第12章 拉致
拉致
この章は1度ほぼ書き上げたものがファイル破損により消えたものです。そのショックは大きかったです。それはこの章をお読みいただければ分かると思います。
悲しみ・怒り・絶望・・・いろいろな感情が交じる執筆活動でした。でも、書き足りない。
主な内容は3つ。由美子たちの学習から広がっていきます。
1:北朝鮮による拉致問題(含:大韓航空機爆破事件)
2:○○少女監禁事件
3:○○小2女児殺害事件
由美子、高校生に本当に感謝だよ!
第12章 拉致
「拉致」って一般的な名詞で「強制的に連れ去ること」だが、この言葉は既に一つの大きな事件を指し示す言葉となっている。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による拉致問題だ。北朝鮮は民主主義の共和国とは冗談でも名乗れない、独裁国家となっている。
由美子たちの住んでいる県は昔から北朝鮮との交流があった。それこそ、北朝鮮はこの世のパラダイスであるとの情報を信じ、この県の港から日本人の移民が数多く北朝鮮を目指したこともある。もちろん、当地がそんなパラダイスであるはずもなく、多くの者が悲惨な生活を送ったという歴史もある。また戦後は在日していた人々の帰還に使われたり、家族の行き来、朝鮮学校の修学旅行になども使われた。不定期に就航していたのが「万景峰号」という船名の船である。旧ソ連のウラジオストックとの航路もあり、当時は非常に珍しかった外国人(ロシア人)も港のある県庁所在では見かけることが出来た。しかし、関係悪化もある中、麻薬密輸事件などを発端にこの船の入港は半世紀もなくなっている。
昭和52年(1977年)11月15日、一人の中学1年生の女性が北朝鮮に拉致された。横田めぐみさんだ。今の私たちとほぼ同じくらいの年齢だ。そのほかにもこの県からからは多くの方が北朝鮮に拉致された。中には2002年10月15日、蓮池夫妻や曽我さんのように日本に帰ってこられた方々もいらっしゃるが、横田めぐみさんなど、多くの方は帰国を果たしていない。
特に横田めぐみさんは、1987年11月29日に大韓航空機が北朝鮮の工作員によって飛行中に爆破された事件で、その工作員金賢姫たちの日本語教育係の一人だったとされる。そういう意味では北朝鮮にとっては帰国させることを十分ためらう理由があるだろう。(蓮池さんたちも北朝鮮の活動についてあまり語られていないように思うが、当然だろうと思う)
ただ、とにかく早くめぐみさんたちを返してくれ!もうタイムリミットがすぐそこまで迫っている。
さて、由美子たちは詳しく学習することはないのだが、ここで大韓航空機爆破事件について思い出してみよう。これもスパイ映画を地でいくというか、それを超えるような『事実は小説よりも奇なり』という事件だった。我々平和ボケしているほとんどの日本人には異次元空間での出来事の感覚に似ている。しかし、世界では地下で動いているものの、これは紛れもない現実なのだ。(当然日本でもそれなりの活動はある)
日本がバブル景気の真っ只中、1987年11月29日、タイ・バンコク経由、韓国・金浦空港行き、大韓航空858便がインド洋上空で爆破され墜落し乗客・乗員115名全員が帰らぬ人となった。犯人は蜂谷真一、蜂谷真由美の日本人親子を名乗る北朝鮮のスパイ、金勝一と金賢姫である。二人は1988年、韓国で行われるソウルオリンピックの妨害のため送り込まれた工作員だった。
二人は11月中旬にソ連、ハンガリー、オーストリアを経由し、ユーゴスラビアで爆弾を受け取り、イラクに飛ぶ。バクダード空港から大韓航空858便に乗り、爆弾を仕掛けてアブダビで降りた。機体はタイ・バンコクに向かうインド洋上空で爆発、墜落した。二人はイラクからバーレーンに出国した。
11月21日には二人が偽造パスポートを持っていること突き止めた日本大使館員らは彼らを追い、バーレーンの現地警察の協力を求め、間一髪で二人を確保した。しかし、取り調べの際、二人はタバコに仕込んだ青酸カリカプセルを服薬し、自殺を図る。金勝一は死亡、金賢姫はカプセルを十分にかみ砕けずにいたために一命を取り留める。その後、金賢姫は韓国に引き渡された。彼女は担当者からソウルの街を案内されたという。それは本国から聞かされたいた姿とは全く違っていた。彼女は韓国の本当の姿を知り、本国から騙されていたことに気付く。そして自ら北朝鮮のスパイであることを認め、作戦の一部始終を語り始めたという。これが12月15日のことである。
日本人の犯行と見せかけることに失敗した他、金賢姫の口からは次々と日本人拉致に関わる情報がもたらされた。李恩恵と呼ばれる日本語教育係が拉致被害者の田口八重子さんであるとか、日本語教育係として横田めぐみさんも拉致された等の情報ももたらされたと言われている。(帰国した被害者の証言記録は存在しないことになっている)
つまり、横田めぐみさんたちの解放は、それらのスパイ養成の過程が明らかにされてしまうことに他ならない・・・。ただし、この大韓航空機爆破事件はめぐみさんの拉致問題の中で登場することはほとんどない。先も述べたが、金賢姫は北朝鮮時代に教え込まれたことが全くのウソであることを、自由できらめくソウルの街を実際に目にしたことで納得したと言われている。その後北朝鮮のスパイであることを認め、破壊工作に関わったことを後悔し証言した。彼女もまた被害者の一人だったことは間違いないのではあるのだが。
私たち(由美子たち)の学校でもこの北朝鮮による拉致問題の学習が行われている。ただし、深く関わるであろう北朝鮮の工作活動やその実態について、また、大韓航空機爆破事件等についてはカリキュラム外である。つまり相手国や国際社会にも私たちの常識とは違う常識があるのだということの観点ではない。突然家族をさらわれた親子の悲しみと愛情を中心に学ぶ。ここはヒロシマやナガサキ等の平和学習と同じ構造である。
しかしながら、その一環で今回視聴したアニメ映画「めぐみ」はショックだった。このアニメは政府広報オンライン、YouTubeなどで無料で公開されている。誰でも見ることが出来るのだが、私たちはそれまでだれ一人視聴していた者はいなかった。
アニメの内容はこうだ。日銀名古屋支店に勤務していた横田滋さん(お父さん)と母の早紀江さんの間に生まれためぐみさんが、父滋さんの転勤に伴い、双子の弟たちと家族で私たちの県、県庁所在地に引っ越した。その日常のある日、転校先の中学校でのバトミントン部の帰り道、めぐみさんは忽然とその姿を消した。いつまでも帰宅しないめぐみさんを横田夫妻は死に物狂いで探す。しかし、めぐみさんはどこにもいない、見つからない。最初は誘拐ではないかと県警始まって以来の大捜索が行われたが、何一つ手がかりはなかった。事態が動いたのは拉致された1977年から20年後の1997年1月21日、めぐみさんは北朝鮮に拉致され、生きているという証言が明らかとなったのだ。それからいつもニュースで目にする横田夫妻を中心とする被害者の会の署名活動が始まる。しかし、2002年蓮池夫妻ら帰国した際に、リストが渡され、めぐみさんは死亡しているとされてしまった。後に証拠として渡された遺骨は別人のものであることが分かり、横田夫妻はなおも活動を続ける。アニメはそんな内容だ。
村上先生からはもう一点だけ話があった。それはめぐみさんにキム・ヘギョンさんという娘さんがいたということだ。つまりお孫さんがいたのだ。当然、横田夫妻は死ぬほど会いたいはずだ。だが、彼女に会うということは北朝鮮のいうことをのむということになる。ことは簡単には進まなかった。しかし、結局はその熱意におされ、再会が認められることにはなるが。
普通ならこの後、授業は大討論会になるのが常なのだが、今回はそのままで授業が終わった。感想もなし。村上先生はこの余韻が大きく膨らみ、何かを生むことを期待したのかも知れない。それとも、もしかして村上先生は結構涙もろいので、授業中、自分自身が耐えられそうもないと踏んだのかもしれない。私も辛いけど、ちょっと、らしくない。
その日の帰り道。由美子と通子が並んで歩いている。広がって歩くことになるので、前後には注意を払って歩く。人が来れば一列になってやり過ごす。いつもなら由美子が一列になろうっていって前後で話をするんだけど。今日は違った。
「私も、もしって考えたけど、きっとみんなそうだよね。」
「通子、ひどく真剣な顔してたよ。」
「なに。由美子もっしょ。私や由美子だけじゃなくて、みんなそう。めぐみさん、工作船の中で爪がはげるほど壁を引っかいていたっていうけど、切ない・・・。」
「ほんとになんか悔しい。テロのために拉致されて利用されるなんて。その拉致されてから今までの苦難の時間は、本来なら優しいお父さんとお母さん、滋さんと早紀江さんと幸せな時間を過ごせた時間のはずなのに・・・。」
「由美子泣いてんの?私も。」
「悲しいのはもちろんだけど、本当は怒りの涙かと思う。思い出したら・・・。」
(本当は未だに『恐怖の涙』なのかもしれない。ぞっとする。しかも、そう言えば昔私たちの市から小学4年生の時に連れ去れて、9年間、遠い街で監禁されていた女性もいるんだった。あの事件の後、プリントが配られたことをきっかけに、同市で起こったこの事件が思い出されて話題となった。私も耳にした。その後、その事件を調べてしまった時、本当に恐怖が襲ってきた。しかも、事件は他にもいろいろあったんだ。私ももし・・・。)
村上は教務室でもんもんとしていた。思い出してしまった。村上は地元で起こった、『少女拉致監禁事件』は忘れようにも忘れられない。そして、由美子の事件をきっかけに由美子もこの事件を調べたことも知っている。その時の由美子はひどくおびえていたのを覚えている。なにせ一歩間違えば自分もそうなっていたのかもしれないのだ。そして、いくらも経たないこの時期にカリキュラムとはいえ、思い出したらどうするかと、めずらしくアニメを見せっぱなしで終わってしまったのだ。でも、きっと思い出すだろう。しかも、由美子の悪い癖で徹底的に調べたんだろうから。あのおびえようはやはり小学生女子だ。どんなに大人っぽくても小学生女子は小学生女子だ。
村上はノートパソコンの画面を校務支援システムから別のブラウザに切り替えた。「○○少女監禁事件」と検索バーに打ち込んだ。多くの情報が表示される。この事件についてはかなり詳細な情報が記されている。今は亡き加害者の情報も生い立ちから家族関係、逮捕起訴されてからの証言まで非常に細かく記録されている。また、あまり明かされることの少ない拉致から監禁、救出までの様子まで由美子に見せたくない情報が正確に記されていた。性的な対象もあったのだろうが、発達障害や精神疾患もあった引きこもりの犯人の都合のよい話し相手として『改造』されてしまったようだ。異常なこの犯人の執拗な脅迫と暴力によって。由美子はこのサイトを間違いなく見ている。想像力豊かな子だ。自分と重ね合わせるんじゃなく、その世界に入り込み同化してしまうところが由美子なのだ。深層心理にトラウマを負っていなければよいと願うが。
村上はこの事件を昔、本で読んだ。確か『朝日文庫 ○○少女監禁事件 密室の3364日』著者は松田美智子さんだったと記憶している。2009年頃だっただろうか。
今回はネットで再度、調べてみた。。
1992年11月13日、当時小学校4年生だった女子児童が学校の帰り道にこの市で誘拐された。人気のない道でこの少女を発見した犯人はナイフ(※)でこの女児を脅し、車のトランクに押し込め、連れ去った。現場から60km弱離れたK市にある自宅に戻ると母親に見つからないように女児を自室に連れ込んだ。
(※=ナイフは果物ナイフとかではない。ランボーが使うような大きくてギザギザのついたサバイバルナイフであった。さぞや恐怖であったろう)
この事件が人々の記憶に残るのはその異常性とと期間の長さだけではない。この事実を知りながら県警の幹部が中央の幹部の接待を優先させたり、事実と異なる発表をしたりするといった警察の不祥事が問題となったからでもある。それも加わり全国的にも世間を驚かせた事件であった。
しかし、女性とその家族にとっては絶対に許せない事件だ。言葉では言い尽くせない。確かに犯人は精神的に病んでいた人物であったし、そのご両親にも悪意はなかったようだ。でも、それで済ませるわけにはいかない。
事件は1992年11月13日、放課後男子の野球見ていて帰りが遅くなった下校途中の少女をこの加害者が拉致したことに始まる。ちなみに拉致は『強制的な連れ去り』であり、誘拐は『だまして連れ去ること』と定義されている。従ってナイフで脅して連れ去ったのは私は『拉致』だと思っている。
拉致した(車のトランクに押し込んだ)後、途中で粘着テープで手足を拘束し、口と目にも粘着テープを貼り、自宅まで連れ去っている。その頃はすでに自宅で一人だった母親に見つからないように少女を自室に連れ込んだ。
加害者の自室に連れ込まれた後、読んでいる村上でさえ、その精神をズタズタにし、もう少しで崩壊させるような加害者と被害者の証言がある。「(部屋から)出ようとしたら殺すぞ」「ここでずっと暮らすんだ」「俺の言うことを絶対守れ」「守らなかったらお前なんか要らなくなる」「誘拐されて殺されちゃった女の子のようにお前もなってみたいか」「お前も山に捨ててやる」「海に浮かべてやる」などと言い続け、ナイフを突きつけ、無抵抗なままの女の子の顔面を拳で数十回も殴打し続けたという。わずか9歳の女の子にである。加害者は相手の感情を想像したり、立場を相手に置き換えて考えてみることがほぼ出来ないことが証言から読み取れる。(最近、この手の子供たちが増えているように感じるの気のせいか?)部屋から出ることも許さず、それどころかベッドから降りることも許されなかった。食事は最初は母親に作らせたもの食べさしていたようだが、コンビニ弁当に変わり、回数も一日2回から1回へ。そのうちにおにぎりだけとなっていった。(自分は引きこもりのためにぶよぶよとなり、糖尿病を発症したことで、この少女もそうならないように・・・それって違うだろ。「お前死ねや!」村上にしては珍しい言葉を吐いた)入浴は許されず、9年間でシャワーを浴びせられたのがわずか1回という・・・。
少女が完全に逃げる意欲を失うのにそれほど時間はかからなかった。拘束を解いても自室に鍵をかけなくても少女は逃げなかった。いや、逃げられなかったといったほうがいいだろう。言うことを少しでも聞かなければ容赦ない殴打が執拗に続いたし、母親に買わせたスタンガンを押し当て、『スタンガンの刑』といった虐待が続いた。少女は自分を咬み、痛みに耐えたという。それ以上に村上の精神をえぐったのは加害者が競馬等で居ないときに少女自らがスタンガンを自分に当て、耐えきれない痛みに少しでも慣れようとしていたという供述があることだ。(親はどんな気持ちで公判に接していたんだ!俺にも娘がいる。もし、マナがこの供述のようなことをされていたら。教え子の由美子も同じだ!くそっ!!)
村上は思わず、教務室の自分の机を叩いた。事務の小林さんが何事かと振り向いたが、目を真っ赤にし、鬼のような形相をしている村上に気づき、目を伏せた。
スタンガンを母親に買わせた?9年以上も少女の存在が母親に知られなかった?・・・これにはこの加害者とその家族の関係も異常だったことがある。加害者は少年時代のアルバムを見る限り普通ならかなり持てそうな美少年だった。しかし、彼は精神疾患を患い、その強迫神経症(不潔恐怖症)は日増しに強くなっていった。また、父親が母親の倍近くも歳をとっており、そのことで馬鹿にされたりしたことも嫌だったと供述している。父親はやがて家を追い出され、死別している。
父親は再婚である。しかし、歳をとって出来たこの加害者を溺愛していたという。わがままに育てられこともあるのだろうが、不潔恐怖症はこの加害者を引きこもらせ、激しい家庭内暴力により、母親は完全な言いなりの状態になった。一度も彼の部屋に立ち入っていない。誰もが疑ったことだが、少女が見つかるまでその存在を本当に知らなかったのだという。本来なら絶対にそんなことはあり得ないはずである。そこも今回の事件の異常性を示している。
加害者について裁判でも詳細な記録が残されているし、ずっと事件を追ってきた記者の本も出版されている。
明らかに加害者は障がいをかかえていた。(それは責任能力とは別物であるが)強迫神経症という病気とは別にである。先述したが、ひとつは相手の気持ちが全くといってほど読めないといことが裁判の供述から手に取るように分かる。9歳の女の子の顔面を1ヶ月も腫れが引かないほど拳で殴りつけ、恐怖を植え付けて服従させたはずなのに、それを『慣れたのだろう』と表現している。スタンガンについても同様だ。この発達障害がなければ、これほどの残忍な仕打ちは少しでも和らいだのじゃないかと思われるので切なくて涙が出そうだ。(いや、出ている。目尻が濡れている)もちろん、発達障害に悩む方々をどうこういうつもりはない。むしろ、早く見つけて早期に手立てうつことでしっかりと社会に適応できることは今までの経験からも分かるし、そのために当校、当市、当県でも特別支援教育に力を入れているんだ。
ただ当校にも同様の児童は居る。結構、特別支援学級の担任は怪我をすることがあると聞いている。しかも、それを管理職に報告せずに済ませるのだ。前に蹴られて肋骨の骨折をした同僚がいたが、結局は報告しなかった。その児童を守りたいという気持ちのが働くのだろうか。結局公務災害にはせず、自費でまかなった。(これって労災に関して違法じゃないか?)とにかく特別支援学級の担任は本当によくやっている。畳の目を数えるように本当に地道にやっているのだ。(むろん、例外もあり、学級担任を任せられない教員を充てるということもある。少人数を相手に教育について改めて見つめて欲しい・・・というのは建前?教員の質も年々低下しているし、大丈夫だろうか)
少女が見つかる発端もこの加害者の不潔恐怖症による引きこもりと家庭内暴力だった。日常的に繰り返される家庭内暴力に耐えきれず、関係機関に相談し、医療につなげることが決まったのだ。最初は家庭訪問から始まったが本人への面会は出来ず、『医療保護入院』させることに母親も承諾した。万が一暴れた場合に備え、警察にも連絡して福祉相談員、精神科医、指定医、ソーシャルワーカー、看護師、そして市の職員が踏み込んだ。
入院の措置を告知したが、予想通り、大暴れする。しかし、警察に連絡するも署員は出払っていた。押さえつけて鎮静剤を注射した。しばらくは暴れていたが薬が効いてやっと眠った。子どもの頃の面影はない。メンバーはここで踏み込んだときから気になっていた膨らんだ毛布に再び注目する。中には?中には異様に白い肌の女性が入っていた。
「あなたは誰ですか?」
9年ぶりの他人からの声がけだった。しかし呪縛はとけず、この家から出ることを拒んだという。それでもメンバーは彼女を説得し、家に帰ろうというと
「私の家はもうないかもしれない。」
との応えが返ってきたというので、メンバーはこの女性を保護し、病院へ向かった。警察には身元不明の女性が居たことを告げたが、
「そんなことまで押しつけないでくれ。もし家出人なら保護する。」
と言い、そちらで名前や住所を聞いてくれと相手にしてくれなかったという。不祥事の始まりである。彼女から聞き取りをおこなったメンバーの中に9年前の事件を覚えている者折り、再度警察に連絡し、指紋により身元照合を行ってもらった。9年前に居なくなった本人であることが確定した。すぐに幹部に連絡を入れたが、結局最初のとおり、接待が優遇され、前代未聞の警察の不祥事となってしまった。
少女が見つかったとき、自分一人で立てないほど筋力は低下しており、身体の各器官も衰弱し、異常な数値だったという。ともあれ、奇跡的に、しかも偶然という状況ではあったが、なんとか生きて彼女は帰還することが出来た。その後、体力的には順調な回復を見せたらしい。また、継続的なカウンセリングが実施されたとも聞く。なんとか社会復帰していてくれることを願うばかりだ。
村上はいったん席を立つと、乱暴に教務室後ろのカウンターまで歩み寄り、マグカップにイレギュラーコーヒーをどさっと入れ、お湯をポットから注いだ。再び、自席に戻る。小林さんもなぜかちょっと村上にびくついているようだ・・・が、村上は気付かない。
この手の拉致されたり、誘拐されたりした事件では被害者が生きて帰ることはむしろ少ない。悲惨な最期を迎えることが多いのが事実だ。
『○○小2女児殺害事件』と今度は検索バーに打ち込んだ。この事件も忘れられないし、忘れてはいけない事件だ。(これ以上、触れると精神的にほんとに参りそうだ・・・)
本県の県庁所在地であった事件である。学校の帰り道、あとちょっとで自宅というところで起こった事件である。由美子もそうだ。この加害者は車をわざと被害者にぶつけ、車に連れ込んだ。そのまま海に近い広場まで移動し、そこで女児の首を絞めて気絶させ、わいせつな行為に及んだ。女児が意識を取り戻すと今度は本気で首を絞めて殺害した。証言では殺意はなかったというが、強い力で何分も首を絞めた痕があったという。女児を殺害後、そのまま自宅にもどり、遺体に対して性的暴行に及んだという。(畜生野郎!)
村上は吐き気を炭を溶かしたように苦いコーヒーで押さえた。
おぞましさはこれだけではない。その後、加害者は女児の遺体を線路内に遺棄し、意図的に電車に轢かせ、幼い遺体を損壊した。
この加害者はネットで知り合った未成年者と関係をもち、また事件の一ヶ月前にも同じく未成年者を連れ回して書類送検されていた。
この事件について、ご遺族も検察も死刑を望んだが、加害者は無期懲役で死刑とはならなかった。
昨年やっと日本版DBS(Disclosure and Barring Service)の法案が閣議決定されたが、これはイギリスで行われている『子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないか確認する制度』の日本版である。今回の場合の犯人は該当の職業ではないし、この法案で防げた事例ではないと思うが、子供たちを守ろうという動きは大いに歓迎できるものだ。憲法第22条「職業選択の自由」等に違反するのでないかという意見もあるが、それはあくまで「公共の福祉に反しない限り」のはずだ。仕事を法的に又は事実上制限されることはあって当然なはずだ。法は何のためにあるのか。
ともあれ、広幸・貴之コンビが助けてくれたおかげで由美子は無事だったことは確かだ。
これらの状況が発生しても俺たちははっきりいって無力だ。子どもたちも無力に変わりないが、知識を与え、判断力を養うことによって少しでも確率を減らすことはできるんじゃないか。また、『見守りパトロール』のじいさん、ばあさんも不審者に対峙することは出来ないとは思うが、その存在があり、可視化されることによって安心・安全が大きく担保されていることは間違いない。ほんとに感謝だよ。子どもたちには当たり前になりすぎて感謝の気持ちさえ、忘れている児童もいるが、俺たちがしっかり伝えなきゃならんことだ。
事務の小林さんがちらっとこちらをみた。
「村上先生、さっき『大魔神』みたいな顔してましたよ。今は『埴輪』みたいな顔に戻ってますけど。なにかあったんですか?」
横からすかさず教務主任の堀川がちゃちゃを入れる。
「えーっ!小林さん、『大魔神』って知ってるの?Z世代でしょ。」
「うちの祖父が『でーぶいでー借りてこいっ』ていうから、借りてきて一緒に観たんですけど、すごくよかったです。」
「何がよ?」
「いえ、昔の特撮って可愛いなって。『ゴジラ-1.0』のVFXと比べちゃって。あれ、今のVFX技術で撮り直したらどうなるんでしょう。きっと、すごいけど、当たり前すぎて逆に新鮮味がないのかもれしれないなって思ったんです。『一週遅れの最新』っていうか、『味』っていうのかな、私、いいなって思ったんです。昔の映画、いいですよ。コンピュータに頼らなくても知恵と技で切り拓くみたいな。」
「な~るほどね。」
村上は微妙に顔が緩むのを感じつつ、この状況が壊されないことを願っていた。今回、『めぐみ』の視聴後、討論に入らなかった、いや、入れなかったのは由美子があの出来事を『忘れるための日数』を稼ぎたかったからだ。まあ、自分が涙もろいのもあったけど。小林さんには大魔神のわけは教えない。切ないから。
購入した参考文献を紹介いたします。
○「北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実」有田芳生著 集英社新書
○「○○少女監禁事件 密室の3364日」松田美智子著 朝日文庫
その他インターネット情報を参考にさせていただきました。
このほかにも女子高校生コンクリート詰め殺人事件とか、やるせない、切ない事件もあります。
日本は子供たちを守る(女性もですけど)ことに関してはまだまだ後進国のような気がいたします。商業ベースや情報ベースから子供たちを守る仕組み、いや考え方でしょうけど、もっと考え方を切り替えていかないと。給食や高校の授業料の無償化の前にもっとやるべきことがあるでしょう・・・。
ちなみに「メディアの闇」の章はそのあたりに触れていきたいと考えています。これもできるだけ早くアップしたいと思います。




