表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~  作者: はづも
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/73

5 幼き日々に、育まれたもの

 婚約後、シュトラウスは王城に住むようになった。

 正確にいえば、王城敷地内の離れの一棟、であるが。

 ストレザン公爵家は、王国の北側に広大な領地を持ち、その地においては王に等しい権力を有していた。

 北は、隣国のハリバロフ王国とも接しており、国境の守備と交流・交易を担うストレザン公爵家を第二の王家とまで呼ぶ者もいる。

 シュトラウスはそんな家の跡継ぎであるが、今は父が領地を治めており、当主交代もまだ先だ。

 王家と、それに次ぐ権力を持つ家の関係を強化する意味もあり、シュトラウスはしばらくのあいだ王城預かりとなったのだ。

 いずれはストレザンの領地に帰るが、10代後半には、王城勤めになる予定でもある。

 すっかりシュトラウスに懐いていたフレデリカは、彼が王城に住むことを大いに歓迎し、喜んだ。



 王城での暮らしは、なかなかに大変なものであった。

 扱いは悪くないのだが、とにかく教育が厳しいのだ。

 公爵家のそれも、12歳の子供には過酷なものだったが、王城ではさらにしごかれた。

 シュトラウスに就く講師はみな、本来ならば王族の教育を務める者たち。

 もちろん、仕事は王子王女の教育だけではないのだが――彼らは、持て余していたのである。

 正妃とのあいだにはなかなか子ができず、側妃とのあいだに生まれた第一子もまだ5歳。

 授業は始まっているものの、本格的な指導はまだだった。


 そこに、シュトラウスの登場である。

 超名門公爵家の嫡男で、王女の婚約者で、12歳。

 講師陣は、シュトラウスを王女の夫として、公爵としてふさわしい男に育て上げてみせると、熱を上げた。

 王子も王女も生まれず、ずっと待機していた分の熱が、シュトラウスに向けられたのである。

 まあ、言ってしまえば、とばっちりであった。


 おかげで、一日を終える頃にはシュトラウスはくたくただ。

 そんなシュトラウスの癒しは、愛しのフレデリカ。

 王城で暮らし始めて1月も経つころには、シュトラウスはすっかり彼女に骨抜きにされていた。


 時刻としては、おやつには少し早いぐらい。

 その日、早めに自由になったシュトラウスは、王城のメイドにフレデリカの居場所を尋ねた。

 シュトラウスが王城の一室を訪ねると、彼の姿を見たフレデリカが、ぱあっと表情を輝かせる。


「シュウにいさま!」


 弾む声に、きらきらの瞳。

 シュトラウスに会えたことが、嬉しくてたまらないといった様子だ。

 これから一緒に遊べるのでは、と期待しているのもわかる。

 こんなにも大歓迎されてしまったら、頬が緩んでしまうのも当然だ。

 シュトラウスに向かって駆け寄り、ぽすん、と抱き着いてくるフレデリカを彼は優しく受け止めた。

 彼女のふわふわの銀の髪を撫でると、きゃっきゃと楽しそうに笑う声が聞こえる。


「授業はもういいの?」

「うん。夕方までフリッカと一緒にいられるよ」

「ほんと?」

「本当だよ。フリッカは、なにかやりたいことはある?」

「えっとね、えっとね、じゃあ……」


 お絵描き、お歌におやつの時間。

 王城の庭に出て、花を摘んだりもした。

 遊びすぎたのか、夕方を迎える前には二人揃って眠ってしまい。

 本当の兄妹のように身を寄せ合って眠る二人を見た者は、あらあら、と優しい笑みをこぼした。

 空き時間を見つけてはフレデリカに会いに行き、こんな風に仲良く過ごす姿は、王城名物のようになっていた。

 二人の仲のよさは、みなが知るところである。

 婚約話が浮上した頃の不機嫌さとは打って変わって、シュトラウスはもうフレデリカにデレデレだ。

 あくまで、妹としてであるが。

 年の離れた妹にメロメロにされた、親バカならぬ兄バカといったところか。


「ん、んん……。シュウにいさま……? えへへ、だいすき……」


 お昼寝の途中、ふと目を覚ましたフレデリカは、寝起きのぽやぽやとした感覚のままそう呟き、シュトラウスの胸に頬を寄せると、再び眠りに落ちた。

 シュトラウスが向けてくれた優しさに応えるかのように、フレデリカもまた、シュトラウスのことを強く信頼し、慕うようになった。

 互いに恋愛感情ではなかったが、二人の間では、確かな絆と愛情が育まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ