4 ドキドキと、がっかり
ルーナからすればシュトラウスは他人だから、彼がなにを考えていようと、ルーナの知るところではないが……。
親友のフレデリカが、シュトラウスのことで悩み苦しんでいるのは、見ていてつらかった。
可愛い婚約者をしょんぼりさせていないで、どう思ってるのかはっきりしろ! とシュトラウスに対して感じるのである。
そんなとき、こんこん、とノックの音が響く。
「フリッカ、シュトラウスだ。少しいいか?」
続いて聞こえてきたのは、シュトラウスの声。
話題の人物、突然の来訪である。
「は、はいっ! しょ、少々お待ちを!」
声を裏返らせたフレデリカは、がばっと起き上がり、乱れた髪を整え始める。
好いた人の前で少しでも綺麗でいたい、恋する乙女。
そんなフレデリカの姿を、「可愛いわあ」とルーナが見守る。
今日、シュトラウスが王城にいることは、フレデリカも知っていた。
幼い頃に比べて距離はあるものの、シュトラウスのスケジュールは、毎回、本人の口からフレデリカに伝えられているのだ。
仕事の合間に会いに来てくれたのかしら、とフレデリカはドキドキしながら手ぐしで髪を整えた。
軽く深呼吸して、よし、と意気込んでから、「どうぞ」と入室を促した。
「フリッカ。明日以降の俺のスケジュールについて、少し話が……。っと、ルーナ様もいらっしゃいましたか」
「ええ。でも、もういい時間だし私はそろそろお暇するわ」
ルーナはすっと立ち上がり、すれ違いざまに、フレデリカの耳元で「頑張って」とエールを送った。
愛しの婚約者様の登場に、自分は引こうと考えたルーナだったが、シュトラウスの次の一言で、動きを止める。
「いえ、自分の用件は書面でも済むものですから。ルーナ様はお気になさらず、このままお過ごしください」
「……婚約者同士の逢瀬に水を差すほど、野暮ではなくてよ?」
逢瀬、という言葉に、フレデリカがぼっと顔を赤くした。
そんなフレデリカとは対照的に、シュトラウスは顔色一つ変えない。
「女性同士、姫同士の時間を、俺が邪魔をするわけにはいきません。お二人が仲良くなることは、双方の国にとっても意義のあることですから」
では、と、シュトラウスは書類だけをフレデリカに渡し、その場から立ち去ろうとする。
おそらくその紙に、シュトラウスのスケジュールが記載されているのであろう。
先ほどまでわくわくどきどきの恋する乙女をやっていたフレデリカは、肩を落としてすっかりしょんぼりしていた。
せっかく一緒に過ごせると思ったのに、書面だけを置いて立ち去られてしまう直前なのである。
がっかりもするというものだ。
シュトラウスをこのまま行かせまいと動いたのは、ルーナだった。
ふう、とわざとらしくため息をつき、フレデリカの頬に触れる。
視線はシュトラウスに向けて、ふふ、と魅惑的な笑みを浮かべた。
「シュトラウス。そんなことでは、フリッカは我が国でいただいてしまうわよ?」
ルーナの挑発的な行動に、シュトラウスの眉がぴくりと動いた。
その反応を見て、ルーナはフレデリカの髪に触れながら、さらに追い打ちをかけていく。
「ねえフリッカ。婚約者を放ってどこかへ行ってしまう男なんてやめて、ハリバロフに嫁ぐ気はない? 第一王女ルーナの名にかけて、いい人を紹介するわよ」
「へ? ルーナ!? いきなりなにを言って……」
「……お戯れを。ルーナ姫」
姫をもらっていくぞ宣言を前にして、流石にこのまま立ち去れなくなったシュトラウスは、フレデリカの隣に腰掛けた。
ルーナの狙い通りである。勝ったわ、とルーナから満足げな笑みが漏れる。
「それじゃあ、また後でね。フリッカ」
シュトラウスを残すことに成功したルーナは、ウインクとともに退室した。




