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【書籍化・コミカライズ】殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!  作者: 玉川玉子
殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!

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2. 美少女あらわる


その日、剣の稽古が終わると、近衛の同僚であるカークとアランが話しかけてきた。


「ようエルダ! お前、今夜の夜会に女装して参加するんだって?」

「俺たちも招待客のふりして会場入りするんだ〜。お前のドレスとかマジウケるんだけど」


カークとアランの家は伯爵家だ。

「俺らはフロアの中央で不審な人物をチェックするよう言われたんだ」

「中央なんかにいたら俺たちモテすぎて困っちゃうぜ、なあ?」

男らしく、見目も良い近衛騎士はいつでも若い令嬢にモテモテなのだ。


「女装ってなんだよ! 二人とも失礼だな」エルダはムッとする。


「俺、お前よりドレス似合う自信あるわー」

カークが笑いながら言う。


(確かに)とエルダは思った。

カークは確かに綺麗な顔立ちをしている。

女装が似合いそうだ。

貴族だけあって自分よりよっぽど所作も美しい。


カークもアランもエルダが女性であることは知っている。

事実としては知っているが……エルダのことは田舎小僧くらいに思っていた。

エルダを女性として意識したことはないし、女性には到底聞かせられないような男同士のきわどいエロジョークも平気で言う。


エルダのドレス姿なんて想像しただけで違和感しかない。

ネタとして盛り上がるに違いないと、二人はそれを見るのを密かに楽しみにしていたのだった。


そして夕刻ーーエルダは約束通り、夜会の二時間前にレジーナ王女の部屋を訪れた。


「いらっしゃいエルダ。今日はよろしくね」

レジーナ王女はにっこり微笑むと、横にいた侍女に目で合図をした。


「はい、こちらこそ……って、え!?」


エルダはすぐさまお風呂に連行される。

「騎士様、時間がないので少々荒っぽいのはお許し下さいませ」

「え?」

「まあ、こんなに泥だらけで。傷までたくさん!」


「うわあぁぁぁ」

浴室にエルダの色気のない絶叫が響き渡る。


侍女四人がかりで剥かれて、磨かれて、着させられて、塗りたくられて、ようやく時間ギリギリにエルダの支度が整った。




………………が。




「「「…………うそ!」」」


レジーナ王女とその侍女たちは絶句した。




信じられないほどの美少女がそこにいたからだ。


キュッと小さな顔に小ぶりな鼻。

小さいけどぽってりした唇。

菫色の瞳に長い睫毛が影を落としている。


細いウエストと対照的な豊かな胸の膨らみ。

いつも長袖の騎士服に覆われている白い肌は真珠のような艶を放っている。


髪は特徴のある赤い色を隠すために金髪のウィッグをつけた。


少し少女趣味すぎるフリフリのピンクのドレスに少しも負けていない可愛らしさ。

まさに天使だった。

あのエルダのどこにこんな美少女が隠れていたのかと、皆驚いた。


「こ、これは……」

「カエルが王子に変わる以上の衝撃ですね」


「お、重いです〜」エルダは涙目だ。


「エルダあなた胸にサラシを巻いていたの!?」

「はい、ナイフを投げたりするとき胸が揺れると正確に投げられないので」

サラシは単に動きやすさのためだったらしい。

別に男装しているわけではないのだ。


「サラシよりこのコルセットの方が100万倍苦しいです。これでは何も食べられない……」エルダが恨みがましそうに言う。


「……あなたまさか、夜会で食べるつもりだったの」

お茶会であれほどお菓子を食べたのに……とレジーナ王女が呆れ顔でエルダを見た。


「し、しかもこの靴!! くうっ……棒っきれの上でバランスを取るような不安定さっ……」

エルダは運動神経には自信があったものの、ハイヒールは予想外に手強かった。

生まれたての小鹿のように足がグラグラする。

ガニ股のよちよち歩きになってしまうが、ドレスで脚は見えないのでまあよしとする。


「入場の際のエスコートなのだけれど……」

レジーナ王女が残念そうに切り出す。

「あなたのエスコートはダリウスに頼もうと思っていたのに、あの子ったら夜会が大嫌いで逃げてしまったの」


ダリウス王子はレジーナ王女の弟で三人兄弟の末っ子だ。

優しく穏やかな人柄で、甘いマスクの見目麗しい王子である。


「殿下と一緒に入場したら変に注目されてしまいますって。一人で適当に入場しますから、お気遣いなく。入ったらすぐレジーナ様のおそばに参りますね」


ドレスアップで大騒ぎしていて本来の目的を忘れるところだった。

紛れ込んでいるかもしれない不審者からレジーナ王女をお守り出来るのは自分しかいない、とエルダは気持ちを引き締めた。


そんなわけで、慣れないハイヒールでヨタヨタしながら、エルダは生まれて初めての夜会の会場へと向かったのであったーー。



◇◇◇◇◇◇◇



近衛騎士であり、伯爵家の家柄でもあるカークとアランは夜会の会場に向かって王宮内の廊下を歩いていた。


「なんだよ、お前も私服じゃなくて騎士服で来たのか」

「当ったり前だろ。騎士服のほうがモテるし」


普段の騎士服ではなく、式典用のちょっぴり装飾が多い騎士服である。

コートも手袋もブーツも白だ。

パーティーに出る時はこの格好で行く近衛が多い。女性ウケが良いからだ。


軽口を叩きながら前を見ると、一人の女性が壁に手をつきながらヨロヨロと歩いている。

その足取りがあまりにおぼつかないので、二人は顔を見合わせた。

具合でも悪いのだろうか?


清廉で崇高な騎士としては、か弱いご婦人に手を差し伸べないわけにはいかない。

騎士道精神に則って声をかけてみた。


「失礼ですが、御令嬢……大丈夫ですか。どこか具合でも悪いのでは?」


額に汗を浮かべ、令嬢が振り向いた。


「「………………!!!」」


カークとアランは思わず目を瞠る。

(か、か、可愛いっ……!)


儚げで可憐な、守ってあげたくなるような美少女だ。

二人は口を開けたままその令嬢に見惚れていた。


令嬢は彼等を見ると、にっこり笑った。

「よお、カーク、アラン」


「ん?」

「聞き間違いかな? 今『よお』って」


「何言ってんだよ二人とも。ちょうど良かった、手を貸してくれ。ハイヒールに手こずっていたんだ」


「ん?」

「んん?」


そこで二人はようやく目の前の天使が同僚のエルダだと気づき驚愕した。

「嘘だろ」

「信じられん」


エルダはドレスの裾を摘んで肩をすくめた。

「ははは。女装の男みたいだろ? 私も恥ずかしいよ」


女装なんてとんでもない。

想像を絶する可愛らしさだ……とカークとアランは思ったのだが、衝撃のあまり言葉を発することが出来なかった。


エルダは二人にエスコートしてもらって入場した。

ハイヒールは歩きづらかったので、両脇にカークとアランを立たせ、腕にぶら下がって足を宙に浮かせた状態で移動してもらう。


会場入りすると、エルダはさっさとレジーナ王女のところに行ってしまった。

カークとアランは抜け殻のようにボーッと立ち尽くす。

普段のように、会場の女性たちに秋波を送る気にもなれない。


「参ったな……惚れたかも」

「俺も。あれは反則だ」


夜会の会場には彼ら二人以外にも近衛の同僚たちがいるはずだが、カークとアランはあの美しい令嬢の正体がエルダであることは教えないことに決めた。

ライバルは少ないほどいいから。




レジーナ王女の横に立つ見慣れない美少女は会場の注目を集めた。

が、声をかけようとちょっとでも近づくと

(あの脅迫状を送ったのはお前か!?)

……と、睨み殺さんばかりの恐ろしい顔を向けられるので、誰も声をかけられなかった。


レジーナはそんなエルダに苦笑いをしながら、招待客たちと和やかに歓談する。

国王夫妻と王太子もそれぞれ応対をしていた。


第二王子のダリウスの姿だけが見当たらない。

王太子のバシリウスと王女のレジーナにはそれぞれ婚約者がいるが、末っ子のダリウス王子は完全フリーだ。

浮いた噂も聞いたことがない。

ダリウス殿下のお相手が誰になるのかは独身の娘を持つ貴族たちの最大の関心事でもあった。


周りから結婚を強要される王族は大変だなぁとエルダは思った。

まあ、人ごとだからどうでもいいのだが。

自分は騎士で良かった。

継がなくてはいけない家もないので、一生独身でも誰も文句は言わない。


エルダは恋愛をしたことがなく、恋愛をすることを考えたこともない。

女の子としての自覚さえないのだから。

だから、自分がこの日を境に恋愛騒動に巻き込まれることになろうとは、夢にも思っていなかった。


「ダリウスもお父様に無理やり首根っこ掴まれて、連れて来られたはずなのだけれど、また逃げたみたいね」

レジーナ王女がため息をつく。

「あの子もそろそろお相手を決めなくてはいけないと言うのに」


愚痴を零しつつも弟のことを話すときのレジーナ王女の声色は優しい。

エルダは彼女がダリウス王子のことをとても可愛がっていることを知っている。

そんな心優しい王女がエルダは大好きだ。


レジーナ王女はエルダのこともとても可愛がってくれる。

王族とはもっと遠くて冷たい存在だと思っていたが、良い意味で裏切られた。


レジーナは周りの者にいつも惜しみなく愛情を注ぐ。

思慮深く、他人を思いやり、包み込むような優しさを持った王女だ。


心から忠誠を誓える主君に出会えた自分は果報者だ。

騎士冥利に尽きる、とエルダは思った。


レジーナ王女は隣国に嫁ぐ際に、自国の侍女と騎士を一名ずつ伴うことが許されていた。

エルダは騎士として志願するつもりだ。


脅迫状の送り主が現れることもなく、穏やかに時間は流れーー。

ひとしきり歓談した後、レジーナ王女は退場した。

エルダも一緒に会場を出る。

王女を自室まで送り届け、エルダの今夜の任務は完了した。


「エルダお疲れ様。あとはゆっくりしていってね。会場でお夜食でも食べたら?ふふ……」





「ふう……」

一人になってエルダは肩の力を抜いた。

レジーナ王女の身に何も起こらなくて良かった。


ホッとしたら、足の痛みが気になりだした。

慣れないハイヒールのせいだ。

世の中の女性はなぜこんな拷問器具を身につけているのだろう。


「イテテ……」

エルダはヨタヨタしながら中庭に出る。


中庭の中央に綺麗な噴水。

周囲の木にはキャンドルを入れたランタンがぶら下がっていて、水飛沫を幻想的に照らしている。


しかし、そんなムードたっぷりの風景を楽しむでもなく、エルダは周りに人がいないことを確認すると、おもむろに靴を脱いだ。


(はぁ〜生き返った……)

ハイヒールによる虐待を受けた足がジンジンする。


エルダはふと思いついて、足を噴水のプールに入れてみた。

冷たい水が足の痛みを和らげてくれる。

(気持ちいい〜!)


「よっこいしょっと」

エルダは裸足のまま噴水の縁に乗っかった。

そして騎士ならではのバランス感覚で、片足だけまっすぐ前にあげ、降ってくる噴水の飛沫を足で受け止める。

マッサージのようで気持ちいい。


「えへへ。最高〜!」

ドレスの裾を摘んで今度は足を変えて噴水の水を受け止める。


ドレスを濡らさないよう気をつけながら、エルダはひとしきりノリノリで水遊びをした。


ふと視線を感じて顔を上げると、噴水越しにこちらを見ている人影があった。

「…………!! く、曲者!」


するとその『曲者』はゆっくりと近づいて来て……。

エルダはその人物を見てハッとする。




ブルーグリーンの瞳をキラキラさせ、薄っすら頬を赤くして微笑むその人物は……。


カロニア王国第二王子のダリウス殿下だったーー。









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