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第13章 ネット社会の闇

今回は通子へのある事件が起こり、学校の関係者が集まります。その中で事件の原因となった「ネット社会の闇」についてICT支援員が説明をし、事態は市全体を巻き込んだ方向に発展していきます。

第13章 ネット社会の闇




通子が突然学校を休んだ。土曜日にいっしょに遊んだ時は、あんなに元気だったのに『体調不良』って?。ミチヒトくんも欠席理由はずっと『体調不良』だ。月曜のことだ。村上先生も居ない。いや学校には居るのだが、自習だ。なんか知らないが、あわただしい。玄関脇には見慣れない車が何台か駐まっているのも不思議だ。

(通子に関係?何かあったのかしら?)

隣のクラスも自習らしい。何かの緊急会議だ。しかも、よほど何かあったのだろう。由美子は気になって仕方がない。由美子だけではない。みんなそうだ。まさか通子の命に関わることが・・・。窓から見える駐車スペースに車がまた駐まった。PTA会長さんだ。



学校の会議室。前の廊下には『会議中(子どもたちは通ってはいけません)』の立て看板が出ている。

「みなさん、本日は急にお集まりいただきましてありがとうございます。私は市教委で学校教育課長をしております。山田浩之と申します。先ず、この度の事件について校長共ども深くお詫び申し上げます。」

部屋の後ろに席を並べたスーツ姿の何名が一斉に頭を下げた。

「教頭先生、司会を進行してください。」

「では、当校校長より、今回のことについて概要を述べさせていただきます。」

「みなさん、校長の新崎です。改めてお詫び申し上げます。概要ですが、昨日の日曜日、当校6年生の女子児童が近所の同じく当校5年生の男子児童にいかがわしい動画をスマホで見せられ、わいせつ行為にいたりそうになったという事案です。女子児童はクラスの中はもちろん、他の学年でも人気があったと聞いています。また、男子児童も大人しく普通の、といったら何が普通なのかと問われそうですが、普段から今回のような事案を起こすようなお子さんには見えなかったということです。私も全校児童のことはよく知っていますし、この話を聞いたときには耳を疑って何度も聞き直したほどです。一報が女子児童のご家庭からありすぐに両家に担任と校長・教頭でお伺いし、状況を聞き取りいたしました。」

「では、なぜこのようなことが起きたのか、関係者に聞き取りをした事実をもとに考えられる原因をご説明いたします。その前に、二人の児童の親御さんもいらっしゃっているので。」

「男の方の父親の○○です。今回は本当に申し訳ないことをいたしました。謝罪してもしきれないと思っています。息子にはキツく叱りました。また、スマホも当然取り上げました。親として本当になさけないです。改めて本当に申し訳ないことを致しました。済みませんでした。」

「女の子の方の父親です。泣きじゃくる娘を見たときには本当に何事かと思いましたが、やはり相当ショックだったようです。普段から担任の村上先生に熱をあげているのは知っており、あの子も年頃なんだなぁと思っていましたが、こんな形で大人の世界に触れてしまうとは。まあ、私も彼本人と話をさせていただきましたが、うちの娘のことをほんとによく思っていてくれたことは確かで、○○さんもある意味、ネットの被害者でもあると思いました。○○さんとは近所でもありますし、和解はいたしました。まあ、女親の方はまだわだかまりが抜けていませんが、感情的になっているだけで少し経てば冷静さを取り戻し、説得出来るでしょう。また、娘は明るい子なのできっとすぐに立ち直ると思います。今病院に行っていますが、けっこう元気でしたし。ご迷惑をおかけ致しました。」

「いやいや、こちらの方です。学校も至らない点が多かったと反省しております。では、校長。説明をお願いします。」

「はい。男子児童、仮にAくんと呼びますが、Aくんは高学年になると地域スポーツに参加するという理由からスマホを与えられ、ほぼ自由に使うことが出来ていました。Aくんのご両親は今、大変後悔なされていますが、スマホを購入する際、本人の言うがままにフィルターを外して渡してしまいました。課金のための口座やカードについては万全を期していたので、まさかと思ったそうです。」

「で?」

「それで動画視聴が好きなAくんはネットサーフィンをしているうちに数あまたのいかがわしい広告が流れてくる中で、どうも今回のサイトに達してしまったらしいんです。そこで無料でいかがわしい無修正の動画をみていたらしいのですが、こういう動画は、女性がわざと大袈裟に見る人を刺激したり、演技したりするものなんだってことが分からずに、ああいうことをすれば女性は喜ぶものだと思いこんだらしいのです。ずっとそのような動画を見続ける内にますます、その思いは強くなったらしいんですね。エコーチェンバー現象の一種でしょうか。小学生に分かるわけないじゃないですか。女の子もそういう動画を見て、動画のようなことをすれば喜んでくれる・・・とAくんは思い込んでしまったらしいのです。大きな勘違いです。恋愛とか男女の関係ってもっと複雑でエネルギーのいるものだって思うのですが。それは小さい頃からの友達とかの関係から、もっと複雑な感情の振幅を経ながら、徐々に徐々に成長していき、実ったり実らなかったりを繰り返し、異性というものを理解していく。ところが、今回、そんなものをすっ飛ばしていきなり大人の、しかも結構、裏社会へ急に飛び込んでしまった。そんな気がしています。」

「なるほど。まあ、私見は後でお聞きするとして。」

「それで近所に住む憧れの、仮にBさんとしますが、呼び出して動画を見せ、押し倒してキスしようとしたらしいんです。」

「・・・。そこから先も?」

「ん、まあ何とも言えませんが。動画を見せられたことだけでもショックだったBさんでしたが、Bさんは両腕をつかまれて押し倒されて・・・。で、Aくんに覆い被さられてきたので、Aくんを思いっきり突き飛ばして逃げたそうです。」

「・・・。無事だった?」

「一応、突き飛ばして逃げたので・・・。ただ、完全に無事とは言えないかもしれません。特に精神的な面で。今回の件がトラウマになるのが心配で、本日お母さんに付き添ってもらい、受診していただいています。お医者の判断を仰がないといけませんが、PTSDを発症してもおかしくない状況かと。」

「これが、大人の不審者の仕業であれば、今以上に状況は深刻だった思います。」

同席していた村上は由美子のことを思い出しながら発言した。

「担任の村上です。今、彼女は母親と病院に行っています。あの子は見かけによらず、おっと失礼、とっても純粋ですが、強いところもあるし、何よりも明るい。きっと乗り越えてくれると信じています。」

「先生、よろしくお願いいたします。」

「一番難しく大変なことですが、この手の問題は興味本位の関心を引きやすい。二人のプライバシーを守り切らないと二次被害がとどめを刺してくる。このことは口が裂けても口外しないよう、お願いいたします。みなさんにはどうか、今回の事案は棺桶の中までもっていってください。」


腕を組んでしばらく考えていたPTA会長が口を開いた。

「先生、ちょっとお聞きしていいですか?」

「どうぞ。」

「もうGIGAスクールが始まって4年くらい経つんじゃないかと思いますが、子どもたちのメディアの実態ってどうなっているか、また今回のご家庭というよりは、学校全体でのご家庭での状況はどうなっているか把握されていますか?もし、把握出来ているのなら、教えていただきたいと思います。家庭の問題としてPTA会長という立場上、責任を感じておりますので。」

「会長様、ありがとうございます。学校では今年端末の更改があり、クロームブックからアップルのiPadに変更になりました。これらは学校ではWi-fiで高速回線につながっています。ご家庭でもWi-fiに接続しても使えます。子どもたちが宿題でデジタルドリルをしていますね。」

「ええ。好きですね。よくやってます。」

長「子どもたちはとても早く使いこなしますね。抵抗がありません。学習も楽しんでやっています。学校では当然教師がついていますので、学習以外の使い方は出来ないようになっています。また、教員だけではなく、MDMモバイル・デバイス・マネージャーというアプリがインストールされていて端末一台一台がコントロールされています。勝手にアプリをインストールしたりすることは出来ません。また、Wi-fiにつながっていれば、使用状況も把握できます。ロックを掛けたり、位置情報を取得したりすることも可能です。加えて学校では21時以降翌朝の8時までロックがかかり使用出来ないようになっています。また、フィルターもかかっており、暴力や薬物、性的なコンテンツ等、有害と思われる情報にはアクセス制限がかかっています。つまりは、学校で貸与されている端末では安全な環境で運用されていると言えます。」

「なるほど。やっぱり学校ですね。」

「ただ、ご家庭ではまちまちだと思われます。市教委はその点、把握されていらっしゃいますか?」

「市教委では簡単なアンケートで所持率はこの前把握したばかりです。中学生が7割、小学生も3割が自分専用の端末、スマホやタブレットですが、保有しているという結果が出ています。今、未成年に販売する際には原則デフォルトでフィルタリングをかけなければいけないことになっていますが、親御さんが許可すれば外すことも可能です。聞いたところによると中学生は半数以上が子どもたちにねだられ、外していると聞いています。」

「かなりが、野放し状態ということ・・ですか?」

「具体的な調査をしたわけではないので、なんとも。それにこれはご家庭の問題なので、基本、学校は手も足も出ないに等しいのです。でも、問題が起こるとこのように学校が対応しているのが本当のところです。」

「まことに済みません。」

「いえ、お父さんを責めているわけではありませんよ。海外では、子どもたちの保護のために政治が動き出しています。オーストラリアでは法案さえ可決しましたね。経済優先で子どもたちの保護が二の次になっている政治の問題も大きいと思います。政治と金の問題ばかり採り上げている野党も、もう少しこの問題を政治化してくれればいいのに、というのが、私の本音です。」

「PTA会長としてもまず実態調査に移りたいですね。そして、本気でこの問題に学校といっしょになって取り組んでいきたいと思いました。そう言えば、たしかICTにお詳しい先生がいらっしゃいましたよね。」

「ICT支援員の國元ですね。ちょうど今日はこの学校の勤務だと思います。」

「お話を少し聞けませんか?今の現状というか・・・。」

「急に言ってもどうかと思いますが、この前、別の学校の職員とPTA向けに話をしてきたらしいですから、聞いてみます。教務室に内線入れてくれる?」

教頭がインターホンをとって教務室に連絡をとる。

「ちなみに國元ですが、小学校の校長を退職して3年くらい前からこの職についております。若い時からずっと情報教育に携わってきたらしく、ちょっと異色の教員です。」

「異色?」

「あの人の本業というか、國元さんって本来ばりばりの文系で退職後は法律系の事務所を構える予定だったらしいです。しかし新たに事務所を借りることに奥様が反対されて、年金が出るまでのつなぎとして今の仕事に応募してきたのです。」

「教員は続けられなかったのですか?再任用でしたっけ?」

「まあ、心機一転、教員とは全く別の道に進みたかったらしいですね。あ、だいぶ個人情報を漏らしてしまいましたね。」

ドアをノックする音が3回。

「どうぞ。」

「ICT支援員の國元です。お呼びでしょうか?」

「國元先生、(かくかくしかじかで)今の現状や問題点をかいつまんでお話しいただけないでしょうか?」

「いや、それだったら大学の先生とかをお呼びする方がいいんじゃないですか。私みたいなどこの馬の骨とも分からないやつが説明するよりも・・・。それに私はもう先生ではないので、『~さん』でお願いします。」

「國元先生、あ、いや國元さん。私たちは権威主義じゃないですし、あなたに説明していただくのは『タダ』ですから。」

「『タダ』ですか?その『タダ』は気に入りました。では。」

ニコリと微笑む國元に分からないように校長がPTA会長にウィンクする。(ほら、異色でしょ?)

「報酬は市からいただいておりますので。では、そこの大型モニターをお借りします。」

國元支援員は手際よくアップルTVからHDMIケーブルの自分の中古PCに接続し直すとパワーポイントを使って説明を始めた。

「先ず、世界の現状を説明いたしましょうか。今世界的には子どものスマホ、特にSNSですが、制限の方向に向かっています。まず、喫緊の昨年の動きからですが、

・3月25日、アメリカ(フロリダ州)にてですが、デサンティス知事が、13歳以下の子どものソーシャルメディアの使用を禁止した法案に署名、これは本年1月1日から発効しています。

・4月30日、フランスでは、大統領委託の調査報告書で、スマートフォンは11歳まで、ソーシャルメディア(SNS)は13歳まで禁止すべき等の報告がなされています。

・11月28日、オーストラリアにて:16歳未満のSNS利用禁止法案が可決されました。これは特に画期的ですね。中身は子どもたちに制限を課すというよりは、手立てをとらない提供側にペナルティを科すというものです。もうけるために子供たちを餌食えじきにすることは許さないということですね。日本のように自由をはき違えてはいない。

これらの動きが起きているのはご存じの通り、これらのメディアを通じていじめや性的な画像の流布、多額の課金など、子どもたちが危険にされされ、実際に多くの命が奪われているからです。少し前にフェイスブックのザッカーバークCEOが連邦議会の公聴会で謝罪しているニュースが大きく報道されたので、ご覧になったみなさんも多いでしょう。」

「・・・。」

「しかし、トランプ氏がアメリカ大統領に返り咲き、これらの規制も後退していくのが心配なところではありますが。」

「小学生の所持率はどれくらいなんでしょう?」

「この学校のことは承知いたしておりませんが、N通信会社系の調査によると2023年で小学校の高学年の所持率は4割を超えたそうです。」

「確かに。今回の二人も自分のスマホをお持ちでしたね。」

「恥ずかしながら。」

「いえ、4割と言えばもう『普通』ととらえてもよろしいかと。」

「そうですね。私たちは買い与えてそれっきりだったということはないつもりでしたが、はっきり言って実態が何も分かっていかなかったし、十分な指導をしていなかった・・・ということですね。」

「申し訳ありませんが、そうですね。ただ、それはみなさんだけの問題ではありません。今回の出来事でPTA全体の問題と捉えました。」

「先ほどの所持率を詳しく見ていくと、2024年夏の時点で小学校から高校にかけての所有率が約48%、特に小学生から中学生へ進学んだ段階、つまり12歳で所有率は60%を超えるまでに跳ね上がります。それまでは『持っていないお子さん』が過半数ですから。入学祝いとか、もう中学生だからという理由で買い与えてしまうんでしょうね。子供たちはすぐに使いこなすし、その点で『大人になったと勘違い』しているんでしょうね。」

「スマホを持っていることでのデメリットは分かっているつもりではあるのですが、先ずメリットとデメリットを確認させてください。」

「そうですね。小中学生にとってはどうなんでしょう?『タバコ』みたいなものでしょうか?『百害あって一利なし』というか・・・。それは後ほど説明しますが、大人にとってはメリットはものすごく大きいです。かの『ホリエモン=堀江貴文ほりえたかふみ』氏の言うとおり、スマホ一台あれば世界相手に会社経営から美術展まで何でも出来る時代です。いや、それよりも今や就職活動や就労には欠かせない。また、金融や消費活動においてももはやインフラとなっています。商品の注文や支払いもどこでもいつでも出来る。それはそれで大人になったら『スマホなし』はありえません。」

「では、与えるべきだと。」

「そうですね。大人になったら必要に応じて『自分で』買うべきです。しかし、今度は『タバコ』よりも『車』に例えた方がいいですかね。」

「今度は車ですか。」

「ええ、車は便利どころかなくてはならないものになっていますよね。特に地方では。」

「いや、車がないと困る。」

「でも考えてください。いきなりお子さんに車を買い与え、公道を走らせますか?ゲーム機でレーシングゲームをしていれば大丈夫と。まあ、子どもたちは何でも早いですから、すぐに運転操作は覚えるでしょう・・・けど。」

PTA会長は腕組みを一度解き、再度組み直して発言した。

「・・・そうですね。今の現実社会では公道を走るためには『教習所』で練習をし、簡単なメンテナンスや交通ルール、事故が起こったときの対処や救急処置まで学んで、テストに合格し、やっと『免許』が与えられる仕組みですね。特に交通ルールは公道を走る上で重要ですね。まあ、ゆるゆるで、形式的ですけど。免許がないと困る人たちもいっぱいいる訳ですからね。」

「で、デメリットですが、子どもたちにとっては山ほどあります。先ず身体的な弊害です。すぐに思い浮かぶのが視力低下です。学校保健統計によれば「視力0.3未満」の小学生は2005年度調査の5.7%から2022年度調査では11.9%に倍増していす。また、統計的な数値は得られなかったのですが、『肩こりに悩む小学生』が増えているそうです。視力低下、ストレートネック、そしてタブレットを持ち運ぶ驚異的な重さのランドセル・・・。教科書を学校に留め置く『置き勉』も行われているのですが、追いついていないのが現状ですね。」

「いや、私も1年生で入学した娘のランドセルを持ってみてびっくりしたことがあります。おっ重いのなんのって。通学というよりは『痛が苦』ですね。」

「それに依存症。『やめようと思ってもやめられない状態』を病気として定義したものです。ゲームや動画視聴により、快楽物質分泌→枯渇→不安状態→快楽物質希求といった麻薬などと同じプロセスでどんどん依存性が強化されていくひとつの病気の状態です。これは『ゲーム依存症』として1995年頃からアメリカで話題となり、医学的に定義されていきます。Windows95が発売された頃からですから、ずいぶん古くから『病気』として認識されたいたことになります。症状が進んでくると『不眠症やうつ、暴力的な言動による反社会的な行動』が出現し、社会生活がまともに営めなくなります。」

「そんな古くからですか。影響は大きいですね。」

「そういえば、少し前にも韓国で話題になりましたね。」

校長が付け足した。

「次は『犯罪』の問題です。小学生に関して基本的に刑法的な処罰はありませんが、民法上の損害賠償が保護責任者たる保護者の皆様に請求されることは十分ありえます。コンビニテロで何百万円も損害賠償されたとか・・・。アメリカでは億単位はざらですね。が、その事例は多くないので割愛いたしましょう。」

男子児童の親御さんが下を向く。

「むしろ、犯罪の被害者となる問題です。最初にお話ししたSNSに関わることが非常に多い問題です。日本財団の調査によると2016~2021年にかけてSNSがらみで小学生から高校生が犯罪に巻き込まれる数は毎年大体1700~2100件くらいを推移しています。まあ、年間2000件くらいということですね。内訳は高校生が過半数、残りは中学生がほとんどです。小学生は4%くらいです。内容は青少年健全育成法違反、児童買春、児童ポルノ、児童福祉法違反、重犯罪となっていますが、児童買春、児童ポルノ併せて大体半分を占めていますね。小学生の割合を数値に換算すると約80人ということになります。多いでしょうか、少ないでしょうか?」

「・・・。」

「そうですね。ご想像の通り、おそらくこの数字は氷山の一角でしょう。そしてもっとも大事な視点は『小学生もいつまでも小学生ではない』ということです。いずれ、中学生、高校生となっていくのです。」

「・・・。」

「また、これらは『時間と金を溶かし』ます。」

「溶かす?」

PTA会長が首をかしげる。

「そうです。課金によって得られるのはほとんどの場合、一時的な『快楽』です。自制心がある大人でも難しいこれらの自制が小学生や中学生に十分出来るでしょうか。また、彼らは大人と違って『お金の価値』が分かっているようで分かっていません。お年玉でもらっているようなお金は労働して得た対価とは感覚が全く違います。あえて言えば『そこらへんの石ころ』と変わりない感覚だと思います。平気で課金します。」

「しかも、親のカードで現金は扱わず、数字だけの世界だからなおさらですね。」

PTA会長はなるほどといった表情であいづちをうった。

「また一番の問題は、子ども時代の貴重な時間を浪費してしまうことです。子供の頃はなんかたっぷり時間があった、時間が長かったような感覚がありますよね。その中で友達と遊び、自然の息吹にふれ、近所の人と関わり・・・体験を通していろいろなことを学びました。ところが学ばなければいけないことが山のようにある中で、ゲームや動画をひたすら見続けたり、くだらないチャットのやり取りに神経を費やしたり、一時の快楽の連続や掟によってそれらを溶かしてしまうのです。」

「『掟』ですか。『既読無視』や『既読ブッチ』のこと?」

「まあ、そんなところですね。」

PTA会長は腕組みをしたまま足を組み直した。

「それから、興味深い調査があります。おそらく東北大の調査だと思うのですが、SNSと学習時間、全国学力状況調査の関係を調べたんですね。結果はどの学年どの教科でも、SNSの使用時間が長いほど、正答率が低くなる傾向がみられたということです。特に差があったのは中3数学。使用が4時間以上のグループと30分より少ないグループでは、平均正答率が18.5ポイント違ったそうです。また、最も差がなかった中3国語でも、12.3ポイント差があったそうです。」

「SNSに費やす分、学習時間が短くなるということですね。」

「いや、違います。ここがもっとも大切なポイントですが、これは家庭学習の時間に全く差がなくても、つまりどれだけ同じ時間勉強していてもSNSの使用時間によってでも差が生じる・・・SNSの使用時間のみが条件なのです。」

「えっ?学習時間が同じでもですか?学習時間が少なくなるんじゃ?」

「いえ、『同じ家庭学習時間でも』です。」

「・・・。」

「ああ、それからネット社会で気を付けなければならないのはメディアの特性についても学習が必要ですね。対面での会話、音声での会話、文字での会話・・それぞれ特性が違いますし。それから『エコーチェンバー現象』や『確証バイアス』、『アテンション・エコノミー』等の特性と危険性などについても知っておく必要がありますね。しかも体系的に。」

「先生、あ、國元さん、じゃどうすれば・・・。」

「それは私の考えることではありません。」

「そう、無碍むげに切らないでくださいよ。」

「失礼。この市では、いや、おそらく県内のほとんどの市では適切な対応が出来ていない。国では一応、情報モラルやデジタルシチズンシップに関してのたたき台を示してはいるのですが、なんせ、学習指導要領にそれらが位置づけられていない。それはそうです。山のように指導事項があるのに、それらの時間の確保は各校任せの実態なのです。地域の実態や自主性を尊重しているつもりなんでしょうが、GIGAスクールに取り組んでいるのに、行政のスタンダード、『補助金』政策で何でもしているのが悲しい。もっとオーストラリアのように立法によって子どもたちを守る必要があると思います。事実、教育委員会にお世話になりながらも忖度そんたくしない意見を述べさせてもらえば、『情報モラル』『情報の特性』『情報の危険性』『偽情報の罠』『健康被害』『情報依存症』などの闇の部分の理解はもちろん、『情報の本当のメリット』についても計画的・具体的なカリキュラムが実施されていない。それもそのはずで、実施シソーラスやカリキュラムそのものが策定されていないという実態があるからです。市教委のご意見はどうですか?」

「『学習指導要領』や国の教育政策に問題がある・・・と逃げてきたような気はします。確かに、そのような指導が行われているとは言い難い。他にも山のように指導事項があり、情報教育だけに偏るわけにはいかないし、実際具体的な時間が国語や算数のように定められているわけではないので、各校任せになっておりました。かといって、私もその立場にはないし・・・。」

「課長さんでしょ。何のための課長さん?私の会社にはあなたのような管理職は必要ありません。私の会社であれば・・・ですが。」

「先生、勘弁してくださいよ。」

「先生ではありません。『さん』付けで。課長さん、早急にシソーラスとカリキュラム、そして、その位置づけと実施の評価について作成し、議会に提案してください。ここにPTA会長さんもいらっしゃいますので。」

「?」

「PTA会長さんからは、議員さんたちを動かしていただき、予算確保をしていただきましょう。議員さんを含め、行政を動かすための具体的なことについては力になります。批判は覚悟の上です。次世代の子どもたちを守りましょう。」

「全く、國元さん、貴方って人は・・・。」

課長はやれやれという顔をしながらもなんか目をキラキラさせている。

「國元さん、ありがとう。全面的に協力させていただきます。」

「?・・・違います。PTA会長さん、私が貴方に全面協力するのです。子どもたちの救世主は貴方が担うべきです。」


その後、このPTA会長の立案で、議員有志の会が発足し、議員立法を経て、有識者会議が立ちあがり予算と人員が確保された。この有識者会議は県や国とも連携をとり、地元の大学を巻き込んでカリキュラム作成委員会も立ち上がり、体系的なカリキュラムとそれを各校で実践にうったえる組織が立ち上がった。その指導時間も教育委員会主導で各校に位置づけられ、指導とその結果報告が義務づけられた。國元氏は議員立法までを裏で支えたらしいが、そこでふいっと消えたそうだ。國元氏としては法律系がもともと専門だったので、後はきっと若い人たちにたくしたのだろう。




放課後、由美子は気になって通子の自宅に向かった。

ピンポーン!通子とお母さんはすでに病院から戻っていた。

「あら、由美子ちゃん。どうしたの?」

「通子さん、元気かなと思って?」

奥から掛けてくる足音が聞こえる。いきなり、バーン!と通子が飛びついてきた。

(なんだ、なんだ!)

「由美子~、ゴメンね、心配かけて。」

無理矢理引き釣り込まれるように通子の部屋に拉致された。通子のお母さんは、ありがたそうに二人を見つめていた。

「由美子ぉ~、どぉしたのぉ~。」

部屋に引き釣り込まれてランドセルも下ろせないまま、通子に絡まれている。

「なんか通子、急に休むから・・・。しかも今日、学校で何か知らないけど先生は何時間か自習のまま居ないし、知らない人とかPTA会長さんとかも結構学校に集まっていたから。何か気になってというか、(嫌な予感もして。前の私の事件みたいな・・・)で、通子のことが心配になっちゃって、来ちゃった。」

「ありがと。由美子。いつまでも親友ね。」

「元気そうね。」

「まあ、何とかね。・・・・・・・・・・・・、由美子、聞いてくれる?しかも絶対に秘密で。」

「何かあったのね?」

「うん。・・・・。」

「・・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・。」

「・・。」

「・。」

「・。」

「あのね、昨日、近所の5年生の男子に呼び出されてね、スマホで変な動画を見せられて、困ってたら押し倒されて・・・キスされそうになったの。」

「!?・・・『されそうになった』って!・・・て、ことはとりあえずは、無事だったのね。」

「内緒よ。あ~でも、なんかすっごく気が楽になった。由美子にぶちまけたら。」

「・・・。」

「でね、その動画が外国のやつで、モロだったの。今思い出しても気持ち悪くてゲロ吐きそうになる。オェ。」

(えーっ、モロォ!?アレだよね・・・)ゴクン、由美子はつばを飲み込んだ。聞こえないようしようと思ったが、思いっきり音がした。

「でね、男のもうあれって『汚れまくった道ばたにあるお地蔵さん』・・オェ。もう一方は『ジャングルかなんかに咲いているようなつるだらけの食虫植物!』オオェ。もう、トラウマ!気持っちワルーーー。」

「(汗汗汗)・・・。」

「最初のそれだけで、気持ち悪くなって目をつぶってた。そしたら、あいつ私のことをいきなり押し倒してキスしようとしているの。で、思いっきり蹴飛ばしてやった!あれってもう柔道の巴投げってやつ?」

「ふう~。通子ったら。」

「でも、あの動画にはさすがに参った。もうトラウマ。前に村上ちゃんと三人でいろいろ話をしていなければ、今回はもっとグサッときていたと思う。男って汚いやつ(?)だってどこかで思うようになってたから、持ちこたえられたような気もする。でも、動画はオェェ・・・。『見たくない権利』ってほんとにあると思った。」

「・・・それ、よほどショックな動画だったんだね。しかし、その男子、どうやって手に入れたんだろ。」

「まあ、ネット社会はそんなもんだよ。たまにそんな広告があるし、めずらしいことじゃない。(※この『小説家になろう』のサイトにもちょいエロがいっぱい・・・)村上ちゃんもあんな動画見てよろこんでのかな?」

「私は違うと思うけど。」

「『けど』かぁ、あり得ないことじゃないよね。村上ちゃんも男だもの。」

「・・・まあ、キスされなくてよかったね。」

「・・・。」

「あれ?通子、どうした?急にしおらしくなって・・・。」

「ううん。ちょっと後悔してるの。」

「?」

「村上ちゃんのこと。『不倫』の話したときに、私、村上ちゃんにチューしちゃったじゃない。あれって、今回されたようなことを私はしちゃったような気がして。やっぱり同意もなしにこういうことをしちゃいけなかったんじゃないかって・・・。」

「通子は本当に『純』な子だと思う。通子って、本当にイイやつだよ。だから、こんなにも違う二人の馬があうのかなって。」

「今回の件、村上ちゃんも知ってる。口止めされたから。『話したくなったら俺が聞くから絶対に話すな』だって。由美子にもだよ。」

(先生、私の時と同じ事言ってる)

「でも、話しちゃった。・・・内緒ね。」

「もちろん。」

「明日学校に行ったらこの前のこと、村上ちゃん、いや先生にきっちり謝る。」

「明日、学校は大丈夫なの?」

「ああ、マスクしてゲホゲホしていくわ。うつすぞ~って。」

「いや、そういう意味じゃなくて。5年生の男子は?」

「廊下ですれ違う度に後頭部を平手で思い切りたたくって・・・してやりたいけど、若気の至りとして許す!まあ、それだけこの通子さまが魅力的だったってことで。」

「はい。はい。」

下から通子のお母さんが叫ぶ。

「由美子ちゃん、もう遅いからうちで夕食たべてく~?」

「あ、いえ。もう帰ります。おじゃましましたぁ~!通子、じゃあ明日また学校で。」

「うん。気を付けてね。前に不審者も出たらしいから。」

(ぐさっ・・・)


何度も申し上げますが、この童話はフィクションです。登場人物も何もかも虚構の世界となります。

当然正しい情報があげられているとは限りません。情報はそれを得る人が判断するものです。鵜呑みはいけませんし、自分の考えと近い情報ばかりに接するのはたいへん危険な行為です。しっかりとデータで考え、クリティカルに情報と接すること、そして自分の責任において判断することが重要です。

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