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【書籍化・コミカライズ】殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!  作者: 玉川玉子
殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!

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29. 二度目のキスはほろ苦く

ダリウスは無我夢中で執務室を飛び出していた。


エルダをお姫様抱っこするエイジャクスの姿を思い出し、胃の底が燃えるような感じがした。

王宮の白い階段を降りるのももどかしく、飛び降りた。


広い庭を見回すが、エイジャクスとエルダの姿は見当たらない。

「さて、どっちに行ったかな……」


彼らは絶対人気のない場所に行ったはず……確信を持ってそう予測出来てしまうことに腹が立つ。


人気のない場所を求めて彷徨っていると、果たして彼らは居た。


エルダの両手を木に押し付け、覆いかぶさるエイジャクス。

そしてそんなエイジャクスに抵抗を見せないエルダに、ダリウスは顔から血の気が引いた。


エルダとエイジャクスが恋仲であることは承知しているし、キスだってしていることも知っていた。


だけど実際に二人が触れ合っているところを目の当たりにした衝撃は想像を遥かに超えたものだった。

ダリウスは握りしめた自分の手が冷たくなっていくのを感じる。


エイジャクスが去って、エルダはしばらく一人でポーッとしていた。

余韻にでも浸っていたのだろうか。


そして「ふふ……」と小さく微笑んだ。

エイジャクスが去った方角を眺めながら。


その瞬間、ダリウスの中の何かがプツリと音を立てて切れた。


ーー僕は……君とエルリアーナのどちらかを選べなくてこんなに苦しいのに。

ーー君が間もなくこの国を去ると思うと焦りで夜も眠れないのに。


「楽しそうだね」


 ダリウスはエルダに近づく。


ーー君はエイジャクスのキスに幸せそうに酔いしれて。

ーーエイジャクスを思い出して微笑むんだね。



「殿下? なぜこ…………っ!?」


ダリウスはエルダの顔を両手で押さえると、グイッと唇を押し付けた。

噛み付くような乱暴なキス。

普段の優しく穏やかな第二王子からは想像もつかない強引さだ。



エルダは両手をバタバタさせ、ダリウスを引き剥がそうとするがビクともしない。

エルダの抵抗がダリウスをさらに逆上させる。

(エイジャクスには抵抗しなかったくせに……)



君に花束も贈らない

君が隣国に行くのを引き止めもしない

君と結婚をする気なんてさらさらない

そんな男が君に触れるのをなぜ許す?



渡さない。

エイジャクスにも誰にも渡さない。


君は僕のものだ。

僕だけを見て。

あいつに渡すくらいならいっそ……



パシン!

乾いた破裂音が響いた。


同時にダリウスの頬に熱い痛みが走る。

エルダに頬を打たれ、ダリウスはハッと我に返った。


エルダの大きな紫の瞳からポロリと涙が溢れる。


「エルダ……」

「な、なんで……なんでこんなことするんですか!?」


自分にキスされるのはそんなに嫌なのかとダリウスは傷つく。


「僕は……僕が好きなのは……」


エルダを前にしながらも、エルリアーナの笑顔が脳裏に浮かび、ダリウスは言葉に詰まる。

エルダに『君が好きだ』と言えればどんなに良かっただろう。


でも言えないのだ。


この期に及んでもなおエルダとエルリアーナのどちらか片方に決められない。

ダリウスは自分が不甲斐なくて、エルダから顔を背ける。


エルダはダリウスを突き飛ばし、走り去って行った。



残されたダリウスは木の下に座り込んで頭を抱える。


エイジャクスと一緒のエルダを見た時に感じたのは、激しい嫉妬。

苦くドロドロした焼け付くような嫉妬だ。


エルリアーナとエルダに恋をするまで、誰かに嫉妬なんてしたことがなかった。

胸を焦がすもどかしさも、独占欲も、全て初めて経験する感情だ。


どちらか片方に決められないくせに、独占したい。

他の男といるのを見ると苛立ちを抑えることが出来ない。


自分勝手だ。わがままだ。

わかっているけど、この気持ちを止められない。


本当の僕はいい人なんかじゃない……エルダとエイジャクスが別れてしまえばいいと思っているのだから。

みんなに慕われていたキラキラ王子なんて嘘っぱちだ。

『いつも穏やかで優しいダリウス殿下』なんて存在しやしない。


本当の僕は自分勝手で優柔不断で……。

その結果、二人の女性を泣かせてしまった。

この手で幸せにしたかった大切な女性を。


バルコニーで目に涙をいっぱい溜めていたエルリアーナ。

僕の頬を打って、涙をこぼしたエルダ。


二人の泣き顔を思い出し、胸が締め付けられる。



エルリアーナとエルダ。


エルリアーナの笑顔。

エルダの笑顔。


エルリアーナの瞳。

エルダの瞳。


(ん?)


エルリアーナの髪。

エルダの髪。


エルリアーナの香り。

エルダの香り。


(んん?)何かが引っかかった。


エルリアーナの声。

エルダの声。


エルリアーナの手。

エルダの手。


(んん? あれ……)何かを思い出しそうな気が……。


(何だろう……何か……こう……喉まで出かかっているんだけど)


何か重要なことを見落としている。

ダリウスの本能がそう告げていた。


ダリウスが一生懸命頭を回転させていると、




「魔王の奴、ふざけんな!」

「だな。無責任すぎじゃね!?」


カークとアランの声に思考を中断された。

二人はギャアギャア怒りながら歩いてやって来た。


「あっ、殿下。どうしたんです? 地べたに座り込んで」

「カーク。君たちこそ何をカリカリしてるの」

「「聞いて下さいよ!」」


二人は声を揃えて苛立ちをぶちまけた。

「魔王の奴が、近衛を辞めるって言い出したんです!」


「エイジャクスが……」

「国王陛下がネバンドリア行きを許さないので、騎士を辞めて勝手に行くつもりらしいです」

カークとアランは国王宛の手紙をエイジャクスから預かっているらしい。

二人はそれを届けに、王宮に向かった。


「そうか……エイジャクスのやつ……」

ダリウスは独り言を漏らす。


随行騎士に選ばれたエルダと離れたくないから、全てを捨てて一緒に行くことを選んだのだろう。


エイジャクスが騎士の身分を捨てるのは簡単なことではないはずだ。

孤児だった彼が血を吐く思いで頑張って手に入れた今の地位。

さらには約束された騎士団長のポストまで捨てるのだから。


優柔不断な自分と、愛のために迷うことなく全てを捨てられるエイジャクス。


(ああ……とても敵わない)

ダリウスの頬を涙が伝う。


エルダがエイジャクスを選ぶのは当たり前だ。


いざというときには男らしいエイジャクスにエルダも惹かれたのだろう。

花やプレゼントを贈ることしか思いつかない幼稚な自分が恥ずかしい。


エイジャクスならきっとエルダを幸せにしてくれる。

自分は潔く身を引くべきだ。


頭ではそう思っても胸が抉られるように痛い。

この期に及んでも二人を祝福出来ない自分はなんて心が狭いのだろう。


やりきれない想いを抱えながら、ダリウスは膝の上に腕を組んで突っ伏した。






国王陛下は近衛のカークとアランから手紙を受け取った。

「エイジャクス隊長より、陛下に渡して欲しいとのことです」


(なんか嫌な予感がするな……)

眉間に皺を寄せ、国王はその手紙を開く。

そこには恐ろしく汚い字で一言書いてあった。




『騎子野めマす。 えイジやくす』




「キコ……ノめ………? 何だこれは?? 辞表なのか?」


孤児だったエイジャクスはまともな教育を受けていない。

だからこの手紙のヘタクソさは仕方がないとして……。


エイジャクスは騎士を辞め、一市民として勝手にネバンドリアに行くつもりだった。

『たまたま向かう方角が同じだった』と言い張って、レジーナ王女の行列にくっついて行こうと企んでいる。

そして門衛でも下働きでもいいから、何とかしてネバンドリアの王宮で雇ってもらうのだ。



「認めんぞ!! 辞表は受け取らん!」

国王は怒って、手紙を丸めて床に投げつけた。


困るのだ。エイジャクスに騎士団長になってもらわないと、隣国との均衡が崩れ大変なことになる。

他国に行かれるのはもっと困る。



国王にはエイジャクスが考えていることがさっぱり分からなかった。

「なぜなんだ!? ネバンドリアにあってカロニアに無いものなんてないだろう?」


ネバンドリアにあってカロニアにないもの。


それこそがエイジャクスが望むたった一つのものだったーー。








いよいよ次回、ダリウスがエルリアーナの正体を知る……!?

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― 新着の感想 ―
[一言] 殿下がどん底時代のナイジェルみたいになってる;;
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