表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/50

第19章 核武装論騒動

由美子と通子が読書会をしているかたわらで、放課後の教務室・・・では、村上と堀川の激論が交わされていた。村上が日本も『核武装』すべきだと言ったからだ。

第19章 核武装論騒動




由美子と通子が読書会をしているかたわらで、放課後の教務室・・・

「バカヤロウ!!」

堀川の鉄拳がとんだ。村上が椅子ごと吹っ飛ぶ!

「核武装が必要だとぉ~!お前ぇ何考えてんだよ!それでも日本人かぁ!」

事務の小林さんが椅子をひっくり返して飛んできて堀川の両腕を脇から手を伸ばして抱えるようにして押さえる。

堀川が小林さんに羽交い締めにされている。小林さんを振りほどこうとして必死に暴れる堀川・・・はれっ?動きがピタッと止まる。


「あの、小林さん・・・て、きょに・・・。」


今度はあのいつもはクールビューティの見本市のような小林さんにどういうわけか火がついた!

「堀川先生!セクハラです!!ひどい!!!」

今度はなぜか小林さんが堀川をボコボコにしようとしている。

「いや、だって背中に・・・。」

「先生、ひどいです!気にしてることを。」

・・・・・。

村上がすっとんきょうな声をあげる。

「あの、ぶっとばされた俺はどうなったんですか?」

「ちょっとそのままでいてください!」

「いや、小林さん、ちょっと待ってよ!」

今度は村上が小林さんを押さえる。

「落ち着いて、小林さん!」

小林さんは床にぺたんと座り込んで顔を両手でおおい、しくしくし始めた。

堀川が済まなさそうに小林さんに近づいて声をかける。

「いや、押さえてくれてありがとう。ただ、完全にスリムだと思っていた小林さんって女性らしい・・。」

(おい、堀川先生、それって全然フォローになってない!火に油を注ぐ・・)小林さんはかえって泣きじゃくるようになってしまった。それもヒクヒクしながら、

「私の胸が大きいって言いたいんでしょ。(ヒク)それ中学の時からのトラウマ(ヒクヒク)なんです。男子にいじめられてへんなあだ名まで付けられて(ヒク)、それで一週間、(ヒクヒク)学校に行けなくて(ヒク)父親に怒鳴られ無理矢理学校に行かされ(ヒクヒク)何とか今まで(ヒク)耐えてきた(ヒクヒク)んです。(ヒク、ジュルジュル)」

堀川はすくっと姿勢を正すと土下座をした。

「小林さん、本当にご免!小林さんの気持ち、理解した。ただ、俺もつい、ちょっとびっくりして・・・。小林さんがすっごく真面目でとても頑張り屋って思ってたが、改めて理解できた。俺は本当に軽率だった。ご免!」

深々と頭を下げ、床に付ける堀川に小林さんが立って歩み寄った。そして手を差し伸べると、

「堀川先生、ご免なさい。私、つい・・・。もう大丈夫です。はたいてご免なさい。」

「いや、心の傷に触れてしまったんだ。ボコボコにされて当然だ。済まないことをした。」


ガタン!教頭が教務室に飛び込んできた。


土下座している堀川教務主任。その前で涙と鼻水でぐちゃぐちゃの女性。???何だ!いったい何があったんだ。

そこに机の陰からムクッと起き上がってきた唇が切れ、鼻血を出している男。????

「はぁ?いったい何があったんだ!」

然然しかじか・・・・。

「おい、おい暴力事件とセクハラかよ!校長先生に報告してすぐ市教委に連絡だ!」

元に戻った小林さんが制止する。

「堀川先生の暴力うんぬんは分かりませんが、セクハラはありませんでした。むしろ暴力を振るったのは私です。」

「いや、女性の外見や体形に関する発言はセクハラだろう。」

「いえ、それは言われた方が『不快』に感じるかどうかです。私は『快感』に感じました。」

「堀川先生をかばわなくていい。これはルールだ。」

「いえ、堀川先生の発言ではなく、自分の気持ちの・・・言わば自己崩壊です。それはセクハラではありません。そして、ルールって人々を守るためのものでしょ。おとしめるためのものではないはずです。」

(む:いや、自己崩壊させるような発言、それセクハラでしょ)

「むしろ私の暴力を・・・・」

「いや、あれは『肩たたき』だよ。俺の気持ちをほぐそうとした。・・・おかげで俺はすっかりほぐれた。お礼を言いたいよ。」

「じゃこの鼻血男の方は何なんだ。」

「あ、俺ですね。しょうもないことに、たまたま手足の体操をしていた堀川先生の腕の前に『当たりにいっちゃった』んです。」

「『当たりにいっちゃった』ぁだとぅ?しかも、なんで今頃ラジオ体操!」

「教頭先生には前にも話しましたよね、私が空手の有段者だってこと。もし、なぐってきたのなら、例え無意識でもけてます。わざわざ『当たりに』いかないと当たりませんし、それは事実です。」

「ふふん。貴方方って本当に仲がいいんだね。まあ、うちの学校のチームワークは自慢できると思っているが、まあ、これだからな。身内に甘くする訳ではなく、本人達が納得しているんじゃ、どうもこうもない。ただ校長先生には報告をしておく。校長先生もそれ以上はないという、同じ思いだと思う。他の先生たちはどうだ?」

「異議なぁ~し。」

「しかし、まだ終わってないぞ、もう一点。堀川先生と村上先生、もう少し話し合ってお互い理解するように。話の結末は平行線でも構わん。いいね。」

教頭は校長に報告するために再び教務室を出て行った。



「村上、さっき『日本は核武装するしかない』と言ったな。」

「考え詰めていくとそこに行き当たるんです。」

「お前が言っている意味、分かるな。そして俺が言った意味も。」

「はい。だから先生のパンチを避けなかった・・・いやむしろ進んでくらったんです。気持ちは堀川先生と全く同じだったので。ぶっ飛ばしてやりたい自分がいるんです。」

「?・・・どういうことだ?」

「さっき言った『避けなかった』というよりは、堀川先生のパンチに『当たりにいっちゃった』というのが正しいと思います。きっともう一人の自分が自分を殴り飛ばしたかったんだ・・・って。」

「・・・。」

「全国の多くのPTAから悪書であるとされたり、教育委員会からさえも教育上不適切な書籍であるとして学校図書館から追放された『はだしのゲン』も全巻、何度も読みました。広島や長崎にも行きました。そこで実際に周りを見渡すと『はだしのゲン』の風景がオーバーラップされるんですね。3月10日の『東京大空襲』や山本五十六元帥の生まれ故郷のN市の大空襲、これは8月1日ですが、これらの空襲も民間人も標的にした無差別爆撃で『ひどい』の言葉では言い尽くせないものですが、原爆はその比ではない。優劣を付けようとは思わないけど。なくなった方々にはそれぞれ大切なストーリーがあることに変わりはないから。」

「・・・。」

「ちなみにN市ではその2週間くらい前の7月20日も爆弾が一発だけ落とされています。実はこれ、『原爆の模擬爆弾』だったんです。それと、N市よりも人口の多かった県庁所在地の市が空襲を受けていません。本来ならN市よりも先に空襲の対象になるはずなのです。どうしてか。それはそこが原爆投下の5つの候補地のうちの一つだったからです。空襲を受けて被害を受けたところに投下しても無駄で、クリーンな地に落とす必要があったからです。原爆を実際に落とされた地は悲惨でした。しかも80年も経つ今も苦しんでいる人たちがいる・・・。」

「俺も『はだしのゲン』は読んだ。一瞬で影だけ残して蒸発してしまった人。皮膚が熱線で溶けてしまい、だらだらと体中から垂れ下がっている人。街中に無数に横たわっている死体からはウジがわき、その中を体中に火傷やけどを負った人々が水を求めてさまよう。川はそれらの人々の遺体が浮いて埋め尽くされる・・・。漫画の世界は当時被爆した中沢啓治さんの目そのものだ。その世界を知っていてお前は『日本も核武装』をと言うのか。」

「私は大学の卒論は『平和教育』に関してでした。だから人一倍『戦争』について学んだつもりです。『戦争と平和』は『紙の裏表』みたいなものです。表だけの紙はあり得ない。」

「まあ、それは分かる。村上先生が詳しいのはなるほどだが、やはり核兵器は絶対によくない。」

「おそらく、そのこと、つまり核兵器が悪であり、使うべきではないことを分かっていない人はいないですよ。間違いなく。ただ、その感覚の差は計り知れず大きい。世界の人々のそれは世界を滅ぼす戦略核に対する考えであって、戦術核に関しては通常兵器の延長線上にあると考えている節が見え見えなんですよ。いざとなったら使うんだってね。戦術核は威力が格段に違う兵器でしかないという見方で・・・。その後に生ずる被害については、もしかしたらそれほど深刻に受け取られていない。本当の恐ろしさを分かっていないと思うんです。戦略核が一般人を含む都市を無差別に攻撃するのに対して、戦術核は軍、兵士と兵器を対象に限定的に攻撃しようというものととらえられていると思うのですが、だから戦術核はいい・・・という訳にはいかない。戦術核の使用は戦略核使用の呼び水となる可能性も大きい。」

「いや、それはお前がそっち側に立っていないとということを言っているのと同じだと思うんだが。つまり、核の本当の恐ろしさを知らせるべきで、今、広島や長崎で運動していることそのものじゃないか。」

「それは否定はしないです。ただ、学校でも一番届いて欲しい保護者ほど、情報は伝わらないじゃないですか。残念ながら同じですよ。ロシアや中国、北朝鮮にも伝わらない。おそらく、アメリカやフランス、イギリスといった核保有国でさえ、核使用に対してのハードルは高いでしょうけど、考え方はそんなもんで、大差ないと思います。最初で最後の核使用から80年も経つのにほとんど広島や長崎のこと、日本人の思いが世界には伝わっていないんです。むしろ、原発事故の方がメジャーと言えます。」

「・・・。」

「起こりうる戦争を想定して振り返りますね。おそらく、戦争状態となれば中国はアメリカ空母打撃群(Carrier strike group, CSG)に戦術核を使うでしょう。それ一発で『壊滅』ですから。まあある程度の飽和攻撃を行い、その中で一発でもCSGの近辺で核爆発を引き起こせばそれだけで70隻ほどを一度に壊滅し、致命傷とすることができるのですから。核による反撃で航空基地を一つくらい潰されても十分割があうでしょう。実際にほのめかしているし、あり得る選択となっているでしょう。そして、報復として都市を主目標とする戦略核兵器の使用が選択されるかどうかですが、堀川先生はどう思われますか?」

「それはなんとも言えないが、俺は思いとどまると信じたい。」

「その使用は世界を破滅と向かわせる全面核戦争を誘発する確率は明らかに大きいですから、基本的には戦略核兵器の使用はないと思います。けれど、不信感と恐怖感は人を悪魔へと変えるおそれがあります。特にリーダーがどうしようもない人間の場合は・・・。」

「プーとトラは、特に危ないな。やつら常識は通用しないし、脳の重さも偏っていて何を考えているか分からん。いや考えて行動してないかもしれない。世界の常識からは隔離されたやつらだし。」

「世界中には我々の常識とは違う常識がたくさんあるんだってことをみんな忘れてます。我々の常識とは違うものを常識じゃないっと言って否定するけど、彼らの常識から見れば我々が非常識なだけで、そんなものは信じられないんですよ。」

「つまり、この世は何があるか分からない不透明な中に存在してるってことか。」

「つまり、武力で押し通して、既成事実を重ねていくやり方も『あり』であり、中国が行っていますよね。でも、一番考えるのはウクライナとロシアの戦いなんです。」

「ロシアとウクライナか。」

「ロシアは核を保有している。ウクライナは保有していない。で、ロシアは核をちらつかせて通常兵器で平然と攻撃を続けている。もし、戦争前にウクライナも核をもち、ロシアにも使う用意があるとなったら、これほど平然とロシアは侵攻してきたでしょうか?」

「いや同じだったかもしれんぞ。ロシアは3日間の電撃攻撃で首都ウクライナを押さえ、ゼレンスキー大統領を斬首する作戦だったからな。戦術核を使う、使わないの議論さえ与えなかったんじゃないか。」

「でも、作戦は失敗に終わってますよね。そしてだらだらと戦争が続いて悲惨な犠牲が確実に増え続けている・・・。これがもし、ウクライナも核を持っていたら、ロシアもこれだけだらだらと戦争を長引かせたでしょうか?周りの国もそうですよ。戦術核とはいえ、本気で核戦争が起こりそうとなれば、こんな悠長な介入ではないはずです。ウクライナは守るはずの無いロシアとの約束を信じず、核を手放さなければよかったんだと思います。平和を望み、戦争を招いてしまった・・・。」

「そんな単純じゃないだろ。今の国会を見てみろ。これだけ苦しい財政事情の中、野党は人気をとろうと消費税減税とか廃止を迫っている。政府においても選挙のことを考えて与党内部から声が上がり始めている。こんな政治家に核を持たせていいのか。やつらなんやかんや言って使うぞ。核を持ってなけりゃあ、絶対に使えん!」

「そりゃぁそうですけど。今まではアメリカが背後で脅していてくれたけど、今後はそうもいかなくなりそうです。自前でなんとかしなくちゃいけない時代になってきたんです。ヨーロッパはそれに気付いて着々と準備を始めました。大国が弱肉強食の復活を選んだんですから、弱小の国は手を結びながらも、自国で安全保障を確保しなければならなくなった・・・だから、核武装なんです。」

「核はパンドラの箱から出てきた怪物だ。それと手を組もうというのか?魂を悪魔に売り渡すつもりか?」

「前に言ったかも知れませんが、日本は中国やロシアにとってウクライナなんです。しかも、前からNATOに加盟しているような。地図を中国やロシア側から眺めてみると日本海をはさんで、まるで広大な太平洋をブロックするようにぐるりと壁をつくっているような恰好に見えませんか。」

「見えるさ。」

「そして『日本海』という名称も目の上のたんこぶですよ。だから、わざわざ『リーベンハイ』、つまり『日本海』と呼んでいたのを『トンハイ』、『黄海』と地図を変えましてね。昔は彼らに力がなかったから日本をウクライナのように力づくで自分の陣営に引き込もうとしなかったわけですが、のど元に米軍基地というナイフを突きつけている韓国や日本はそうとう邪魔でしょうね。」

「じゃあ、地政学的に安定するように日本は中立か中国側の陣営になれば戦争は起こらない・・・ということだな?」

「まさか。米軍基地が中国軍基地やロシア軍基地に換わるだけですよ。まあ、その前にアメリカが阻止しようとするでしょうから、いずれにしろ日本が戦場になるだけです。」

「国際社会がそんなことを許すかな。」

「もちろん許さないでしょうけど、許さなくても実際は・・・。」

「ウクライナか・・・。許されなくても関係ないということか。」

「だから相手がうかつに手出しできないよう『相手の息の根をとめるくらいの力』が必要だと思うんです。」

「だから『核』か。悲しいな。でもな、百歩、いや千歩、いやいや万歩譲ったとしても今の政治家を信用して良いのか。俺はさっきから言っているとおり、政治家なんか信用してない。核をもったら、確かに核を扱うのは自衛隊かもしれないが、その判断をするのが政治家だ。今の国会中継を見たことがあるか?あんなん、教え子たちに見せられたもんじゃない!まるで幼稚な集団だよ。子供たちの学級会よりまだ始末におけない。あいつら核は絶対ダメって言っておきながら、すごいおもちゃを手にした子供のように、平気で使ってしまうように思えてならない。しかも、戦争がタブー視されてきたことでやつらはみな戦争オンチだ。鉄砲を撃てば血も流れずにばたばたと敵が倒れていくイメージ、いやそれさえもないかもしれない。目の前で自衛官の流血を見たらガラッと立場が変わり、きっと使ってしまうぞ。」

「政治家か。それは大きいですね。シビリアンコントールと言いながら、実際にはラジコン飛行機でさえ飛ばしたことのない者が旅客機のコントローラーを扱うようなことみたいなものですから、危なっかしいと言ったらこの上ないですよね。」

「政治家を批判してもしようがあるまい。信用できないそいつらを選んだのはまぎれ

もなく『俺たち』なんだから。」

「悲しいですよ。まったく。まあ、時の政権にもよるとは思いますが。でも、俺はこのまま何もなかったように突然の死を待つタイプじゃないです。もがいちゃうんです。」

「まあ、もがき方の違いかな。俺は子供たちに戦争の悲惨さと平和の尊さを地道に教えていくだけだ。」

「先生らしい。それが一番基本的で大切な取り組みだと思ってはいます。」

「また、核武装なんて唱えればまた殴るだけだ。」

「教師間で体罰とかうんぬんがなくてよかったです。」

「とにかく戦争のない世の中をめざそうや。」

「先生、なぐっておいてそれはないでしょ(笑)」


由美子と通子の読書、続いています。全国青少年読書感想文コンクール課題図書(高学年)「ぼくの色、見つけた」の続きを書いています。(実際に読んでいるのはmugi_LEOだからこの短い期間では難しい!しかも4冊・・・きっと4冊とも読書会するのは厳しい・・・かも。おまけに中学生の部の「わたしは食べるのが下手」も面白そうだから借りてしまった・・・)とまあ、言い訳三昧なんですが、『はだしのゲン』を読んでいない読者のみなさんはぜひどこかで読んで見てください。人生必読の書(漫画)ですから。残酷だから見せないとかって意味分かりません。だって戦争って、原爆って残酷なんですから。あれが時間を超越してその場を覗くことの出来る数少ないスコープなんです!「はだしのゲン」を知らずに議論はできません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ