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【書籍化・コミカライズ】殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!  作者: 玉川玉子
殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!

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14. あなたの色のリボンを

「はあぁぁ……」


近衛隊の宿舎の自室でエルダは一人ため息をついた。


テーブルの上にはダリウスから貰った焼き菓子のパッケージが乗っている。

中身はすぐに食べてしまったのだが、包装紙とリボンを捨てられずにそのまま置いてあるのだ。


何かお返しをしなくていいのだろうか。

あんなに大変な思いをして選んでくれたお菓子だ。


でも殿下の気持ちには応えられない。

思わせぶりなことをするのはダメな気がする。


「殿下……いい人すぎるでしょ」

あんなに見た目もカッコいいくせに、性格もいいとか。本当に困る。

「もうこれ以上冷たく出来ないよ……」


第二王子に恋人を見つける手助けをしなくてはいけないのに。

ノープランになってしまった。


時間だ。エルダはノロノロと立ち上がり、夜会の準備のためにレジーナ王女の下に向かった。




◇◇◇◇◇◇◇



「ねえねえレジーナ、最近王都で評判の占い師がいるって知ってる?」


夜会の会場である広間で、エルダはレジーナ王女たちと一緒に立っていた。

流行に詳しいラナが仕入れたばかりの情報を披露する。

ラナはレジーナ王女の大親友で、王太子の婚約者でもある。


「あら、そうなの?」

王女であるため、レジーナは公爵令嬢のラナほどは自由に外出が出来ない。

だからトレンドには疎い。


「俺、聞いたことあります。水晶玉で真実の愛を見てくれるんですよね」

近衛だが、貴族として夜会に参加しているカークが言う。


「でもクソ高いんですよ。一回で500ルビン」

カークはエルダの同僚の近衛騎士。

元々チャラい遊び人だったので、女の子の好きそうなトレンドに詳しいのだ。


「真実の愛について占ってくれるんですって。興味あるわ」

ラナがうっとり言う。


「ふん。くだらない。占いなんて非科学的なものを信じるなんて馬鹿げている」

王太子のバシリウスは乙女たちの憧れを一蹴する。


レジーナ王女は孤児院を訪問した際に見かけた占い師を思い出した。


(あの人も机に水晶玉載せていたわね。でも金額が違い過ぎるから別人かしら)

きっと昨今の流行に乗った便乗商法なのだろう。


(南に行くなって……南方にあるネバンドリアに嫁ぐのに……縁起でもないわ)

あの時言われたことを思い出す。

気にしないようにしていても、正直あまり気分の良いものではない。



レジーナ王女の横に立っていたエルダは会場をキョロキョロと見渡していた。

(ダリウス殿下……遅いな。もしかして今日は来ないのかな)


ダリウスが気になって、そわそわしてしまう。

レジーナ王女たちの会話が頭に入って来ない。

でも、第二王子はなかなか現れない。


そうこうするうちに、エルダの周りに独身男性の人だかりが出来始めた。

いつもはダリウスが独り占めしていて話しかけるチャンスがなかったが、みんな見知らぬ美少女に密かに目をつけていたのだ。


男性だけでなく、エルダは最近女性にもモテるようになった。

以前絡んできた令嬢達を中心にジワジワとファンが増えているのだ。


特に、転びそうなところをエルダに助け起こされたあの令嬢は、激しくエルダにまとわりつくようになった。


「エルリアーナ様を想って刺繍したハンカチですわ。受け取っていただけますでしょうか」

「はあ……ありがとうございます?」

「あの……それで……お姉様と呼ばせていただいても?」


可愛らしく着飾っているのに、なぜか猛獣のようなオーラが漂う令嬢だ。

ダリウスが怖がるのも理解できる。ぐいぐい来るのだ。


「ご、ごめん遊ばせ〜。化粧室に行って参りますわ。おほほ」

身の危険を感じたエルダは大広間を抜け出し、さっと中庭に逃げ込んだ。

足の速い草食動物のように。


「今日はダリウス殿下はいらっしゃらないのかな」

何となくつまらない気持ちになって、ぶらぶら歩いていると、噴水の所に出た。


初めて出会った時のダリウスを思い出す。

噴水で脚を冷やしていたら突然現れた第二王子。


「会いたいな……」


小さく独り言を漏らす。そんな自分にエルダは苦笑した。

ーー昼間も護衛でずっと一緒にいるのに。



「ーー今日は靴を脱いで水遊びしないんだね」

不意に背後から声がして、エルダの肩がビクリと跳ねた。


「で、殿下!」


「財務長官と一緒に資料を見ていたら、ミスを発見しちゃって……遅くなった」

ダリウス第二王子が夜目にも眩しい白金の髪を揺らし現れた。


「べ、別に。いらっしゃらないのに気がつきませんでしたわ」


ーー嘘ばっかり。ずっと気になっていたくせに。


悪態をついてしまう自分の口が恨めしい。

こんなことを言いたいんじゃないのに。


「え……と。殿下……先日のお菓子とても美味しかったです。あ、ありがとうございました」


ダリウスの顔がぱあっと明るくなる。

「本当に? そう言ってもらえてすっごく嬉しいよ!」


喜んでエルダの方に近づいてきたダリウスは突然ピタッと足を止めた。

視線はエルダの髪の毛に釘付けになっている。


「え……それ……」


金髪のウィッグをポンパドールのハーフアップにし、ベルベットのリボンを結んである。




ベルベットのブルーグリーンのリボン……


ダリウスが贈った菓子にかかっていたあのリボンだ。




ダリウスは信じられない思いで目を瞠った。


「あのリボンを……髪につけてくれたの……?」


「……っ……た、たまたまですっ!」

エルダは恥ずかしくて、必死で言い訳をする。


「ちょうどいいリボンがなくて……それで、今日のドレスのクリーム色にも合うし、たまたまこのリボンがあって、便利だからって……それで……」




不意に視界が何かに遮られたかと思ったら、次の瞬間目の前にダリウスの硬い胸板がありーー




抱きしめられていることに気づいた。




(……………………!!)


エルダは頭の中が真っ白になって身動き出来なかった。

心臓が早鐘を打ち始める。


「すっごく嬉しい……エルリアーナ」

エルダの髪に顔を埋め、ダリウスが喜びを炸裂させる。



天使のように可愛い第二王子の腕は予想に反して逞しかった。

大きな手は、片方はエルダの小さな肩を掴み、もう片方の手は細い腰をグッと引き寄せる。

エルダが暴れてもビクともしない。


「は、は、離してください!」

スッポリと第二王子の腕の中に閉じ込められてしまったエルダは真っ赤になってジタバタする。


「あ、ごめんね。つい嬉しくって」

ダリウスは申し訳なさそうに、でも名残惜しそうに腕を緩めた。


「でも本当に夢みたいなんだ。君がブルーグリーンを身に着けてくれるなんて! ありがとう、エルリアーナ」


ブルーグリーンの瞳が喜びで、晴天の海のようにキラキラと輝いた。



「……………っ」



一瞬息が出来なかった。

ダリウスの笑顔があまりに眩しくて。


居ても立っても居られないほどパニックに陥ったエルダは

「きょ、今日はこれでし、し、失礼します!」

と叫ぶなり走り去った。




「エルリアーナ……相変わらず走るの速いなぁ」

腕に残るエルリアーナの感触の余韻に浸りながら、ダリウスは走り去る彼女の後ろ姿をぼんやり眺めていた。


そして、ふと気づく。

(……あれ、でも馬車が停まっている方向と全く逆だけど。どこに行くつもりなんだろう)


夜会の招待客は王宮の正門付近に馬車を停めてあり、そこから乗って帰るのである。

エルリアーナは逆に王宮の庭園の奥深くに入って行ったのだ。


「夜だし。庭園の奥を一人でうろつくのは危ないな」

紳士であるダリウスはエルリアーナを心配して探しに向かう。


しかし、その先にあるあづまやにも、バラ園にも、池の周りにも、騎士団の演習場にもエルリアーナの姿はなかった。


「おかしいな。どこかで行き違いになったのかな」


招待客が王宮内の地理に詳しいはずがなく、その辺で迷子になっているかと思ったのだけど。


ダリウスは夜会の会場に引き返すと、カークとアランに声を掛けた。


「君たち二人に臨時の任務を頼みたいんだけど」

「ええー、毎回言ってますけど俺ら今プライベートで〜」

「エルリアーナを庭で見失ったんだ。庭で迷子になっていると危ないから、探して彼女が正門から馬車に乗るのを見届けてくれないか?」


カークとアランは顔を見合わせる。


「明日の午前中は休みにしていいよ」

「「承知いたしました!」」



夜会会場を後にしたカークとアランは庭を捜査なんかせず、真っ直ぐ騎士の宿舎に戻る。

そしてエルダの部屋のドアをノックすると、果たして彼女は部屋にいた。


「エルリアーナが庭の奥深くに入って行ったから、パトロールしろって言われた」

「お前、騎士宿舎に入るところ殿下に見られないよう気をつけろよな」

「そうだよバレたらどうすんだよ」

「ってことで、俺たち今広い庭園を捜索していることになってっから宜しく」


エルダは二人から事情を聞き、礼を言った。

「…………分かった。二人ともありがとう。おやすみ」


さて、エルリアーナを探して庭園中パトロールする代わり、明日の午前中休みが与えられ、且つエルリアーナは無事なのでパトロールする必要のない二人がどうしたかと言うと……


「まあ飲め」

「おう、俺の部屋からも一本持って来よっか」


仲良く酒盛りを始めたのである。

明日は午前中オフだから。


「だ・か・ら〜エルリアーナはマッチョが好きなんだってよ。へへ」

「マッチョはお前だけじゃないだろうが! それに俺が殿下から聞いた話では黒髪で、強面で笑わない人だって」

「あ〜、それともう一つあったな、なんだっけ……長剣を片手で振って体の軸がブレない男?」

「ははは。そんな奴近衛にいると思うか? 戦闘部隊でも指折りの実力者でない限り…………」

「…………」

「…………」


カークとアランは同時に無言になる。


「なあ……なんか俺今、すっごく嫌なことに気づいちゃったんだけど」

「……ああ、俺もだ」



ーーいるではないか。


彼らと同じ近衛隊に。

黒髪で強面で笑わなくて、長剣を片手で振って体の軸がブレないガタイの良い騎士が。


「エイジャクス魔王クソ隊長……」

「言うなカーク!! やめてくれ!」

「嘘だろ……じゃあエルダの好きな男って……」


なんてことだ! 二人は戦慄した。

エルダの好きな相手はエイジャクスだったのか。


「許せん!」

「魔王に持っていかれるくらいなら、ダリウス殿下の方が何倍もマシだ!」

「つか、魔王とエルダは両想いってことか!?」


そうだった。

『エルダ・ラゴシュに手を出したら殺すぞーー』

カークとアランはエイジャクスに確かにそう言われたのだ。


「あんときの隊長の目はガチだったな……」

「俺マジで殺されるかと思ったもん」


「……………………」

「……………………」


カークとアランはあっさり降参した。


「なんだよ、売約済みかよ、ちきしょう」

「やってらんねーよ。飲めよアラン」カークが涙目で酒を杯に注ぐ。

「ああ今夜はとことん飲もう……飲んで忘れて……今度合コンにでも行こうぜ」

「いいね、合コン。俺、侯爵家の侍女にツテがあるから聞いてみるわ」

「ダリウス殿下も可哀想になぁ……失恋仲間だと思うと親近感湧く」

「ほんとほんと、健気に筋トレまでして……無駄なのに」


こうしてカークとアランはその夜、酔い潰れるまで失恋の苦い酒を飲んだのであった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 些細な行き違いで勘違いが加速していくのはあるあるですが、パッと結び付かずにここまできてようやく「……あれ?」となるのがリアルでいいなと思いました。 この勘違いがどこまで広がってどこで収まる…
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