ひょうりゅうのランブル
『青の世界』の大海原の昼下がり、青い肌の巨大な女性『グウレイア』が魚たちとたわむれていました。グウレイアは身体が水でできていて、優しさと美しさをかねそなえた女神で、あらゆる生き物から『水の女王』と親しまれています。
(ふふっ……、海の中でもいろんなかわいいお魚たちを見られて楽しかったわ。……そろそろ湖にもどりましょう。)
グウレイアは湖にもどる途中、砂浜に一本の流木と共にうちあげられた一羽の雄の人鳥を見つけました。
(この鳥は一体何かしら……。この青の世界では見たことのない鳥のようだけど……。生きているけど弱りきっているわね……。水と生命をつかさどるわたしの力で助けてあげましょう。)
グウレイアは身体を七色に光らせて人鳥を介抱すると、人鳥は目をさましました。
「……う……ん……、ここは一体……?」
「気が付いたのね、良かったわ。わたしは水の女王グウレイア、この青の世界の守り神で、みんなから『お姉さん』と呼ばれているの。」
「……ぼくは……、ペンギンの『ランブル』……。さむいさむい『白の世界』から来たんだ……。」
グウレイアと人鳥はお互い自己紹介しました。
「ランブルと言うのね。さっそくでわるいけど、どうしてこの青の世界に迷いこんだのか聞かせてもらえないかしら?」
グウレイアはペンギンのランブルに漂流したいきさつをたずねました。
「ぼく……、海の上に浮かんでた丸太を見つけてそれにのったんだ……。たぷたぷとした感じが時間を忘れるくらい楽しくてつい……。気が付いたらずっと沖の方に流れてて……。」
ランブルは流木とたわむれていて流されてしまったと話しました。
「そう……、わかったわ。あなたが元気になるまでわたしがお世話してあげる。」
「ありがとう、お姉さん。」
「ふふっ……。」
数日にわたるグウレイアのお世話で何とか元気になったランブルですが、ランブルはものすごく不安でした。
「……グウレイアお姉さん……。」
「どうしたの、ランブル?」
「……ぼくには……、この世界はあついんだ……。ぼくたちペンギンはさむい所でくらしてるからずっとここで生きてくことできないんだよ……。」
ランブルはグウレイアに青の世界は自分たちペンギンにはあつさのあまり長くは生きていけないと話しました。
そう、ペンギンには温暖な青の世界は過酷な気候なのです。
「そう……。」
グウレイアは表情をくもらせました。
「……ぼく……、やっぱり白の世界に帰りたい!……やっぱり帰りたいよ……。」
ランブルは泣き出しました。
「そうね……、やはりみんな……、自分の生まれ育った地が一番だものね……。」
グウレイアはランブルの想いを受け止めるようにランブルを抱きました。
「うん……。」
「あなたの住む白の世界に連れて行ってあげたいけど……、わたしには青の世界を守る役目があるからはなれるわけにはいかないの……。ごめんなさい……。」
「……じゃあぼくはずっと帰れないの!?」
「……いいえ……、遠くまで泳げる大きくもおだやかな生き物にたのみましょう……。」
二体の不安にみちたやり取りに割って入るように一頭の雄のイルカがやってきました。
「こんにちは、グウレイアお姉さん、話は聞きました。その役目、このイルカの『バンドウ』にお申し付け下さい。」
イルカのバンドウはランブルを白の世界に連れて行く役目を引き受けると申し出ました。
「……ちょうど良かったわ。バンドウ、このランブルというペンギンを白の世界に運んであげて。」
グウレイアはバンドウにランブルを白の世界に運ぶようたのみました。
「お安いご用です。」
バンドウは喜んで引き受けました。
「お姉さん……。」
「ランブル……。」
グウレイアとランブルは互いに向かい合いました。
もうすぐ別れの時が来ることをお互い感じていたのです。
「ランブル……、『雫の紋章』をあなたにあげるわ。お守りとして大切になさい。」
グウレイアは自分の左胸の中から青く光る雫の紋章を取り出してランブルにわたしました。
「うん、グウレイアお姉さん、色々ありがとう。」
ランブルは雫の紋章を受け取ってお礼をのべました。
「さあ、ぼくの背中に乗って。しっかり背びれにつかまっててね。」
「うん、バンドウ兄ちゃん。」
ランブルはバンドウの背中にのり、背びれにつかまりました。
「それでは、グウレイアお姉さん。これからランブルを白の世界に運んでまいります。」
「バンドウ、ランブル……、あなたたちに水の加護を……。」
「グウレイアお姉さん、本当にありがとう。それじゃ、お姉さんにも氷の加護がありますように!」
「ふふっ……。」
バンドウはランブルを背中に乗せて海の向こうの白の世界へと泳いで行きました。
ランブルもグウレイアもなみだを流して別れをおしみました。
ランブルたちを見送った後、グウレイアは湖にもどって魚とたわむれる日常にもどりました。