15 家族
暗殺の実行犯も首謀者も確保。
安全確認と事後処理は他の者に任せ。
シュトラウスとフレデリカの結婚式と、式を狙っての暗殺計画は、ようやく幕を閉じた。
「ルーナあ!」
「フリッカ……! 無事、で……無事でよかったわ~!」
「ルーナこそ! 密告なんて、危ないことして……! よかった、よかったよお~!」
フレデリカ、シュトラウス、ルーナ、アルフレドが1つの部屋に集まり、互いの無事を喜びあう。
同性で親友のフレデリカとルーナなど、わんわん泣きながら抱き合っている。
一応、その場には彼女らの夫と恋する男もいるのだが、再会した姫二人を引き離すことはできず、男は男同士で並んでいた。
「シュトラウス。実行犯を捕まえたのは、ストレザン領からお前が直々に招集した兵だったそうだな。よくやった。姉さんを守ってくれたこと、礼を言う」
「……事件を防ぐことができたのは、アルフレド様とルーナ姫の信頼関係があったからです。密告者がルーナ姫だと、わかっていたのですよね?」
密告者がルーナであることは、当日まで伏せられていた。
フレデリカもシュトラウスも、挙式後に聞かされて驚いたものだ。
アルフレドは頷いて肯定し、長い長い溜息をつく。
「姉さんとルーナ、二人とも守ることができて、よかったよ。本当に……」
「……ええ。そうですね」
今も、フレデリカとルーナは泣きながらぎゅっとくっついている。
大変盛り上がっており、何故かほっぺた同士をもちもちとさせるところまで進行していた。
夫のシュトラウスとしては、自分がフレデリカを抱きしめたいところではあったが、二人が抱き合い喜ぶ姿は、ここまで頑張ってきた男たちへの褒美のようにも思えた。
フレデリカとルーナ。どちらか一方でも欠けていたら、この光景を見ることはできなかったのだ。
シュトラウスとアルフレドが、それぞれに愛する女性を守り切ったからこその、今だった。
――フリッカのことは、二人きりのときに存分に抱きしめよう。
シュトラウスはフレデリカの夫だから、二人きりになるチャンスはいくらでもある。
今ここで彼女らに割り込み、自分の存在を主張するほど、余裕のない男ではなかった。
この場では引き、あとでたっぷりフレデリカを愛することを決めたシュトラウスが、完全に見守る姿勢になったとき。
「あ、あー……ごめん。ちょっといい?」
と、義弟・アルフレドが姫たちに割り込んだ。
「なあに? アル」
「なにかしら」
二人の世界に突入していた姫たちだが、一応、アルフレドの言葉に反応はしてくれた。
くっついたままの銀髪の王女と青髪の姫は、揃ってアルフレドを見やる。
大好きな姉と愛する女性に一度に視線を向けられたアルフレドは、耐えきれずに「んぐっ……」と声を漏らしながらもなんとか持ち直し、姿勢を正した。
なにか決意した様子の義弟を、シュトラウスが見守る。
正式に結婚した今、義弟のアルフレドもシュトラウスの見守り対象であった。
「こんなことがあったからには、ルーナとテネブラエの婚約は破棄されるだろう? つまり、きみの婚約者の席は空くことになる。……伝えるのが、遅くなってしまったけれど。……ルーナ。僕と、結婚して欲しい」
「……!」
ルーナの青い瞳が、大きく開かれた。
「あ、いや、もちろん、きみが嫌なら、無理にとは言わないんだけど……」
そう続けるアルフレドはしどろもどろで。嫌なら、と言った後は自分でダメージを受けていた。
ルーナはそっとフレデリカから離れ、そんな彼を見つめる。
――あなたは、私の意思を、尊重してくれるのね。
テネブラエとの婚約は、ルーナが知らないうちに勝手に決まっていた。
だから、求婚しながらも、ルーナに拒否権があることも示すアルフレドの一言が、とても嬉しく思えて。
青い瞳いっぱいに涙が溜まり、彼女は駆け出した。
「嫌なわけ、ないわ!」
ルーナから喜びのハグを受け、アルフレドは顔を赤くして硬直する。
そんな彼らを、今度はフレデリカが見守る番になった。
「ねえ、シュウ。二人、婚約できるかな」
「ああ。きっと大丈夫だよ。ルーナ姫は、自分の危険を顧みず、きみを守ろうとした。王女を救った英雄が、未来の王妃になるんだ。みんな納得してくれるさ」
「……うん。そうだよね。あっ、二人が結婚したら、私たちみんな家族になるのかな」
「ん……? まあ、そうだな。姉夫婦と弟夫婦で、全員親族のようなものになるんじゃないか?」
「……!」
全員親族。その言葉に、フレデリカの表情がぱあっと華やいだ。
「それにしても……。まさかこちらが、姫を奪うことになるとはな」
「シュウ?」
「以前、ルーナ姫に言われたことを思い出したんだ」
あれはまだ、シュトラウスがフレデリカから距離をとっていた頃のことだった。
フレデリカから離れようとしたシュトラウスを、ルーナは「フリッカは我が国でいただいてしまうわよ」「フリッカ。ハリバロフに嫁ぐ気はない?」と挑発した。
ルーナは隣国の姫だ。本気を出せば、シュトラウスとの婚約を解消させ、フレデリカをハリバロフに連れて行くこともできるかもしれない。
流石のシュトラウスも焦り、ルーナの狙い通りだとわかりつつも、フレデリカの隣に座ったものだった。
だが、これから実際に起こるであろうことは逆で。
ルーナとテネブラエの婚約は破棄され、彼女はリエルタに嫁ぐことになるだろう。
フレデリカを奪われるどころか、リエルタの王子が、ハリバロフの姫をいただいてしまった。
「そういえば……そんなこともあったね。ルーナのこと、奪っちゃお!」
「あ、ああ」
隣国の姫の略奪に乗り気のフレデリカ。
「ルーナにはたくさん応援してもらった分、私も二人の手助けをしなくちゃ!」
と、意気込んでいる。
フレデリカは、元気いっぱいだった。
きみ、さっきまで暗殺されかけてたんだけどな、と思いつつも、シュトラウスは愛しい人の髪に触れ、慈しむように撫でた。
「俺も手伝うよ。フリッカ」




