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【書籍化・コミカライズ】殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!  作者: 玉川玉子
殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!

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20. キスしたい

「おはようございま……キャッ!」


ある朝エルダがダリウスの執務室のドアを開けると、衝撃的な光景が目の前で繰り広げられていた。


「んんん〜!」

ダリウスが汚いクマのぬいぐるみを両手で抱えて熱烈なキスをしていたのだ。


「で、殿下? 何を……」

「んんっ〜」


エルダが声をかけると、ダリウスが人差し指を立て『ちょっと待ってて』の合図をする。キスは続行中だ。


「んんんん〜」


「…………」


いつまでやってるつもりなのだろう。

しかもあの汚らしいクマのぬいぐるみで。

時々顔の角度を変えながらと言うのが妙に生々しい。


エルダが呆れながら眺めていると、だいぶ経ってからようやくダリウスが顔を上げた。


「ぷは〜!! やあ、エルダおはよう!」

笑顔が無駄に爽やかである。


「何やってるんですか殿下」


「エルリアーナとキスする時のためのシミュレーションだよ」


「…………!!」

バサバサ!! 動揺したエルダが書類を机の上から落とした。


「な、な、何を……!!」

エルダは真っ赤な顔をしてわなないた。

(メ、メッチャ長いキスだったよね!? するつもりなのか!? あれを?)


ダリウスは涼しい顔だ。

「だって、キスが下手だってガッカリされたら嫌じゃない。何事も綿密な計画と準備が大切でしょ」


「彼女の許可なく、そっ、そ、そんなことをっ……」

恥ずかしさのあまり思わずムキになって怒鳴ってしまった。


するとダリウスは頭を抱えて項垂れた。


「はぁ〜。やっぱりいきなりでは嫌われちゃうかな。でも『どうぞキスしても良いですよ』なんて言う女性はいないでしょ。どう言うタイミングですれば良いの、ねえ」

「し、知りませんよっ!」

「僕はエルリアーナとキスしたいんだよう〜! したい、したい、したい……」


「…………」

(ひぃいいい!! もうやめてー! 何聞かされるの私)


「あのぽってりした小さな唇。あの柔らかそうな可愛いほっぺた。食べちゃいたくて気が狂いそうだった……あと、あのふんわりしっとりしたボリュームのある胸……むぐっ」


(きゃあああああ〜〜!!)

エルダは死にそうになって、クマのぬいぐるみを掴むとダリウスの口を塞いだ。

色々と役に立っている、クマちゃんである。


「や、やめて下さい! 仕事しましょう殿下、仕事」


(エルリアーナの前では紳士的なくせに……)

夜会でのダリウスは上品で優しい完璧な王子様。


自分に向けられるダリウスの熱い想い。

赤裸々な男の本音が生々しすぎる。

こんなものを毎日聞かされたのでは身がもたない。


でも、認めたくはないが……決して不快ではないのだ。

自分の恋心を自覚したばかりのエルダはダリウスの言葉一つ一つに胸がざわめく。

気持ちを封じ込めようと決めたのに、その決意が瞬時に崩壊する。


(……キス……か)

顔を赤らめ、無意識に指で自分の唇にそっと触れる。


そんな自分をダリウスが密かに見つめていたことに、エルダは気づいていなかった。





「順調に筋肉が付いてきましたねー殿下。見た目では騎士と遜色ないですよ」

筋トレの進捗状況をチェックしにきたアランから合格点をもらい、ダリウスはご機嫌だ。


「一番見てもらいたいのはエルリアーナなんだけどね。彼女の前で服を脱ぐ日なんて来るのだろうか」


ダリウスはこぼす。

筋トレをやっている者と言うのは成果を誰かに自慢したいものである。


「ねえ、ねえ! エルダ見てよ! 腹直筋が割れたと思わない?」

そうにこやかに言うと、ダリウスは服を捲ってお腹を見せた。


「……っ! ……お、王太子殿下のところに資料を返しに行ってきます!」

エルダは顔を背け、そそくさと執務室を出て行った。


兄が三人もいるエルダは男性の裸など飽きるほど見てきた。

騎士団でも夏場は大勢が上半身裸で宿舎を彷徨いている。


それなのに。

なぜだか恥ずかしくてダリウスの腹筋を直視出来なかったのだ。


出て行くエルダの背中をぼんやり見つめながら、ダリウスはアランに問いかける。


「なあ、なんか最近エルダが綺麗になったような気がしないか?」


「ああ……」アランは不貞腐れたように吐き捨てる。

「きっとエイジャクス隊長に恋してるからですよ」


「え?」

ダリウスは一瞬自分の耳を疑う。


「しかも、エイジャクス隊長もあいつのこと結構マジみたいで。二人は両想いなんですよ」



ダリウスは鈍器で頭を殴られたような気がした。



「エイジャクスとエルダが? 本当に?」

「はい。俺とカークなんて隊長に『あいつに手を出したら殺す』って脅されましたからね」


なぜだかわからないが、胸がモヤモヤする。


「あいつの趣味もたいがいですよね。魔王なんかじゃなくて、俺かカークにしておけばいいものを」

アランは不満気だ。

「ん? 『俺かカーク』? 君たちエルダを狙ってたの?」

「ええ、……まあ」

「君たちなら他にいくらでも相手は見つかるだろう! なんで僕の護衛に手を出そうとするんだ!」


いきなり不機嫌になったダリウスにアランは戸惑った。

「? あの、殿下……確認なんですが、殿下がお好きなのは令嬢のエルリアーナ様で間違い無いっすよね?」

「そうだけど。それがどうかしたっ!?」

「いえ」


アランは憐れむような目でダリウスを見た。

(殿下も可哀想になぁ。エルリアーナのために筋トレ頑張ったって、彼女の心はすでに魔王のものなのに)


エルダに失恋した自分とダリウスは同類……アランは第二王子に親近感を覚える。

「殿下も……もっと他の貴族の令嬢とも交流されたほうがいいっすよ」

王子に対し、暗に(忘れて、次に行きなよ)というアドバイスをするアラン。


ダリウスは眉を寄せアランを睨む。

「なぜ? 大体僕は女性恐怖症だ。エルリアーナ以外の女性と一緒にいるのは耐えられないから無理だよ」

「女性恐怖症ってことはないでしょう。エルダと毎日楽しそうに話していらっしゃるじゃないすか」


そう言われてダリウスは考える。

自分は女性恐怖症だと思っていたが、もしかしたら克服したのだろうか。


強烈な一目惚れから始まったエルリアーナはもちろん恐怖症の対象外。

ではエルダはどうだろう?

一緒に過ごす時間は心地よく楽しい。


でもそれ以外の貴族の令嬢は……やはり話しかけられると顔が強張ってしまう。

エルダだけが例外のようだ。ではなぜ彼女は平気なのか。


「エルダは……少年みたいなものだから。女性恐怖症の対象外なのかも」


無理やり理屈を付ける。

自分で言っておきながらダリウスは薄々気づいていた。

少年だと思っている相手に髪飾りを贈っている。

自分は本心を偽っていると言うことに。







「ーーエルダは少年みたいなものだから、女性恐怖症の対象外なのかも」


資料を届けて戻ってきたエルダはドア越しに聞こえてきたダリウスの言葉に、凍りついたようにその場に立ち尽くした。


自分は殿下に女性として認識されていないーー。


分かってはいたが、実際にダリウスの口からそれを聞かされると傷つく。

胸が抉られるように痛んだ。


その日は、いつもとは打って変わって重苦しい空気が執務室に漂う。

書類仕事を片付けるダリウスと、部屋の隅で護衛を務めるエルダ。

どちらも無言だ。


(エイジャクスと付き合ってるのかな。告白したのか?……どちらから?)

ダリウスはチラリとエルダを盗み見る。

気になって書類の内容が頭に入らない。


(本当に本当なのか? なにかの間違いじゃないのか)

無意識に否定する証拠を探してしまう。


(いやいや、喜ばしいことじゃないか。僕だって散々エルリアーナのことを相談してるんだし、エルダの恋を応援してあげるべきだよね)

そう自分に言い聞かせてみるものの、やはり胸の中がモヤモヤする。



一方のエルダは硬い表情のまま床を見つめている。

(エルリアーナにはキスしたいけど、私のことは男だと思っているんだ……)


エルリアーナは自分なだけに、なんとも複雑な心境である。

自分は失恋なのか両想いなのか、はたまた三角関係なのか。


エルダはダリウスの机の上に乗っている薄汚れたクマのぬいぐるみを睨んだ。


(でもあのクマ、騎士の服着てるけどキスの練習してたよね。私だって騎士服なのに。なんか理不尽……)


そんな二人を嘲笑うかのように、ぬいぐるみのクマは呑気な顔をして机の上に鎮座していた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ボロボロくまちゃんでキスの練習は笑ってしまいましたわ! 勘違いからのすれ違いがどこまでこじれてどう解決するか楽しみです!
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