【書籍発売⭐️感謝SS】六つのさくらんぼたち
2023年5月10日(水)マッグガーデンより発売です!
クマちゃんがゴミと間違われ、危うく捨てられかけたあの日。
複雑に絡まっていた誤解の糸がやっと綺麗に解け、お互いの気持ちを確認し合ったあの日。
エルダとダリウスは晴れて恋人同士になった。
両想いになった数日後、エルダはレジーナの護衛から再びダリウスの護衛に戻される。
二人を応援しているレジーナの粋な計らいである。
「もともとエルダがダリウスの護衛に任命されたのはあなたたち二人をくっつけるためだったのよ」
レジーナは笑って種明かしをして、二人を祝福する。
めでたしめでたし。また穏やかな日常が戻って来る、みんなそう思っていた。
その日、エルダとダリウスは久しぶりに一緒に筋トレをしていた。
執務室の床の上で腹筋をするダリウスの足をエルダが押さえながら。
初めはリズミカルに高速で上体を起こしていたダリウスも、回数が増えるにつれだんだんとペースが落ちてくる。
「ふ……くっ……」
身体を起こすたびに、尻の下で木の床がギッと軋む。
だんだん苦しくなってきたダリウスは、モチベーションを高める良い方法を思いついた。
腹筋で起き上がるたびにエルダにキスをもらおう。想像しただけで、楽しそうである。
「エルダ……キスを……」
苦しい息の下でそう言うと、状況を素早く察したエルダはニッコリ笑い顔を前に突き出し瞳を閉じたーーーー。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(うわぁ)
ドアの外の護衛、カークは赤面した。
リズミカルに軋む床。苦しげな呻き声。
その後しばらく、チュッチュとキスをする音がしたかと思えば、挙げ句の果てに
「エルダ、交代しよう。今度は僕が上で」
と言う第二王子の声が漏れ聞こえて来たのである。
(なんという破廉恥な奴らだ。恋人になったばかりでもう)
遊び人の近衛でさえこんな平日の昼間からそんなことはしないと言うのに。
カークは呆れて乾いた笑いを漏らし、その晩すぐさまアランに報告した。
エルダとダリウスはだいぶ前から一緒に筋トレをしていたのだが、二人のキスシーンを目撃する前と後では同じ音を聞いても想像するものが違ってしまうのはご愛嬌。
カークに悪気があったわけでは断じてないのだ。
そして、歩く拡声器のようなカークとアランの話はすぐさま国王一家の耳にも入る。
国王は呆れ、執務に支障をきたすからという理由でエルダをダリウスの護衛から外し、昼間は会えないようにしたのだった。
当の本人たちはキョトンとしていたが。
王太子のバシリウスと、その婚約者のラナと、レジーナ王女の三人はショックを受けた。
子供だと思っていたダリウスと、若葉マーク女子のエルダが自分達より先に大人の階段を上ってしまったことにである。
実はこれはとんでもない誤解で、二人はまだ清い関係だったのだけれど。
さて、バシリウスとラナとレジーナだが、三人とも想う相手はいるもののその行為は未経験。期待と不安と好奇心に満ち溢れていた。
(ダリウス……いくらなんでも進展が早すぎるだろ)
弟に先を越され、立場を失ったバシリウスは恨めしい気持ちでため息をつく。
将来の国王として、兄として、自分はいつも皆の手本であったはずなのに。
加えて完璧主義であるバシリウスは、常に努力と事前準備を怠らない質だったが、ことこの方面に関しては出来る努力は限られている。
(ダリウスったら……本能のまま突っ走ってしまうところは、まだまだ人として未熟ね)
レジーナ王女は感情を素直に表しすぎる弟の未熟さを憂えた。
やはり、末っ子ということでみんなで甘やかしすぎたのだろうか。
(後学のために詳しく聞きたい!)
ラナは純粋に好奇心でうずうずしていた。レジーナと違って閨教育もまだのラナの周りにはそういう情報をくれる人がいないから。
レジーナやバシリウスと比べ、ラナはストレートで豪快な性格だ。
なので、エルダとお茶を飲んだ時にいきなりズバッと切り出し、レジーナをギョッとさせた。
「ねえエルダ。あなたとダリウスが二人きりの時にしているようなこと……初めての時は不安はなかったの?」
エルダはイチゴとカスタードのミニタルトにかぶりつき首を傾げた。
(二人きりの時にしているようなこと……? ああ、筋トレか)
「ラナ様も興味があるのですか?」
「そ、それは……まあ。でもレジーナだって」
「私の名前まで出してひどいわ、ラナ!」
レジーナも真っ赤になる。
(知らなかった。淑女も筋トレに興味を持つ時代になったのか)
エルダは嬉しくなった。
「是非是非! 美容と健康にもいいのでおすすめですよ」
「「そ、そうなの!?」」
「ええ。ダリウス殿下は初めての時アランに相談してました」
(アランに相談!)
レジーナとラナは顔を見合わせる。
(なんか納得だわ。女性経験多そうだものね、近衛はモテるから)
「確かに……アランやカークは色々と教えてくれるでしょうね」
するとエルダが大きくかぶりを振った。
筋肉フェチでトレーニングが趣味のアランと違って、カークは筋肉を増やしたくないタイプなのだ。理由は洋服が似合わなくなるから。
「いえ、カークはダメですね。相談するならアランでなくては」
「「そ、そうなの!?」」
同じように遊んでいるように見えて、それほど技術的に差が出るものなのか!
「でもアランのやり方もどうかと思うんですよね。無駄に回数ばかり多くて」
「「…………」」
俯いてもじもじするラナとレジーナ。
「やはり参考にするべきなのはエイジャクス団長なのかも知れません」
「「えっ!!」」
ラナが瞳を爛々と輝かせながら尋ねる。
「意外だわ! エイジャクス、そっち方面に詳しいの!?」
「ええ。ダントツの熟練者で、近衛たちからもしょっちゅう相談されています」
「ゴホッ!」
レジーナが真っ赤な顔をしてむせた。
ラナはニヤニヤしながら、揶揄うように肘でレジーナをつついた。
「良かったわね、レジーナはエイジャクスに教えてもらえばいいんだから」
「えっ!」
エルダは驚いた。近衛時代から戦闘部隊レベルのトレーニングをしていたエイジャクスに筋トレの指導をしてもらうなんて!
いくらなんでもレジーナ王女には厳しすぎるだろう。
「いきなりエイジャクス団長の指導ではハードすぎます。翌朝動けなくなると思いますよ」
「ええっ」
レジーナが青くなる。
(そんなに!? どうしよう……私に騎士の妻なんて務まるのかしら)
ラナはキャッキャ喜んでいる。
「この前までお芝居ごっこしていた私たちが、こんな大人な会話をするようになるなんて。うふふ」
(大人な会話?? 筋トレが?)
エルダは首を傾げる。
「エルダ、貴重な情報をありがとう。今の話をまとめると、エイジャクスは神、繊細さには欠けるが場数の多いアラン、そっち方面才能なし見掛け倒しのカーク、ってことね」
ラナが納得したように頷いた。そして「バジルにエイジャクスのところに相談に行かせなきゃ」と小さく呟いた。
「ねえラナ、エイジャクスに関する情報はここだけの秘密にしてね。他の女性にモテすぎるのも嫌だから」
レジーナは恥ずかしそうに釘を刺した。でも心なしかちょっと嬉しそうである。
「???」
(エイジャクス団長がモテる? 何の話だろう。体幹も筋肉のつき方も理想的な戦闘員だけど、だからと言ってモテはしないと思うけど)
エルダは薄っすらと会話に違和感を覚えたものの、元来深く物事を考えないたちだったので、すぐに意識は目の前の菓子に移っていったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「気のせいかな。なんだか最近モテなくなったような気がするんだけど」
近衛専用備品倉庫で道具の点検をしながらカークがこぼす。
最近、合コンに行っても『お持ち帰り成功率』が著しく低下しているのだ。
アランはカークほどではないが、陰口を叩かれることが増えたようには感じている。
しかし胸に手を当てて考えても、何もした覚えはないのだ。
備品の中で破損したものなどを避けて、全体の数量を紙に記入し終わった二人は報告のため団長執務室へ向かう。
コンコン!
ノックをして執務室のドアを開けた二人は、先客がいることに気づいた。
「バシリウス殿下! 申し訳ありません、お話中だとは存じ上げませんで」
「いや、いい。もう話はすんだから気にするな。では僕はこれで失礼する」
王太子はエイジャクスに礼を言うと部屋を後にした。
テーブルの上には高級ワインや菓子の入ったバスケットが乗っている。
「それ……どうしたんですか」
「王太子殿下に頂いた。……相談に乗ったお礼だとか」
「王太子殿下にお礼をいただくようなことを相談されたのですか。近々大掛かりな軍事作戦でもあるのですか」
「それはない……と思うんだが。一体なんの相談だったのか私にもわからないのだ」
エイジャクスは腕組みをしてうーんと唸った。
(事前に練習出来ないことをいきなり本番で成功させるには……とかなんとかおっしゃっていたな。なんだったのだろう??)
デマがもとで別のデマが派生してーーーーこうしてカロニアの王宮では今日も『デマ&勘違い』の連鎖が続くのであった。
この作品が書籍になるなんて、本当に夢みたいです!
いつも応援してくださる読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
実は国王と王妃の若い頃の話を書こうとしてエタりまして、代わりに短編SSになってしまいました。




