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8 隙あらばいちゃつく婚約者たちと待ち人

 この「話し合い」のために予定を空けておいたため、抜け出してしまえば自由時間も同然だった。

 部屋の前に立つ使用人に、大体の行先だけ告げて、二人は歩き出す。

 フレデリカは特別小柄なわけではないが、シュトラウスが長身なため、二人の身長差はそれなりだ。

 もちろん歩く速さも違う。ともに歩くときは、シュトラウスがフレデリカの歩幅に合わせていた。

 シュトラウスは、愛しい人の手を取りながら、いつもよりゆっくりと王城を進んでいく。


 行先は、噴水のある中庭だった。

 噴水の周りにはいくつかのベンチがあり、この場所を気に入る者は多い。

 当時10歳だったフレデリカが、シュウにいさま呼びをやめたのもここだった。

 

 壁は片側のみの長い廊下を進んでいくと、先客の姿が。

 

「アル?」

「姉さん! ……と、シュトラウス」


 前半は、ぱあっと嬉しそうに。後半は、少し恨めし気に。

 仲良く散歩中の二人にそんな反応をしたのは、弟のアルフレドだ。

 彼は、一人で噴水前のベンチに腰かけていた。

 ただの休憩中にも見えるが、フレデリカには、彼がここにいる理由に心当たりがあった。


「ルーナなら、今日は夕方まで街に出てるよ?」

「え、そうなの? じゃあここには来ないか……。って、別にルーナを待ってたわけじゃ」


 違う、ちょっと休憩してただけ、ルーナは関係ない、とアルフレドは続けるが、ムキになっているのが逆に怪しく、その言葉に説得力はなかった。

 この辺りはハリバロフからの留学生にも開放されており、自由に使うことができる。

 ルーナお気に入りの場所であることは、フレデリカも知っていた。

 アルフレドは、ルーナに会えるかもしれないからと、ここを休憩場所に選んでいるのだろう。

 大体のことを察している婚約者二人。違うと必死に否定するアルフレドを、にこにこと見守った。


「……父上たちの話って、なんだったの?」


 いたたまれなくなったのか、アルフレドが話題を変える。

 今日、フレデリカとシュトラウスが王とストレザン公爵――両家の父親に呼び出されていたことは、アルフレドも把握していた。

 婚約者二人は顔を見合わせ、シュトラウスがフレデリカの言葉を促すように頷いた。

 弟を相手に、隠す必要もない。両者そう判断して、結婚の話が正式に進むようだと伝えた。


「そ、っか……。そろそろ結婚……。そうだよね、姉さんももう成人したし。……シュトラウスも、ようやく姉さんに向き合ったみたいだし」


 アルフレドの深紅の瞳が、シュトラウスに向けられる。

 遅いんだよ、と言いたげな視線を、シュトラウスは言い返すこともなく受け入れた。

 申し訳ない、自分が悪かったとしか、言いようがないからである。


「アル。その辺にしてあげて? ね?」


 フレデリカが困ったように微笑み、シュトラウスを庇うものだから、アルフレドはふいと顔をそらし、仕方がないといった風に息を吐いた。


「まあ、姉さんが幸せならそれでいいよ。……姉さんを泣かせたら、許さないからな」

「もう、アルったら。気持ちは嬉しいけど、あんまりシュウを困らせないの。アルがごめんなさい」

「いや、構わないよ。きみが家族に大切にされているのは、俺にとっても嬉しいことだから」

「シュウ……」


 うっとりと見つめ合い、二人の世界へ突入する婚約者たち。

 そんな姉と義兄(予定)の姿を見せつけられたアルフレドは、うんざりとした様子だった。


「いちゃつくなら、よそでやってくれない?」

 

 しっし、と二人を追い払うようにアルフレドが手を動かすと、フレデリカは照れた様子で、シュトラウスは小さく頭を下げてから庭の奥へと進んでいく。

 すっかり仲良くなった姉たちがいなくなり、一人になったアルフレドは、


「結婚、か……」


 と呟いて、空を仰いだ。


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