2 彼の幼馴染と口づけ
それからさほど経たずして、王城で夜会が開かれた。
国王の主催する、国でも1番といっていいほどに格式高い場だ。
参加者は、フレデリカも含む王族に、有力な貴族に、交流のある他国貴族。
この日のために一時帰国した、第二王子のディルクもいる。
ルーナの故郷であるハリバロフ王国からの参加者も多い。
ルーナは留学生としてこの場に立つが、王族の交換留学でやってくるのは、王子か王女の一人のみではない。
世話役として、使用人を数名。それから、高位貴族も何人か同行させることができる。
今回の夜会には、ルーナとともに留学に来たハリバロフの若手貴族も参加していた。
その中に、遅れてリエルタにやってきた女性が一人。
留学を希望し、国とルーナの許可も得ていたのだが、家の事情でリエルタ入りが遅れたのだ。
第二王子ディルクの一時帰国に合わせてやってきたため、まだ正式な顔見せも済んでいない。
夜会にて、最初こそ婚約者として並んでいたフレデリカとシュトラウスであったが、会も中盤に差し掛かるころには、それぞれの役割のために離れた。
フレデリカは王女として。シュトラウスは、ストレザン公爵家の次期当主として。
話すべき相手、すべき対応などが、少々異なるのだ。
ストレザン公爵家の領地はハリバロフに隣接しているため、ここでは主にハリバロフ王国の者との会話の機会を作っているようだった。
互いの仕事のためとはいえ、シュトラウスが自分のそばを離れたことに、フレデリカは少しほっとしていた。
妹発言を聞いてしまったあの日から、フレデリカはシュトラウスを避けていた。
それまで自分から彼に近づいていたこととの落差もあり、シュトラウスが隣にいる状況が気まずくて仕方がなかったのだ。
自国の高位貴族や他国の者に対応してはいるものの、少し肩の力が抜けた。
「フリッカ。少し休んでおいで」
「ありがとうございます。お父様」
終盤も近くなった頃、父王がフレデリカを気遣い、休憩時間を設けてくれた。
王である父は、最初から最後まで休みなく働き続けているのになんだか申し訳ない気もするが、父の優しさをありがたく受け取った。
シュトラウスもまだ戻ってきていないため、フレデリカは自由に会場を歩き始める。
本日の夜会が開かれたホールには、多くのバルコニーがある。
庭側の窓のほぼ全てに、バルコニーが設けられているといってもいい。
窓の大きさに合わせて作られており、大きさは様々だ。
1番大きなものだと、晴れた日の昼間には立食パーティーの会場の一部として使われることもある。
小さなものだと、数人が身を寄せ合って使える程度のサイズになる。
こちらは、カーテンを閉めて中から見えない状態にし、男女での逢瀬などに使われることも。
王女であるフレデリカは、もちろんこのホールの作りをよく知っている。
1番大きな窓の隣。
そちらのバルコニーは見晴らしもよく、少人数用のスペースだから、誰かが使っていれば他の人が入ってくることもない。
メインのバルコニーは広く、最も見晴らしがいいが、そのぶん人気があり、使う人も多い。
フレデリカだって王女だから、他の者がいればふるまいには気を遣う。
今いる場所は他者の邪魔が入らず、なにかあればすぐに会場に戻ることもでき、休憩にはもってこいだった。
「気持ちいい……」
疲労したフレデリカを、夜風が撫でる。
輝く月の下、銀の髪をなびかせるその姿は、幻想的なものだった。
ふと、隣のスペース――メインのバルコニーへ目をやると、ぽつぽつと人がいる中に、シュトラウスの姿が確認できた。
漆黒の髪と目に、黒い燕尾服。黒で統一された彼に、夜の空はよく似合っていた。
夜空に、溶けてしまいそう。
少し距離があるし、シュトラウスはこちらに気が付いていなかったから。
フレデリカは安心し、うっとりと彼を眺めた。
彼も休憩中だろうか。一人で外の空気を吸っているようだった。
そんな彼に、一人の女性が近づいていく。
彼女はたしか、ハリバロフからの留学生で、辺境伯のご令嬢。
ご令嬢――マリエルは、シュトラウスより少し年下だが、フレデリカと違って妖艶な女性だ。
ウェーブした金の髪に、赤みがかった瞳。
胸もフレデリカよりずっと大きく、つやつやとした唇も色っぽい。
初めて会ったときには、女性のフレデリカでさえもその色香にぽーっとしてしまったほどだ。
彼女の留学はとっくに決まっていたが、家の事情で、数日前にようやくリエルタ入りできたのだった。
ハリバロフで辺境伯といえば、リエルタとの国境を任された者のことをいう。
同じく国境を守るストレザン家とは親交が深く、他国の人間同士ではあるものの、彼らは幼馴染らしい。
男女ではあるが、自分とルーナの関係に近いのだろうと、フレデリカは考えていた。
親し気に談笑する二人を眺めていると、なんだか寂しい気持ちになってくる。
私も、ああやってシュウと話せたらいいのに。
彼を避けているのは自分であるが、シュトラウスと自然に話せるマリエルが、少し羨ましかった。
他の者もいるバルコニーだから二人きりというわけでもないし、彼らは幼馴染だしで、二人がそうして話すことを、フレデリカは特に問題に感じていなかった。
そのご令嬢が、シュトラウスの胸に手をおいて懐にもぐりこみ、彼にキスをするまでは。




