75 ~体育のバレー 前編~
翌週。
今日の体育は、バレーをやるらしい。バレー部が冬に全国大会に行ったからとかなんとか。
それにしてはやるのが遅いから、普通に他のやっていない競技がなくなってきたのかもな。
今年の大会は雫が出ていないため、普通にバレー部が強いのだろう。
これにシズが入ったら相当強くなるだろうな。
「あ、カケー。ポジションどうする?」
今まで一番最後に来るのが普通だった雫が、今日は一番初めに体育館にいた。一人でボールと戯れている。
どんだけやる気だよ。トオまで置いてきて。……まぁ、やっと来た得意分野だからな。やる気が出るのも仕方ないか。
「ポジションって言ったってなぁ。どうしたい?」
「俺、Lで」
――ここで、バレーのポジションについて紹介しよう。バレーは特有のローテーションというルールがあるため、難しいと思われているかもしれないが、ポジションに関しては、大きく5つしかない。
まず、OH。その名の通り、スパイクを決めて点を取るのが仕事。だが、サーブレシーブなどもしなくてはならないため、何でもできなければならない。
次に、S。スパイカーに打ちやすいトスを上げる。コート全体を見て冷静に判断したり、チームをまとめるという役割も担う。一試合の中で一番ボールに触れるため、身体能力も必要。
三つ目は、MB。ブロックの要。様々な攻撃に対応し、ブロックに飛ばなければならないため、背の高い人がなることが多い。また、速攻などの攻撃もする。
四つ目は、OP。最近できた超攻撃ポジション。とりあえず点を取りまくるポジション。左利きの選手がなることが多い。レシーブなどの守備は多少稚拙でも大丈夫。
最後に、L。一人だけ違うユニフォームを着ている。オポジットほどではないが、それなりに最近できたポジション。できる限りレシーブをする。反射神経や優れた身体能力が必要。
以上。
また、このポジションとは別に、コート上の位置も関係してくる。前の方……ネット側に立っているのが前衛もしくはフォワード、後ろにいるのが後衛もしくはバックと呼ばれる。右側からライト、レフト、センター。これらを組み合わせて、後ろの右側にいる人をバックライトのように呼ぶ。
ローテーションとは、サーブ権が移動するごとにポジションを時計回りに一つずつ移動すること。サーブ権は、相手からのサーブで始まり、自分たちが得点を取った時に得られる。バックライトからフォワードライト、フォワードセンターのようにサーブをする人が移動していく。
簡潔に言うとこのような感じ。本物の試合を解説を聞きながら観戦するとよりわかりやすいと思う。――
「アタックは、サトとスグがいるし、トオもいるから問題ないだろ」
「セッターは?」
「一応決めておいた方が良いのか。その方がレシーブあげやすい?」
「まぁ、そうだね」
「ミノにしておくか。サトかスグが勝手やっても問題ないだろ」
「カケがやればいいだろ?」
体育館にやってきた暁が言う。一緒に傑もやってきた。
「ミノは嫌がるだろうなぁ」
「俺も嫌がるだろ」
「カケは嫌がってもやってくれる。ミノはやってくれない」
「そんなことないだろ。やりやすさは変わらないだろうし、それならずっと動けるのはミノだ。俺は外から見てるだけでいい」
「でも、一回は出なきゃいけないよな?」
「まぁ、一度は出るけど」
「僕たちも一回でいいよ。バレーはあまり得意じゃないから」
少し離れたところで体を動かしていた冬馬様が言う。
「僕も」
「一試合全部出ますか?」
「あぁ」
「やりたいポジションとかありますか?」
「ないから、空いてるところでいいよ」
「わかりました。二試合目に出るので調整していいですか?」
今日は五分の試合を四試合やる予定だったはずだ。
「いいよ。その辺で練習してるから、必要になったら教えて」
「わかりました」
冬馬様と千明様は練習をしに行く。
「俺もやりたい。チーム編成、全部カケに任せるから、練習してきていい?」
雫が待ちきれないという表情をしている。ここまで表情が分かりやすい雫も中々珍しい。
「元々俺に全部振るつもりだったろ? いいよ。練習してこい」
「ありがと。サト、スグ。やろ」
「あぁ」
「何の練習する?」
「レシーブかなぁ。とりあえず」
雫が暁と傑を連れて練習しに行く。
「俺らも練習してきていい?」
亨と忍がやって来る。
「あぁ。どうぞ」
「俺は?」
最後に稔がやって来る。
「ミノはダメだ」
「なんでだよ」
「貴重なセッター枠だからな」
「……あっそう。別に俺がいても変わらないと思うけど」
稔がボールを手で弄びながら言う。
やらないとは言ってないな? よし。全部任せよ。
「変わるだろ。俺が出ない限り、ミノがずっとセッターやるわけだし」
「確定事項?」
「他に任せられる人がいない」
「冬馬様と千明様が出る試合は、カケがやってくれるんだよね?」
「それは、やる」
「俺も、カケのトスで打ちたいんだけど」
稔は、トスを上げるようにボールを触っている。
「どうせ、バレー部と試合やれって言われるだろうから、その時で良いだろ」
「もう一試合ぐらい出てくれ。さすがに三試合はやりたくない」
「なんでだよ。良いだろ別に」
俺も出たくない。
「サトとスグが何をしてくるかわからない試合を三試合やるのは……。さすがに疲れる」
「俺も、三試合やることになるんだけど?」
「冬馬様たちとサトとスグを一緒に出すのか?」
そうなったら終わりだな。
「出さない」
「じゃあ、二試合ずつでちょうどいいだろ」
ここ、断ったら一試合もやってくれないやつか?
「はぁ、わかったよ。じゃあ、一試合目と三試合目、頼んでいいか?」
「二試合目と四試合目はカケがやるってことで良いのか? 四試合目の後、バレー部とやると思うけど……。二試合連続で体力持つのか?」
「二試合目は冬馬様たち確定だから、俺がやるのも確定だろ? 冬馬様たちとやるよりは、サトたちとやったほうが気分的に楽だから、問題ない。そのままの感覚で行きたいし。体力は……まぁ、所詮五分の試合だからな。問題ないだろ」
できれば連続したくないけど、もう、どうしようもないし。一試合目から冬馬様たちとやりたくないし。
「了解。二試合目は、誰が出る?」
「サトとスグを出さないから、自ずと確定するけど?」
「俺も休めるのか」
「ローテが回らなかったらな」
「回らないだろ。回ったとしても、シズがリベロじゃなかったら問題ないし」
「休みたいなら、シズを説得させろよ? できるようになっただろ?」
「そう簡単にできるようになると思わないでくれ。……そっか。シズの説得があるのか。なら、面倒だし、何も言わないでおこ」
「その方がいいだろうな」
「ポジションは?」
俺たちの中でポジションは決めていない。その時の気分や、メンバーによって変わる。
「今日は、どうするかな」
「それを訊いたんだろうが」
「とりあえず、ミドルブロッカーはシノ。アウトサイドヒッターはサト。オポジットはトオでいいな。リベロはシズ確定だとして、残りはスグか。……スグもアウトサイドヒッターでいいか」
普段の試合でもこうなることが多い。確定はしていないが、それなりに決まっている。
「賛成。ローテは?」
「ミノの好きなようにしたらいい。どうせ、一試合目は俺出ないし。二試合目は変えるつもりだし」
「うーん。じゃあ、俺、スグ、シノ、トオ、サト、シズかなぁ」
「それでいいと思うぞ」
ローテが二回回ったら、俺が出る必要があるのか。まぁ、そんな回らないだろ。
授業が始まり、少しの練習を挟んでから、試合が始まる。
「翔は、この試合、出ないのか?」
俺の隣で試合を観戦している冬馬様に訊かれる。
「ローテが回らない限り、出ないですね」
「回りそうにないけど……」
相手のサーブから試合が始まったらしく、ローテーションが一つ回っていたが、傑がスパイクサーブでノータッチエースを決めまくっている。
おーい、それだけで試合が終わるぞー。
試合のメモを取るのは楽でいいが、やっている側は何も楽しくないだろう。
「スグー。相手に取らせてやれー」
稔に言われ、傑がスパイクサーブからフローターサーブに変える。ようやく相手チームがボールをあげた。
――スパイクサーブとは、その名の通り、スパイクをするみたいにサーブをすることである。前の方に高くボールを投げあげ、走り込んでから飛び上がり、打つ。結構難しい。
フローターサーブは、エンドラインぎりぎりに立ち、少しだけボールをあげ、普通に打つ。一番見る。
アンダーサーブは、下から打ち上げるサーブ。一番簡単。――
「ブロック、飛んでいいか?」
暁が視線でボールを追いかけながら、雫に問う。
「相手に点を取らせない自信があるならいいよ」
「そういわれるとなぁ」
雫の方に打たせれば、俺たちのスパイクでもあげる。そんな雫の方に打たせるわけでもなく、しっかりシャットアウトしに行くのだとしたら、絶対に点を取られない自信がなければできない。そういう決まりだ。普通にやっていれば絶対に落とさない一点を落とすことは、雫にとって許せないことらしい。
「……やりたければやればいい。サトならできるでしょ」
「りょーかいっ」
暁が嬉しそうに返事をする。
まぁ、そりゃあ、シズにできないとは言えないし、シズがバレーに関してできると言ったら、できるものだからな。
相手はバレー部員らしく、スパイクのフォームがちゃんとしていた。暁は相手に会わせてブロックに飛ぶ。忍は、コースを狭くするために飛んでいる。
相手の放ったボールは、暁の手のひらに当たり、相手のコートに落ちる。
「ふぃー。残念でしたー」
「……くそっ」
相手は悔しそうに仲間の元に行く。
「シズー。もう一回飛んでいい?」
「それ、シノの仕事でしょ。一応」
「止めれば、何でもいいだろ」
「俺の仕事とらないでよ。他にやることないのに」
忍が珍しく暁に歯向かっている。
普段は無頓着で別に何でもいいって言う派なのにな。
「今度はブロックなしでやってみるか?」
「コースだけ絞る?」
「コースだけ絞って。そろそろ動きたいでしょ。ミノもトオも何もしてないし」
「そうだな」
「そろそろ俺たちにも触らせてくれ」
再び、傑がフローターサーブを放つ。相手はサーブレシーブをきっちり決め、バスケ部員……だった気がする人がトスを上げる。
ボールの扱い方が少し違うんだよな。普段から手でボールに触れてる人って感じ。
相手のバレー部員がスパイクに飛び、忍と傑がコースを絞らせるようにブロックに飛ぶ。相手のバレー部員はストレートに打つしかない。コースさえ絞られれば、雫に撮れないスパイクはない。雫がAパスをあげ、稔が落下地点に入る。
「トオっ」
稔が上げたトスに亨が会わせ、スパイクを決める。
「ナイスキー」
「「俺にあげろよーっ!」」
亨と同じタイミングでスパイクに飛んでいた暁と傑が、着地と同時に稔に詰め寄る。
「嫌だ。また止めるんだろ?」
「サトはブロックできるけど、俺はできない」
「じゃあ、スパイクサーブやっていいぞ。一本ぐらいならな」
今度は、傑がスパイクサーブを打つ。ノータッチエースで決まった。
「なんか、僕、絶対に相手になりたくないな」
冬馬様が感嘆したように言う。
「俺も嫌ですよ。兄弟たちの相手になるのは」
「腕、もげそうだよ」
二の腕をさすっている千明様が言う。
「俺も受けたくないです」
「同じチームで良かった」
試合が終わり、兄弟たちが戻ってくる。
「次の試合のメンツ誰?」
「ミノ、サト、スグ抜き」
「なんか、お寿司みたい」
千明様がボソッと言う。雫と忍が吹き出しそうになるのを必死にこらえている。
「ポジションは?」
「どうしますか?」
俺は、冬馬様と千明様に問う。
「どこでもいいよ」
「ば、バレー部のスパイクを受けなくていいポジションが良いかな。ブロックも……あまり身長ないし」
「わかりました」
そうなると、千明様はバックライトかなぁ。あ、でも、サーブやりたいって言ったらべつか。
「ローテ、回る前提で行く? それとも、こっちがサーブ前提で行く?」
床に座って水を飲んでいる雫に問う。
「カケがサーブ権取れば問題なくない?」
はぁ。そう簡単に言うなよ。それを取るのも大変なんだぞ。でも、ま、取れなくはないか。
「問題ないな。ローテ順に、トオ、俺、シノ、冬馬様、千明様、シズで」
「りょーかい」
「もしかして、ブロック飛ばないといけない?」
冬馬様が恐る恐ると言う感じで訊いてくる。
「そうですね。飛ばないと、ストレートに打たれた時に千明様がとらないといけなくなりますからね」
「忍。飛んでくれないか?」
「え、あ、えっと……」
忍が視線を泳がせている。
「飛ぶつもりではありますが、ストレート側はお願いします。多分、壁が一個あるだけで、シズの方に行くので」
「お願いだよ。冬馬兄さん」
「あぁ」
相手とじゃんけんをし、サーブ権を得る。
「トオ。サーブ」
「スパイクサーブ、やっていい?」
「シズに訊け」
「二本だけね。ちゃんと決めてよ」
「もちろん」
コートに入り、相手チームのメンバーを確認する。
「シズ。相手にバレー部は?」
「8番。普段はリベロ」
「シズとレギュラー争いしてるのか?」
亨がボールをつきながら言う。
「してると思う?」
「いや。シズの圧勝だろうな」
「とりあえず、8番狙うか。レシーブくらいはしてくれるだろ」
「了解」
試合開始の合図とともに、亨がスパイクサーブを放つ。8番の真正面だったからか、さすがにボールをあげることはできたが、それてしまい、誰も取りに行っていない。ボールはむなしく床に落ちた。
「ナイサー」
「もう一本」
亨がもう一本、強烈なスパイクサーブを放つ。今度は、ボール一個分左にずらしたのか、ノータッチエースだった。
「トオ、」
「わかってるって。サトたちじゃないんだから」
雫が何か言おうとしたのを遮り亨が言う。亨は、フローターサーブに切り替えて、サーブを放つ。さすがに、相手の8番は綺麗に上げた。
「ブロック、飛ぶ?」
忍が近寄ってきて言う。
「いや。バレー部の人が来るわけではなさそうだから、飛んでもあまり意味ないと思う。飛ぶなら一人で良いだろ」
「了解」
トスが上がった時点で、8番は走り出していない。トスはそんなに高くないから、8番が打つことはまずないだろう。
「シノ」
雫はバレーとなると人が変わります。と言うよりも、雫の興味関心がバレーと兄弟にしか向いていないので、そう見えるだけです。
バレーは点を取られて当たり前の競技ですが、相手が素人すぎて点を取られることがなく、ローテーションが回りませんでした……。
次回は、 体育のバレー 中編 です。




