77 ~体育のバレー 後編~
「サト。相手崩して。できるだけ優しめのボールが帰ってくるように。ワンタッチでもいいけど」
「? まぁ、わかった。一球じゃ決まんないかもしれないけど」
「何球かやってくれていいけど、俺が後ろにいるときに」
「了解」
「シズ。強くないボール来たら俺がファーストタッチ取るから」
「わかった」
「前衛は、走り出しとけよ。俺の速攻は……」
「合わせてもらえない、だろ」
「俺からしたら、合わせてやらない、だけどな?」
「どちらにせよ、一緒だ」
「頼もしいな」
暁が強めのスパイクサーブをリベロの横、取れるか取れないかぎりぎりのところに放つ。
「ナイスサー」
相手が苦し紛れにレシーブをあげる。そのままボールが返って来る。
よしっ、やるか。
ボールの落下地点に入り、Cクイックのトスを上げる。嫌そうな顔一つせず、稔はスパイクに飛んでいた。ブロックも慌てて飛ぶが、間に合わない。
「ナイスキー。ミノ」
「俺じゃなくてよかっただろ。反射神経といえば、スグの得意技だし、打ちたいって顔してたぞ」
「だから、ミノにあげるんだろうが。その方が、そのあとの攻撃に選択肢が増える」
「俺も打つけどなぁ」
「ミノは状況に応じて決めるからな」
五分経ったらしく、先生が試合終了の笛を吹いた。
「はぁー。やぁっと終わった」
もう、動きたくない。
体育館の端に座り込む。五分だった、五分だけだったのに結構疲労を感じている。
「おつー」
水筒を持った稔が近づいて来る。
「授業時間、まだあるよね?」
雫ががぶっと一杯水を飲むと言う。
「うん。あるね」
「じゃあ、もうちょっとやろう。俺、次、バレー部の方に入るから」
「いいぜ。やろう」
暁と傑は乗り気だ。忍はどちらでもという顔をしている。
「俺、良いって言ってないんだけど? 五人でやって」
「バレーは六人でやるもんだ。五人ではやれない」
「三対三とか二対二とかいくらでもあるだろ」
「相手は六人。なら、こっちも六人でやるべきだと、俺は思う」
「ミノー」
俺は隣で水を飲んでいる稔に助けを求める。
「助けないよ。少なくとも、俺はまだ動ける」
「はぁ。トオも、助けてくれないだろうしな」
「ご名答。助けないよ」
「はぁ、仕方ない、か」
俺は、ため息をついて立ち上がる。
「ワンラリーだけな」
「おっしゃあ」
「ポジションは?」
「さっきの試合の最初と一緒で良いだろ」
「カケ。センターバックだけど、いいの?」
「別に問題ないだろ」
コートの中に入る。
「サーブ権のじゃんけん、しよ」
「誰がする?」
「面倒だ。そっちからでいい」
「りょーかい」
「ちょい、集合」
俺は、こちら側にいる兄弟を集める。
「ちょっと遊ぼう」
「遊ぶって? 何すんの?」
「カケが遊ぶって言った時はやばいことするときだろ」
「レシーブをセンターバックがスパイク打つ位置にあげて」
「さっきのツーアタック的なやつ、やるの?」
「その線もあり。シズの動き見て決めて。ただ、長いトスはこちらが不利になるだけだから、そこだけ注意な」
「りょーかい」
「あと、多分、サーブは俺を狙ってくるから、スグ、とって」
「はーい」
セッターの5番がフローターサーブを放ち、ボールは俺の方に飛んでくる。
ちゃんと、セッターを狙ってきたな。
傑が俺が指示した通りのところにレシーブをあげる。
「ナイスレシーブ」
俺はスパイクを飛ぶように走り込む。向こうのコートにいる雫はじっとこちらの様子をうかがっている。
ブロックでコースを絞れたとしても、俺たちのスパイクは誰が打つかわかっていない限り、雫でもスパイクレシーブをあげるのが難しい。だからこそ、速攻がうまく効く。
誰にあげるかな。
俺がスパイクに飛ぶのと同時に、他の五人がスパイクに飛ぶ。
「はぁっ!? 五人攻撃なんて、聞いたことがないぞっ!」
雫は、早々に俺が攻撃するのを捨てたのか、他の五人を見ている。そして、少しだけ暁の方に寄った。
正解だ、シズ。が、先に動いちゃ、いけないよな。
俺は、そのままスパイクをする。ブロッカーは少しだけ反応したが遅い。雫も反応はしたが届かなかった。
俺が着地をすると、雫にすごい睨まれた。
「ワンラリーだけって言ったからな」
「なんだよー。カケが打つのかよー」
「絶対俺に来ると思ったのに」
傑と暁が近寄ってきて言う。
「シズもサトが打つと思って動いてただろ?」
「だからブロック撃ち抜いてやろうと思ってたのに」
「カケが打つのは予想外だったな、俺も」
「俺もー」
稔と亨が呟く。
「誰も予想してなかった?」
「シノはどうだったんだよ」
「あまり考えてなかった。ボールが目の前に来たら打つだけだし」
「シノっぽいなぁ」
「カケっ。今の、俺の動き見てから変えた?」
雫がこちらのコートまでやってきて言う。
「うん。見えたからね。狙いは良かったよ。シズの動き次第だったけど、サトに上げようかなとは思ってたから」
「じゃあ、なんで? そろそろ落ち始めると思って動いたのに。そこまで我慢したのに」
雫が色々頭の中で考えているときの表情をしており、何やらぶつぶつ呟いている。雫のこういう顔は、バレーをしているときぐらいしか見かけない。俺たちだけで話し合いをしているときもあまり見ない。
「俺は、後、一、二秒は耐えられたぞ」
「見積もりが甘かった、か」
「そうだな」
「シズもまだまだだな」
「兄には勝てないか」
暁と傑が口々に言う。
「兄って言ったって2日しか差、無いよ」
「それでも、カケのほうが先に生まれてるし」
「カケのほうが兄さんだし」
「サトとスグがいばるところじゃないだろ」
稔が二人を諌めている。
「シズの方が、バレーについて知ってるからさ、セオリーとかパターンとか色々考えることがあって、その分型にはまってるから、ルールは守っててもセオリーは守ってない俺たちの攻撃を読んで止めるのは大変だろうな」
「考えること多そうだね。それだけ聞くと」
「俺らはとりあえず自分のタイミングで飛ぶだけだからな」
「そんなことないけどな」
授業終了のチャイムが鳴る。
「解散」
着替えて教室に戻り、その後の授業を受ける。
晴さんに迎えに来てもらい、冬馬様と千明様と一緒に車に乗り込む。
「あ、の、冬馬兄さん。これ……」
「僕から言えばいいの?」
「あ、や、僕から、言う」
「僕に言ったってことは、僕に言ってほしいってことじゃないの?」
「そ、ういうわけ、じゃなくて……」
後部席に座っている二人が何やら話している。
「話すなら早めに話した方がいいと思うよ? そろそろ着くから」
「え、あ、うん」
そろそろ着くって……、俺が何か言われるのか?
「あの、翔君」
「何でしょう?」
「お父さんがね、今日中で暇な時にお父さんの部屋に来てほしいって、言っててね、どう、かな?」
なんだ、そんなことか。もっと重大なことかと思った。
「バイト早めに切り上げて行きます」
「あ、じゃあ、そう、伝えておくね」
「お願いします」
「うん」
本屋の前で降ろしてもらい、控室で準備をしてから、レジにいる拓真さんの元に向かう、
「拓真さん。今日、何ですけど……」
「うん」
「少し早めに上がってもいいですか?」
「良いよ。今日は、人多いし。上がるときにまた声かけて」
俺が入ってから約半年経ったが、バイトが十人ぐらい増えた。理由は知らないけれど。
「はい」
最近の俺のバイトでの仕事は、もっぱら深司さんに課された仕事の手伝いである。深司さんはちゃんとした社員のため、事務作業などもやらなければならないのだが、どうにも得意ではないらしく、大体俺にやらせているのだ。拓真さんがやってもいいのだが、他にも見なければならないところがあるため、深司さんに任せている、というか仕事としてやってもらわなくてはならない。社員は、深司さんともう一人、拓真さんの親友だったとかいう人しかいない。
っていうか、社員にもかかわらず、なにも出来ない深司さんって、雇ってるだけ拓真さん優しすぎる気がする……。深司さんなんて、本読んでるだけだぞ?
「深司さーん。仕事してますー?」
三階にいる深司さんに声をかける。
「やってる。けど、終わらないよー」
三階のレジの奥にある机に突っ伏していた深司さんが言う。
「終わらせてください。深司さんの仕事でしょ」
「そんなこと言ってもさぁ」
「今日は、何してるんですか?」
机の上に散らばっている紙を覗き込む。
「予約の整理」
「苦手そうですね……」
書籍ごとに分け、もう到着している本は連絡を入れ、一階のレジに移動したり、まだ発売していない本は日付順に並べたりする、単純な事務作業だ。
「なんで、拓真さんはこんなに苦手なものばかりやらせるのかなぁ」
「逆に、深司さんの得意なことって何ですか?」
「本読むことと、ポップ書くことかな」
「じゃあ、それをやらせてくれと頼めばいいのでは?」
「頼んだよ。何回か。でも、本読み始めたら止まらなくなるからダメだってさ」
ま、間違ってはないな。
「仕事じゃなくても読書してるんですから、読んだもののポップ書けばいいと思いますけど?」
「案はいっぱいあるよ。結構溜まってるし」
「それを見せたらいいんじゃないです? ただ、事務仕事はやらないといけないと思いますけど……」
「もう、全部、翔に任せるから」
「俺はただのバイトなので、任せないでください」
「でも、これはできるでしょ。やっておいて」
「一緒にやるんですよ」
深司さんと一緒に作業をしながら、時々レジをやっている間に、いつも上がる時間の三十分前になる。
「今日は、これであがるので、後は頑張ってください」
「はーい」
完全に年齢逆だろ。
一階に降り、拓真さんに声をかけてから、控室に戻る。帰る準備をしながら、司に連絡をする。司の方もきりが良いらしく、いつでも迎えに来てくれと言われた。
「さてと、帰りますか」
司の仕事場に寄り、司を回収して屋敷に帰る。
「今日、早かったな。何かあったのか?」
「当主様のところに来てくれって言われたから。早く上がって行こうと思って」
「ふーん」
屋敷に帰り、荷物を置いて当主様の部屋に向かう。当主様の部屋の中に一つの気配があることを確認して、扉をノックする。
当主様から許可を得て、部屋の中に入る。
「失礼します」
「いらっしゃい。様々な引っ越しの日程が決まったから共有しておこうと思って。千明から共有してもいいかなと思ったけど、直接話しておきたいこともあって、呼んだんだ」
様々な、ってアユとかノゾもってことか? 連れてくればよかったかな。
「日付順に言うね。まず、歩で、第一志望日の卒業式の一週間後ね。荷物全部運ぶみたいだから、前日から何人か派遣するって。一緒に準備してって伝えて」
「はい」
「次が望で、卒業式の二週間後ね。そこまで引っ越す物はないみたいだから、当日に一緒に準備して」
「はい」
二人から引っ越しの日程について全く何も聞いていなかったため、初耳情報だったが、二人が教える必要がないと思ったのだろう。言われたとおりに教えておこう。
「で、そのあとが翔たちにも手伝ってもらおうと思ってる大輝君たちの兄弟の引っ越しね。翔たちが春休み入って三日後にするみたいなんだけど、どのぐらい空いてそう?」
「確認してもいいですか?」
「うん。良いよ」
俺はスマホを取り出し、日程を確認する。
「えっと、バスケ部、テニス部、野球部が行けますね」
面倒そうなメンツだな。
「何人ぐらい?」
「六人です。あと、僕と薫と栞がいるので九人ですね」
「結構空いてるんだね。じゃあ、大丈夫そうかな。予定、空けておいてもらってもいい?」
「はい」
元々そのつもりだし。部活の予定まだ出てない可能性はあるけど……。先に予定入れたもの勝ちだろ。少なくともサッカー部とバレー部は予定入ってるし。
「大輝君の方にもそう連絡しておく」
「ありがとうございます」
「引っ越しの話は以上。違う話をしてもいい?」
「はい。大丈夫です」
何訊かれるんだろ。
「司、最近どう? 面倒見るの大変だったらこっちに回してくれてもいいからね」
「僕たちと生活してるので、以前のように倒れるということはないと思います。仕事とも両立できてそうなので、多分、大丈夫だと思います」
「翔たちは面倒見るの疲れてない?」
「特にないです。元々兄弟は多いですから、一人増えたところで、という感じではありますね」
「そっか。翔たちが大変でなければいいから。翔の方からは何かある?」
なんかあったっけ? 特に何もない気がする……あ、教科書。
「えっと、冬馬様か千明様から聞いているかもしれませんが、卒業式の二週間後に教科書販売というものがありまして……」
「あぁ、そうだね。毎年この時期だ。お金かな?」
「はい。自分たちの貯金から出すことも出来るのですが……」
今年度のこちらに来てからの教科書はもう買われており、準備されていたが、こちらで普段どうしているのかは分からない。向こうでは、父さんたちに出してもらっていた。というより、準備されていたものを女中からもらっていたから誰のお金かは分からない。
「いやいや、そんなことさせられないよ。こっちでちゃんと準備するから。値段が分かり次第教えて。全員分まとめてくれると嬉しい」
「はい」
「当日、晴に渡しておくから、晴からもらって」
「わかりました」
「他には、何かある?」
「大丈夫だと思います」
「薫と栞の教科書は、払わなくていいんだよね?」
「大丈夫だと思います」
小学校の時は教科書無料だった気がする。俺たちのいたところとは違うから、よくわからないけど……。
「新年度になったら保護者会とかあるのか……。予定、立てないといけないね。日程とか出たら早めに教えてくれると助かるって、薫と栞に伝えておいてくれる?」
「皐たちにも伝えたほうが良いですか?」
「そうだね。伝えておいて。翔たちの予定は多分、冬馬と一緒だよね?」
「多分。そうだと思います」
「じゃあ、何かあったら、来てね」
「はい。失礼します」
当主様の部屋を出て、歩の部屋に向かう。誰かはいるだろう。歩と望に伝えたいこともある。
歩の部屋に入ると、歩が片付けに飽きたのか、ベッドの上でゴロゴロしていた。代わりに望が片づけをしている。そこまで物は多くないため、部屋の中は綺麗だった。段ボールが少し転がっているぐらいだ。
どっちもいた。ちょうどいい。
「どうした?」
歩が反動をつけて起き上がり、俺の方を見て言う。
「引っ越しの日程が決まったって。さっき当主様に呼ばれてさ」
「いつになった?」
「アユは卒業式の一週間後。ノゾは二週間後」
「お、希望通りだ」
卒業式まではあと一週間。卒業式の一日前は卒業式準備とやらで、二年生しか行かないため、俺たちは休みだ。
アユがいなくなるまであと二週間か。意外と短いよな、二週間って。
「アユは前日に準備手伝ってくれる人が来るらしいから一緒に準備しろって。ノゾは当日だってさ」
「りょーかい」
「片づけは……順調には見えるけど、大丈夫そう?」
「問題ない。今はちょっと飽きてるだけで」
「アユのちょっとは長い気もするけど、まぁ、いいや。大丈夫そうなら」
あと、伝えておくことは、ないよな。あ、アユたちに必要なお金はどうすればいいか訊いてくるの忘れたな。まぁ、本人たちに何とかしてもらおう。次は、カオとシオか。
歩の部屋を出て、薫と栞の部屋の気配を探る。いつも通り、薫の部屋に二つの気配があった。俺は、薫の部屋に入る。
「カケ兄。どうかした?」
「いや。来年度の予定とかって、まだ出てないよな?」
「うん」
「出たら、できるだけ早めに当主様に伝えてほしいみたいだから、二人で行くか、誰かについてきてもらうかして伝えに言って」
「うん。わかった」
これで全部かな。戻ろ。
兄弟全員の特徴を把握していて、うまく使えるあたり、さすが翔だなと思いながら書いていました。
そして、別れの時も近づいてきています。望はそれなりに近いですが、歩は戻るので、相当離れますね。歩たちがいなくなると兄妹たちはどうなってしまうのでしょうか。翔はあまり何とも思っていませんが、他の兄妹たちは……。
次回は、 三送会 です。




