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【書籍化・コミカライズ】殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!  作者: 玉川玉子
殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!

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21. もう少しだけ……

「カーク、アラン。二人に頼みがあるんだ」


ある日、ダリウスは執務室に護衛の二人を呼びつけた。

「今晩の夜会が終わったら、エルリアーナのあとをこっそりつけて、住んでいる場所を突き止めて欲しいんだ」


「………………!!」

横で筋トレをしていたエルダは固まった。


「………………」

カークとアランがなんとも言えない表情でエルダを見る。

エルダの住まいは彼等と同じ、近衛の宿舎だ。


「ドレスを贈ろうとしたら遠慮するからさ、家に届けちゃおうと思って。あと、いずれはエルリアーナのお父上に正式にご挨拶に行かなきゃいけないんだし……」


ダリウスは真剣にお付き合いする気でいるのである。

相手の家のことを知りたいと思うのは当然だろう。


「彼女、兄弟はいるのかなぁ。いつか遊びに行きたいな。ふふ」

花束を持ってエルリアーナの自宅を訪れる。彼女の部屋へ案内され、お茶を振る舞われる……そんな楽しい妄想でダリウスの頭の中は一杯だ。


エルダは焦る。

「で、殿下! エルリアーナ嬢には住所を教えたくない理由があるのかも知れません。それを勝手に調べるのはまずいのでは?」


まずい。これはまずい。

なんとかダリウスに思い止まらせなければならない。


しかしダリウスはどこ吹く風と言った様子である。

「家がとても貧しいとか、身内に問題のある人物がいるとか、実は貴族ではないとかでしょ。大丈夫だよ。僕の気持ちは変わらないし、彼女が困っているなら力になりたいんだ」


「あの〜」カークが口を開く。「もし他に男がいたりしたらどうします? あるいは既に既婚者で子持ちだったり。世の中には知らないほうがいいことも……」


ダリウスは盛大に眉を顰めた。

「カーク……君はまた碌でもないことを。……人妻なら一人で夜会に来るはずないでしょ」


ダリウスとカークのやり取りを眺めながら、エルダはぎゅっと拳を握った。

エルリアーナに扮するのもそろそろ限界かも知れない。

だんだん誤魔化しきれなくなりつつある。

バレるのは時間の問題だろう。


(もしバレたら……)

エルダはその時のことを想像し、恐ろしくなり目を瞑った。


愛しいエルリアーナの正体が男みたいな騎士だと知ったら……。

きっとダリウスはガッカリするだろう。

そしてこの恋は終わる。


それだけではない。

騙していた自分を軽蔑するだろう。憎むだろう。

部下としての信頼さえ失うことになる。



(……もうやめよう。こんなこと)


そろそろ潮時なのかも知れない。

バレていない今のうちに引くべきだ。


今ならエルリアーナが消えるだけで済む。

夜会に出なければいいだけだから簡単だ。


そうすれば少なくとも、ダリウスに恨まれることは避けられる。

女性とは認識されなくても、護衛としてなら仲良くしてもらえる。




休憩時間になると、エルダは意を決して王妃の部屋へ向かった。


(王妃様とレジーナ様に、もうやめますって伝えなきゃ)


謎の令嬢エルリアーナは消える。

ダリウスは悲しむかも知れないが、傷心の彼に心優しい令嬢をあてがえばいい。

やがて新しい恋に発展するかもしれない。




廊下の窓から、大広間のバルコニーが見え、エルダはふと足を止めた。


『じゃあ本気で好きになったら結婚してくれる?』

『人気の菓子らしい。……自分のを買ったついでだ』

『夢みたいなんだ。君がブルーグリーンを身につけてくれるなんて』

『僕と一曲踊ってもらえないだろうか』


ダリウスがくれた様々な言葉が頭の中でこだまする。


鼻の奥がツンとして、目に涙が滲んだ。


この先の角を曲がれば王妃の部屋だ。


なのに。

足が地面に縫い付けられたように動かない。



ダリウス殿下が好きなのは騎士の自分じゃない。

わかってはいるけどーー



自分を見つめる熱のこもったブルーグリーンの瞳。

甘い言葉を囁きながら自分を抱きすくめる優しい腕。


涙が止まらなくなり、エルダは顔をゴシゴシ拭う。


(まだ……夢から覚めたくない)


ダリウスが好きなのだ。

そばにいたい。

まやかしでも構わないから。

もう少しだけダリウスに愛されていたいのだ。


「ごめんなさい。ごめんなさい。だけどもう少しだけ……レジーナ様のお輿入れまでには終わりにしますから」

エルダは誰に言うともなく呟いた。




結局、王妃の部屋へは行かずにUターンする。

自分で自分の意志の弱さに呆れる。


泣き腫らした顔を見られないように前髪で隠し、ダリウスの執務室へ戻った。

「ただ今戻りました」

「お帰り……あれ、エルダ風邪ひいた? なんか鼻声……」


顔を見られるまでもなく、声で気付かれた。

エルダは自分の間抜けさを呪いつつも、素知らぬフリを貫く。


ダリウスは訝しげにエルダをじぃーっと見る。

不自然に顔にかかる前髪と、その間から覗く赤くなった鼻の頭。

泣いていたのがバレバレだ。


(エイジャクスとの仲が上手くいっていないのかな)


ダリウスは侍女に二人分のお茶を淹れさせる。

「僕、ちょっとお茶で休憩するから付き合ってよ」


そう言ってエルダにカップを差し出した。

本当はエルダを気遣って、わざわざお茶を用意したのだけど。


「……ありがとうございます。頂きます」

ミルクティーの優しい香りに強ばっていた心がほぐれる。


ダリウスは恐る恐る尋ねてみる。

「……何かあったの?」

「……いいんです。私が悪いんです」


エルダの切なげな表情が恋の悩みであることを雄弁に物語っている。

いつもの明るくサバサバしたエルダとは別人のようだ。


ダリウスはイラついた。

エルダを泣かせる男に。

そしてそんな男を好きになったエルダに。


「……やめちゃえよ」

「え?」

「そんな辛い恋なら……やめちゃえよ」


思わず口をついて出てしまった言葉にハッとする。

エルダの恋愛にダリウスが口を出すべきではない。

ダリウスは気まずそうに口をつぐんだ。


エルダは肩を落とし、俯く。

そして消え入りそうな声で呟いた。


「……ご、ごめんなさい……」

(殿下を騙して令嬢のフリをしてまで愛されたいなんて、自分はなんて浅ましいのだろう……)


ダリウスはエルダに謝られる理由がわからない。

でも、辛い恋に胸を痛めているエルダを見るのは辛かった。


とりあえず慰めるようにエルダの頭にポンと手を乗せる。


(もっと大切にしてくれる男を選びなよ、エルダ)


……そう心の中で思いながら。





◇◇◇◇◇◇◇



国王の執務室ーー


国王夫妻と、バシリウス王太子、レジーナ王女。

そして近衛隊長のエイジャクスと宰相のバーンホフ侯爵が難しい顔をしてテーブルを囲んでいる。


三通目の差出人不明の手紙が届いたのだ。


「『カロニアの王女の婚約を一刻も早く破棄して下さい。お願いします』」


カロニアの王女であるレジーナは手の中にある手紙を見て、首を捻る。

「……『お願い』されちゃってますが……。どうしましょう?」


皆微妙な表情をしている。

「一度目は脅迫、二度目は意見書、そして今回は『お願いします』って……」

「何だか回を重ねるごとにトーンダウンしているような」


この気の抜けたような手紙は警戒するべきなのか? 陳情書だけど。

薄気味悪いとは思いつつも、皆反応に困っていた。


宰相のバーンホフ侯爵が報告書を取り出す。

「外務長官を現地に偵察に送りましたが……」


「ああ、ネバンドリアの王家の反応はどうだった?」


「この婚姻を強く望んでおられるとのことでした。特に国王が」


それはそうだろう。

軍事力と経済力いずれの面においても、カロニアが圧倒的に優っている。

この婚姻で恩恵を受けるのはネバンドリアの方だ。


「それと……外務長官の報告によりますと、ネバンドリアの王太子には女性の噂があるそうです」


国王は眉を顰める。

世の中には側妃や愛妾を置く国王も多い。

多少の女性の影は仕方のないことなのだが……。


片隅に控えていたエイジャクスはこの話を聞き、手のひらに爪が食い込むほど握り締め、怒りに震える。

(レジーナ様を迎える身でありながら……許せん!!)


「王太子と直接面談し、その人となりを確認させたかったのですが、王太子が病気で臥せっているらしく、会うことが叶わなかったそうです」


「病気? それは初耳だ。……エイジャクス、殺意は控えなさい」

バーンホフ侯爵の話を聞きながら、国王はエイジャクスの方へ顔を向け宥めた。


「しかし、使用人や街の人の王太子への印象は良好でした。優しく誠実な人柄との意見が多数見受けられました」


「うーむ。レジーナの出発は数週間後に迫っているが……予定通りでいいのだな?」

「あちらの国王の意向ではそのようですが」


うっすら不安要素はあるものの、婚約を破棄するほどの理由もなく……。

このまま予定通り準備を進めるしかない。


レジーナ王女のお輿入れは数週間先に迫っていた。





外務長官=アドニス・バーンホフ@『婚約破棄23回の冷血貴公子はポンコツ令嬢にふりまわされる』

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