1 あどけない誓い
この日、王城では、リエルタ王国第一王女、フレデリカ・リエルタの婚約の儀が行われていた。
まだ婚約の段階とはいえ、王女のそれであるから、本来ならば様々な手順を踏んで、荘厳に行われる。
しかし今回は、主役の年が年だから、儀式は簡略化されていた。
それも仕方がないだろう。
今から正式に婚約を結ぶ王女、フレデリカは――まだ、5歳なのだから。
リエルタ王国では、少年少女のうちに婚約が決まっていることも珍しくないが、この国においても5歳は早すぎる。
フレデリカは、王家に代々伝わる衣装も着ることができず、今日のために用意された子供用のドレスを着用している。
少しくせ毛の、ふわふわとした銀の髪に、大粒の宝石のように輝く青い瞳。
緊張しているのか、白く透き通った肌は、少しだけ紅潮していて。
小ぶりで愛らしい唇も、きゅっと結ばれていた。
今はまだ、可愛らしいという言葉の似合う幼子だが、いずれは美しい女性として成長するだろう。
幼い王女の前にひざまずき、その手を取るのはこれまた12歳の男の子。
少年の名は、シュトラウス・ストレザン。公爵家の嫡男である。
彼は成長の早いタイプで、年のわりに背が高く、雰囲気も大人びているために、儀式のための正装に身を包んでも、違和感はなかった。
シュトラウスの唇が、フレデリカの手の甲に触れる。
そっと唇を離すと、膝をついたままフレデリカと目線を合わせ、こう宣言する。
「このシュトラウス、生涯あなたをお守りし、国の発展に尽くすことを誓います」
彼の真剣な瞳や会場の雰囲気にあてられて、まだ幼いフレデリカはぽうっとしてしまう。
そんな彼女にだけ聞こえる声で、シュトラウスは優しく先を促す。
「ほら、フリッカ」
「ふ、フレデリカ・リエルタは、シュトラウス・ストレザンを婚約者としてみとめ、ともに国に尽くすことをちかいます」
覚えた言葉をそのまま口にしているだけの、あどけない誓い。
フレデリカはまだ、この儀式も、口にした言葉も、婚約そのものの意味も、よく理解できていないだろう。
それでも、二人の婚約は成立した。
5歳の王女と、12歳の公爵令息。
まだ年若い彼らが、この婚約を自分の意思で決めたはずもなく。
紛れもない、政略結婚であった。