私はヒーローを好きにならない ─ 中 ─
決行、当日─
「ついに決行日ね。ノウムは完成できたかな。」
ナジョルは嬉しそうな気分で、朝を迎えた。
その頃、警察署では各班の配置場所と作戦、そして避難誘導が確実に終わっているか最終確認をしていた。
「本日は、決行日だ。調査の結果ノウムを作っている場所が分かった。今そこに、警察官とヒーローで向かわせている。今、避難誘導が確実に終わっているのか確認中だ。我々は、先程は配置場所を確認した通り、各班ごとに分かれてください。900時にて各班のリーダー、配置場所着いたら無線で報告を頼む。」
その時アラン警部補の無線が鳴った。
「アラン警部補、避難誘導の確認が終わりました。」
避難誘導の確認していた、警察官からの報告だった。
その後、各班は配置場所に向かった。
ナジョルは、ランリーが居るザヴァ連合のアジトに居た。
「おはようランリー。遂に今日が決行日よ。」
「ナジョル女王様、おはようございます。随分は早起きですね。まだ朝の6時ですよ。」
「この日を待ち侘びていたからね。ノウムは完成したかしら?」
ランリー嬉しそうに微笑んだ。
「あぁ、百体のノウムを作ったよ。決行時間も聞いた。もう時間が無い。時間までに配置させておくよ。」
ナジョルは、首を縦に振り頷いた。
ランリーは、時間に備え準備し始めた。
ナジョルも決行時間に向け、一度自分のアジトへ戻り本番用の服を着て朝食を済ませた。
いつものように、朝食後のティータイムで一息し高ぶる気持ちを落ちかせていた。
決行時間まで、あと十分前。
ディサピアー同盟軍は、各チームに分かれ待機をしていた。
街を見渡せるビルの屋上にランリーとナジョルも来ていた。
その頃、三十分前に着いていた警察官とヒーローも各班に分かれ、ディサピアー同盟軍を待っていた。
敵にバレないように、ひっそりと身を隠していた。
ディサピアー同盟軍は警察官の動きは何も知らず、決行時間五分となった。
「じゃあ、始めましょうか。」
そう言うと、ランリー中指と親指を擦り合わせ音を鳴らしていた。
その後ノウムが出現した。
今回のノウムは、以前とは違い体が固い鱗で覆われいた。
「何これ・・・。凄いわね。」
ナジョルは、驚きを隠せなかった。
「今回は本番だから強力に作ったんだ。テスト用とは比べものにならないくらい攻撃力と速さは特に高めた。」
「そう言うことね。これは良いものを見れるわ。」
そして、百体のノウムを出し終わると、ランリーはノウムに指示し一斉に飛んで各配置場所へ向かわせた。
「さぁ、始まりだ。」
ランリーとナジョルの言葉で決行開始の合図となった。
各配置場所に着いている、警察官とヒーローも国を守ろうと懸命にノウムとディサピアー同盟軍を止めにかかった。
そして、ラドとアラン警部補がナジョル達が居る屋上まで来ていた。
アラン警部補の掛け声で、ナジョル達に一気に近づいた。
その瞬間、ランリーはその瞬間を察知しナジョルを抱きかかえ、超能力のテレポートを使い屋上から百メートル先の南へ向かった。
その後、屋上に居たノウム十体がラド達の目の前に現れ足を止めることになった。
だが、時間をかけていられないラド達は、アラン警部補の指示のもと一緒に居た他の警察官とヒーローを数名にノウムを任せた。
アラン警部補とラドは先を急ぐことにした。
ナジョル達は、被害がない更地に来ていた。
「ここまで来れば一先ず大丈夫だろう。まさか察がくるとは思わなかったな。」
ランリーは、平常心をだった。
ナジョルはランリーの表情を見て、警察官が来ようが関係なく倒せる自信があったんだろうと察した。
「そうね。居るとは思わなかったわね。ここからどうするの?」
「そうだな。とりあえず、ここまで警察官とヒーローを待ち伏せる。そういえば、アントムはどこに居 るの?」
「分かったわ。アントムは、もうすぐここに来ると思うわ。」
ランリーは首を縦に振り頷いた。
「分かった。じゃあここにノウムとアントム、俺とナジョル女王様ってことな。ナジョル女王様はアントムと一緒に隠れていてよ。」
ナジョルは不意に落ちない様子ではあったが、自分がここに居ても何も出来ないことは分かっていた。出来ることは、昔父から教えてもらった剣の使い方ぐらいだった。
ナジョルの表情を見たランリーは近づき何かを渡した。
「ナジョル女王様。これ作ったからあげる。」
それは、剣だった。
「剣・・・?」
「あぁ。これは普通の剣じゃなく、切れ味を良くしたのと電撃が放つように作った。それがあることで戦いがしやすく、敵も倒しやすくなる。」
ナジョルは、剣の内容を知り戦いに備えることが出来ると嬉しく感じていた。
ランリーからもらった剣を腰つけた。
そして、着ていたスカートを破り動きやすいよう工夫していた。
「うん、こっちの方が動きやすい。」
そう言うと両手を合わせて誇りをほろった。
その時アントムがやってきた。
「お待たせしました。」
ランリーは、頭を少し下に向け軽い挨拶をした。
ナジョルはアントムと目を合わせて、ランリーに情報共有することを示した。
アントムは、警察官の動きが何か怪しいと他のヒーローや警察官にさりげなく情報を教えてもらった。
「ランリーとナジョルに伝えたいことがある。警察官の動きを調べてきたが、相手の行動の詳細まではガードが固情報を得ることは出来なかった。だが、一つだけ分かったことがある。それは、警察官の今回の目的はナジョルを確保することだ。」
ナジョルとランリーは顔を合わせた。
「何故私なの?そこまでに調べたのなら、国を最優先するでしょう。」
アントムはナジョルの質問に答えた。
「確かに国も最優先することもあるが、ナジョルを確保が気になる。その理由は掴めれなかったが、とりあえず僕とランリーで守るので安心してください。」
ナジョルは、最初は不安そうに顔を下に向けいてたが、次第に何か吹き飛んだように表情が冷たいような目に変わった。
三人で話している間にアラン警部補らがやってきた。
先に仕掛けてきたのが、ラドだった。
ラドは、三人に向け太もも装着してある小型爆弾を両手合わせて六個を投げつけた。
「ほらよ。」
ランリーは、一瞬で別の場所へとテレポートさせた。
「クソッ。急に小型爆弾を投げつけてなんだよ。」
ランリーの口調からして少し苛立っている様子だ。
アラン警部補は、ラドに怒っていた。
「お前は、作戦を駄目にする気か。」
ラドは、違うことをアラン警部補に右手で横に振った。
「アラン警部補、誤解ですよ。三人居たら、ナジョルを守ろうと二人が犠牲になると踏んで投げたんですよ。しかも。小型爆弾なので、普通の爆弾よりは威力はそんなにないです。」
アラン警部補は、少し落ち着きを取り戻そうと深呼吸していた。
「そういうことか。俺はてっきり作戦を忘れたかと思ったよ。って言うと思ったか?とにかく気をつけろ。」
ラドは苦笑いしながら頭を下げた。
気を取り戻し、二人は戦いに専念した。
ディサピアー同盟軍に属する、裏切りヒーローとノウムがラドを倒しに一直線に向かってきた。
すると、横から警察官数名とヒーローが入ってきてラドを守った。
「ラドさん、ここは僕達が食い止めます。だから作戦に集中して戦ってください。」
警察官の一言でヒーローも皆が頷き、それを見たラドはその想いに答えようと思った。
無駄にしないよう心に誓い、作戦を続行した。
アラン警部補は、裏ぎったアントムに憤りを感じ強く睨みつけた。
「アントム、お前が敵だってことは前から分かっていた。我々を裏切ったことは許されないことだ。」
アントムは、不気味な笑い声が響いた。
「アラン警部補、前から僕を疑っていたんですね。信頼のかけらもないってことか。面白い、ここでくたばれ。」
その瞬間アントムは、アラン警部補に一直線で来て、殺しにきていると一目で分かった。
「さぁ、始めようか。アラン警部補。」
アラン警部補とアントムの戦いが始まった。
ラドは、ナジョルを救うためランリーとナジョルの居る場所へ向かった。
「ランリー、そこに居る少女を渡してもらおうか。」
ランリーは、何も答る気配がなくただ、ラドを見ていた。
それを見たラドは、一瞬目を瞑り集中力を高めた。
「ランリー、行くぞ。」
先手をとったのはラドだった。
ラドは、ランリーと距離をつめるべく走り近づいたところで足に体重をかけ地面を蹴飛ばすし上に飛んだ。そして、小型爆弾をランリーに投げつけた。
「小賢しい。またこれかぁ。」
ランリーは、苛立ちを見せていた。
ラドの超能力である先読みを使い、早めに先手をとらなければ自分がやられることは分かっていたしこうなることも分かっていた。だから、早めに仕掛けた。
ランリーはテレポートを使い、数メートル離れた場所に居る仲間の超能力の電撃をコピーした。
コピー時間は特になく、他の人に触れない限り継続したままだ。
そして、テレポートを使いラドの目の前に着くと一瞬ランリーは口を右斜めに上げ顔面を思いっきり殴った。
ラドはこう来るのは、先読みで分かっていたが速すぎて避けきれなかった。
地面に叩きつけられ、数メートル先まで飛んだ。
切れた唇を手をで拭き次の態勢を整えた。
ランリーは、素早くラドの元へテレポートし攻撃をしようとしたが、ラドは両手を罰のように態勢をとりその攻撃を防ぐことが出来た。
それでも、ランリーはひたすらラドに攻撃を続け、距離を縮ませていた。
その時、ランリーは何かに気づいたように表情を変え、一旦攻撃を止めラドに向かって静かに呟いた。
「お前、もしかして先読みが出来る能力なのか?さっきからこっちの動きを読んでいるかのように、攻撃を防いでいる。そして、態勢や目の動きもそうだ。今の攻撃だって、俺は右手をお前の顔に殴るかのように見せかけて、左足で腹を蹴ろうとした。だが、お前の行動は左手で顔面を守り、右足で俺の左足に蹴りを入れようとしていた。当たってんだろ。」
理由はただひとつ、ラドの超能力をコピーしたいからだ。
ラドは、自分の能力がランリーにバレていること知り、少し不安になったが今はそんなことを考えている場合ではないと、不安の感情を消しナジョルを救うことだけに集中した。
その瞬間、肩に何か当たったような気がした。
「油断は禁物だよ、ヒーロー」
耳元で、静かにそう呟いた。
その瞬間、背後に居たランリーはラドに向けて電撃を発した。
その攻撃を直で受けダメージは大きかった。
「ほらね、こうなるんだよ。お前さ、戦闘中に気抜けちゃいけないって教わらなかった?」
ランリーは余裕そうにラドに話しかけ、その問いかけにラドは答えず、攻撃を仕掛けた。
ラドは、能力で見たランリーの行動を把握した。
先手を取るべくランリーの元へ勢いよく走り飛んだ。
僕が見たのは、こういう光景だった。
先ず、ランリーはテレポートを使って僕との距離を縮めてくる。
その瞬間、右手で電撃を放ったあとテレポートで僕の前に現れる。そして、僕に向けて勢いよく右足で蹴ってくる。
この光景を見たとき、流石に上からの蹴りは痛いじゃすまされないだろう。
それに、ランリーの攻撃は一見雑そうに見えてそうじゃない。
速さと無駄のない動きで、相手の態勢を崩し崩れたところを一気に攻めている。
頭で考え作戦を練りながら、すぐに実行していると考えられる。現に僕と会ったのも今日初めてなのに、ものの数分で僕の弱点をついてくる。本当に戦いにくく何を考えているか分からない人だ。
そんなことを考えていても、答えは見つからない。だから、それに気づいたことだけを前向きにとり、今は僕が出来ることを精一杯やることただそれだ。
先読みで見た光景をもとに、ラドはランリー向かって走り、勢いよく地面を蹴飛ばした。
そして、宙に浮いたところで小型爆弾を両手に三個ずつ持ち、ランリーの周囲に投げつけた。
けれど、最初と比べてラドの攻撃は全く効かないどころか、こちらの動きを読んでいるかのようにランリーの姿がどこにもなかった。
その瞬間、何かを悟ったかのようにふと気づいた。
「ランリー、もしかして他人の能力をコピーできるのか?」
そう問いかけると、自慢そうに答えた。
「あぁ、そうだよ。気づいた?この能力欲しかったんだよね。先読み出来る能力って有利じゃん。気抜いてくれてありがとう。」
その時、ランリーの狙いに気付いた。
敵は、攻撃をしながら僕に近づき僕の能力を探っていた。
そして、観察しているうちに能力の正体を知りあの時、不安させるような事を言って少しでも隙が出るよう仕向けた。僕はその作戦にまんまとはまり、ランリーに能力をコピーされたという訳か。
ラドは、この戦闘の場で隙を見せてしまったことに対し、自分の不甲斐なさを痛感していた。
その気持ちを忘れず、もう一度戦いに集中するため二秒間目を閉じた。
静かに目を開け、そっと呟いた。
「ランリー、行くぞ。」
「次からは、手を抜かないぞ」
そう言い終わると、今までよりもさらに素早い動きで、ランリーに攻撃し始めた。
そしてランリーの背後に立ち、思いっきり背中を蹴飛ばした。
ランリーは、前へ態勢を崩した。蹴られた真ん中あたりを左手で摩り不機嫌そうに顔顰め(しかめ)呟いた。
「お前さ、背後から蹴飛ばすのは良くないよ。痛いじゃないか。」
ラドは、ランリーの呟きに耳をかさず、今は集中しなければという気持ちで次のことを考えていた。
そして、相手に自分の能力をコピーされている今さらに隙を見せてはいけないと背筋に緊張が走った。
ラドは、意識を目に集中し能力でランリーの行動を読み取った。
その時、見ていた映像に一瞬だけ何も映らなくなっていた。けれど、それは一瞬の話でほとんどは見ることが出来た。ラドは少し不自然に思った。
今まで、そんなことは一度もなくこんなの初めてだ。
その瞬間、アラン警部補の声が聞こえた。
「ラド、避けろ。上から来るぞ。」
その瞬間、ランリーはラドに向けて電撃を放った。
ラドは、身体能力を活かし素早く交わした。
ギリギリなんとか電撃をくらわずに済んだ。
ラドは、後ろを振り返りアラン警部補にお礼を言った。
「アラン警部補ありがとうございます。」
砂煙に隠れて、薄ら人影が見えたような気がした。
その瞬間、アラン警部補は良かったと安心した表情で、ラドの目の前で倒れた。
ラドは、一体何が起きているのか分からなかった。
そう言えば、アラン警部補はアントムと戦っていたはず・・・。
その瞬間、ラドの目に映ったのはアントムだった。
アントムは、地面に倒れているアラン警部補の頭を掴みラドに向けてニヤリと笑いながら話した。
「アランは、僕が倒したよ。もうこれだけ血が流れている。ヒーロー相手に良く頑張ったよな。」
ラドは、その光景を見て青ざめていた。
「ラドが、早くランリーを倒さないからだよ。」
「アントム、他の警察官やヒーローはどうしたんだよ。」
「あぁ、そういや居たな。もうとっくに倒したよ。アランとは一対一で戦いたかったからね。」
「嘘だろ・・・。あれだけの数を倒したって・・・。」
「アラン邪魔だから、ラドに返すよ。」
そう言うと、アントムは掴んでいたアラン警部補の頭を、ラドの居る方向へ投げつけた。
飛んでくるアラン警部補を受け止めようと、ラドは態勢を低くし地面を思いっきり蹴り両手で受け止めた。
その後、一旦アントム達と距離をとり安全な場所に行きアラン警部補を下ろした。
「大丈夫ですか?」
ラドの問いかけにアラン警部補は微かな声で答えた。
「あぁ・・・、なんとかな。ごめんな。俺が弱くて・・・。」
ラドは首を横に振り、すぐに応援に行けなかったことに対し謝った。
「すみません。本当にすみません・・・。あの時、集中していたはずなのに、僕はまた相手に隙を見せてしまった。あの瞬間が無ければ、アラン警部補はアントムにやられなくて済んだはずなのに・・・。こんななことになったのは、僕の責任です。本当にすみません。」
アラン警部補は、泣きじゃくるラドの姿を見て背中にそっと手をあてた。
「ラド、良く聞け。俺は大丈夫だ。お前の責任じゃない。それだけは言っておく。申し訳ないが俺はもう少しここで休んでいく。ラド、ナジョルをお願いな。あの子を助けてくれ。」
ラドに託し、アラン警部補は目をつぶり眠っていた。
あたりを見合わしてみるともう日は沈んでいた。
戦いに集中していて気がつかなかった。
冷静になろうと深く呼吸をした。
けれど、徐々に込み上げてゆく自分の失態に強く反省していた。
現状、今は僕を一人。今更、何ができる?相手は、ランリーとアントム数十体のノウム。俺には出来ないと丸く蹲り(うずくま)ながら、口をこもらせ呟いていた。
その時、二人の足音がラド達が居る方向に歩いてくる音がした。
ラドは、きっとランリー達だと思いもう終わりだと覚悟を決めていた。
「ヒーロー、お願いだ。ナジョルを助けてくれ。」
何やら、聞き覚えのない男性の声がした。ラドは後ろを振り返った。
「ラドさん、私はキオです。今、アラン警部補の指示で動いていましてもし何かあった時ラドに伝えてくれと」
ラドは、ヒーローのキオに耳を傾けた。
「キオ、無事で良かったよ。伝えたいことって何?」
「ラドさん、この方をナジョルさんの元へ連れて行ってもらいませんか?」
ラドは、思わず目を見開いた。
「私の役目は、この方を敵から守ることとナジョルとアントムに見つからないように隠れていました。これで、今の現状を逆転させましょう。この方もそうしたいと一番思っています。」
ラドは、重たい腰をあげ立った。
「分かりました。キオ、ありがとう。僕は、もう諦めないし必ず任務を成功させるよ。」
ラドはキオのお陰で、もう一度戦う決心をした。
「ラド、私はアラン警部補と他の仲間を連れて先警察署に戻ってるからね。」
二人は、各任務に戻るため別れた。
ラドは、ある男性を連れてナジョルの元へ向かった。
「さぁ、行きましょう。ナジョルさんの元に着くまで守りますのでご安心ください。」
「ありがとうございます。」
二人は、周囲を警戒しながらゆっくりと歩きラドは男性を守ることを優先し動き始めた。
今、ラド達が居る場所は更地でこのまま進むとランリー達に出会してしまう。そうなると、僕一人では守り切ることは難しい。
戦闘では、なるべく有利に立ちたい。その為には、今しなければいけないことはここから一度離れること。そして、近くの茂みに隠れながら行動していけばナジョルに会える。
ラドは、頭の中で男性の安全と任務の遂行に力を入れ集中し始めた。
考えている間に無事茂みに隠れることが出来た。
ラドは、男性に僕が合図を出すまでは顔を伏せておくよう伝えた。
男性は、ラドの指示に対し首を縦に振り頷いた。
しばらく二人はその場にしゃがみこんだ。
そして、ラドは敵の位置を確認するため左耳につけてあるワイヤレスイヤホンの中央部分を軽く押した。
その瞬間、左目に小型ディスプレイが表れそこで暗視機能を使い相手の位置を確認した。
特に目立った動きはなく今確認できるのは三人。
おそらく体格からして、ランリーとアントムそしてナジョルの可能性が高いと予想した。
ラドは、このまま動くべきか迷っていた。現状ここには二人しか居ない状態で、ランリー達に真っ向勝負を賭けたとしても、断然ランリー達が有利だと分かっていた。
しかし、ずっとこのままにはいかない。ラドは顔を曇らせていた。
その時、男性がラドに自分の考えを伝えた。
「ラド君、このままでは良くない。そこで私に考えがあるんだが、聞いてくれるか?」
ラドは男性に身体を向け、話を聞く態勢をとった。
「ラド君は、アントムとランリーを引き寄せてほしい。私はその隙にナジョルの元へ行く。」
ラドは、そんな簡単に行くのか不安そうな表情を浮かべた。
「仮にそうしたとしても、本当に上手く行くのでしょうか?ランリーは、性格上来る可能性は高いですがアントムはランリーと違い落ち着いていますし、こちらが何かを仕掛ければ真っ先にナジョルの元へ行くでしょう。」
「あぁ、それは分かっている。けれど、これしか方法がないんだ。」
ラドは、男性の作戦に対して何か出来ないかと悩んでいた。
どうやれば、ナジョルを一人にできるのか、そして男性がナジョルの元に行ける時間を少しでも作りたい。そう考えていると、ふと頭の中である方法を思いついた。
ラドは、男性にこれから行うことを話した。
男性は、ラドの作戦に分かったと言いラドは動き始めた。
ラドは、態勢を低くし素早くランリー達の方へ向かった。
すると、ランリーがラドがこちらに向かってくることを先読みしアントムとナジョルに伝えた。
ランリーはラドの攻撃を食い止めようと、アントムにナジョルを任せラドの元へ向かった。
けれど、ラドは見当たらずランリーはラドを探した。
その頃、アントムはナジョルを安心させようと話した。
「ナジョル、大丈夫ですか?」
「・・・。」
アントムの問いかけに返答がなく後ろを振り返った。
すると、後ろにいるはずのナジョルが居なくなっていた。
アントムは、血相を変えナジョルを探し始めた。
ラドは、口角を上げ呟いた。
「第一段階、作戦終了。」
そして、右胸ポケットから小型懐中電灯を左手に持ち、手を横に振り男性に合図を送った。
あの時、作戦が実行される前にラドが男性に話していたのはこういう内容だった。
「貴方の言う通り、僕がランリー達を引き寄せます。そして、ナジョルさんとアントムを離した瞬間、合図を送りますので貴方はナジョルさんの元へ行ってください。」
その話を聞き、男性は右手を顎に置き首を少し傾げていた。
ラドは、男性の様子を見て聞いた。
「どうしましたか?何か疑問に思うことがありましたか?」
男性は、ラドの問いに答えた。
「一つ引っかかることがあるんです。こんな暗闇の中で、どうやってナジョルを一人にするのですか?」
「この暗闇だからこそ、チャンスに変えるんです。低い態勢にし、素早く相手の周囲に入り小型爆弾を投げます。その隙にアントムとナジョルの間にも小型爆弾を投げ、その隙に貴方はナジョルさんの元へ行ってください。あとは、僕が全て引き止めますから、ナジョルさんをお願いします。」
ナジョルは一人になり、不安な表情を浮かべながら腰にある剣を手に取り身を守っていた。
その瞬間、ナジョルの前に男性が現れた。
「どうして・・・。」
ナジョルの頭の中が、真っ白になり何も考えることが出来なかった。
「待って、これは何の冗談なの?私は夢を見ているのかしら?」
男性は、その問いに答えた。
「違うよ、ナジョル。夢じゃなくて現実だ。」
ナジョルは、男性の言っていることが理解出来なかった。
「そんなの嘘よ。だって、あの時お父様は亡くなったわ。アントムの手によって白い薔薇の茎に刺されてね。だから、嘘よ。私は信じない。」
そこに現れたのは父ラートリーの姿だった。けれど、急に現れて信じろって言っても信じられないのは仕方なかった。だが、ラートリーは諦めなかった。
「信じられないのも無理はない。だけど信じてくれ。」
ナジョルは、溢れる涙を必死に堪え男性に話した。
「じゃあ、教えてよ。お父様だって言う証拠を教えて。」
すると、ラートリーは来ていたジャケットの右胸ポケットからエメラルドのネックレスを取り出し、それをナジョルに見せた。
すると、ナジョルは言葉を失い動揺していた。
そうなるのもの無理はない。それは、以前ラートリーからもらいお気に入りのネックレスだったからだ。
「本当にお父様なの?」
「あぁ、そうだ。ナジョルの父親だ。」
ナジョルは、疑問に思っていたことを聞いた。
「でも、あの時亡くなったはずなのに・・・。どうして?」
ラートリーは、混乱するナジョルに説明した。
「それはね、あの時死んでいなかったんだよ。死んだふりをしていた。アントムを情報を集めたくてね。」
「死んだふり・・・?でも、確かにお父様の手は冷たく、それに刺されたところから血が出ていたじゃない。」
ナジョルは、ラートリーが何を話しているのか理解出来なかった。
ラートリーは、ナジョルを落ち着かせようとゆっくりと話し始めた。
「ナジョル、混乱させるようなことを言ってしまって申し訳なかった。一から説明しよう。」
そう言うと、ラートリーはナジョルに近くづき目の前で止まった。
そして、ナジョルと目線を合わせるため腰を低くした。
「ナジョルがまだ小さかった頃、警察署で働いていた時があってね、その時身につけた敵から逃げる方法をそこで実践したんだ。そして、警察署を退職してからもアントムを調べていた。
まず、アントムは裏社会と繋がっていたこともあり、殺しの現場を見た者は消しに来ることは知っていた。だから私は殺されると分かっていながら、早めに手を打ったんだ。血糊の入った袋を使ってね。
アントムが近くに居ることを知った上で、わざと警察署にアントムの情報を言った。そうすれば、アントムは必ず私を殺しに来ると思ったからだ。そして、アントムは私の作戦にはまった。その後、アントムが私の家に来て呼び出した。私は覚悟を決め、少し準備するからと待ってもらい左胸に血糊の袋を入れ、袖の裏側に保冷剤をつけた。そして、外に出て話そうとアントムに話、家から離れた白い薔薇のところまで行った。そして、着く間も無くして左胸を刺された。身体を守る対策はしていたが、相当な恨みがあったのだろう。深くまで刺してきてね、その時ナジョルにあげたネックレスが、私を守ってくれたって言う訳だ。」
ナジョルは、ラートリーが話した言葉に嘘はないと確信した。
あの時、ナジョルが感じた感触もアントム行動も全てに筋が通っていたからだ。
それに、その話を聞きふと思い出したことがある。
お父様を埋めようとした時、刺されたところからエメラルドのネックレスが少し見えていたことに覚えがあった。それに警察署で働いていた時から剣の裁きは凄かったとお母様から言われたことをぼんやりだが、思い出していた。
ナジョルは、ランリーから渡された剣を見て腑に落ちた。
剣を使うのは初めてではなく、何か久しぶりに持った感覚だった。
ナジョルは、お父様を抱きしめていた。
ラートリーもナジョルを抱きしめ、あの時怖想いをさせてしまって申し訳なかったと謝った。
ナジョルは、生きてて良かったとラートリーに伝え安心していた。
「ナジョル、私はあの時聞いていたんだ。私のせいで悪の女王に君臨することになったと・・・。
もう辞めないか?」
ナジョルは、ラートリーの声に耳を傾け静かに呟いた。
「辞められることなら辞めたい。けれどそれは出来ない。それはお父様も分かっているでしょう。
ディサピアー同盟軍は、そんな優しい連中じゃないことくらい。」
ラートリーは何とか出来ないかと考え始めた。
その時ラドが現れた。
「ラートリーさん、やっとナジョルさんにお会いできたのですね。良かったです。」
「ラド君ありがとう」
「ラートリーさん、再開して早々申し訳ないのですがナジョルさんを連れて今すぐここから逃げてください。もうすぐ、ランリー達が来ます。なので、二人は早くここから逃げてください。」
ラートリーは、ラドの指示に従おうと頭を縦に振り頷いた。
ラドも今回の計画は、ナジョルを救うことそれを守るために二人を安全な場所へと行かせてたいとその想いがありラートリーにお願いした。
その場からラートリーがナジョルを連れその場から立ち去ろうとした瞬間、ナジョルはラートリーの手を振り払った。
ラートリーは驚いた。
「ナジョル、どうした?さぁ、ラド君も言っていただろう。時間がないんだ。」
その言葉にナジョルは、首を横に振った。
「お父様、ごめんなさい。私はそちらへは行けないわ。」
「何を言っているんだ。ナジョルためにみんなここまで助けに来たんだろ。」
ナジョルは、首を横に振り私が言いたいことはそうじゃないことを伝えた。
「私は、悪の女王として辞めるために、けじめをつけなければいけません。なので、一緒には行けません。ですが、お父様何があっても必ずお父様のところへ戻るとお約束します。ですから、安心して安全なところへ逃げてください。お願いします。」
ラートリーは頭の隅で分かっていた。
ナジョルは、そう言うのだろうと。そして、ザヴァ連合と同盟を組みディサピアー同盟軍となった今そんな目を簡単に賛成するとは思えなかった。
ラートリーは、ナジョルの目を見てその覚悟を受け止めた。
「分かった、ナジョル約束は守るんだぞ。ラド君、ナジョルを頼む。」
ラートリーはラドに頭を下げお願いした。
「分かりました。ナジョルさんは必ず守ります。」
そう言うと、ラドは無線で近くにいる仲間とやりとりを始めラートリーを安全な場所へ誘導してほしいと伝えた。
「ラートリーさん、今仲間の近くまで来るそうなので、これを和しておきます。来るまでの間、安全な場所へ隠れていてください。」
「これは何?」
「これは、簡単に言うと位置情報です。これを手につけておいてください。そうすると、どこに隠れていても仲間がラートリーさんを見つけてくれます。」
「分かった、ありがとう。ラド君も無事に戻ってきてくれ。」
「はい。」
ラートリーは急いで、その場から立ち去った。
ラドは、ナジョルに寄り添った。
「ナジョルさん、大丈夫です。二人で必ず帰りましょう。」
ナジョルはラドの言葉に安心し、笑顔で頷いた。
その表情は、悪の女王になる前の優しく笑顔がとても似合うナジョルに戻っていた。
ナジョルは、心の中で本来の自分に戻りたいとずっと思っていたのだろう。
ラドは、ナジョルの笑顔見て嬉しい気持ちになった。
そこへ、ランリーとアントムが目の前に現れた。
アントムは、ナジョルにこっちに来るよう伝えたがそれに対しナジョルは拒んだ。
「私は、もうそっちへは行かないわ。そして今日をもって悪の女王は辞めるわ。」
アントムとランリーは笑った。
「何を言っているんだナジョル。辞める?そんなこと出来るわけないだろう?一番理解しているのはナジョルだろ?」
ラドとナジョルが予想していた通り、辞めることはそう簡単に行かないと分かった。
「アントム、分かっているわ。辞めることができないことくらい。けれど、私は決めたの。そっちへは 行かないわ。」
アントムは、ナジョルを強く睨みつけた。
「あぁ、分かったよ。ナジョルにはもう要は無いな。お前もラドと死んでもらおうか。」
そう言うとアントムはランリーに何かを伝えた。
その瞬間ランリーの指の音が鳴った。
ナジョルは、焦った表情でラドの服を強く引っ張り必死に伝えた。
「ラドさん、ここから早く逃げてください。」
ラドは、ナジョルの表情を見て只事ではないと一瞬で察知した。
「ナジョルさん、どうしたんですか?」
「今ここに数多くのノウムが来ます。以前のノウムとでは、比べものにならない強いノウムです。私がここで食い止めます。だからラドさんは逃げてくだい。お願いします。」
ラドは首を横に振った。
「ナジョルさん、ごめんなさい。それ出来ないです。僕はヒーローですよ。僕はナジョルさんを守りたいと強く思っています。ですので、僕はここから逃げる訳には行かないのです。お許しください。」
ナジョルはラドの優しさに胸が打たれた。
お父様が亡くなったと思っていたあの日から、ヒーローなんて居るはずがないと思っていた。アントムは、凄いヒーローだと思っていたのに、裏社会と繋がっていたりそれにディサピアー同盟軍の中にもヒーローは居たけれど皆は本物のヒーローじゃなかった。
テレビでヒーローの活動を見ていたけれど、中には逃げていたヒーローも居た。
結局、自分の命が一番大切でテレビやみんなの前では、私たちヒーローは皆さんを守るためにここにいますってよく耳にするけれど、それは現実と違っていたことが分かった。
だからこそ、ラドの言葉がとても心に響き本物のヒーローが本当に存在するのだと初めて知った。
ナジョルは胸に両手を重ね感謝の気持ちを呟いた。
「ありがとう・・・。私のヒーローさん」
ランリーは、数十体のノウムを出し終わるとノウム達に指示を出した。
「あの二人を潰せ。」
その瞬間、ノウムは一斉にナジョルとラドへ攻撃を始めた。
ラドは、一人でナジョルを守ると心に決めノウムに立ち向かった。