5. 寝不足の原因は
仲良しのラナが遊びにやって来た。
ラナは兄の婚約者であり、王宮でお妃教育を受けている最中だ。
「あの無愛想な騎士団長と案外上手くやってるみたいね」
紅茶を飲みながらラナがニコニコしながら言った。
「うふふ。エイジャクス、ああ見えてとっても可愛いのよ」
今日もボタンを掛け違えていた夫を思い出してクスッと笑ってしまう。
ところがラナの次の一言が穏やかなティータイムを一変させる。
「レジーナが元気そうで安心したわ。てっきり寝込んでいるのかと思って心配で来てみたの」
「寝込む?」
ラナは、ちょっと頬を赤くして、言いづらそうに言った。
「騎士団長は寝不足だって聞いたから。バジルの話を聞いている最中に居眠りしたって……」
え?
「バジル、ちょっと怒ってたけど『新婚とはそう言うものなのかも』って」
はい?
「あ、安心して。カークとアランが変なこと言いふらさないようにガツンと釘刺しておいたから」
「先輩として色々と教えてね。頼りにしてるわ、レジーナ」
ラナはそう言い残して帰って行った。
私の頭は混乱していた。
要するに、新婚夫婦である私たちが連日熱い夜を過ごしていて、そのせいでエイジャクスが寝不足になって業務に支障をきたしている……と言うこと??
残念ながら私たちの間にはそう言うことはないし、エイジャクスは毎日夕食に間に合う時間に帰宅している。
眠る時間はたっぷりあるはずだ。
まさか食事のメニューがいけなかったのだろうか。
王宮から引き抜いてきた料理人任せにしていたけど。
体力が資本の騎士にはもっとスタミナのつくものを食べさせなくてはいけないのかも知れない。
夫の体調管理は妻の仕事だ。
なんてことなの。
私ってつくづく騎士の妻失格だわ。
私はすぐさま、厨房に出向き、夕食には旦那様用にスタミナメニューを用意するよう指示した。
◇◇◇◇◇◇◇
その晩、いつも通り一人でベッドに入った私はなかなか寝付けなかった。
どう考えてもエイジャクスが寝不足というのは納得がいかない。
もしかして彼は、夜一人で仕事をしているのではないだろうか。
私に合わせて、無理して夕食に間に合うように帰宅して。
夜通しこっそり書斎で仕事をしているのでは……?
だから……寝室を別々に……?
「………………」
私はむくりと寝台で身を起こす。
確かめよう!
そしてもしそうなら、お茶でも入れてあげよう。
家事全般、あまり自信はないけど。
厨房に何かお菓子でもあるかしら……。
私はガウンを羽織り、夫の書斎に向かうべく、自室のドアを勢いよく開けた。
「わっ…!」
「キャッ」
ドアを開けた拍子に、もたれかかっていた人物が私の部屋に転がり込む。
「エ、エイジャクス!?」
部屋着のローブ姿の夫の腰にはしっかりとホルダーに収まった剣が刺さっている。
「レジーナ様! どうされましたかっ!?」
「その質問そっくりそのままお返しするわ」
私室のドアの外に帯剣した近衛兵……王女であった頃の私の日常だ。
まさか……
「あなた、ドアの外で夜通し護衛をしていたの!?」
「………………」
気まずそうに目を逸らすエイジャクス。これは図星だ。
私は呆れてものも言えなかった。
日中騎士団長としての任務をこなし、夜間私の護衛をしていたのでは睡眠が取れなくて当たり前だ。
と言うか、もう王女でもない私の護衛をする意味が分からない。
屋敷の外には王宮の衛兵もいるのに。
「夜間の護衛なんてしなくていいから眠ってちょうだい!」
私は少し怒ってエイジャクスを睨んだ。
「そう言うわけには参りません」
夫の睡眠不足を心配していくら説得しても聞き入れようとしない。
案外頑固なのね。
私は困ってしばらく考える。
すると、ふと妙案が浮かんだ。
エイジャクスの睡眠不足を解消した上、私の理想の家族計画を実現させるための妙案。
「ふふふ……」
「?」
「ねえ、エイジャクス。この部屋を見てちょうだい」
「?」
「ベランダ付きの窓が二つもある上に、隣の部屋に繋がるドアも両側にあるわ」
「?」
私は顔がにやつくのを抑えられない。
「つまり、賊の侵入経路は沢山あるのよ。ドアの外だけ守っても意味ないわ」
「…………!!」
エイジャクスがハッとして窓に目をやる。
「あなたがドアの外で控えているその瞬間、私は部屋の中で殺されてるかも知れないのよ!」
エイジャクスの顔が恐怖に引き攣る。
ちょっと脅かしすぎたかしら。
どこから襲いかかって来るかもわからない賊から確実に私を守るにはーー。
そう。最初から私のそばにいるしかない。
「だから……今日から一緒のベッドで眠りましょう?」
エイジャクスは眉間に皺を寄せながらも、同意した。
そして、部屋のあちこちにせっせと短剣などの武器を仕込み始める。
……多分、賊なんか来ないと思うけど。
私は頭の中で、以前受けた『閨教育』の内容をおさらいする。
本当なら、初夜はもっと素敵な夜着を着て、薄化粧をして待っていたかったな。
でも、そんなこと言っていられない。
結婚してから二ヶ月近く経っているのだから。
緊張しながらベッドに入る。
ところがーーーー
「レジーナ様」
エイジャクスは真剣な顔をして私に毛布をかけてくれる。
「安心してお休みください。では」
そう言うと、私に背中を向けて寝てしまった。
ーーはい?




