表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/50

第22章 わたしは食べるのが下手(2)~葵ってよい子~

『わたしは食べるのが下手』(天川栄人作)の読書の続き。中学生の課題図書なのになぜか盛り上げる由美子と通子。

『わたしは○○が下手』っていう○○に入るキーワードが重要だと思う。そして、物語は○○が下手ってのを克服していくストーリーであり、そのターニングポイントがきっと大川さんの大事にしたいことかな。」

題名論も登場するけど。

第22章 わたしは食べるのが下手(2)~葵ってよい子~




次の日の朝、由美子と通子はつるんで保健室に行った。健康優良児?の二人にとって保健室はあまり行く機会のない場所だ。江崎先生も今まであまり関わりはなかった。でも、本のおかげでまた人との関係が広がった。


保健室に入ると、異様な雰囲気にドキッとなった。何だろう?あまり立ち寄ることのない部屋だが、ちょっと何か変・・・。そう、なんか幽霊ゆうれいがいるみたいな雰囲気!

キャー!!!

「ちょっと、保健室で大きな声出さないでよ。」

弱々しい声に由美子たちは驚き信じられないという声をあげた。

「あ、江崎先生・・・。いらっしゃったんですね。(しかも目の前に!)ご免なさい。でも。」

「その目、どどどどうしたんですか?」

「いや、ちょっと徹夜・・・。」

微動だにせず、ゆっくりと振り向いた江崎を見て、由美子と通子はビビった。いつもの巨大な壁のような存在感は幽霊のように消え、残雪(大造じいさんとがんの)のようないつもの威厳はなく、まぶたは腫れ、魂の抜けた筋肉質であろう肉体が白衣につつまれて、あった。

「貸した本を受け取りにきたのね。」

「はい。お読みになられましたか。」

「ええ。」

(江:この物語には中学生対象だけあってそれほどキツいものが書かれているわけではない。むしろハッピーエンドに近い。でも、私にとっては・・・)

「せん~せ、どうしたんですか?夕べ何かあったぁ?ちょっとビビっちゃいました。いつもとあまりにも雰囲気が違って。」

「よく言うわね。健康優良児。(まあその制度は21世紀前に廃止されたけど)保健室にあまり来ない人たちが雰囲気分かるの?」

「いや江崎せん~せ、保健室っていつもみんなのたまり場になっているじゃないですか。けがでも病気でもない子たちで。」

「病人やけが人がいるときは静かなものよ。私、怖いから。」

(み:おっ、そこは自覚してる)

「でも、今日は近づきがた~いオーラを出してますよ。」

「通子さん、そう?」

「ほんと、せん~せ、どうしたの?」

「君たちを指導するための準備をしていて寝不足なだけ。本は返すから教室に行った行った!朝の会、始まるわよ。」

そそくさと追い出された由美子と通子は教室までの廊下で顔を見合わせた。

「彼氏にフラれたのかな。あれ、完全に泣きはらした目だったよ。もういい年で独身だから、別れ話を切り出されて・・・」

「通子ったら、ドラマの見過ぎ!でも、江崎先生があそこまで肩を落としているのは初めて見たような気がする。本当に失恋かな。」

「あいや、由美子まで。」

教室に入るともう保健当番の体調確認が始まっていた。テトルでの出欠確認、保健当番による体調確認(自己申告制)、村上先生による目視と第六感による点検と照合。体調と感情の安定が学習には最重要の基盤なんだとか。村上先生はすごく重要視してる・・・。



昼休み、由美子と通子は教室の片隅で本を読み始めた。教室の中は女子の一部がお絵かきやアニメの話をしているだけで、がらんとしている。天気の良い日は男子がみんなグラウンドに出てサッカー的なことをしている。(まあ、雨の日は雨の日で体育館でバスケ的なことをしているけど)読書に不便はない。



物語は始まった。主人公の一人、葵の家である。

冒頭---------------------------------------------------------------------------------------------------▽

お母さんが怖い顔してこっちを見ている。

栄養満点、愛情たっぷりの、完璧な食卓。でも、私は、牢獄にいるみたいな気持ち。

・・・・・・・・

「いつまで食べてるの。」

お母さんの声には、苛立ちが混ざっていた。

「た、食べてるよ」

「さっきから少しも減ってないじゃない!」

私にとって食事は、機械的にこなす作業になっている。

最近は、特に。

-------------------------------------------------------------------------------------------------------△


「うちも、たまにあるかな。私がテレビを見ながらやスマホをいじりながら食べていたりする時。基本的にテレビもスマホも禁止なんだけど、手持ち無沙汰的にスマホを触っているうちに夢中になると機械的に・・・ってのはある。それでめちゃ注意される。」

「でも、『教師と先生』かも。」

「はぁ?」

「現象は似ているんだけど、何か根本的に違うと思う。」

「何が?」

「う~ん、なんていうか、通子ん家、知ってるからかな。こんな殺伐としてない。」

「殺伐?殺伐って何?」

「うるおいとか、あたたかさとか感じられない荒野に風が吹き荒れているような・・・」

「はぁ?うちの食事がそうだっていうの!」

「違うよ。通子んちは穏やかで暖かそうなんだけど、それを通子がスマホとかで破壊しようとしてるから、お母さんが厳しく注意するのは当然だと思う。通子を思っての行動だと思う。」

「まあ、それは感じる。」

「でも、葵さんのところは何か違うと感じるんだ。強制というか、ん~、目的がずれているんじゃないかって。」

「ん。確かにわずかに違うと思うんだけど、それがなんだか分かんない。もっと読み進めないと・・・。最後まで読めば、謎解きはきっと終わるんだと思うけど。」

「そんな単純じゃないけどね。でも読み進めないことには。」

8ページ------------------------------------------------------------------------------------------▽

「おかず、美味しくないの?」

私は慌てて首を横に振る。

「そんなことないよ。」

「じゃなんで食べないの!」

あー、スイッチ入っちゃった。

「あなたのために作っているものなのに!そうやってまたお母さんを困らせるのね。わざとやってるんでしょう。そうなんでしょう!」

あーあ、まただ。

こうなったらもう、気が済むまで怒鳴らとくしかない。

-------------------------------------------------------------------------------------------------------△


「親切の押し売りかぁ。葵の気持ち、分かってないね、このお母さん。自分の立場から一方的に決めつけている・・・。葵も食べる努力すればいいのに!」

「でも、葵さんのお母さんの気持ちも分からないではない。むしろ、正論だと思う・・けど。」

「けど、何よ?」

「きっと『美味しければ食べるって方程式』がお母さんにはあって、お母さんはその方程式に矛盾してる葵さんの行動にパニックになっているんじゃないかな。」

「お、ずいぶんとお母さんの肩持つね。」

「うん。でも、方程式が成り立たないとしても『お母さんを困らせるためにわざとやってる』なんて・・・。そう言いたくなる気持ちも分かるけど。でもね、正論かつ常識だと思うことに照らし合わせて、自分の憶測を真実だと思い込んでしまうお母さんは、葵さんを追い込み苦しめるだけだと思う。」

「さすが由美子(汗)、方程式で考えてきたか。(由美子の言い回し複雑で分からん!)いや、このお母さん、単なる『自己中じこちゅう』で、ナルシストなだけだよ。」

「う~ん、なんかずれているかな?」

「私が?」

「いえ、葵さんとお母さんが。ずれているというか、すれ違っている。お互いのコミュニケーションが。『ぼくの色、見つけた!』の信太朗と友行みたいな気がする。お母さん、そんな悪い人じゃないんじゃないかと思う。」

「そんなもんかね。でも、由美子って人がいいというか、そういう意味じゃ私より『お嬢様』かも。」

「でも9ページに『口答えするともっと怒られるので、私はなんとか気持ちを飲み込む』って書いてあるでしょ。葵さんは自分の気持ちを分かってもらおうとしてないのかも。」

「信太朗と友行も確かにそうだったね。信太朗は疑心暗鬼になっていただけだった。でも、このお母さん、結構支配的じゃない?」

「でも、葵さん、クラスメイトの紗衣さんが自分の髪を編んでいるのを見て、同じくクラスメイトのゆかりさんが『また紗衣が葵をおもちゃにしている』って言ってたでしょ。一言断ってくれてもいいと思いながら、結局はお母さんに対する態度といっしょで『気持ちを飲み込』んじゃっているじゃない。」

「昔のあたしみたいね。争うことは好まないから、避ける・・・的な。そう意味じゃ『良い子』を演じようとしてた。葵も同じだな。私の場合、ただメンドーくさいってだけだったけど、お母さんの圧力がこれだけ強いとそうなっちゃうのかもね。」

「確かに。それはあるのかも。正論でゴリゴリ言われたら逃げ道無くなるものね。」

「そのすれ違い、つまりはそれぞれの立場とか気持ちを明らかにせねば。」

「その言い方、時代劇っぽいね。でも、何か村上先生の授業みたい。とりあえず、この葵さんと、次の章で登場する咲子さん。物語は章ごとにこの二人の立場から見た形で進んでいくからこの二人が主人公と言っていいね。」

「うん。でも、物語にざっと目を通すともうひとりやっかいなヤツがいるし、さらにもうひとり『友行』みたいなやつもいる。そしてもう一人の仲間。ヒジャブの彼女ね。」

「主要登場人物を明らかにしてその人物像をぼやっとしたものからカメラの焦点を合わせるみたいにくっきりさせていく作業ね。そして関係を考える。そしてのその相互を繰り返して物語の全体像に迫る・・・。そのもう三人の登場人物は・・・。」

「そう、陰陽師の橘川先生とコッペ(久野浩平)のとムスリムのラマワティちゃん!先ずはこの五人の人物像を見ていこうってことね。」



「あっ、その前に最重要の『題名』について予想を立てる・・・。村上先生の授業では。」

「『わたしは食べるのが下手!』っていう題名だけど?『食』に関しての話だよね。特に学校のことだから『給食』のことだろうと思う。ん?『給食』が下手?」

「そう。今までの学習から考えればきっと下手なのは『食べる』ってことよりもその背景にある何かじゃないかな。『わたしは○○が下手』っていう○○に入るキーワードが重要だと思う。そして、物語は○○が下手ってのを克服していくストーリーであり、そのターニングポイントがきっと大川さんの大事にしたいことかな。」

「大川さん?」

「大川栄人さん。この物語の作者のね。」

「な~るほど。」




「さて先ず葵さんね。証拠となる文はいちいち押さえないけど、気が弱くてなかなかはっきりと自分の気持ちを表現できない。『会食恐怖症』とかで要はみんなと一緒に食事を進められなくてコンプレックスを頂いてる。お母さんに食事を強制されて困っているし、給食でもそう。これほど少食ってちょっとホントかなって思うところもあるけど。」

「由美子はきっちり食べるもんね。好き嫌いが全くないし、シラッとおかわりの列に紛れ込んでいたりする。」

「もしかして通子、今、私のこと、ディスった?」

「Yeah. I just dissed you!It's okay once in a while!」

「えっ?インチキよ。英語なんて。」

「でへっ!まあ、私たちは食に関しては特に困りごともなく、有り難く思ってます。で、咲子は?」

「通子はどう思う?」

「おっ村上ちゃん的逆質問!うん、そうね。咲子が登場するのは陰陽師もコッペも登場してからなんだけど、陰陽師もコッペも最初のイメージは後半で変わるし、咲子もそう。咲子は第2章の直前で登場するんだけど、第2章では一人称と咲子の一人称視点になるよね。第1章は葵の一人称視点だったのにね。この物語、視点がころころと変わるんだけど、教科書とか作文だったら怒られそう。でも複数の視点ということでピカソ的な作品か?」

由美子が吹き出す。

「通子、真面目顔でピカソ的な作品かって言うんだもの。奇抜!」

通子はちょっとくしゃっとしながら、でもまんざらでもない表情を混ぜている。

「この作品はちゃんと章で視点を分けているけど、どっかのmugi_LEOとかいう作家はシラッと変えてくるから、注意して読んでないとあれっとなる。ちょっと見習って欲しいな。」

「・・・・・?」

「『弱っちい子だな』てのが咲子の葵に対する第一印象だよね。」

「弱い・・・。咲子さんの弱いって『いつもみんなの陰に隠れてて、あんまり自己主張するタイプじゃない』ことを言ってる?じゃあ、咲子さんの強いって自己主張することが強いってこと?」

「でもね、26ページでは『弱々しく見えた』ってことに『いいなあ』って言ってる。うちのクラスの男子に言わせれば『オカシクネ?』って感じだけど。・・・『あー、痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい』って呪文・・・これ『摂食障害』の呪文じゃない?」

「咲子さんて私たち女の子からでも大人っぽくて髪が長くて大人っぽく、十分美人だと読めるのに、なぜそんなにも痩せたいのかな。摂食障害ってよく分からない。ちょっとワルな感じもうらやましい感じもするんだけど。」

「由美子も『良い子』だもんね。」

「そう、別に良い子を演じなくても、私って基本的に良い子だから。」

「あのね、それはそうかもしんないけど、それを聞かれたら、うちの男子からは総スカンだよ。由美子オシも少なからずいるんだから・・・。」

「ちょっとしたジョークのつもりだったんだけど。」

「それね、ジョークで通じないから。もう、ホントに由美子ったら・・・天然なんだから、もう!」

「でね、38ページに食べられない(?)同士で意気投合する場面があるんだけど。」

「『わかる!ご飯の価値が高すぎるよね。みんな水も電気も無駄遣いしてるくせに、食べ物だけは、粗末にしたら人間じゃないみたいに言われるんだもん』そして、『私、食べたくないって言っちゃいけないんだって思ってた』って、ある。でも、根本は違うんじゃないか?つまり食べ物以外の価値?」

「うん。私もそう思う・・・。でもね、この咲子さんと葵さん、意気投合しちゃうけど、咲子さんがね『吐き出しちゃえばいいんだよ(何もかも)』って言うけど。咲子さんて本当に吐き出すところってあったのかな?って思う。」

「?どういうこと?」

「咲子さんのお母さん、ママって呼んでるけど、36・37ページ読んだ?パパという男性に利用されている女性。そして咲子さん、そんな両親の関係の中で『で、一人家に取り残されたあたし』って言ってるけど、でも、咲子さんはお母さんに対して愛情?希望?を抱いているのね。『ありがとう。咲子ちゃんはいい子ね』っていうお母さんの言葉が心地よくて・・・。」

「それって切ないよ。しかもそのパパとかいう男、浮気してんでしょ。妻の愛情に乗っかりながら!許せない!!その○○を蹴り上げてやりたい!」

「*■※△とか、私無理・・・。ほんと通子って過激だよ、怒りは分かるけど。」

「女心を利用する男とか、絶対に許せん!」

「シーシー、ドゥドゥ、落ち着いて!通子!」

「ハァハァ、興奮した・・・。でも、許せん!」

「38ページの最後に無理矢理食べている葵のことを思いながら、たった一人でコンビニに向かう咲子、『今頃葵は、頑張って無理やりご飯食べてんのかな。「カワイソ」』って言ってるけど。」

「ん、分かる。それきっと自分に向かって言ってるんだよ、きっと。」

「私もそう思うなぜか。はやく気付いてって思う。」

男子がドカドカと教室に戻ってきた。もうすぐ5時間目が始まる。

「あ、ヤバい。私用足してくる。由美子は?」

「私も。」

「連れ○ョ○かぁ!」

「おっ、死語?」

「しご二十!放課後だめだから、続きは来週ね!あっ漏れそう!」

(堀川先生が廊下を走るな!って叫んでる。無理!)


この後の章もしばらく「食べ下手」で続きます。

給食ってすごいし、助かるんだけど、もうしばらく後になるかな。

「良い子を演じる」「家庭」そんな議論が先に・・・。陰陽師も忘れないようにしなきゃ。個人的に好きならキャラですから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ