上はまってる。「橘川ガール」ね。きっと橘川先生って、給食以上に生徒たちのことが、いや教育が好きなんだ。給食のことを知ってもらう代わりに(衛生上給食室には入れないから)大学の陸上部で昼食を作っているところを見せる・・・もとい、昼食を作る体験をさせるために呼びに来たんだ。やっるぅ~!
で県営グラウンドに集合して大学陸上部の昼食作りを手伝うことになるんだけど、葵さんはもう「橘川ガール」ね。対して、咲子さん「ほんとダルい」「そそのかされてたまるか」って態度。でもね、そこで橘川先生が大学時代陸上部で長距離走の選手だったってこと、カミングアウトするの。当時の監督さんが無理矢理ご飯を食べさせることに『反対して』いや『反抗して?』陸上部やめちゃったことも含めて。で、それが栄養士、栄養教諭を目指した理由であることも。そうか、大人でも正しく食べるって難しいことなんだ。私はなにげなく食べてきたけど、そうだよね。(おとなりの百歳のおばあちゃん、歯がなくて食べられるものも限られているけど、だからといってきちんと栄養をとらないと長生きできないもんね。赤ちゃんだってそう。離乳食を終えるまでは本当に大変だってお母さんも言ってたっけ)
「食べたものが身体になるんだからおろそかにしてはいけません」は橘川先生の言葉なんだけど、当たり前すぎて意識すらしていなかった。私たちは植物と違って光エネルギーを使って自ら身体を作れない。すべてを取り入れる必要があるんだ。考えて見るとすごいことだよね。
でも咲子さんはなんか違う。
「食べたものが身体になる。あたしの身体は、あたしが食べたものでできている。あたしの身体は。そんなことを考え始めると、砂漠のアリ地獄に足を取られたみたいに、ぐわんと身体が沈んでいくような感覚になる。地面にめりこんで、みんなの視界から消えてしまうような」ってどんな感覚?私にはつかめない・・・。
で、とどめが家がパン屋だというのマネージャーさんからの差し入れのパン。124ページから128ページ!葵さんたちが選手たちにお弁当を届けている間に咲子さん、差し入れの菓子パンを一人で食べて・・・吐いてた。
「こんなところでカショオするとか・・・最悪!」
「咲子さん、いつもやってるの?こんなこと」・・・答えない・・・。
葵さんにとってこの前吐いた最悪の記憶がトラウマのようになっていて、わざと吐いた、食べ過ぎたから吐く・・・・、それは自分にはにわかに信じられない世界。
翌日咲子さんが大量のパンを食べて吐いたことを話すと、ラマワティちゃんは驚かず、咲子さんって摂食障害なんだという。過食嘔吐しちゃうんだって。つまりむちゃ食いして吐いちゃうのね。あの時のカショオって過食嘔吐のことだったんだ。それはやけ食いじゃなくて、自分でコントロール出来ないんだって。我を忘れて食べちゃう。で、後ですごく後悔して吐いちゃうんだって。クレポンをむさぼるように食べていた咲子さんが記憶に昇ってくる。それであの時、自分にはにわかに信じられない世界、過食嘔吐する咲子さんをみて「てっきり、食べられない仲間なんだと思ってた」「でも咲子さん食べられるじゃん。食べられるのに食べたもの吐いてるじゃん。そんなのおかしいよ。誰かがせっかく作ってくれたものを吐くなんて。私は本当に食べられないんだよ。咲子さんのは単なるわがままじゃん!」
「わがままなんかじゃない!」咲子さんも叫んだ。その姿は牙をむいた野生動物のようにも見えたし、助けを求めているようにも見えた。」
由美子は心臓が急にドクドクを高鳴るのを感じた。復讐を果たした血だらけの人物に出刃包丁を向けられたような恐怖?または高さ数百メールの鉄橋の幅30cmの桁の上にぽんとほおりだされたような感覚が襲ってきた。いや、そうじゃなくて10mほど先で動けなくなっている中学生を助けようとする自分自身の足がすくんじゃっているような感覚だ。読書はそこで断念。ふとんに潜り込んでも結局は浅い睡眠のまま朝を迎えることになった。
「わたしは食べるのが下手」は知り合った栄養教諭の方にも紹介をしました。早速購入してくれたばかりでなく、全国の栄養士・栄養教諭の会の間でも話題の書籍だそうです。おそらく学校には課題図書として購入しているはずですが、小学校にはないよね。小学校高学年なら読める内容なので、もしお小遣いに余裕のある人はどうぞ。そうでない方も地域の図書館で探してぜひ読んでください。できれば、課題図書にはずれはほとんどないので、これくらいは1年間に絶対読んで欲しいですね。(いやらしい大人目線・・・)




