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11 甘い時間と心配

 その日の晩も、フレデリカはシュトラウスの離れで過ごしていた。


「ドレス、何色にしようかなあ……」

「白が一着と……。青もきみによく似あいそうだ」

「同じ生地を使って似た装飾や模様をいれて、お揃いにもしたいな」

「ああ、それはいいな」


 入浴を済ませて寝衣に着替えた二人は、共にベッドに乗りあげて、自分たちのこれからに期待を膨らませる。

 シュトラウスの足の間に座り、彼に抱きしめてもらう今の状態が、二人きりのときのフレデリカの定位置のようなものだ。

 フレデリカの向きは、その時の彼女の気分による。

 今は前を向き、シュトラウスに後ろから抱き込まれる形となっている。

 

 明日は共に休暇で、お昼ごろから街へ出かける予定だった。

 朝食の準備以外では、出かける頃まで使用人の出入りもないため、昼近くまで二人で過ごす気満々だ。

 ドレスや指輪について話していたが、シュトラウスはふと、昼間のことを思い出す。


「そういえば……。今日はすまなかった」

「え? なにかあったっけ?」

「あー……ほら。きみが転んだあと、遠慮なく足に触ってしまって……」

「……!! 忘れてたのにい!」


 羞恥から、フレデリカは両手で顔をおおった。


「シュウは真面目に心配してくれてたのに、私だけ、あんな……」

「……可愛かったよ?」

「~~っ! ばかあ!」


 涙目になったフレデリカは、自分のお腹に回された彼の腕を、ぺちぺちと叩く。

 威力はほとんどなく、叩かれたシュトラウスに痛みはなかった。

 フレデリカが本気で怒っているわけではないことは、シュトラウスもわかっている。

 ぴいぴいと怒る彼女が愛おしくて、シュトラウスは黒い瞳を細めた。

 


「……フリッカ」

「っ……。シュウ……」


 シュトラウスの大きな手が、フレデリカの頬を撫でる。

 耳元で囁くように、シュトラウスが熱を孕んだ声で彼女の名を口にすると、フレデリカはすっかり大人しくなり、彼に身を委ねた。



***



 翌日の昼前には、予定通り街でのデートへ。

 もちろん、護衛もついている。

 お忍びのため、二人とも裕福な一般家庭の男女、といった装いだ。

 しかしやはり、フレデリカの輝きを隠すことはできず。

 以前から美しかった彼女だが、最近は色香も漂いはじめ、更に魅力的になっていた。

 そのため、街へ出た際に少しでもシュトラウスが離れると、フレデリカに声をかける男がいたり、近くに立ち止まって彼女をちらちらと見続ける者がいたりと、なかなかに大変な状況であった。



 今日なんて、シュトラウスが隣にいたというのに、フレデリカはナンパされた。

 前を歩く男がわざとハンカチを落とし、フレデリカに拾わせたのだ。

 善意から、フレデリカは男に声をかけ、ハンカチを手渡した。

 すると男は、わざとらしく驚いてから、お礼をしたいと言って彼女の腕を掴み、どこかへ連れて行こうとした。

 繰り返すが、シュトラウスが隣にいるのに、である。

 もちろん思いっきり引き剥がし、ぎろりと睨みつけて威嚇してやったが、シュトラウスの怒りは収まらない。

 相手の姿が見えなくなるまで、シュトラウスはフレデリカをがっちりと抱き込んで、自分という男の存在を主張し続けた。


「……ありがとう。シュウ」


 腕の中のフレデリカが、どこかしゅんとしながらシュトラウスを見上げた。

 善意からこんなことが起きてしまい、ショックなのだろう。


 悪いのは、女性の善意を利用し、自分の思い通りにしようとする男だ。

 フレデリカはただ、落とし物を拾ってあげただけ。

 そうなのだが……。シュトラウスは、フレデリカが心配でたまらない。


 彼女は過去に、一人で城を抜け出し、誘拐されそうになったことがある。

 貴族の男に話しかけているうちに、『真の愛』に目覚め、暴走する男が生まれてしまったことも。

 どちらも、シュトラウスが彼女を追い詰めたことが原因だったし、欲や悪意を抑えることのできない者が悪いのはたしかだ。

 フレデリカは被害者であり、彼女を責めることは、正しくはないだろう。

 けれど、彼女の婚約者で、これから結婚する自分が、なにもせず、なにも言わず、この状況を放置するべきではない。

 そう考えたシュトラウスは、彼女の手を引き、ある場所へ向かった。


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