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陰謀


 ケラントが魔獣と戦う数週間前。

 

 テルヘン王国南方の大国、ノア帝国。

 皇帝が住まう城に突然、全ての大臣が招集された。


 城の中央にある謁見の間。そこに全ての大臣が集まった時、皇帝が壇上にその姿を見せた。

 綺麗に整えられたは口元を完全に覆い、筋骨隆々の身体は抜かることなく鍛錬していることを窺わせる。

 その茶色い髪の上には様々な宝石の装飾が施された王冠がのっており、皇帝としての権力の大きさを周囲に振り撒いていた。


 そして皇帝が玉座に座るのに合わせて、全ての大臣がザッと一斉に膝をついた。



『『主ガルドの名の下に。全ての大臣、ここに集結』』



 呪文のように息をぴったり合わせて唱えられる。

 そして皇帝が物々しく口を開いた。


「我が貴様らをここに呼んだのは、他でもない──」



「テルヘン王国について話し合うためだ」



 大臣達に間に動揺が駆け巡る。

 無理もない。


 10年前にテルヘン王国に起こした軍事行動は大きく失敗し、国民の皇帝に対する信頼は低下。これを受け、国はしばらく王国への進軍を停止することにしていた。

 にも関わらず、皇帝はかの王国について話し合おうと言う。


 この皇帝は決して無能ではないのだが、どうも喧嘩っ早いところがあり、すぐに他国と開戦したがる節がある。


 その悪い癖がまた出てしまったのだろう。

 大半がそう考えた。


「御言葉ですが陛下、かの()()への進軍が失敗してからまださほど時間が経っておりません。今は失った国民の信頼を回復するのに徹するべきかと……」


 大臣の一人が口をきく。

 彼の言葉に、皇帝は神妙に頷いてみせた。


「分かっておる。我は何もあの蛮国と開戦するとは言うておらん」


 皇帝は一同をぐるりと見まわしてから言葉を連ねる。


「前回の失敗から我は考えた。何故あんな野蛮人に負けたのか、とな。そして気づいたのだ。軍隊で攻め込むから負けるのだと」


 皇帝の言葉に再び場がざわめく。

 

 軍隊で攻め込むから負ける?


 訳のわからない皇帝の珍言に対し、彼の正気を疑う者すら現れた。


「静粛に」


 だが皇帝の背後に佇んでいた執事風の白髭の男の一言により、場は再び静まり返った。

 そして聖堂が静寂に包まれたのを確認すると、皇帝がさらに言葉をつづけた。


「我が国が大軍を挙げて攻め込んでも負けるのは何故か? それは、我々が向こうの土俵に乗ってしまっているからだ。

 認めるのは癪だが、確かにあの蛮人どもは強い。()()()()の運動能力もそうだが、奴らの考える作戦も一級品だ。

 しかし、エプシルはなかなか気性が荒い。あの国が国としてまとまっていられるのは……」

「魔王タンドラの力、ですね」


 魔王。

 たった1人でエプシルをまとめ上げ、帝国軍に壊滅的な被害を与えた男。

 そのあまりに冷酷で無慈悲な闘いぶりと、単身で選りすぐりの精鋭部隊を蹂躙した異次元の強さからいつしか人は彼をそう呼ぶようになったのだ。


「そうだ。奴さえ消えれば、かの国は自然と瓦解していくだろうよ」

「ですが陛下、彼は史上最強とも呼ばれる男。挑んだところで敵う相手は……」

「その点なのだがな」


 皇帝はニヤッと悪意に満ちた笑みを浮かべる。


「奴は先の戦いで足を負傷して、かつてのような素早さはなくなったらしい。無論強敵には違わないだろうが、以前ほどではなかろうよ」

「なるほど……そこに勝機がある、と」

「そういうわけだ。軍に見つからぬよう侵入して、油断している魔王の首もとを掻っ攫えばよいわけだ」

「ですが、一体誰が……」


 大臣の質問に、皇帝はにやりと、笑いながら答えた。


「それはもう決めてある」


「入るがよい」という皇帝の掛け声に合わせて、聖堂の大扉が開かれる。

 そしてそこから入ってきた者たち。冒険者グループ、【バイヤーズ】である。

 最強の魔獣の一つに数えられる《赤い魔竜(レッドドラゴン)》をたった4人で討伐したとされる、この国では知らない者のいない最強のパーティだ。


 剣の技術では右に並ぶ者のいない金髪リーダー、ゼンゲル。

 口数は少ないが腕は確かな斧使いの坊主大男、バール。

 そのずば抜けた美貌と魔法の才能で男を魅了する魔法使い、ヘレン。

 身体は小さいが性格は冷酷無比な毒使い、バイロン。


 その人並外れた強さから「勇者」として誉高いチームの登場に、大臣たちからは「おぉ!」と感嘆の声が溢れ出た。


 4人は皇帝の足元まで歩いてくると、他の大臣と同じように地面にひざまずいた。

 それに合わせて皇帝が口を開く。


「お前らには我が軍の精鋭と共に王国に侵入し、先鋒隊として国王を暗殺してもらう。その混乱に乗じ、精鋭部隊が市街地で敵を錯乱する。そして意識が都に向いている間に大軍を越境させる、どういうのが我の考えだ」

「なるほど……」

「リーダーを失った連中は、結束を失ってちりぢりに散るだろうよ」


 皇帝の聡明な考えに一同は頷く。


「お前らはどう思う」


 皇帝がパーティ一同に問う。


「この度はこのような名誉ある討伐依頼を授けて下さりましたこと、心より感謝申し上げます」


 その問いに口を開いたのがリーダーのゼンゲルだ。


「このバイヤーズ、必ずや悪しき魔王の首を討ちとめてみせましょう」

「よろしい」


 その言葉に皇帝は満足げに頷く。


「ですが陛下。なぜ冒険者を……?」

「冒険者は軍隊と違い、市街地を闊歩しても疑われぬ上、戦闘力も我が軍の精鋭と遜色ないからな。先鋒としては最適というわけよ」

「なるほど……」


 皇帝はぐるりと一同を見回した。


「他に意見があるものは?」


 手をあげる者はいない。

 皆納得したようにうなずいている。


「……よかろう」


 そして皇帝はパーティに視線を移す。


「では、依頼内容を再び告げる……テルヘン王国に侵入し、国王を暗殺せよ。期限は1年後、王国が建国500周年を迎えるまでだ。方法は問わぬ。援助も惜しみなく行おう。そして報酬は──」


「一生望み通りの生活を送らせること」


「ただし失敗したら死刑とする。以上だ。異論はあるか?」

「──ございません」

「では行くが良い。良い成果を得られること期待しておる」



『『『はっっっ!!!』』』



 そして3日後。

 パーティはテルヘン王国に向けて旅立って行った。


 

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