2 二人の姫君とガールズトーク
ここリエルタは、四方を他国に囲まれた王国である。
リエルタの北から西にかけてかぶさるように位置し、ストレザン公爵領と隣接している国が、ハリバロフ王国だ。
リエルタの国土は四角に近い形をしており、海はない。
気候は比較的穏やかだが、地域によってある程度の差があり、ハリバロフ方面はやや寒く、王都周辺とは違った作物がよく育つ。
果物を主とした農産物の生産が盛んで、自慢の作物を多くの国に輸出している。
対して、ハリバロフの国土は細長く、海にそって湾曲しており、その多くが海に面している。
海産物や塩が特産品で、海を玄関にした他大陸との交易も盛んだ。
代わりに、土の塩分が高く、作物は育ちにくい。
それぞれに違った特色を持つこの2つの王国は、互いに足りないものを補い合う形で、友好国として関係を築いていた。
理解と親交を深めるため、王族の交換留学も定期的に行われている。
今回は、リエルタでは第二王子のディルク、ハリバロフからは第一王女のルーナがそれぞれ留学を希望。
ディルクとルーナを交換する形で、留学が行われた。
留学開始から、約半年。
親交の深い国の姫同士、元より仲のよかったフレデリカとルーナであったが、こうして一緒にいる時間が長くなった今では、大親友とも呼べる関係となっていた。
部屋に待機していたメイドは、お茶とお茶菓子を用意させたら下がらせる。
仲良し二人の、秘密のガールズトークがしたいのだ。
ルーナはフレデリカと年も近く、姫という立場も同じだから、話も弾む。
今日の二人のトークのネタは、恋バナだった。
「シュウはね、私が幼い頃、肩車をしてぶどうを見せてくれたことがあるの! そのあと、私が選んだぶどうをシュウが収穫して、一緒に食べて……。あのとき食べたぶどうが、今までで一番美味しかったなあ……」
「麗しの幼少期ね! それで、最近はどうなの? 進展あった?」
「うっ……」
「……なさそうね!」
「ないから子供の頃の話になっちゃうのお……!」
そう言うと、フレデリカはぺしょっと突っ伏し、ぺちぺちとテーブルを叩いた。
気品のある王女とは、程遠い姿である。
「シュウ……。忙しいのはわかるけど、もう少し、私にも時間をくれたら……」
「フリッカ……」
テーブルに突っ伏したまま、フレデリカは続ける。
「10歳ぐらいの頃だったかな。シュウにいさまって呼び方が恥ずかしくなって、シュウ、って呼び方に変えたの。ちょうどそのくらいの頃から、彼がなんだかそっけなくなって」
過去を懐かしむような、それでいて、どこか寂しそうに紡がれる言葉。
ルーナは、静かにフレデリカの話を聞いていた。
「子供のころみたいに、ずっと兄妹のままじゃいられないのは、わかってる。小さい頃が、近すぎただけなの。シュウは、まだ5歳だった私に気を遣って、兄として振る舞ってくれていただけ。今が、普通の婚約者の距離なのかも」
婚約したばかりのまだ幼いフレデリカは、シュトラウスに抱き着き、頭を撫でてもらっていた。
身を寄せ合ってお昼寝したことだって、何度もある。
成長するに従い、そういった触れ合いは減っていった。
今では、社交の場などでの最低限の身体の接触しかなく、二人きりで会うこともほとんどない。
話す必要のある用事があるときに、少しやりとりする程度だ。
初めこそ、フレデリカからシュトラウスを誘ったが、仕事があるからと断られることが増えていき。
拒絶されることを恐れたフレデリカは、二人で過ごしたいと言い出すことも難しくなっていた。