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【書籍化・コミカライズ】殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!  作者: 玉川玉子
殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!

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19. ニセ令嬢のピンチ

「エルリアーナ、これを君に……」


おずおずと差し出された小さな包み。

先日エルダと一緒に選んだブルーグリーンの髪飾りである。


いつもの夜会、そしていつものバルコニー。

ダリウスは目の前の愛しい女性にプレゼントの髪飾りを差し出した。


「ありがとうございます。嬉しいです」

エルダは王子からの贈り物を笑顔で受け取る。


「受け取ってくれてありがとう。着けてもいい?」

ダリウスは髪飾りを手に取って、エルリアーナの髪にそっと留めた。


金色の髪にブルーグリーンのガラスの花は無難に馴染んだ。


ふとダリウスの脳裏に自分の護衛騎士の赤い髪色が浮かぶ。

真紅の髪とブルーグリーンの髪飾りの鮮やかなコントラスト。



……なぜか後ろめたさを感じ、慌てて心の中の映像を打ち消した。





「いつも私ばかり色々な物を頂いて、なんだか申し訳ない気持ちですわ」

恐縮するエルリアーナを見て、ダリウスは恭しくお辞儀をし、片手を差し出す。


「では、僕と一曲踊って貰えないだろうか」


「……ダンスですか? で、でも私踊れなくて」

悲しいことにエルダは男性パートなら踊れるが、女性パートは踊ったことがない。


「ちゃんとリードするから大丈夫。……それとも、僕と踊るのは嫌かい?」

「そ、そんなことはありません」

エルダは覚悟を決めて手を差し出した。


「エルリアーナ、手の向きが逆だよ」

「…………!」

うっかり、いつものクセで男性の動作をしてしまったエルダであった。


エルリアーナの手を取り、バルコニーから大広間に移動する。


(あれ……?)


ダリウスは心に引っ掛かりを覚えた。

エルリアーナの小さな手……。

(なんだろう、この違和感? この感触……どこかで)


何かに気づきそうになったものの、大広間に入ってエルリアーナの腰を抱き寄せた途端、眼下に出現した柔らかそうな胸の膨らみに釘付けになり、他のことは忘れてしまった。


目のやり場に困ったダリウスの顔は真っ赤だ。

心拍数が急上昇するのを感じるが、制御不能である。

そして、エルリアーナが他の男性の目に触れるのをなんとか阻止しなくてはならないと強く思った。


これまでダリウスはダンスが大嫌いだった。

女性が苦手なダリウスにとって、ダンスは拷問にも等しい苦行だ。

必要以上に身体を密着させて、猛獣のようなギラギラする目で見つめる令嬢たちは

曲が終わっても、蛭のようにへばり付いて離れない。


しかしこの晩、ダリウスはダンスに対する自らの認識を改めた。


(うん。ダンスは人類最大の発明だ)


掌に伝わるエルリアーナの感触。

間近に見えるエルリアーナの長い睫毛。

クルッと回る度に広がる甘い香り。

耳元で聞こえる可愛らしい声。


(ずっとこの腕の中に閉じ込めておきたい……)


愛しさが込み上げて、ステップを忘れそうだ。



一方エルダもーー。


自分の手をすっぽり包み込むダリウスの大きな手に胸が高鳴った。

いつも体術の訓練でゴツい騎士を相手にしているときは何ともないのに。


女性としては初めて踊る社交ダンス。

エルダは初めて知った。

女性パートを踊るときは『気持ち』も女性になることに。


(単にステップや動作が違うだけじゃないんだな……)


社交ダンスではリードするのは男性だ。

進む方向も回るタイミングも全て男性が決める。

女性は男性のリードに身を預けるだけ。


ずっと男性と対等に、自分の足で踏ん張って生きてきたエルダにとっては初めての体験である。

逞しい腕がしっかり支えてくれるその安心感と心地良さに酔いしれる。

無意識に、甘えるように身体の力を抜いてもたれかかった。


(なんか自分が女の子になったみたい……)


照れながらふと顔を上げると、熱っぽく自分を見つめるブルーグリーンの二つの瞳

と目が合う。


「うっ……!」

頬がカッと熱くなり耐えきれずに俯く。


「ふ……エルリアーナ、可愛い……」

「〜〜〜〜〜〜!!」

耳元に響く低い声に、ゾワッとする。


(どうしよう……なにこれ……)

ゾワゾワとドキドキが止まらなくて涙が出そうだ。

心臓をギュッと掴まれたように胸が苦しい。




やがて、音楽が止まった。

踊っていた人たちはダンスをやめ、優雅にお辞儀をする。


ダリウスが腰に回していた手を離し、一歩後ろに下がった瞬間、エルダが感じたのは……『寂しさ』だった。


もっと触れていたい……そう思った。


鈍いエルダもやっと自分の恋心を自覚する。


(どうしよう……私……ダリウス殿下のこと好きになっちゃったんだ……)




エルダは恋愛に免疫がないばかりでなく、女の子としても初心者なのだ。

そんな彼女の前に突然見目麗しく優しい王子様が現れて、心からの愛を捧げられたら。

コロッとその気になってしまったとしても誰が責めることが出来ようか。

むしろその状況で心を動かされない令嬢がいるだろうか。


ダンスの余韻冷めやらぬまま、エルダはダリウスが持ってきてくれたお酒をちびりちびりと飲む。


「エルリアーナ……今度はドレスを贈りたいんだけど、受け取って貰えるかな?僕色のドレスを着た君を見てみたいんだ」


エルダは頬を染め、夢心地で頷いた。

ブルーグリーンのドレス。

全身をダリウス色に包まれる……なんて素敵なんだろう。


それを見たら殿下は喜んでくれるだろうか。

ブルーグリーンのドレスを着た自分をどんな目で見つめてくれるのだろうか。

想像しただけで、胸がときめく。



「君の家に届けさせるから、住所教えてくれる?」




…………!!!



その一言が、エルダを一気に現実に引き戻す。

(私のバカ!! そんな夢みたいなこと……無理に決まってるじゃない!)


エルダが住んでいるのは王宮内の近衛兵の宿舎だ。

エルリアーナは存在しない架空の人物なのだから、住所も家族もない。


お菓子や髪飾りと違って、ドレスは手渡しと言う訳にはいかないのだ。


(まずい……これ以上殿下と親しくなるとボロが出てバレてしまう)


「い、いえ、ドレスは……結構ですわ。お気持ちだけで」

「エルリアーナ……」


ドレスを受け取って貰えないと知り、ダリウスは明らかに落胆した。

(髪飾りを渡した時はいい感触だったのに……)

自分の色に包まれることを拒否されたのだから当然だ。


耳が下がった犬のように、しょんぼりしてしまったダリウスを見て、エルダの胸は痛んだ。

エルダだって、出来ることならばダリウスのドレスを着たいのだ。


「そう言えば……」

ダリウスが思い出したように口を開いた。

「この前エルリアーナ、王宮の庭の奥のほうに走って行っちゃって、心配したんだよ」


先日、抱き締められてパニックになった時。

走って近衛宿舎の自分の部屋に戻ったのだが、『貴族令嬢のエルリアーナ』としてはおかしい行動だ。

馬車に乗って、王宮の外へ帰って行くのが普通だから。

思いっきり逆方向である。



「心配だから、今日は帰りは家まで送るよ」


突然ダリウスがとんでもないことを言い出した。

家がないのだから、送って貰うわけにはいかない。


「じ、自分の家の馬車がありますので、し、し、心配はご無用ですわ」


「心配だからと言うのは口実で……もっと一緒にいたいだけなんだ」

いたずらっ子のような顔でダリウスが笑う。


「っ…………!」

ときめいている場合ではないのだが、ついときめいてしまうエルダであった。


(いや、いや、いや、……まずい。まずい。これはまずい……)


「わ、わたくしちょっとお化粧室へ行って参ります。そ、それで今日はそのまま帰りますわね。それでは失礼いたします。ご機嫌よう」


「え? ちょ……待って! エルリアーナ!?」


エルダは一方的に挨拶をすると、化粧室めがけて走り去った。

幸い、化粧室には他に誰もいなかった。


夜会の招待客用の化粧室は、洗面所の手前が広い休憩室になっている。

長椅子や応接セットが沢山あり、酔い覚ましのドリンクなども用意されている。


普通の控室と違うのは鏡が多いこと。

絵画は一枚もなく、代わりに金の額縁に入った鏡があちこちに掛かっている。

ご婦人がたが化粧直しや、身支度を整えるためである。


エルダは呼吸を整えながら、ふと壁に掛かっている鏡を見た。


映っているのはドレスを着た貴族の令嬢。


花を愛でたり、豪華なお屋敷で刺繍をしていそうな令嬢がそこにいた。

泥んこになって剣を振るったり、馬上からナイフを投げたりするようにはとても見えない。


「はは……我ながらよく化けたものだな」


心がスーッと冷えていくのを感じ、エルダは乾いた笑いを漏らした。


(ダリウス殿下が好きなのはこの令嬢であって、自分ではないーー)


本当の自分はダリウスに男性に間違われてしまうような護衛騎士なのだ。

そう思ったらキリキリ胸の奥が痛んだ。


「しっかりしろエルダ! 夢見ている場合じゃないんだから!」

ペシペシと自分の頬を叩く。

騎士としての本分を忘れそうになっていた自分に喝を入れ直す。


大広間を通らずに別の出口から出て宿舎に戻ることに決め、化粧室を出ると、


「あ、いたいた。おーいエルリアーナ! 送っていくよ!」


ダリウスが長い廊下の向こうから声を掛けてきた。

エルダを探して化粧室の近くで待ち伏せしていたらしい。


「ひっ!!」


(まずい)

エルダは聞こえないフリをして、廊下をどんどん進み、角を曲がる。


「おーい! 待ってー!」

案の定、追って来るダリウス。


エルダは全速力で王宮の廊下を走るが、この角の先は行き止まり。

追いつかれるのは時間の問題だ。


角を曲がったエルダは辺りに誰もいないのを確認すると、



ーー素早く二階の窓から外に飛び降りた。



飛び降りた衝撃でイヤリングを片方落としてしまったが、ダリウスから逃げることに頭が一杯で気がつかない。


王宮の建物の影にしばらく身を潜めたエルダは、誰にも見つからないようにこっそりと近衛宿舎に戻ったのであった。



エルダの後をゆるゆると追いかけていたダリウスは、角を曲がった途端立ち尽くした。

彼女が忽然と姿を消していたからである。


「??」


廊下にある部屋のどこかに入ったのかと思い、一つずつドアを開けて探したが、どこにもいない。


ダリウスはため息をつく。

(本当に野生のウサギみたいだな)


なかなか捕まってくれないエルリアーナ。

ダンスの時は一瞬捕まえたかと思ったのだけど。


彼女はわかっているのだろうか。

焦らされれば焦らされるほど想いは募るってことに。


「追いかけられると恐怖を感じるけど、逃げられると追いかけたくなる性分なんだな僕……」


エルリアーナの住所を絶対に突き止めてやる! とダリウスは一人心に誓った。




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― 新着の感想 ―
[一言] >エルリアーナの住所を絶対に突き止めてやる! 言い方ァ! これじゃストーカーっぽいですよ殿下!!
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