15 囚われの姫と陰謀
それからさほど経たずして、交換留学の期間は終了した。
ルーナを始めとしたハリバロフの面々は母国に帰り、リエルタには、第二王子のディルクたちが戻ってきた。
結局、ルーナが本当のことを話したのは、アルフレドだけだった。
フレデリカには、嬉しそうに「婚約が決まった」「すぐに来て欲しいって言われてるの」と、自分も婚約を望んでいるかのように話した。
だからフレデリカは、すぐに嫁ぎ先へとたつことになるルーナを、笑顔で見送った。
彼女の婚約相手がアルフレドではなかったことは、残念に思ったが。
ルーナが喜んでいるならと、フレデリカは彼女の背を押したのだ。
次にルーナに会うのは、フレデリカとシュトラウスの結婚式になるだろう。
そう思うと、式の準備にもさらに気持ちが入った。
第二の王家・ストレザン家次期当主と、リエルタ王国第一王女の結婚式の準備は、順調に進んでいく。
***
一方、帰国後すぐに婚約者のいるイヴェルクへ向かったルーナは、日々を息苦しく過ごしていた。
婚約者のテネブラエは、やや長めの黒い髪に金の瞳を持つ、長身で細身のすらっとした男だ。
年齢はまだ20に届いておらず、ルーナやフレデリカとさほど変わらない。
ハリバロフにいた頃のように、使用人にまで厄介者扱いはされないのだが、テネブラエは横暴で、ルーナが意見することを許さない。
気に入らないことがあれば厳しく叱責され、時には体罰を受ける。
通常なら、たとえ婚約者であっても、一国の姫をそのように扱えば、処分がくだされるのかもしれない。
けれど、ルーナは知っている。王家も、国も、自分を守ってくれないことを。
どうせ、テネブラエがこういう男だとわかっていて、嫁に出しているのだ。
虐げられているような状況であると話したところで、助けなどきはしない。
そんな暮らしが始まって、数週間ほどが経ったころだったろうか。
その日のルーナも、まったく意味のわからないことが理由で、詰め寄られていた。
イヴェルクの貴族たちは、正式に婚姻を結ぶまで身体の関係を持たない。そのため、二人の寝室は別々だ。
ルーナは、自分に与えられた部屋で、テネブラエの怒鳴り声を遠くに聞いていた。
ハリバロフから取り寄せた調度品に、彼から贈られた美しい花々。
素敵なものに囲まれているはずなのに、彼女がときめくことはない。
リエルタでの暮らしとの落差もあり、ルーナの心はすっかり擦り切れていた。
透き通った青い瞳も、今は虚ろに目の前のものを映すだけ。
ぼうっと虚空を見つめながら、ルーナは楽しかった日々に想いを馳せ……ついに、大好きな人たちの名を、口にしてしまった。
「フリッカ。…………アル」
ルーナから飛び出した、男の名前。
テネブラエは激怒し、ルーナの頬を叩いた。
「……アル。リエルタの王子、アルフレドか」
「……」
しまった、と思ったが、もう遅かった。
「留学中は、リエルタの王子につきまとわれて困っていたんだろう? あのストーカーめ」
「ストーカーなんかじゃ……!」
ルーナは、アルフレドをそんな風に思ったことはなかった。
更に攻撃されることを覚悟で、ルーナはテネブラエの言葉を否定する。
しかしどうしてか、テネブラエが怒ることはなく。それどころか、上機嫌に笑いだす。
「ははっ……あはははっ……! やっぱりきみは、あの男に洗脳されているんだね。アルフレドなら、これから罰を受ける。だからルーナ。きみはもう、あんな奴のことは忘れて、ここで幸せに暮らしていればいいんだよ」
「……? なんの話……?」
「ああすまない。これはまだ秘密なんだった。きみを狙うストーカー野郎が苦しむと思うと嬉しすぎて、つい話してしまったよ。それじゃあ僕は、仕事に戻るから。愛してるよ、ルーナ」
テネブラエが、ルーナの髪をひと房とって、キスを落とす。
軽い足取りで部屋から出て行くテネブラエの姿を、彼女は呆然と見送った。
「罰……? 苦しむ……?」
詳細は、なにもわからない。
けれど、これからなにかが起きようとしている。
どうやら、アルフレドに関わることらしいが……。
アルフレドは、リエルタの第一王子。
おそらくテネブラエは、リエルタでなにか起こそうとしている。
そう読み取ることができた。




