今日も、明日も、これからも
それから、数か月が経過した。
アルフレドとルーナは、正式に婚約。
婚約と同時に、アルフレドが次期国王となることも決定した。
勉強家の第二王子・ディルクは、アルフレドの補佐にまわることになっている。
ディルクは、アルフレドに王の重責を押し付けてしまったのでは、と気にしていたが、アルフレドはそんな風に思ってはいなかった。
第一王子として誕生した時点で、覚悟はしていたのである。
むしろ、頭のいいお前が補佐についてくれて助かるぐらいだと、アルフレドは、弟の頭に触れながら笑った。
ルーナは、結婚式のあとからリエルタで保護されていたのだが、アルフレドとの婚約を機に、王太子妃教育を行うという名目の元、リエルタの王城預かりとなった。
未来の国母ともなれば、当然、厳しい教育が行われる。
けれど、彼女は隣国の姫であったから元の教育水準が高く、王太子妃教育もそれほど苦ではないようだった。
そばにはアルフレドやフレデリカもおり、王太子妃としてその立場を認められ、蔑ろに扱われることもなく。
彼女は、これまでで一番幸せだった。
テネブラエによる王女暗殺計画を発端として、一時、リエルタとイヴェルク間の緊張は高まった。
しかし、イヴェルク側が必死になって、国としては関与していないこと、高性能な仕込み銃の入手経路やその撲滅、争う意思はないこと、必要であればテネブラエの身柄もリエルタに引き渡すと示したため、なんとか開戦は阻止できそうだった。
完全に落ち着いたわけではないのだが、暗殺対象であった王女・フレデリカも、開戦せず済みそうなことに安堵していた。
テネブラエの独断だったとしても、他国の公爵家の人間であった以上、国家間の問題として扱われる。
個人対個人のように、気にしてませんよ、いいですよ、なんて簡単に言うことはできないし、厳しい対応や各種対策も必要となる。
解決は先になるだろうが、両国にとって良い方向に進んでくれることを、フレデリカは願っていた。
そして、フレデリカとシュトラウス。
式後の休暇もとっくにあけており、二人はそれぞれ公務に復帰している。
結婚後の住処は自由に決めていいと王に言われていたものの、暗殺騒動があったものだから、そのあたりは後回しになっていた。
落ち着いた頃にようやく、住処についての話が進み始め、王城敷地内の、今までシュトラウスが使っていたものとは別の離れに移り住むことが決まった。
建物は以前よりも大きく、使用人も常駐する予定だ。
フレデリカは城から、シュトラウスは元々使っていた離れから、引っ越しの準備をしていた。
荷づくりも進み、新居へ荷物の運び入れを始める日の朝。
「シュウ。あの……」
フレデリカが、シュトラウスの離れを訪れた。
「フリッカ? どうした?」
今日は、昼前に新居で合流する予定だった。
突然の訪問を不思議に思いながらも、シュトラウスは彼女を自分の離れに招き入れた。
ここに残す予定のテーブルに、彼女を誘導しようとしたのだが、フレデリカは動かない。
玄関に立ったまま、あの、えっと、あのね、ともじもじしており、シュトラウスはそんな妻の姿に首を傾げた。
「……? なにかあったのか」
引っ越しを前に、トラブルでも起きたのだろうか。
心配になったシュトラウスは彼女の両肩に触れ、視線を合わせた。
「あの、ね……。引っ越し、いったん中止しなくちゃいけないかもで」
「中止?」
「うん……」
「やはりなにか問題が……?」
「んっと、問題、というか、その……」
どうしてか、フレデリカは視線を泳がせており、シュトラウスと目を合わせようとしない。
フレデリカのこの態度と、引っ越しの中止。
シュトラウスは、一気に不安になった。
もしや、知らぬうちに、彼女の心が離れるようなことをしてしまったのだろうか。
既に結婚はしているが、共に住むことが決まったために、遅れてきたマリッジブルーを迎えている可能性もある。
「フリッカ。なにかあったなら、話してくれ。どんなことでも、受け止めるから」
もうフレデリカを離す気などなかったシュトラウスは、すがるような思いで彼女に懇願した。
そんなシュトラウスへの、フレデリカの答えは――。
「あの、ね。赤ちゃん、できたみたい」
予想外すぎる幸福を突然ぶつけられたシュトラウスは、立ったまま意識を飛ばした。
式の前に、たった一度だけ、彼らは直に触れ合っていた。
あのとき、フレデリカのお腹に新たな命が宿っていたのだ。
シュトラウスは、自分でも知らぬ間に、妻だけでなく子供まで、悪意から守っていたのである。
フレデリカが自身の妊娠を知ったのは、今朝のことだった。
妊娠が発覚したからには、慣れた場所――王城に住み続けたほうがいいだろう、という医師の言葉を聞き、引っ越しが始まる前に、急いでシュトラウスに伝えにきたのである。
こうして、引っ越し先は変更され、二人は揃って王城に住むこととなった。
王城は広いが、王城に住む者同士、すれ違うことなどは少なくない。
弟、親友、夫。それから、妊娠中のフレデリカ。
彼らは、頻繁に顔を合わせながら、同じ場所で暮らしていく。
しばし時が経てば、そこにフレデリカとシュトラウスのいとし子が加わることだろう。
それぞれ父親・叔父モードになり、シュトラウスとアルフレドが身重の身体を心配する声を聞き流しながら、フレデリカは、ルーナと談笑していた。
しかし、男たちは「それは大丈夫なのか」「グラス持てる?」とおろおろしており、とまりそうにない。
フレデリカは、そんな夫と弟の姿に、呆れたようなため息をついた。
「もう。シュウ、アル? 過保護すぎ」
「ここまでだと、逆にフリッカの負担になっちゃうと思うわ」
男たちは、女性二人の意見にぐっと言葉を詰まらせた。
「そうだ、今度、マタニティドレスを作ってもらうことになってるの。よかったら、ルーナも一緒に選んでくれない?」
「まあ! いいの? ぜひご一緒させてもらうわ~!」
「フリッカ……? 俺は誘われてないんだが……」
ショックを受けたような、シュトラウスの声。
親友は誘われたのに、夫の自分は呼ばれていないことに傷ついたようだ。
そんな彼の姿に、フレデリカは慌てる。
「ご、ごめんなさい。その日、王城にいないって聞いてたから……」
「今からでも調整して休みをもぎとる。なんとしてもだ」
「部下を困らせる気か。ルーナに任せてお前は働け」
「……ご自身が同じ立場になったときも、そう言えますか。アルフレド様」
「……!」
男同士でわかり合い、シュトラウスの休みをもぎとるために結託しかけたとき。
「二人とも。次の機会もあるんだから、無理しないで?」
次はあなたの予定も見て決めるから、と、フレデリカがその場を収めた。
王城の一室では、今日も、穏やかな時間が流れている。
本編はこれにて完結です。
ここまで彼らを見守ってくださり、ありがとうございました。
ブクマや評価もいただけますと励みになります!




