1 王女フレデリカ
時は経ち、フレデリカは18歳に。
おどおどした気弱な少女だったことが嘘のように、凛とした女性として成長した。
適度に凹凸のある美しいシルエットに、伸びた背筋。
フレデリカが歩を進めるたび、ふわふわとした銀の髪が揺れる。
空のような青い瞳は優雅に細められ、見る者を魅了した。
所作も王族のそれで、フレデリカとすれ違った者は、その美しさから、ほう、とため息を漏らす。
側妃の子だからと軽んじられていた少女は、もうそこにはいない。
自信と気品に満ち溢れた、美しい王女。それが今のフレデリカ・リエルタだ。
――というのは、王女として振る舞っているときの話で。
素のフレデリカは、素直で優しいお嬢さんのままである。
成長し、王女としての自覚も芽生えたフレデリカは、素を出さないよう、隙を見せないよう気を張っていることが多い。
軽んじられた過去もある彼女だ。普段から王女としての品格を保つことの重要性は、よくわかっていた。
だから、本来の彼女の姿を知る者は少ない。
たとえば、親である王と側妃。それから、実の娘同然に愛してくれる正妃。弟二人、幼い頃からの付き人、親友……そして、婚約者。
フレデリカが本当の笑顔を見せることができる相手は、そのくらいか。
王女であるフレデリカにも、親友と呼べる人は何人かいるが、中でも、互いに信頼し合い、素の自分をさらけ出しあえる相手がいた。
装飾の少ない、シンプルかつ上品なドレスを身に纏い、王城内を進むフレデリカ。
フレデリカにしてみれば王城は自分の家であるが、そんな場所でもあっても、彼女は人に見られていることを意識し、歩き方、手の位置、表情の作りかたなど、王女としての在り方を崩さない。
完璧な王女にも見えるフレデリカだが、王城内のある一室に入り、ドアが閉じると同時に、ただのフリッカとしての表情を見せた。
「ルーナ。遅くなってごめんなさい」
「ううん。むしろ、忙しいのにありがと」
眉根を下げ、両手をちょこんと合わせて謝罪するフレデリカ。
先に部屋にいた女性は、そんなフレデリカに向かって、気にしないで、と笑った。
ここで会う約束をしていた相手こそ、フレデリカの大親友、ルーナ・ハリバロフ。
隣国ハリバロフの姫君で、ハリバロフ王家の血筋に多い、透き通った海のような青い色の髪と瞳を持つ。
彼女の真っすぐでさらさらとした髪に、くせ毛のフレデリカはちょっぴり憧れていた。