78 ~三送会 前編~
卒業式があと三日に迫ってきた。今日は、三年生を送る会、略して三送会だ。
この学校では結構大事にされているらしく、午前中ずっと行われる。前の学校にはない文化のため、少し楽しみにしている。
前の学校は卒業は、大学まで関係ない。また、落ちていく人と上がってくる人で混在しており、入学した学校で卒業するとは限らないため、本当に誰も意識していないと思う。
三送会の一番初めは、部活動新旧レギュラー対決。校庭でちょっとした対決をするらしい。
そして、部活動対決の最後にはエキシビジョンマッチとして、生徒の投票で決まった部活の勝った方と俺たち相川兄弟で対決するらしい。
体育教師が見たいからとかなんとか。俺は、嫌だと言ったし、出ないとも言ったけどな。やるスポーツが決まっていないというのが一番嫌なんだけど。
しかも、三年以外の兄弟たちは全員新レギュラーとして出場することになっている。その場合、よほどのことがない限り、新レギュラーが勝つ。
そうすると、兄弟対決になるから嫌なんだよな。
競技にもよるが、他の人とやるよりもやりづらくなることは確かだ。
兄弟が誰もいないだけで、とても助かる。
最初は、陸上やバドミントンなど兄弟たちが入っていない競技が多い。兄弟のいる部活で一番初めにやるのは彰と亨が所属しているテニス部らしい。要と忍が所属している弓道部は危険なためやらないそうだ。
シノがすごい悔しがってたな。新旧対決ができないというよりも他の兄弟ができるのに、自分達だけできないということに。
「カケー。ここで見るの?」
試合に出ない忍と要が近づいて来る。俺は、元々部活に入っていないため、今日出ることはない、予定だった。
「そのつもり」
俺は、校庭の全体を全体的にすべて見えるところに座っている。
「三年は別枠なんだっけ?」
一応、三送会のため、三年生はもっと近いところで観戦できるようになっている。
「あそこで見てるぞ」
「ほんとだ」
忍が俺の隣に座り、忍の隣に要が座る。
「弓道部は何で戦うんだ?」
「やらないよ」
「何も?」
「何も」
不服そうな顔の忍が答える。
「そっか」
「その分、エキシビジョンマッチにはちゃんと出させてもらう」
「じゃ、俺の分まで頑張って」
「カケは出るでしょ。確定で」
要が呆れたように言う。
「人数的には十分いると思うけど」
「新旧対決出てないんだから」
「絶対出ないといけない?」
「カケが出なかったら誰が指揮を執るって言うんだよ」
「アユとかノゾとか……?」
「あの二人って出ていいの? エキシビジョンマッチ」
「ダメとは言われてない、はず」
「俺も聞いてないけど、出るつもりはなさそうだね」
そんな話をしているうちに、新旧対決は着々と進んでおり、新レギュラーが勝つことが多い中、旧レギュラーが勝つこともあり、その時は、すごい盛り上がりを見せた。
そして、彰と亨が出てくる。テニス部は、コートの中に乱雑に置かれたペットボトルを決められた球数でより多く倒した方が勝ちという対決をするらしい。倒し方は、ボールで倒せば何でもいいらしく、サーブで倒しても、疑似ラリーをしている中で倒してもいいらしい。一人四球でペットボトルは十本置いてある。一人やるたびに倒されたペットボトルを直すため、多くても一人では四本しか倒せない。
新レギュラーの先陣を切ったのは彰で、四本きっちり倒して、次の人に回した。その後、数本倒した人もいれば、一本も倒せない人がいて、最後の亨に回ってくる。亨も四本、彰とは違うペットボトルを倒し、新レギュラーは全部で14本。レギュラーは七人のため、半分の好成績といえるだろう。
次に、旧レギュラーがやる。さすがに四本倒した者はいなかったが、全員が一本以上倒していた。
「結構うまいね」
「あれぐらい、簡単だと思うけどなぁ」
結局、新レギュラーが14本、旧レギュラーが12本で新レギュラーが勝った。
「結構ぎりぎりだったな」
「そうだね」
次は野球部だ。準備が始まる。
「思ったんだけどさぁ、野球も普通に危なくね?」
野球部は飛距離対決をするらしい。確かに、変な方向にボールが飛んで行ったら危ない。全員が全員、避けられるはけではないから。
「野球部が良いなら、弓道部もいいと思う」
「まぁ、危ない範囲に人はいないし、先がとがってるわけでもないからね」
要が忍を宥めている。いつも弓道場内ではこんな感じなのだろうか。それとも、周りに俺たちしかいないからだろうか。他の兄妹と一緒に居る時よりも饒舌だ。
「そうだけどさぁ」
準備が終わり、対決が始まる。一人二打席で各選手の最大飛距離の合計で勝負するらしい。投手はそれなりにしっかりピッチングをするらしく、樹がホームベースの後ろで構えている。
これだと、ファールボールとか普通にありそうだし、危険だぞ。タツの采配があったとしても打たれないという確証はないし、フリーバッティングの方がいいだろ。
先に旧レギュラーが打ち、その次に新レギュラーが打つらしい。旧レギュラーでも飛ばす人は飛ばしていた。しかし、やはりブランクがあるのだろう、新レギュラーの方が飛距離も急速も勝っていた。樹と傑は計測ぎりぎりを狙って打っていた。どちらがよりギリギリを狙えるかという勝負を二人でしていたらしく、傑が最後の打席を終えた後、すごく悔しそうにしていた。
「楽しそうだなぁ」
むすっとした顔の忍が言う。
「この後の活躍、楽しみにしてる」
「カケも出るんだからな」
「競技によるかな」
その次はバレー部で、十点先取の試合をやるそうだ。デュースは行わないと説明があった。
「十点なんて、すぐに決着がつきそうだけど。それに、外だしフライングできないでしょ」
「シズがいるからすぐには決着つかないんじゃない?」
「シズがいても、俺たちとやる時みたいに全部拾えるわけではないし、三年生が動けるとも思えないし」
「それは、そうかもね」
忍の予想通り、瞬殺だった。旧レギュラーからのサーブだったが、新レギュラー側がしっかり拾い、綺麗な三段攻撃を決めた。その後は、サーブで崩してシャットアウトしたり、ワンタッチを取って、綺麗に算段攻撃を決めたりと、10対2で試合が終わった。二点は、新レギュラー側のスパイクがアウトになって入った。
「ほらな」
「そうだね」
「あ、ここにいた」
彰と亨が俺たちと合流した。
「おつかれ」
「結構接戦だったな」
「な。先輩方強かった。もうちょっと狙えるような練習したほうがいいかも」
「弓道部は、やらないんだっけ?」
亨が要と忍を見て言う。
「何? 当てつけ?」
「そんなつもりはないって。ただの質問」
「やらない」
忍が怒った口調で言う。
「なんか、怒ってる? シノ」
亨が俺の隣に座りながら小声で訊いてくる。
「まぁ。出られないことにな」
「そっか」
彰は要の隣に座り、要と何やら話している。
次の競技はバスケで、3Pシュート対決らしい。それぞれ少しの練習時間が設けられた後、一人三球で入った数で競う。レギュラーは五人だが、少ないということで、八人ずつらしい。練習を見ている限り、どちらもトントンといったところだろうか。皐と暁がいる分、新レギュラーの方が有利だと思うが、練習時間中、暁はすべて外していた。これが狙った通りで演出としてやっていたのか、普通にやって全てを外したのか分からないが、皐から文句を言われているのは分かった。
体の動かし方的にそこまで変な感じはしなかったけど、いつもサトが打つ位置から少し前に出てたんだよな。
「どっちにかける? さっきのサトの行動」
彰が尋ねてくる。
「アキは、どっち?」
「俺はわざと」
「俺もわざとかな。身体の動きがぎこちなかった気がする」
要が言う。相変わらずしっかり見ているなと思う。
「俺もわざとだと思う。サトは遊ぶときは遊ぶ」
「許さん」
傑の声が聞こえ、振り返ると、樹と傑が後ろに立っていた。
「おつー」
「タツとスグは、どっちだと思う? 見てたよな?」
「わざと一択。立ち位置が違った」
樹が言う。樹も俺と同じところを見て判断したらしい。
「スグは?」
「サトが外すことはないからな」
「まぁ、そうだよねぇ」
対決が始まり、新レギュラーと旧レギュラーが交互にやっていくらしい。先攻は新レギュラーだ。新レギュラーの一番手は暁だ。外せないし、流れを引き寄せるという意味でも、絶対に決められる人が良いだろう。
練習の時は、演技だったらしく、いつもの立ち位置から綺麗にシュートを決めた。三本連続でやっていくらしく、次々に決めていった。一番手としての仕事はしっかり果たしただろう。
旧レギュラーの一番手は、一本だけ決めた。順々にやっていき、ほとんど五分五分のまま八番手に回ってくる。新レギュラーのほうが一本だけ勝っており、最後は皐だった。このようなところで外すことはないだろう。暁だったら一本外して、面白い勝負にするだろうが、皐はそんなことはしない。きっちり三本決め、新レギュラーが勝利を飾った。
「な、言っただろ」
「みんなわかってたからな」
傑と樹は俺たちの後ろに座っている。
「演技だとしても許せん」
「大丈夫だろ。アユにこっぴどく怒られるだろうから」
スポーツで手を抜くことに関しては、歩が一番厳しい。この後、暁は歩に掴まって延々と文句を言われることだろう。
「何かあったの?」
雫がやって来た。
「見てなかったのか?」
「片づけしてたからね」
雫が傑の隣に座りながら言う。
「サトが手抜いたんだよ」
「何で?」
「さぁ? 本人に訊いてみないと分からないな」
「アユが見てないところならまだしも、アユが見てるってわかってるのに、馬鹿だね」
「シズに言われたら終わりだな」
「アユに怒られる前に、サツに文句を言われそう」
「サツも怒らせたら面倒だぞ」
「ま、俺らは傍観してればいいだろ。無理に首を突っ込む必要もない」
「そうだな」
最後の競技は、サッカーだ。何人抜きできるかで勝負するらしい。それぞれのチームから一人出し、一人対十一人でやるらしい。最高十一人抜きだ。一回抜かれた人はもう一回止めに来てはならないらしい。
もちろん、新レギュラー側は稔がやる。稔本人はとてもとても嫌そうな顔をしていたが、チームメンバーに押し切られ、渋々といった感じだ。それでもやるときはやる。新レギュラーが先攻のため、稔がハーフライン上に立ち、旧レギュラーが待ち構える。
スタートのホイッスルが吹かれ、稔が少し前にボールを蹴りだす。飛び出してきた二人を軽くかわし、スピードを上げる。そこからは瞬殺だった。パスを出すという工程も、チームメンバーの位置を把握するということも必要がないため、好きなように動いてどんどん人をかわしていき、気付いた時にはもうゴールキーパーと一対一だった。
「面白くねーの」
傑が文句を言っている。
「俺は、ミノが楽しそうだからいいけどね」
何も気にすることなくのびのびとって感じだったし。
「楽しそう? どこが?」
他の兄妹にとっては、楽しそうにやっているようには見えなかったらしい。
「渋々って感じだったよな?」
「引き受けた時は、な」
「ミノは、やるとなったらしっかりやるタイプだからな」
「そ」
今度は、旧レギュラーの攻撃だ。新レギュラーが守備をするために散らばっている。旧レギュラーの攻撃をする人は、十番のユニフォームを着ていた。
「どこで止められるかな」
「ミノまで行ったら相当だろ。結構強かったし」
「俺らが戦った時よりも、連携できそうだしね」
話していた通り、相手陣地の中盤少し手前でボールを取られ、試合終了。新レギュラーが勝った。
「思った通り過ぎて、面白くないな」
「今日、シノ、ずっと同じこと言ってるけど」
「まぁ、うん」
サッカー部の試合が行われている最中に、バスケ部の二人が戻ってきていた。
「さて、エキシビジョンマッチは、どことやることになるのやら」
「どこと、何をするかもわかってないんだよね?」
「何も聞いてないな」
そんな話をしていると、グラウンドに三送会実行委員代表が出てくる。
「えー、これから、十分の休憩を挟み、相川兄弟とのエキシビジョンマッチを行うのですが、その種目がまだ決まっておりませんっ! なので、ここで決めたいと思います! 相川兄弟以外の皆さんに朝、投票用紙をお配りしてありますので、その紙に戦ってほしい部活に印をつけて、お近くの投票箱に入れてください。十分休憩の終わりまでにお願いしますっ! 以上です。休憩に入ってくださいっ!」
はぁ。本当にやるのか。
三年生は俺たちのことを知らないだろうが、一、二年の中で知らない者はいないぐらいには強いことを知られている。生徒たちはこぞって投票箱に向かい、投票している。
「はぁ」
「やる競技決まってないけど、サッカーが当たった場合、人数足りないよな? どうするんだ?」
「アユ呼び出すか?」
「まぁ、呼ぶならアユだよな」
「ノゾも呼び出して、俺は出ないことにしよう」
「何言ってんだ。カケは確定枠だろ」
要には言われていたが、全員に同意されては困る。
「ミノがサッカー部の方で出ないって言うことも出来るけど、それじゃ、面白くないよなぁ」
「サッカー部が当たったら、俺はサッカー部の方で出る」
稔がやって来て言う。
「じゃあ、なおさら、カケには出てもらわないとな。アユが活躍するために、カケは絶対だろ」
「ノゾじゃなくてアユなんだ」
「順当に考えたら、そうなるだろ。元サッカー部なんだし」
「俺たちの中で一番サッカー上手いしね」
十分休憩が終わり、集計が終わる。
「皆さん、お待たせしました。それでは、投票の結果発表をしたいと思います。結果は……」
全校が固唾をのんで次の言葉を待つ。
「バスケ部とサッカー部が同率一位でした!」
三送会ってどこでも行われているものなんですかね。僕が通っていた学校にはありましたけど、こんな部活の戦いはなかったですね。
忍は、本当はそれなりに饒舌なのですが、他の七つ子……特に暁と傑がよく話すので、あまり話していません。雫や亨とはよく話しているのですが、そういう時は大体、翔が暁と傑の止めに入っているので、あまり本編には出てこないだけです。
次回は、 登場人物紹介 雫編 です。




