1 手紙
小鳥たちが、王城の周囲を軽やかに飛び回る。
そのうちの2羽が、ある一室の窓辺にとまった。
ぴちち、と会話をするような鳴き声を聞き、部屋の主――アルフレドは顔を上げた。
この国には二人の王子がいるが、どちらが王位を継ぐかはまだ決まっていない。
しかし、第二王子のディルクは、政務よりも学ぶことそのものに興味があり、得た知識や技能を活かしての補佐に回りたいと言っている。
それもあり、次期国王として扱われてきたのはアルフレドのほうだ。
おそらく、実際にそうなるだろう。
自分は第一王子である、という自覚を持った時点で覚悟はしていたから、今更になって逃げる気もなかった。
執務室で書類仕事をしていたアルフレドは、仲良さげに跳ねる小鳥たちを眺めた。
そのうち、2羽は窓辺を離れ、じゃれあうように飛んでいく。
自由に空を飛ぶ彼らが、なんだか羨ましい気もした。
姉の結婚はすぐそばに迫り、想いを寄せていた女性は、他国の貴族と婚約した。
王位を継ぐであろう自分が、この先も婚約者を決めず、ふらふらしていることはできない。
これ以上のわがままは、許されなかった。
1つため息をつき、再びペンを走らせようとしたとき、こんこん、とノックの音が響いた。
やってきたのは、王家からの信頼の厚い老紳士。
前王の側近だった男で、引退した今も、密かに王家をサポートしている。
「アルフレド様。お手紙が届いております」
「……!」
入室を許可すると、彼はしずしずと一通の手紙を差し出した。
白い封筒に、青いシールで封がしてあるだけの、簡素なもの。
仕事中の今、通常であれば、あとで確認しようとそこらに放り投げてしまうだろう。
しかし、この老紳士が持ってきたとなると、そうはいかない。
通常であれば、アルフレド含む王族宛ての手紙などは、王城に届けられる。
だが、それとは別に、秘密の通信ルートがあった。
リエルタ内の別の住所に、ある名前宛てに手紙を送ると、この老紳士がそれを回収し、こうして直接渡しにくる。
王族宛ての手紙であると知られるとまずい場合などに使われる、ごく一部の者しか知らない宛先だ。
緊急時の極秘ルート、といったところか。
そんなわけだから、アルフレドは、この手紙を無視するわけにはいかなかった。
老紳士を見送ったアルフレドは、すぐに手紙を開封し、中身に目を通した。
差出人は不明。中に入っていたのは、便せんが1枚。
内容も、フレデリカの結婚を祝福するもので、いたって普通に見える。
しかし、ただそれだけなら、このルートを使うわけがない。
アルフレドは、差出人の真意を読み取ろうと、手紙を読み進めていく。
後半には、フレデリカの結婚式の際、王城の庭を民衆に解放すること、二人がバルコニーに立つことについて言及されていた。
「『二人の晴れ姿をみんなに見てもらえることを、嬉しく思います。けれど、庭を解放するとなると、警備はしっかり行わないとですね』か……」
当たり前のことが書いてあるのだが、この部分が引っかかった。
わざわざ極秘ルートを使い、アルフレドに届けられた一通。
その中に、場所やタイミングをはっきり示したうえで「警備はしっかり」という言葉があったのだ。
なんの意味もないとは、思えない。
これはおそらく、密告だ。
フレデリカとシュトラウスの結婚式で、二人が民衆に姿を見せようとバルコニーに出たとき、なにかが起こる。
その「なにか」は一般解放された庭から発生する。
そんな風に考えることもできる。
そこから、アルフレドが導きだした答えは――。
「……結婚式の日、姉さんたちが、狙われる?」




