8 ~七つ子の話し合い&兄弟練習~
「おい、二人とも、これは疲れからきてるのか?」
「もしくは、風邪?」
「痛めつけあったやつ?」
「……痛めつけあったやつだと思う」
「どんだけやってんだ」
「「それは、こいつが!」」
二人とも、今までのぐったり感はどこに行ったのやら、といった感じで、跳ね起き、自分の罪をそれぞれに押し付けようとする。
さっきは、なんだったんだ? やっぱり、元気だな。
「それだけ元気ならいいな。着替えられるだろ」
「あぁ……うん」
「着替えてくるか」
二人は、よろよろしながらも立ち上がって、自分の着替えの入ったバッグを持って、トイレに向かった。
「シノ、シズ、二人について行ってやれ」
「うん」
雫は返事をし、忍は頷いて、二人で暁と傑の後を追って行った。
「カケ、俺らを残した理由は?」
さすが、ミノ。気づいてんね。
「シノとシズは、話せないコンビでしょ? 兄弟といた方が、本領発揮出来るだろうし、気を遣わせなくていいから」
「それは、一理あるな」
「あと、常識人の、トオと、現場をちゃんと見ていた、ミノ。お前らに任せておけば、俺は何もしなくていい。いいねぇ。楽々」
そうでもないけど、ね。まぁ、二人とも気づいているだろうけど。
「いや、カケが一番大事な役目を、もってるだろ」
「うん。それに、常識人って何?」
「そのままの意味だけど」
他に何か?
「だから、どういうこと?」
「つまり、アユとノゾは、俺らの面倒を見てくれてるから、兄弟の中では、兄貴分って感じ。まぁ、それだから、その下の四つ子が、個性が強すぎるけど、それが強みになってる。……っていうのが、俺ら七つ子の中でもあると思うんだよ。その中では、一番、トオが常識人だと、俺は思う」
「へ?」
亨は意味不明といったような顔をする。
「俺も、そう思う」
「二人とも、納得するんだったら、そうなのかもしれないけど、俺は、納得したくないなぁ。けど、そんなような気もするんだよなぁ」
亨は、納得したくないけど、分かるなぁ、といった表情で胸の前で腕を組んだ。
「そうなると、カケはアユで、ミノはノゾって事?」
「カケは、アユよりまとめるの上手いと思う。でも、あの、自由奔放さはないかな。まぁ、でも、アユのほうが長男って感じはする。誰かに質問されたときに、全員を守る感じで、会話してるから」
へぇ、そんな感じで見られてたんだ、俺。まぁ、確かに、アユのほうが長男だよなぁ。俺は、七つ子の一番上だけど、兄弟の一番上ってわけじゃないからな。
「うん。アユは、できるだけ一人で応答するよね。あまり、他の人に振らない。そのかわり、俺らが納得できる意見を言う」
「カケは、できるだけ、俺らに振ろうとするよな」
それが、楽なんだもん。俺は、別に、みんなの意見を代弁できないし。
「その部分においては、アユに絶対勝てないと思う」
当たり前だけどね。
「俺も、ノゾには勝てないよ。あんなに、さりげなくフォローできないもん」
「そうなると、俺の下四人が、四つ子と同じ感じって事か。で、俺が余ると」
「そう。ということは、何にも左右されないから、常識人になったと」
「やっぱり、納得したくない……」
「納得しなくてもいいんだよ。俺らはそういう風に見てるよってだけだから」
「それも、そうか」
ちょうど先生が、多目的室に入ってきた。
「あれ? 他の四人は?」
「今、着替えてます」
「二人だけではなくて?」
「二人とも、一人じゃ危ないんで、付き添いです」
「そうなのね。でも、そうすると、張本人がいないから、話にならないわね」
「すみません。そろそろ戻ってくると思います」
「じゃあ、少し待っていようか」
先生が入ってきてから、一分ほどで、四人が戻って来た。
「それじゃ、行きましょうか。校長室に」
へ? 校長室? そこでお説教されるの? 嫌だなぁ。しょうがないけど。
先生に続いて、校長室に向かう。
「緊張しなくていいよ。学校にも、他の生徒にも被害は出てないから、大事にはしない。まぁ、でも、暁君と傑君は、ちゃんと反省しておいてね」
と、校長先生はサラッと処置について言いきってしまった。
そんなんでいいの? 毎回思うけど。まぁ、それだから、冬馬様達がいるのかもしれないけど……。
「みんなの、部活で活躍した報告を待ってるよ。あ、地域のもちゃんと見てるからね」
「はぁ……、ありがとうございます?」
校長先生の前で、すごい度胸だよ。自分で言えたことじゃないけど。
校長室を出て、先生と別れ、俺達は教室に向かった。
「じゃ、今日は部活、休みだ。放課後、俺の教室に集まれ」
「「うん」」
俺が言うと、全員がうなずいた。
これだけ言えば、伝わってくれるのは、ありがたい。まぁ、七つ子だから、伝わってるのかもしれないけど。
俺らの学年の階に戻ると、それぞれの教室に分かれ、入った。授業中のため、さささ、と移動して自分の席に座った。
まぁ、一番前だから、どれだけ気にしても、いろんな人の目に入るんだけど……。
そのあとは何もなく、授業を受け、昼食をとり、また、授業を受け、放課後になる。
昼食時に、拓真さんには休むという連絡をしている。教室内が、全員いなくなったところに、他の六人が入ってくる。俺の席の周りに全員集まる。
「さて、全員、言ってきたんだよね?」
「「「うん」」」
「「「もち」」」
それぞれ頷いたのを見てから、俺は、話を切り出す。
今日は、何時間かかるかなぁ。
「ほんじゃ、今日のサトとスグのケンカの件だけど、まず、二人から説明を」
俺らの話し合いが始まる。これが始まると、いつ終わるか分からないから、学校ではあまりやりたくないけれど、今は家だと、あれこれ考えなくてはいけないから、学校が良かったのだ。
結局、終わったのは、最終下校時刻の五分前だった。
一気にその場の緊張がほどける。皆が疲れ切った顔をしている。多分、部活とかバイトをするより、体力、精神を使うと思う。
大会を一日ですべて行うより、疲れるから。
「ふー、それじゃ、帰るか」
俺が、椅子の背もたれにもたれながら言うと、各々立ち上がった。
はぁー、疲れた。まぁ、最終下刻時間前に終わって良かった。ギリギリだったけど。
「サト、スグ、歩けるか?」
「歩けないことはないし、迎え、来るんじゃないのか?」
「呼べばな」
「呼んで」
亨が、鞄からスマホを取りだし、どこかにかける。二言話して、電話を切った。
「来るって」
「呼んだのか?」
「うん」
「部活ってそろそろ終る時間?」
「もう、終わってるんじゃないか?」
「今、着替え中だと思う」
「でも、全員、乗らなくない? 車に」
「それもそうだけど」
「大きいので来るかもよ?」
「まぁ、ここで議論してても、何も変わらないから、降りるぞ」
全員でぞろぞろと教室から出て、階段を降りる。
「はぁー、なんか運動したりないなぁー」
暁がつぶやく。
「さっきまで歩くのがやっとだった奴が、何言ってんだか」
「俺も、運動しい」
「家に帰ったらな」
「カケも付き合ってくれる?」
「なんで俺まで……」
「付き合ってくれないの?」
「嫌だよ」
「ノリ悪いなぁ」
「サツたちに頼む?」
「あぁ、そうしろ」
俺は、計算していたのと、日付を組み合わせてから、本を読む予定だからな。
「アユとノゾも誘って、やる?」
「そうだな」
「っていうか、やるだろ、運動」
「今日って、何の日だっけ?」
「バレーだった気がする」
「正解。バレーだよ」
相川家には、全国で所有している体育館や、グラウンドが大量にある。本家には、体育館が三つ、野球のグラウンドが二つ、サッカーグラウンドが二つある。その中の一つを毎日貸してもらっている。まぁ、所有者の家族だから、使っている、というほうが正しいのかもしれない。
「バレーだったら、カケも必要だよね」
「うん、得点係」
「お前らだけでも、できるだろ」
「カケは、今日、何する予定だったの?」
「読書」
「カケなら、読書しながら、審判できるでしょ」
「そんなわけないだろ」
「だって、俺らのラリー、長いし、得点が入っても、ひいきするわけでも、嘘つくわけでもないし」
「集中して読めないだろ」
「いつも集中してなくない? バレーしてる時」
「気配探ってたら、集中なんてできるわけないだろ」
「カケとミノが口げんかするなんて、珍しいな」
「「ケンカではない」」
ミノと被ったな。久しぶり。
「うん、完璧にケンカだね」
「意見の食い違いじゃね?」
「確かにそうかも」
「まぁ、とにかく落ち着いて」
皐たち四つ子が会話に入ってくる。
「あぁー、これだから、俺は一生、ノゾには絶対なれないんだよ」
稔がぶつぶつ言っている。
「アユとノゾみたいなペアはそうそういないよ」
「アユが好き勝手に動いて、それについて行くノゾだけど、ノゾもしっかり楽しんでるし、ノゾの意見もアユはちゃんと聞き入れてるし、アユでもしっかりしてるところもあるし」
「なんか、最後のところ、さらりとけなしてね?」
「そして、なんといっても、あんなアユだけど、俺らの前に立って守ってくれるし」
「おまえも」
「それは、サツたちが、個性が強すぎるから、隠すために身についたものでは?」
「トオ、それは言わない!」
「だって、本当のこ……」
「これだから、常識人って言われるんだよ」
「まぁ、でも、俺らの個性が強すぎるのは分かってることだし?」
「サツもそれは言わない!」
「うるさいなぁ」
「でもさぁ、ノゾでもよかったわけじゃん?」
「アユは長男だからじゃないの?」
「ここぞっていう時に、長男を使うんだな」
「その言葉が、一番当てはまるから」
「あのぉ~、皆さん、行きますよ?」
いつの間にか、校門のところまで来ていて、運転手さんに声をかけられる。
「何人乗れます?」
「一応、十二人乗りですが……」
「分かってて、これにしたんですか?」
「いえ、今、開いているのがこれしか無くて」
「ありがとうございます。ほら、乗ろう」
俺がみんなを代表して話す。歩がいないとき、大抵は、俺が話す。
「ありがとうございます」
みんながそれぞれ口にして入って行く。
「一人だけ、助手席なのですが……」
「あ、俺でいいですか?」
「えぇ、誰でも大丈夫です」
全員が車に乗ったことを確認し、車は発進した。
「お前ら、今日、運動するのか?」
「しないと、鈍るし」
「すっきりしないよな」
「夜、寝れない」
「翔君」
運転手さんが、俺だけに聞こえる声で、俺を呼ぶ。
「歩君と望君は、もう体育館につれて行ったのだけど、君たちもつれて行った方が良いかな?」
「あぁー、ちょっと待ってください」
俺は、そう言って、後ろを向く。
「なぁ、皆、このまま体育館に行くか? それとも、先に家に帰る?」
「どっちでもいいよ」
「右に同じ」
「俺も」
「サツたちは、着替え持ってる?」
「一応持ってるけど、いったん家に帰りたい」
「俺も、帰りたい」
「じゃ、帰ってから、行くでいいか?」
「うん」
俺は、運転手さんに向きなおる。
「先に家に帰ってから、向かいます」
「分かった」
「お願いします」
その後は何事もなく、家についた。
まぁ、後ろはよく分からない話で盛り上がったけど。
一旦、それぞれの部屋に戻り、各々準備を整える。俺は、Tシャツとジーパンに着替える。
ジーパンを穿けば、やりたくないって伝わる……はずだからね。
今、読んでいる本と続編の一冊とシューズを持って、部屋を出る。他のメンバーは、着替え一式とシューズを持って来ていて、皐が持ってきた、バッグに服を詰め込む。
「カケ、ジーパンだから、やる気はないんだろうけど、一応、着替え持ってきといて」
バッグに服を詰め込んでいる、皐に言われる。
「やらないから、必要ないでしょ」
と、言おうとしたけど、反論したところで、皐には言いくるめられる気がしたから、おとなしく、自分の部屋に戻り、着替え一式を持って出る。
「カケもやるの?」
案の定、暁に言われた。
「サツに言われたから」
「カケ、サツには弱いよね」
「悪かったな」
「アユとノゾにも弱い」
「確かに」
「お前らも弱いだろ」
「俺らは弱いとか、そういう感じじゃない」
「年上だったら、誰にも反論しないし」
「反論したところで、言いくるめられて終るだけだからな」
俺も同じだよ。
「うんうん」
「そもそも、反論しよう、とはあまり思わないし」
「年上メンバーも、反論しようと思うことを言わないから」
「考え方があってるからかな?」
「それは、あるかもね」
「俺、スグとはあったことがない」
「俺も、サトとはあったことがないけど」
「あれ? 年上には、反論しないんじゃなかったっけ?」
「おまえは、同い年だろ」
「俺のほうが二十分先に生まれてる」
「二十分しか変わらないだろ」
「先に生まれてたら、年上だし」
「サトは、年上って考えてないから、年上じゃない」
「はぁ?」
「なんだよ」
「はいはい、そこまで」
稔が間に入って二人を止める。
「運転手さんを待たせてるんだから、早く行くぞ」
バッグのチャックを閉め、持ち上げ、肩にかけた、皐が言う。
「そうだな」
皐が先頭を歩き、皆がぞろぞろとついて行く。屋敷を出て、先ほどと同じ車に乗って、体育館につれて行ってもらう。
「では、帰る時にまた、連絡してください」
運転手さんはそういって、車に乗り込んで、本家に向かって発車した。
「遅ぇぞ」
体育館に入ると、バレーボールでラリーをしていた、歩に言われる。
「ごめん、ごめん。いったん家に帰ったから」
「着替えは持ってるだろ」
「それに、やったらしいな」
「それだったら、着替え余ってるだろ」
「帰る時も、着替えたかったから」
「そうか」
「まぁ、いい。とにかくやるぞ」
「チーム分けは?」
「カケ、準備してる間に、考えといて」
「へ?」
いきなり名指しされ、一瞬頭の中が混乱する。
全く違うこと考えてたから、違うこと言われて、びっくりした。まぁ、普段も、こんな感じだけど。
「頼むぞ」
「はぁ……、了解」
「他のメンバーは準備体操な」
俺は、他のメンバーが各々準備体操を始めるのを見てから、ポケットからスマホを取りだし、メモ帳を開く。
ここ最近のチームメンバーと試合結果から見て、今の相性とか、あまりやらないメンバーとかを見て、今日のメンバーを考える。
ん~、こんなもんかな。
「決まったか? カケ」
翔以外の性格というか、特徴が出てきましたね。亨は、常識人です(多分)。彼は納得してないけど。
兄弟の中では、歩が最強です。七つ後で一番強い翔でも、歩には弱いです。(翔の場合、歩より望のほうが、強く出れないです)
やはり、兄弟たちは、運動のことしか考えてませんね。そして、この回は、ほぼ会話で構成されてます。「」の乱用です。
次回は、兄弟の練習です。