秋夜音楽描会 プロローグ --- 音でらくがきをする会 ---
打楽器って楽しいよね。
僕がそれに出会ったのは、夜風に秋の気配が感じられるようになってきた、とある日の
夜であった。
会社からの帰り道、僕はいつもの道を少し離れたところにある林の方に向かった。
(今日は夜風が気持ちよいから、ちょっと遠回りして帰ろうかな。)
夏から秋に移ろうこの時期、夜の林は虫たちの合唱に包まれる。少々うるさいくらいに
降り注いてくる虫たちの声だが、真夏の蝉時雨とは違って、暑苦しさが感じられない分、
心地い響きに聞こえる。住む国によってはこの虫の声は騒音にしか聞こえないらしいが、
僕は、その『騒音』を楽しみに来た。
林に近づくと虫の声はいよいよ大きくなり、足を踏み入れると頭の中に鳴り響くように
四方八方から甲高い音が降り注いでくる。
(音に包まれている。)
心地よい夜風と音を感じながらゆっくりと林の中を歩く。
林と言ってもそこは公園の一部で、それなり道も通っているし、所々に街頭もあるので
そんなに危ないこともない。
・・・ふと足を止めた。
(何だろう?)
雑然とした虫の声の中に、微かにリズムのった音が聞こえてきた。再び歩き出し、その
音がする方向に足を向けた。少し先に明かりに包まれた、広場があるようだ。
近づいて行くと、その広場の一角に何人も集まって色々な楽器を奏でているのが見えた。
そこから、何の曲かは分からないけれど、自然と体がのってくるような演奏が流れてくる。
引き寄せられるように近づき、少し離れたところでしばらく見ていると、一人の少年が
近づいてきた、
「いらっしゃい。お兄さんは何の楽器やってるの?」
「えっ?…うん、なんか賑やで楽しかそうだったから、ちょっと見てただけなんだけど。」
「ふ~ん・・・」
少年はまじまじと僕を見て・・・
「そうか・・・珍しいね。久しぶりの『お客さん』だ。」
「『お客さん』?」
「そう、『お客さん』。僕らは楽器を練習してきて、ある目的のためにここにいいるんだ。」
「目的? この演奏会が?」
「ん・・・、まぁそれはおいおいとね。」
含み笑いをして少年は続けた。
「・・・で、お兄さんはたまたまここに招かれちゃった、ってわけ。」
「招かれたって?」
「僕にも詳しいことは分からないけど、普段、お兄さんみたいな『人』が、この場に来る
ことはないんだけど、たまに、『招かれて』来ちゃう人がいるんだって。」
「なんだかわからないけど、それだと、僕はここにいない方がいいのかな?」
「そんなことないよ。まぁ、細かいことは気にせずに、せっかく来たんだから中に入って
みんなと楽しもうよ。・・・ほ~らっ。」
少年に背中を押され、楽器を演奏している輪の中に僕は加わった。
「おっ、珍しいね!ようこそ!」
「いらっしゃい!」
:
周りから様々な声が掛けられる。否定的な感じはないので少し安心する。
:
「ようこそ、音のらくがき会へ!」
最近ハマっている『ドラムサークル』。
みんなで打楽器を使って楽しむ催し・・・みたいな(超ざっくり説明)。
それを題材にして掻いてみました。